【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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奴隷から聖女へ。

第14話 聖獣。

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 魔の森には無数の魔獣が生息していたが、私とネリスにとってはウサギやリスが森を駆け回っているのと相違なかった。

 難なく森を抜けた先。私達にとっては、こちらの方が難関だった。

「シェダールより訪れし半魔の子等よ。そなた達は、リーファスに災いをもたらす者か?」

 私とネリスの前には、見上げるほどに巨大な虎。白い毛並みのその体は、神々しく光を放っている。

「聖獣」白虎(びゃっこ)。魔の森のリーファス側を見張る四体の聖獣「四聖獣」の中の一体である。

「偉大なる聖獣白虎様。私達は、リーファスに災いをもたらしはしません。魔人によって奴隷として使役されていた者でございます。救いを求めて、この国へ来ました。私の父は人間。母は魔人でした。私の名前はアリエッタ。彼はネリス。私達には、魔人である母の血が流れています。父も母も、シェダールの奴隷制度に反対し、処刑されました。白虎様、どうぞ私達の入国を、お許し下さい」

 私とネリスはひざまずき、祈るように白虎を見つめた。聖獣に嘘は通じない。その為、真実を隠しつつ本当の事のみを話すように心がけた。じんわりと汗が滲む。

「ふむ......」

 白虎は魂をも見通してしまうかのような瞳で、私達をじっと見た。

「嘘は言っていないようだな。アリエッタとネリスよ。そなたらの入国を認めよう。だが、もしもこの国で邪(よこしま)な行いをしようものなら、たちまち我が喰い殺す。肝に銘じておくが良いぞ」

「ありがとうございます、白虎様。今後も、清く正しくありたいと思っています」

 私はそう言って立ち上がり、ネリスを促す。ネリスも慌てて立ち上がり、私に倣ってお辞儀をした。

「うむ、それが良い。ではな、半魔の子等」

 白虎はそう言って踵を返す。そして巨体にも関わらず足音を立てずに、風のように去っていった。

「ふぅ、さすがアリエッタ。うまく切り抜けたね」

 ネリスがほっとしたように、胸を撫で下ろす。

「うん、母の話が役に立ったみたい。子供の頃に聞いた聖女の伝説でね、聖獣が出てくるの。実は聖女は小さな罪を犯していたんだけど、言わなくてもいい事は言うべきではない。って、悟るの。そして聖獣に喰い殺されずに済んだって話。それを実践してみたって訳」

 私はそう言って、彼に微笑んだ。

「そっか。お母さんのお陰だね。ところで聖獣へのさっきの話し方だと、僕とアリエッタは姉弟って事になるんだよね」

「ふふっ、そうだね。こんなに中のいい姉弟、珍しいけど」

 私はそう言ってネリスに抱きつき、彼を見つめる。彼は微笑しながら、私にキスをする。

「確かにね。じゃあ聖獣に出会った時は、姉弟の振りをするって事でいいかな?」

「うん。そうだね。それ以外の時は、こんな風に愛し合う恋人だよ」

 私はそう言って、またネリスにキスをねだった。

 ひとしきりキスを楽しんだ後、私達は近くの村まで徒歩で移動を開始した。魔術で空を飛んでいく事は可能だが、悪目立ちしてしまう。聖獣や憲兵隊に目をつけられるのはまずい。今はなるべく目立たずに王都を目指すべきだろう。

「この景色、なんだか見覚えがある」

 街道沿いに建物はないが、所々に樹木が生えている。しばらく歩いていると、ネリスが懐かしそうに周囲を見回した。

「ああ、やっぱりそうだ! あの木の形! 子供の頃、木登りをして遊んだんだ!」

 ネリスは駆け出し、近くの木によじ登った。その木は二股に分かれており、登りやすそうな形をしていた。

「この景色、ちっとも変わってない! ほら見てアリエッタ! あそこにある村が、僕の住んでいたコロンドルだよ!」

 ネリスは子供のようにはしゃいで、遠くを指さした。彼の指差す方向に、確かに建物が見える。

「ほんとだ。あそこがネリスの住んでいた村なんだね。だけどネリス、あなたとシエラを売った両親の事、許せるの?」

 そうネリスに尋ねながら、私だったら許せないかも知れない、と思った。

「そうだね......売られてすぐの頃は、僕も姉さんも両親を恨んだよ。だけどすぐに思い直したんだ。僕等は生きてる。父さんと母さんも、僕達を売って生き延びた。家族四人が野垂れ死ぬよりはずっとマシだったってね」

 ネリスはそう言うと、木の上から飛び降りた。着地した彼の表情は爽やかだった。

「だから許そうと思うんだ。これから父さんと母さんに会いに行く。そしてアリエッタの事を紹介するよ。売られたお陰で出会えたってね!」

 ネリスは微笑んで、私に右手を差し出した。

「さぁ行こうアリエッタ! 僕の村で結婚式を挙げるんだ!」

「ネリス......! 嬉しい!」

 私はネリスの手を取り、彼に抱きついてキスをした。

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