上 下
3 / 23
魔王から奴隷へ。

第3話 オークラルド大監獄。

しおりを挟む
 目を覚ますと、そこは牢獄の中のようだった。ガバッと上半身を起こして周囲を見る。出入り口は一枚の鉄扉。小さな引き戸が付いている。

 天井には丸い穴がいくつか空いていて、上からぼんやりとした薄明かりが漏れて部屋を照らしている。そんな暗く寒い部屋に、私を含めて四人もの奴隷が閉じ込められている。

 全員が隷従の首輪と、シンプルな黒い上下の服を身につけている。それは下級奴隷である証だった。

「気がついたんだね。良かった。僕はネリス。年は十七歳。こっちの二人は僕と同い年で、二人共女の子だよ。ミルダとフォリー。宜しくね」

 優しい目をした黒髪の少年が、私が起き上がるのを見てそう言った。

「ちょっとネリス。性別の説明、必要かな。どう見たって私とフォリーは女の子でしょ?」

 ミルダと呼ばれた少女が、笑いながらネリスに詰め寄る。

「薄暗いし、みんな同じ服だからわからないかも知れないと思って。それにほら、ミルダは男勝りだし」

「何ですって!」

「ちょっと二人とも、やめなさいよ。新人さんがびっくりしているわ」

 ネリスの返答にミルダが冗談っぽく殴りかかり、フォリーがそれを仲裁する。

 こんなやりとりを見るのは、なんだか久しぶりだった。私は思わず吹き出し、それから声を上げて笑った。

「あはは、面白かった? 君、名前はなんていうの?」

 ネリスが私の隣に座り、壁に寄り掛かった。

 名前、か。ファリエッダという名前は魔王として、おそらく知れ渡っているだろう。

 別の名前......少し文字って、アリエッタにしよう。

「アリエッタだよ。十八歳。よろしくね、みんな」

「アリエッタ。いい名前だね」

「うん! 素敵な名前!」

「ええ、女の子らしくて......まるで聖女様みたいね」

 どうやら気にってもらえたらしい。聖女、か。私は魔王なんかじゃなく、出来れば聖女になりたかった。

 傲慢で強欲、自己中心的な魔人という種族の中に生まれながら、とても思いやりがあって優しかった母。母は私が幼かった頃、人間の国「リーファス聖王国」の話を教えてくれた。

 私達がいる「魔王国シェダール」と対になる国。聖王が治め、聖女と勇者によって守られている。

「みんな、リーファスから来たの?」

 私はみんなの生い立ちが気になって、そう尋ねてみた。

「私とミルダは、シェダールの奴隷村【オルクソール】で生まれ、育ったの。でもネリスは、リーファスに住んでいたそうよ。聖女様の伝説の事は、ネリスに聞いたの」

 フォリーの説明に、ネリスが頷く。

「うん。僕は姉さんと一緒に、リーファスにある農村【コロンドル】に住んでいた。だけど両親が貧しくて。ある日やって来た奴隷商人に、一万レンで僕と姉さんを売ったんだよ。酷い話だよね」

 ネリスは少し笑いながら冗談っぽくそう言った。なんだか聞いた事があるような話だ。ネリス、という名前にも覚えがある。

「ねぇネリス。あなたのお姉さん、名前はなんて言うの?」

「名前? 名前は、シエラだよ。どうかした?」

 やっぱりそうだった! ネリスはシエラの弟だったんだ! シエラが会いたがっていた、弟だ!

 私は思わず、ネリスを抱きしめた。そして一気に感情が溢れ出し、泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏
ファンタジー
 領地経営の傾いた公爵家と、援助を申し出た王弟家。領地の権利移譲を円滑に進めるため、王弟の長男マティアスは公爵令嬢リリアと結婚させられた。しかしマティアスにはまだ独身でいたい理由があってーーー  生真面目不器用なマティアスと、ちょっと変わり者のリリアの歳の差結婚譚。  なんちゃって西洋風ファンタジー。  ※ 小説家になろうでも掲載してます。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

伝説の木は、おとなりです

菱沼あゆ
ファンタジー
 よくわからない罪を着せられ、王子に婚約破棄されたあと、悪魔の木の下に捨てられたセシル。 「お前なぞ、悪魔の木に呪われてしまえっ」 と王子に捨てゼリフを吐かれてやってきたのだが。  その木の下に現れた美しき領主、クラウディオ・バンデラに、いきなり、 「我が妻よ」 と呼びかけられ――? (「小説家になろう」にも投稿しています。)

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

勇者パーティをクビになった俺、本当は万能の職業だった。辺境の村に辿り着いて、新たな冒険が待っていることを知らずにほのぼの生活を始めた

まっちゃ
ファンタジー
「勇者パーティをクビになった俺」は、辺境の村で穏やかな生活を楽しんでいた。農作業や村の人々との交流が、彼に新たな意味を与えていた。しかし、ある日、村の長老「エルマ」が呼び寄せられた。 エルマは、村の周りで不気味な現象が起きていることを報告し、それが村を脅かす可能性があると警告する。彼はかつての仲間である「リアナ」「グレイク」「セリーナ」と再会し、彼らと共に村を守る決意を固めた。 再び仲間たちとの出会いは、彼のほのぼの生活に思わぬ変化をもたらすこととなる。そして、過去の冒険仲間たちとともに、新たな試練に立ち向かう冒険が始まった。 小説家になろう様、カクヨム様にも公開してます。

処理中です...