【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

文字の大きさ
上 下
20 / 23
奴隷から聖女へ。

第19話 奴隷商人の元締め。

しおりを挟む
 回復した奴隷商人ビザールの案内により、ようやく本拠地にたどり着いた私達。ちなみに、他の奴隷商人達は近くの村で牢に入れてもらった。

 奴隷商人の本拠地は、岩山の麓にある、巨大な洞窟の中だった。入り口の岩戸は合言葉によって開き、その内部は豪華絢爛な宮殿のようだった。

 入ってすぐのエントランスのような場所に、おそらく元締めであろう髭面の男が待ち受けていた。

「ようこそ。我らが洞窟宮殿へ。私はここの主、ナハティムと申します。長旅でお疲れでしょう。さぁ、こちらへどうぞ」

 私と女体化変身したネリス、そしてルーフェンの三人はナハティムの案内に従って、宮殿の奥へと進む。騎士ホーキンスと奴隷商人ビザール、そして御者アムレアと看護士のシーラは馬車へ残してきた。アムレアとシーラは戦闘技術を持っていないし、ホーキンスは彼女達の護衛と、ビザールに対する見張りとして必要だ。

 ちなみにルーフェンは戦えると自負しており、腕に自信があるようだったので同行してもらった。

「ふーむ。これは随分と金がかかってるね。立派な宮殿だ」

 ルーフェンは周囲を見回しながら、独り言のようにそう言った。ナハティムは気を良くしたように振り返り、笑って見せた。

「ええ、有名な建築家に大金を積んで建造させました。私の夢の結晶ですよ」

 歩きながら様々な場所を指し示し、その価値について説明を始めるナハティム。それを見てルーフェンは肩をすくめる。奴隷を売った薄汚い金で建築した。ルーフェンの言葉にはそういう含みがあったのだろうが、嫌味が通じず、困惑しているようだ。

 ナハティムは、私達の事をどこまで知っているのだろうか。ビザールの話では、奴隷商人達の体には、その状態と居場所を知らせる精霊機構が埋め込まれているという事だったが......。

 彼に取っては、私達は怪しすぎる来訪者の筈だ。入り口の合言葉を知っているし、普通はこんな場所に訪れる者などいる筈はない。それにも関わらず、なんの質疑応答もなく私達を接待すると言う事は、まず間違いなく私達の素性や行い、目的に気付いている。

 しばらく歩くと、大広間のような場所に出た。中央に長テーブルと見事な装飾が施された椅子、豪華な調度品や絵画に彩られたダイニングルームだ。部屋の両脇にはエプロンドレスを着た女性達がずらりと並び、待機している。

 私達がテーブルに近づくと、女性達が椅子を下げて手を指し示し「どうぞ、おかけください」と微笑んだ。

 言われた通りに腰掛ける。テーブルの上には、所狭しと豪華な料理が並べられていた。やはりナハティムは私達の来訪を知っていたのだ。

「ふふっ、美味しそうでしょう。これはあなた達の為に、料理人が腕によりをかけて作った一級品。味は保証致しますよ。さぁ、どうぞ好きなだけお召し上がりください」

 長テーブルの反対側、私達三人と向かい合わせに座ったナハティム。両手を広げ、満面の笑みで私達に食事を促した。

 朝から色々な事があってあっという間に時間が過ぎた。今はもう夜。私は時計を持っていないが、おそらく夜七時くらいだろうと考える。夕食には丁度良い時間だ。正直私のお腹はペコペコだったが、相手の思惑にハマるのは避けたかった。

「残念だけど私達、今は食欲がないの。どうやらこちらの目的にも気付いているようだし、単刀直入に話をしましょう」

 私は感情のこもらない声でそう言った。ナハティムは面白そうに口元を歪める。

「そうですか。では本題に入りましょう。私達と......」

 ナハティムがそう言いかけた所で、ぐきゅるるーっと腹の虫が聞こえる。ルーフェンの方からだ。

「面目ない。私は普段、一日五食食べているものでね。今日はまだ三食しか食べていないんだ」

「では遠慮なさらずにどうぞ。美味しいですよ」

 名残惜しそうに料理を見つめるルーフェンに、ナハティムが食事を促す。

「では、お言葉に甘えて」

「ダメよ、ルーフェン」

 私はルーフェンを制し、彼女の目を見つめた。

「わかりましたよ、女王様」

 ルーフェンは観念したように肩をすくめる。空腹なのは私だって同じだ。だがここは、少しでも相手に有利な状況を作ってはいけない。

「続けて、ナハティム」

「ふふっ、いいでしょう。こちらの提案はこうです。私達と手を組みませんか? あなた達の目的は、奴隷商の根絶。その根幹にあるのは、奴隷を集める事をやめて欲しいという願いですよね。リーファス国民に手を出すなと。だが私達だって簡単にこの商売を鞍替えは出来ない。そんな事をしたら、私達の背後に控える【あのお方】の怒りに触れる。つまり私達の命は無い。ですが私達とあなた達が手を組めば、問題は全て解決です」

 要領を得ないナハティムの話に、私は眉をひそめた。

「どう言う意味?」

 苛立ちを隠さずに問い返す。するとナハティムは微笑みながら両手を広げる。

「今後は国民を搾取する必要は無いのです。あのお方の作った精霊機構の装置、【高速培養槽】に赤子を入れれば、ほんの数日で成人まで成長する。必要なのは母体。母親となる人間です。今回の奴隷買取が破格の条件で行われたのも、より良い母体を求めての事。だがそれも、あなた達に阻まれた。奴隷商人の数も減った。だから協力を要請したいのです」

「まさか......!」

 私はナハティムのドス黒い思惑を察し、吐き気を催した。

「ええ、そうです。あなた達には母体になって頂きます。外に待機していた二人のお嬢さん達も、既に捕らえてあります」

 ナハティムがそう言って指を鳴らすと、傍に控えていたメイド達が私達の体を押さえ付ける。物凄い力だ。抵抗出来ない訳では無いが、彼女達を傷付けたくはないので大人しくする。ネリスとルーフェンもきっと同じ事を考えているのだろう。二人共無抵抗だった。

「さて、これに見覚えがありますかな。元下級奴隷のアリエッタと、ネリス」

 ナハティムは側に立つメイドから、隷属の首輪を受け取り、掲げて見せた。

「何故、その事を知っている......!」

 私はメイドに頭をテーブルに押し付けられながらも、歯軋りしつつそれを見上げる。

「私は何でも知っています。正確には、あのお方が教えてくださるのですがね。さぁ、観念して母体になりなさい。たっぷり可愛がってあげましょう。元気な赤ちゃんを産んでくださいね」

 ナハティムは下品な笑い声を上げながら、いやらしい笑顔を浮かべて私達の近くへ歩いてくる。やはり彼女(メイド)達を蹴散らすしかないか。多少の怪我はするだろうが、後でルーフェンに治療してもらえばいい。

「おっと、抵抗はしないで頂きたい。私はいつでも、奴隷達の命を絶つことが出来る精霊機構のスイッチを持っています。体内に埋め込まれた装置が、スイッチを押す事で命を断ちます。あなた達を押さえつけている可哀想なその娘達にも、当然仕込んでありますよ。さぁ、大人しくこの首輪をつけて下さい」

 なんて事だ......! この場を逃れる為には、奴隷全員の命を犠牲にする必要があるというのか......! 卑劣な......! まさにゲスの極み!

 私が思考を巡らせていると、突然ルーフェンが高笑いした。

「あーっはっはっ! これで私達を封じたつもりなんだね。案外大した事ないなぁ。どんな策略を巡らせて来るかと期待していたのに。料理にも睡眠薬が入っているのは見え見えさ。まぁ、私には効かないけどね」

「なっ、なんだと......!」

 顔を赤く染め、こめかみに血管を浮かび上がらせるナハティム。

「アリエッタもネリスも、安心していい。そして私を仲間にした事を、誇りに思うがいいさ!」

 ルーフェンがそう叫ぶと、メイド達が次々に倒れていく。

「これは一体......!」

 呆気に取られるナハティム。手元にはスイッチらしき機械を持っている。だが今は動揺して、それを押す、という事まで意識が回っていないようだ。

「ルーフェン、説明して」

 私は立ち上がってネリスの手を引き、ルーフェンを見つめた。

「彼女達なら無事さ。怪我一つない。眠っているだけ。さぁ、お仕置きの時間だ」

 ルーフェンは微笑を浮かべると、まだ動揺しているナハティムの前に立った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

処理中です...