1 / 23
魔王から奴隷へ。
第1話 王位剥奪。
しおりを挟む「魔王ファリエッダ様。貴女(あなた)には本日をもって、その座を降りて頂きます」
「なんだと......!」
元老院からの突然の宣告に、私は思わず声を荒げた。魔王である私を呼びつけ、事もあろうに任を解く、だと!? 私は目の前に鎮座する、三人の老人達を睨みつける。
「ふざけるな! 政治に口を挟むだけでは飽き足らず、何の権限があってそんな......!」
「それは私から説明するわ、エッダお姉様」
私の左脇に控えていた側近、「魔女」ファリアンヌがクスクスと笑いながらそう言った。彼女は私の双子の妹だ。
「お姉様が、私達【魔人】の家畜である人間の奴隷達に、目をかけているという疑惑が以前からあったの。まぁ疑っていたのは他ならぬ私なんだけどね」
「貴様、アンヌ! 何の根拠があってそのような戯言を!」
私は妹を振り返って睨みつける。すると彼女は、私のもう一人の側近である「魔勇者」ガルフェインの影に隠れる。
「怖ーい! 助けてガル!」
ファリアンヌはガルフェインに抱きつくが、彼は戸惑うように私を見た。
それもその筈。ガルフェインは私の側近であると同時に、婚約者でもあるのだ。彼の剣は、私を守る為に存在する。
「ガルフェインから離れろ、アンヌ。人の婚約者に抱きつくなどと......」
私は二人を引き離そうとした。だが驚いた事に、ガルフェインはファリアンヌを強く抱きしめる。
「きゃん。やだぁガルったら。大胆なんだから。お姉さまの嫉妬の視線が痛いわ」
「なっ......! どう言う事だガルフェイン!」
私の胸に、ズキズキと痛みが走る。
「すまないエッダ。君が人間と馴れ合っていると知ってしまった以上、もう愛せない。お別れだ。婚約も破棄させてもらう。俺はアンヌと婚約するよ」
ガルフェインはそう言って、ファリアンヌと口づけを交わす。
「そんな......! 酷いよガル......!」
あまりのショックに、魔王としての毅然とした言葉遣いを忘れ、十八歳の少女へと戻る。
「あはは! いい気味だわ! 私よりもほんのちょっぴり魔力が高いってだけで、魔王に選ばれたクソ女! あんたはね、今日全てを失うのよ! 魔王の地位も、婚約者も、そして親友もね! ガル、あの人間のメスをここに呼び出して」
ファリアンヌは嘲るように笑いながら、私の婚約者だった男に指図する。
「ああ、そうだな」
ガルフェインは薄く笑って、右手を前方にかざす。すると元老院と私の丁度中間くらいに、人間の少女「シエラ」が現れた。彼女は私達「魔人」が家畜として使う奴隷。そして私の親友だった。
シエラの歳は私と同い年の十八歳。黒髪の可愛らしいメイドだ。メイドは奴隷の中でも最上位の「上級奴隷」で、城で働く奴隷達。だがそれでも本来、親しくなってはいけない存在なのだ。
「シエラ!」
私は思わず彼女の名前を呼んだ。彼女がここに呼ばれたという事は、まさかあの事がバレてしまったのだろうか。
私は密かに奴隷達を自室に誘い、度々お茶会を開いていた。
些細なミスで虐待され、傷ついた彼女達の心を少しでも癒してあげたい。そう思って始めた事だった。私は「奴隷制度」に反対している。いずれ魔王の権限で、廃止したいと思っていた。
だが廃止するにはいくつもの難題があり、一筋縄ではいかなかった。
「彼女は私の身の回りの世話をしている者だが。何故ここに呼んだ? シエラを......どうするつもりだ!」
毅然と言い放つ。だが私の心には、恐怖が生まれていた。まさかこんな事になってしまうなんて。
シエラはキョトンとして、周囲を見回す。そして私とファリアンヌの顔を、交互に見比べた。
「えっ!? エッダ様が二人!? どうして?」
シエラは驚きに目を見張り、何かに気付いたように息を飲むと、口元を両手で覆った。
「私、もしかして、とんでもない事を......」
ポロポロと涙をこぼすシエラ。
「あはは。そうよシエラ。数時間前、あなたに色々と質問をしたのは私。ファリエッダの双子の妹である、魔女ファリアンヌ様よ! ああ、思い通りに事が運ぶって最高に快感だわ! 今日まで仮面をつけて過ごして来たのは無駄じゃなかった。私の素顔を知る者は少ない。私はあんたの影武者で終わる気はないのよエッダ! そうよ! シエラが全部教えてくれたわ! あんたが如何に人間共にお優しいかって事をね! 奴隷とお茶会? はぁ!? 何それ。頭おかしいんじゃないの!? この低脳! クズ女! さぁ、もう言い逃れ出来ないわよ! 元老院、エッダから王冠を取り上げなさい!」
ファリアンヌの号令で、元老院達が私の前に集まる。そして私の頭上に輝く王冠に手を伸ばしてくる。
「ええい! 触るな、汚らわしい!」
私は元老院達を押し退け、逃れようとする。
「往生際が悪いわね! あれを見なさい!」
ファリアンヌが指を差した方向には、シエラが立っていた。そしてその背後にはガルフェイン。彼はシエラの首に、剣の刃を添えていた。
「動けば、この奴隷の命はないぞ」
ガルフェインの目は本気だった。私は抵抗をやめ、元老院に王冠を奪われるままにする。
「ごめんなさいエッダ様。ごめんなさい。本当にごめんなさい......」
嗚咽を漏らし、泣きじゃくるシエラ。
「シエラ、あなたは悪くない。悪いのはこの性悪な妹よ。私と同じ顔で、あなたを騙した。こちらこそ、巻き込んじゃってごめんね。今、助けるから。さぁ、王冠は渡したでしょう。さっさとシエラを解放して!」
私はシエラの元へ近付こうとした。
「まだよ! さぁ元老院! 宣言して! 新たなる魔王の誕生と、罪を犯した前魔王への処罰を!」
ファリアンヌが嬉々として叫ぶ。すると元老院の一人が、王冠をファリアンヌの頭に乗せて宣言する。
「本日、この時をもって魔王ファリエッダの王位を剥奪。妹のファリアンヌへと新たに戴冠する。なお、ファリエッダは今後【下級奴隷】となり、オークラルド大監獄へ追放。看守長の身の回りの世話をする事となる。以上」
元老院はそう宣言すると、私の首に首輪を嵌めた。これは隷従の首輪。主に逆らうと、死よりも恐ろしい激痛が全身を襲う。通常ならこんな物騒な物、易々とつけられる事はない。だが今はシエラが人質に取られている為、一切の抵抗をする事が出来なかった。
「うふふ、エッダお姉様。いえ、下級奴隷のファリエッダ。あなたは一生私の奴隷よ。今から与える命令に、絶対に逆らっちゃ駄目。いいわね? ファリエッダ、あなたは今後一切、【魔術】を使ってはいけない。【女神の加護】も使っては駄目。逆らえば恐ろしい罰が与えられるわ」
ファリアンヌはそう言って私を床に引き倒し、頭を足で踏みつけた。
「元老院、こいつの服剥ぎ取って。下級奴隷の服を着せるのよ。それとガル、その人間のメス殺して。もう用済みだから」
「ああ、任せろ」
嘘でしょ!? まずい! シエラが殺されてしまう! シエラの命を守る為に無抵抗でいたのに、彼女が殺されたら意味がない!
「邪魔だ! 退け!」
私はありったけの力を振り絞り、ファリアンヌと元老院達を振り払った。そして素早く立ち上がり、シエラの方を見る。
「シエラ!」
「エッダ、様......」
シエラの首からは、鮮血が勢いよく吹き出していた。ガルフェインが剣を下に払うと、シエラの血が飛沫となって私の顔に降りかかる。
シエラは崩れるように倒れ、そのまま動かなくなった。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる