【完結】魔王、奴隷、聖女。それが私の経歴です。〜追放されし奴隷魔王は聖女となり、勇者を育て復讐する〜

アキ・スマイリー

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魔王から奴隷へ。

幕間 魔勇者の思惑。

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 魔勇者ガルフェインは容姿端麗であり、魔人には珍しく協調性、共感力に優れた青年だった。その為、あまり人の意見に口を挟まず、同調する事が多い。だがその本心はいつも別の所にあった。

「あの、ありがとうございます、ガルフェイン様。私などを助けて頂いて」

 少女はガルフェインが部屋に戻って来たのを見て、椅子から立ち上がってお辞儀をした。彼女は城で働く上級奴隷だった。それも魔王専属のメイドである。

 ガルフェインは、断たれる運命だったその少女「シエラ」の命を、自らの特殊な能力で救った。

 勇者及び魔勇者は、任命される際に女神の加護を受ける事が出来る。既に加護を受けている者も、追加でもう一つ授かるのだ。

 ガルフェインの加護は生まれ持った「実体幻影」と、新たに授かった「物質転送」の二つである。

 現魔王ファリアンヌの指示でシエラを斬る瞬間。ガルフェインはシエラを「物質転送」で隠し部屋へと転送し、「実体幻影」でシエラの死体を作成した。その場にいた者は、全員シエラが死んだと思った筈だ。作成されたシエラの死体は、上級奴隷である執事や召使いが裏山に捨てに行った。埋めた後、数時間程で消滅するだろう。

「あの、ガルフェイン様......?」

 何も答えないガルフェインに、シエラはもう一度話しかける。

「すまない。考え事をしていたんだ。君を助けたのは、エッダの為だ。いつか彼女と会わせよう。だが、それまではここに隠れていて欲しい」

 ガルフェインはシエラを労(いた)わるように、彼女の肩にそっと手を置いた。

「ありがとうございます、ガルフェイン様」

 シエラはうっとりとした目で、ガルフェインを見つめた。

「いや、こちらこそ、巻き込んでしまってすまない。君は本来、こんな目に遭うべきではなかったんだ。俺に出来るかぎりの事はする。しばらく堪えてくれ。では一旦失礼する。食事の時に、また来るよ」

 そう言って立ち去ろうとするガルフェインだったが、ハッとしたようにシエラを見つめる。

「そうだ。シエラの好きな動物を教えてくれ」

「動物、ですか? そうですね......子供の頃、子犬を飼っていました。すぐに死んでしまいましたが、とても可愛かったの覚えています。私は、犬が好きです」

 シエラは記憶を探るように視線を巡らし、そう答えた。

「少し待て」

 ガルフェインは「実体幻影」で子犬を作り出した。子犬は元気にキャンキャンと吠え、シエラに向かって駆けていく。

「まぁ! なんて可愛らしい!」

 じゃれる子犬を撫でながら、シエラは楽しそうに笑う。

「ふふっ。これで寂しくないだろう?」

「はい、寂しくありません。お心遣い、感謝致します」

 満足そうなシエラを見て、ガルフェインは薄く微笑んだ。そして「物質転送」を使い、窓もドアもないその部屋を出る。

 それから謁見の間へと向かう。急遽、奴隷省のローク大臣から連絡が入り、魔王への謁見を願い出てきたのだ。ファリアンヌは既に部屋にいる筈だ。ガルフェインも側近として、側にいなくてはならない。

 扉を開けると、ファリアンヌが玉座に座って退屈そうにしていた。周囲には近衛兵が数人控えている。

「来たわねガル。さぁ、私の側へ。キスして頂戴」

 ガルフェインはファリアンヌの前にひざまずき、彼女の手の甲に口づけをする。

「何を勘違いしているの? そうじゃないわ。唇にしてほしいのよ。ほら、大臣共がやってくる前に早く!」

 ガルフェインはわざと間違えた振りをしていた。ファリエッダとの婚約を破棄した際。彼はファリアンヌとキスをした。それは苦渋の決断だった。だが、全ては彼女の信頼を得て、ファリエッダの命を守る為。

 ファリエッダは本来処刑される運命だったのだが、ガルフェインの申し出により、かろうじて追放処分にとどめる事が出来たのだ。

「さぁ、何をしているの? 早くキスしてよ、ガル」

 そう言って笑うファリアンヌ。ガルフェインは覚悟を決めて立ち上がった。

(すまない、エッダ)

 ガルフェインはファリアンヌの顎に指を添え、唇を近づける。だがその時、扉をノックする音が響いた。

「申し上げます! 奴隷省より、奴隷大臣ローク様が、魔王陛下への謁見に参りました! お通ししてもよろしいでしょうか!」

 ファリアンヌがチッと舌打ちをする。

「通せ」

 ファリアンヌは魔王の口調となり、ロークの謁見を許可した。彼女は現在、追放した自分の姉である「魔王ファリエッダ」を名乗っている。元老院に、そうするべきだと助言を受けたのだ。

 召使いが扉を開け、奴隷大臣ロークが数人の近衛兵と共に謁見の間へと入ってくる。

「お久しぶりでございますファリエッダ陛下。本日は急ぎ伝えたい事がございまして参りました」

 ロークはうやうやしく頭を下げ、魔王の前にひざまずく。

「一体何事だ。私は忙しいのだ。早く言え」

 ファリアンヌはイライラと脚を組み替える。

「ははっ。実は近頃魔王城への奴隷の供給が多すぎる為、奴隷の数が不足しております。その為、奴隷省としては新たな奴隷使用規約を設けました」

 ロークはそう言って、魔王に規約書を提出した。

「なんだと?」

 ファリアンヌは驚きながらもそれを受け取り、規約書を読む。

「馬鹿な......! 今後は奴隷への拷問禁止だと!? 殺すのも禁止! 体罰も禁止! 冗談ではないぞ! これではまるで、我々と対等ではないか!」

 ファリアンヌは叫ぶ。規約書を破り棄てようとするが、破けない。規約書には精霊の力が施されており、正式な手続きを通った規約書は、簡単には破棄できないのだ。

「既に決定した事です。奴隷の事に関しては、奴隷省に全決定権がございますので。規約をお守りいただけないのであれば、今後一切、魔王城への奴隷供給は停止致します。元はと言えば、魔王城での奴隷への虐待や処刑が今回の改定の原因ですので」

 ロークはそう言って頭をさげ、それから立ち上がる。

「ではくれぐれも宜しくお願い致しますよ。魔王......ファリエッダ様」

 ロークはそう言ってもう一度頭を下げ、謁見の間を立ち去った。

「生意気な! 奴隷大臣風情が! ああもう! 奴隷に拷問出来ないなんて、これからどうやってストレス解消したらいいのよ!」

 ファリアンヌは玉座を蹴り飛ばし、何度も踏みつけた。

 その様子を冷めた目で見つめながら、ガルフェインは心の中で「ざまぁみろ」と思っていた。

(間違いない。これはエッダの仕業だ。彼女なら、きっと何かやってくれると思っていた。ふふっ、この国は変わるぞ。エッダ、力をつけて戻ってこい。その時は今度こそ、俺も力になろう。シエラも生きているぞ!)

 ガルフェインは、今頃は監獄を出て自由になっているだろうファリエッダを思い、自然と笑顔になっていた。
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