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第23話 戦略的撤退。
しおりを挟む 俺が次の行動を考えている数秒のうちに、緑爪の足元の鼠は、加速度的にその数を増やして行く。
このままでは前衛の三人が危ない。まずは時間を稼ぐ必要がある。
(ドラザエモン! 巨大な猫に変化するのじゃ! だが間違っても奴らを喰ってはいかんぞ!」
(わかった!オレに任せて銀杏ねぇちゃん!)
ドラザエモンが宙返りし、ドロンと煙に包まれる。煙が晴れると、そこには見上げる程に巨大な化け猫が一匹出現した。
「うにゃー! 食っちゃうぞー!」
ドラザエモンがシャー!と鼠共を威嚇する。
ビクーン!と震え、動きを止める鼠たち。効果てきめんだ。
「あらドラちゃん。可愛い猫ちゃんに変化したのねぇ。猫鍋にしたら、さぞかし美味しいでしょうね。私の爪の毒で、グツグツと肉を溶かして、ドロドロの汁にしてから煮込んであげるわ」
ドラザエモンの全身の毛がブワッと逆立つ。
(銀杏ねぇちゃん、こいつ怖いよー!)
ジリジリと後ずさるドラザエモン。
(戦う必要はないからな、ドラザエモン。おそらくお主一人でむかっても、切り刻まれるのがオチじゃ。どうにかして、また奴の動きを止めなくてはならぬ。それまでの時間稼ぎじゃ。もしやられそうになったら、逃げても構わぬぞ)
(う、うん。本音はもう、逃げたいけど......)
ブルブルと震えるドラザエモン。
「うふふ。可哀想に......そんなに怯えてしまって。だけどうちの子たちもね、ドラちゃんを見てとっても怯えているのよ。だからね、その変化を解いてほしいの。そうしたら、あなたを猫鍋にして食べるなんて事、しないわ。それどころか、抱きしめていい子いい子してあげるわ。どうかしら?」
目を細め、舌舐めずりする緑爪。
(騙されてはならぬぞ、ドラザエモン。そやつに抱きしめられでもしたら最後、殺されてしまうに決まっておる)
(うん、わかってる)
「おっぱいも触らせてあげるわ」
「えっ!」
明らかに動揺するドラザエモン。なんかモジモジしている。
(こらこら、どこまで助平なのじゃお主は。嘘に決まっておるじゃろう)
(わっ、わかってるよ!)
「騙されないぞ、緑爪! 白金様を足蹴にしたお前を!オレは許せないんだ!」
そう言ってもう一度威嚇するドラザエモン。
「へぇ、そう。残念ねぇ。ならいいわ。駆け引きはお仕舞い。私があなたを殺して、それから鼠たちに村人をご馳走してあげればいいだけの事」
緑爪は煙管を胸元にしまい、左手の爪を鋭く伸ばした。鼠たちも緑爪の影の中へと消えて行く。
(引け、ドラザエモン! 全力で逃げるのじゃ!)
緑爪は遊ぶのをやめて戦う事にしたようだ。ならば逃げるしかない!
「うにゃにゃ!」
ドラザエモンは俺の指示に素直に従い、脱兎の如く逃げ出した。
「逃がさないわよ!」
緑爪は前傾姿勢で駆け出した。だがその動きは数秒ともたなかった。
「くっ、何よこれ! 動けない!」
緑爪は走り出す態勢のまま、ピタリと動きを止めた。
(どうやら間に合いましたね!奴の周囲に蜘蛛の粘糸で網を貼りました! 今はまだ夜明け前。雨でも降らない限り、肉眼では見えないはずです!)
木蓮の声が俺の頭に響く。流石は木蓮、出来る男!
(よくやった木蓮! お手柄じゃ)
(いえ、ドラザエモンが時間を稼いでくれたおかげです。銀杏様の指示は、的確でした)
くぅ、謙虚。どこまでイケメンなんだ木蓮。
(ですが長くは持たないでしょう。時間を稼ぎ、奴を倒す方法を考えなくてはなりません)
(うむ。そうじゃな)
緑爪は白金を一方的に瀕死状態に追い込んだ化け物だ。おそらく網は破られる。だが今のところは、とりあえず大丈夫なようだ。緑爪はヒステリックにわめき散らし、網を破ろうともがいている。
あの網は敵を食い止めるには最適だ。だがこちらの攻撃で網を破る恐れもあるし、やすやすとは手出し出来ない。さてどうするか......。
とりあえずこの隙に、前衛の三人と俺、白金は緑爪から距離を取る。新たに出現した(と思われる)木蓮の狐式神が背中に乗せてくれたので、移動は楽に出来た。ここで一旦、作戦を練る必要がありそうだ。
緑爪の四方に展開していた狐人と大蜘蛛のペアが四組、それと先程俺たちを運んでくれた狐式神が三匹。現在は俺たちの前方で待機し、護衛してくれている。
それ以外の仲間は俺と共に円陣を組んでいる。作戦会議の為である。
「銀杏様、私の心眼をもってすれば、網の隙間をぬって矢を撃ち込む事は可能です。いかがでしょうか」
亜水が素敵なアイディアを寄越す。
ふむ、良いかも知れない。この位置からでも敵の動きは見えるが、結構離れているので細かい動きまでは見えない。千里眼が使えない今、あらゆる意味で亜水の心眼は役に立ってくれるだろう。
「そうじゃな。では頼む。それから、弓矢ももっと強力な物が必要じゃ。葉月、作れるか?」
葉月はクスッと笑って、ずっと後ろに回していた両手を前に差し出した。そこには大きな石弓が握られている。
「そうおっしゃると思って、すでに作っておきました。ただ、これを扱える者がいるかしら」
おおお! やるな葉月! 相変わらず抜け目がない。
「大きな弓だから、力持ちじゃないと使えないよね。日凛でも良いかも知れないけど、多分俺の方が弓の扱いは慣れてると思うから、俺がやるよ」
猫から子供の姿に戻ったドラザエモンが、ドンと胸を叩く。
「うー、ドラ、やって」
日凛も異論は無いようだ。ドラザエモンの髪をくしゃくしゃと撫でる。
日凛、覚醒は解けたけど前より喋れるようになったな。成長してるんだ。素直に嬉しい。日凛は俺の事を異性として愛してるって言ってたけど......俺にとっては可愛い弟みたいな存在だ。当然、恋愛対象にはできない。
!?なんか普通に恋愛対象がどうとか考えてるぞ俺。あー、乙女化止まんねぇ!
「ボク、気、送る。矢、強くなる」
悶える俺をよそに、日凛がそう言って葉月の持つ弓矢に触れる。すると弓矢が、ほんのり輝き始めた。
「ありがとう日凛。弓矢が強くなったみたいだ」
笑いあう、ドラザエモンと日凛。どうやらすっかり打ち解けたようだ。良かった。
「それじゃ、はい、ドラちゃん。矢は一本しかないから、しっかり集中して撃つのよ」
葉月が強化された弓矢をドラザエモンに渡す。それを嬉しそうに受け取るドラザエモン。
「うん、頑張るよお母さん。だからおっぱい触らせて」
ガン、と日凛がドラザエモンの後頭部をなぐる。
「ってぇ! 何すんだよ日凛! 冗談通じないんだもんなぁ」
「うー!エッチな事、駄目! ボク、許さない!」
「わかった、わかったって!」
再度にぎりこぶしを作る日凛に、両手をあげて降参の意を示すドラザエモン。その様子を見て、おかしそうに笑う葉月。
「累火、お主も力を送るのじゃ。ドラザエモンにな。さすればこやつの力は何倍にもなるじゃろう。頼めるか?」
累火はずっと泣きながら、白金に向かって「祈祷」で力を送っていた。ドラザエモンに力を送ると言う事は、白金の回復を一旦止めると言う事。
俺の顔を見つめ、ふるふると首を振る累火。白金が心配なのだろう。
「良いのじゃ、累火。白金はこの程度で死ぬような男ではない。あの緑爪を倒したら、また白金に力を送ってくれれば良い。じゃから、頼む」
少し悩んだように目を伏せ、こくりと頷く累火。白金の前で跪(ひざまず)いていたが、すっと立ち上がる。
そしてドラザエモンの方を振り返り、祈祷を始めた。徐々に光を失っていく白金の体と相反するように、ドラザエモンの体が輝き始める。
「うわぁ、すごい! 力がみなぎってくるよ! ありがとう累火おねぇちゃん!」
もりっと力こぶを作って見せるドラザエモン。累火はそれを見てクスッと笑う。良かった、やっと笑顔になった。
白金、少し待っててくれよ。きっとあいつを倒して、それからゆっくり治療してやるからな。
俺は白金の髪を撫で、冷たくなった頰に手を当てた。
胸が苦しい。こんな気持ち、初めてだ。コイツを失いたくない。今の俺には、それが全てだった。
「俺が囮になります。式神を使って、奴の注意を逸らしましょう。その隙にドラザエモンが矢を放つ。それでいかがでしょうか、銀杏様」
「うむ、良いぞ。その作戦で行こう」
木蓮の指示で、三匹の狐式神が飛び立つ。
そんな木蓮の颯爽とした姿を見ても、前のような胸の高鳴りは感じなかった。
ああ、俺、白金の事、好きになっちゃったんだ。そう確信せざるを得なかった。
「銀杏様、私が心眼で見ている光景を、神通力でお読み取りください」
「う、うむ!」
亜水の声にハッとなる。いけない。集中しなきゃ。
俺は「司令塔」の能力で、亜水が今見ている光景を見た。真っ暗な中に、いくつかの光が見える。その光は、人の姿をしていた。
「光が見えるでしょう。実際には『見えている』のとは少し違いますが......。それは生き物を示す光です。私は慣れているので、どの光が誰なのかわかりますが、銀杏様にはまだお分りにならないと思いますので、私が集中して見ている光をお読み取りください。それが緑爪です」
確かに、亜水が一点集中して見ている光がある。そしてその周囲には、白くぼんやりとした網のようなものが見える。
「肉眼では見えない網も、私の心眼ならこの通りです。視覚に頼りすぎると、見えなくなるものもあるますからね。この網の抜け道を突っ切って、矢を放ちましょう」
「心得た」
俺は亜水から受け取ったイメージを、そのままドラザエモンに送る。ドラザエモンも最初は戸惑っていたが、すぐに慣れた。
「いけるか、ドラザエモン」
「うん! 緑爪の奴、木蓮お兄ちゃんの式神に気を取られ始めた。今だ!」
すでに弦を引き絞っていたドラザエモンは、ピシュン!と矢を放った。
数秒の後、緑爪の叫び声が聞こえてきた。それは耳を覆いたくなるほど、恐ろしい声だった。
このままでは前衛の三人が危ない。まずは時間を稼ぐ必要がある。
(ドラザエモン! 巨大な猫に変化するのじゃ! だが間違っても奴らを喰ってはいかんぞ!」
(わかった!オレに任せて銀杏ねぇちゃん!)
ドラザエモンが宙返りし、ドロンと煙に包まれる。煙が晴れると、そこには見上げる程に巨大な化け猫が一匹出現した。
「うにゃー! 食っちゃうぞー!」
ドラザエモンがシャー!と鼠共を威嚇する。
ビクーン!と震え、動きを止める鼠たち。効果てきめんだ。
「あらドラちゃん。可愛い猫ちゃんに変化したのねぇ。猫鍋にしたら、さぞかし美味しいでしょうね。私の爪の毒で、グツグツと肉を溶かして、ドロドロの汁にしてから煮込んであげるわ」
ドラザエモンの全身の毛がブワッと逆立つ。
(銀杏ねぇちゃん、こいつ怖いよー!)
ジリジリと後ずさるドラザエモン。
(戦う必要はないからな、ドラザエモン。おそらくお主一人でむかっても、切り刻まれるのがオチじゃ。どうにかして、また奴の動きを止めなくてはならぬ。それまでの時間稼ぎじゃ。もしやられそうになったら、逃げても構わぬぞ)
(う、うん。本音はもう、逃げたいけど......)
ブルブルと震えるドラザエモン。
「うふふ。可哀想に......そんなに怯えてしまって。だけどうちの子たちもね、ドラちゃんを見てとっても怯えているのよ。だからね、その変化を解いてほしいの。そうしたら、あなたを猫鍋にして食べるなんて事、しないわ。それどころか、抱きしめていい子いい子してあげるわ。どうかしら?」
目を細め、舌舐めずりする緑爪。
(騙されてはならぬぞ、ドラザエモン。そやつに抱きしめられでもしたら最後、殺されてしまうに決まっておる)
(うん、わかってる)
「おっぱいも触らせてあげるわ」
「えっ!」
明らかに動揺するドラザエモン。なんかモジモジしている。
(こらこら、どこまで助平なのじゃお主は。嘘に決まっておるじゃろう)
(わっ、わかってるよ!)
「騙されないぞ、緑爪! 白金様を足蹴にしたお前を!オレは許せないんだ!」
そう言ってもう一度威嚇するドラザエモン。
「へぇ、そう。残念ねぇ。ならいいわ。駆け引きはお仕舞い。私があなたを殺して、それから鼠たちに村人をご馳走してあげればいいだけの事」
緑爪は煙管を胸元にしまい、左手の爪を鋭く伸ばした。鼠たちも緑爪の影の中へと消えて行く。
(引け、ドラザエモン! 全力で逃げるのじゃ!)
緑爪は遊ぶのをやめて戦う事にしたようだ。ならば逃げるしかない!
「うにゃにゃ!」
ドラザエモンは俺の指示に素直に従い、脱兎の如く逃げ出した。
「逃がさないわよ!」
緑爪は前傾姿勢で駆け出した。だがその動きは数秒ともたなかった。
「くっ、何よこれ! 動けない!」
緑爪は走り出す態勢のまま、ピタリと動きを止めた。
(どうやら間に合いましたね!奴の周囲に蜘蛛の粘糸で網を貼りました! 今はまだ夜明け前。雨でも降らない限り、肉眼では見えないはずです!)
木蓮の声が俺の頭に響く。流石は木蓮、出来る男!
(よくやった木蓮! お手柄じゃ)
(いえ、ドラザエモンが時間を稼いでくれたおかげです。銀杏様の指示は、的確でした)
くぅ、謙虚。どこまでイケメンなんだ木蓮。
(ですが長くは持たないでしょう。時間を稼ぎ、奴を倒す方法を考えなくてはなりません)
(うむ。そうじゃな)
緑爪は白金を一方的に瀕死状態に追い込んだ化け物だ。おそらく網は破られる。だが今のところは、とりあえず大丈夫なようだ。緑爪はヒステリックにわめき散らし、網を破ろうともがいている。
あの網は敵を食い止めるには最適だ。だがこちらの攻撃で網を破る恐れもあるし、やすやすとは手出し出来ない。さてどうするか......。
とりあえずこの隙に、前衛の三人と俺、白金は緑爪から距離を取る。新たに出現した(と思われる)木蓮の狐式神が背中に乗せてくれたので、移動は楽に出来た。ここで一旦、作戦を練る必要がありそうだ。
緑爪の四方に展開していた狐人と大蜘蛛のペアが四組、それと先程俺たちを運んでくれた狐式神が三匹。現在は俺たちの前方で待機し、護衛してくれている。
それ以外の仲間は俺と共に円陣を組んでいる。作戦会議の為である。
「銀杏様、私の心眼をもってすれば、網の隙間をぬって矢を撃ち込む事は可能です。いかがでしょうか」
亜水が素敵なアイディアを寄越す。
ふむ、良いかも知れない。この位置からでも敵の動きは見えるが、結構離れているので細かい動きまでは見えない。千里眼が使えない今、あらゆる意味で亜水の心眼は役に立ってくれるだろう。
「そうじゃな。では頼む。それから、弓矢ももっと強力な物が必要じゃ。葉月、作れるか?」
葉月はクスッと笑って、ずっと後ろに回していた両手を前に差し出した。そこには大きな石弓が握られている。
「そうおっしゃると思って、すでに作っておきました。ただ、これを扱える者がいるかしら」
おおお! やるな葉月! 相変わらず抜け目がない。
「大きな弓だから、力持ちじゃないと使えないよね。日凛でも良いかも知れないけど、多分俺の方が弓の扱いは慣れてると思うから、俺がやるよ」
猫から子供の姿に戻ったドラザエモンが、ドンと胸を叩く。
「うー、ドラ、やって」
日凛も異論は無いようだ。ドラザエモンの髪をくしゃくしゃと撫でる。
日凛、覚醒は解けたけど前より喋れるようになったな。成長してるんだ。素直に嬉しい。日凛は俺の事を異性として愛してるって言ってたけど......俺にとっては可愛い弟みたいな存在だ。当然、恋愛対象にはできない。
!?なんか普通に恋愛対象がどうとか考えてるぞ俺。あー、乙女化止まんねぇ!
「ボク、気、送る。矢、強くなる」
悶える俺をよそに、日凛がそう言って葉月の持つ弓矢に触れる。すると弓矢が、ほんのり輝き始めた。
「ありがとう日凛。弓矢が強くなったみたいだ」
笑いあう、ドラザエモンと日凛。どうやらすっかり打ち解けたようだ。良かった。
「それじゃ、はい、ドラちゃん。矢は一本しかないから、しっかり集中して撃つのよ」
葉月が強化された弓矢をドラザエモンに渡す。それを嬉しそうに受け取るドラザエモン。
「うん、頑張るよお母さん。だからおっぱい触らせて」
ガン、と日凛がドラザエモンの後頭部をなぐる。
「ってぇ! 何すんだよ日凛! 冗談通じないんだもんなぁ」
「うー!エッチな事、駄目! ボク、許さない!」
「わかった、わかったって!」
再度にぎりこぶしを作る日凛に、両手をあげて降参の意を示すドラザエモン。その様子を見て、おかしそうに笑う葉月。
「累火、お主も力を送るのじゃ。ドラザエモンにな。さすればこやつの力は何倍にもなるじゃろう。頼めるか?」
累火はずっと泣きながら、白金に向かって「祈祷」で力を送っていた。ドラザエモンに力を送ると言う事は、白金の回復を一旦止めると言う事。
俺の顔を見つめ、ふるふると首を振る累火。白金が心配なのだろう。
「良いのじゃ、累火。白金はこの程度で死ぬような男ではない。あの緑爪を倒したら、また白金に力を送ってくれれば良い。じゃから、頼む」
少し悩んだように目を伏せ、こくりと頷く累火。白金の前で跪(ひざまず)いていたが、すっと立ち上がる。
そしてドラザエモンの方を振り返り、祈祷を始めた。徐々に光を失っていく白金の体と相反するように、ドラザエモンの体が輝き始める。
「うわぁ、すごい! 力がみなぎってくるよ! ありがとう累火おねぇちゃん!」
もりっと力こぶを作って見せるドラザエモン。累火はそれを見てクスッと笑う。良かった、やっと笑顔になった。
白金、少し待っててくれよ。きっとあいつを倒して、それからゆっくり治療してやるからな。
俺は白金の髪を撫で、冷たくなった頰に手を当てた。
胸が苦しい。こんな気持ち、初めてだ。コイツを失いたくない。今の俺には、それが全てだった。
「俺が囮になります。式神を使って、奴の注意を逸らしましょう。その隙にドラザエモンが矢を放つ。それでいかがでしょうか、銀杏様」
「うむ、良いぞ。その作戦で行こう」
木蓮の指示で、三匹の狐式神が飛び立つ。
そんな木蓮の颯爽とした姿を見ても、前のような胸の高鳴りは感じなかった。
ああ、俺、白金の事、好きになっちゃったんだ。そう確信せざるを得なかった。
「銀杏様、私が心眼で見ている光景を、神通力でお読み取りください」
「う、うむ!」
亜水の声にハッとなる。いけない。集中しなきゃ。
俺は「司令塔」の能力で、亜水が今見ている光景を見た。真っ暗な中に、いくつかの光が見える。その光は、人の姿をしていた。
「光が見えるでしょう。実際には『見えている』のとは少し違いますが......。それは生き物を示す光です。私は慣れているので、どの光が誰なのかわかりますが、銀杏様にはまだお分りにならないと思いますので、私が集中して見ている光をお読み取りください。それが緑爪です」
確かに、亜水が一点集中して見ている光がある。そしてその周囲には、白くぼんやりとした網のようなものが見える。
「肉眼では見えない網も、私の心眼ならこの通りです。視覚に頼りすぎると、見えなくなるものもあるますからね。この網の抜け道を突っ切って、矢を放ちましょう」
「心得た」
俺は亜水から受け取ったイメージを、そのままドラザエモンに送る。ドラザエモンも最初は戸惑っていたが、すぐに慣れた。
「いけるか、ドラザエモン」
「うん! 緑爪の奴、木蓮お兄ちゃんの式神に気を取られ始めた。今だ!」
すでに弦を引き絞っていたドラザエモンは、ピシュン!と矢を放った。
数秒の後、緑爪の叫び声が聞こえてきた。それは耳を覆いたくなるほど、恐ろしい声だった。
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