11 / 23
魔王から奴隷へ。
第11話 魔王の威光。
しおりを挟む
「アリエッタが、魔王だって......」
私の真横に立っていたネリスは、私に向き直りながらひざまずき、驚きを隠さずにそう言った。
「気にしないで。後で説明するから。楽にしてていいよ」
私はネリスにそう言って彼を立ち上がらせた後、ミルダ、フォリーに微笑んで立ち上がらせる。それから正面に向き直り、ローク達を睨む。
「久しぶりだな、ロークよ。私の顔と声、よく覚えていたな。数える程しか会ったことはないと思うが」
「はっ! 偉大なる魔王ファリエッダ様のご尊顔と美声は、忘れる事など出来る筈もなく......! ですが最近視力が低下しておりまして、すぐに気付く事ができませんでした! どうか、処刑だけはお許しを!」
全身を震わせ、額に脂汗を滲ませるローク。パンデリンはと言えば、床に額を擦り付けている。
私は少し考えた。今のロークの受け答え。私を「元魔王」ではなく「魔王」と言った。彼は魔王城にも頻繁に出入りしている筈だ。つまりファリアンヌが正式に魔王となっていれば、私を魔王と呼ぶわけは無い。
おそらく状況はこうだ。今、ファリアンヌは私の振りをしている。つまり、魔王ファリエッダと名乗っている筈だ。私を追放した事実も、おそらく隠している。パンデリンは私の顔を見ても、魔王だとは気づかなかった。ファリアンヌは私を知らない人物の元へ、私を追放したのだ。
今回の騒動でロークが監獄を訪れた事は、ファリアンヌにとって予定外の事だったに違いない。
双子だった私とファリアンヌは、どちらかが魔王、そしてもう片方が「魔女」兼「影武者」となる運命だった。結果ファリアンヌは私の影武者となり、幼い頃から仮面を着けて過ごした。一部の限られた者しか、彼女の素顔を知らない。私になりすます事など容易いだろう。
ならばこの状況を利用しない手はない。思わぬ幸運が訪れてくれた。全てはパンデリンの思い付きが発端だ。そう言う意味では、彼に感謝しなくてはならないかも知れない。
「貴様を許そう、ローク。今の私は機嫌が良いのでな」
「ははー! ありがたき幸せ! 寛大なお心に感謝致します!」
ロークは神を崇めるように、ひざまずいたまま何度もお辞儀した。
「ところで、貴様に紹介したい者がいる。ネリス、こっちに来て」
「あ、ああ」
ネリスは戸惑いながらも、私の側に寄る。私は彼の腰を抱き、胸に顔を預けた。
「このネリスはな、私の新しい婚約者だ。実は私は、反逆者によってこの監獄へと追放されてしまったのだ。だが、彼のお陰で私は救われた。ネリスが私を、支えてくれたのだ」
「反逆者、ですと!?」
「えっ、アリエッタ、婚約って!?」
ロークとネリスが同時に叫ぶ。私は一旦ロークを無視し、ネリスをじっと見つめた。
「結婚しよう、ネリス。それとも私じゃ、嫌かな」
「とっ、とんでもない! 嬉しいよ! 結婚しよう、アリエッタ!」
私とネリスは見つめ合い、そしてキスをする。私とネリスがキスを楽しんでいる間、しばらく全員の動きが固まっていた。
「あのさ、アリエッタ、そろそろ続きの説明をしないと。ほら、さっきの反逆者って所。僕も気になるし」
何度もキスを求める私を制し、少し困ったようにネリスが笑う。
「あっ、そうだった。えっと、コホン」
私は咳払いをして、ローク達に向き直る。
「反逆者は五名。私の双子の妹ファリアンヌと、魔勇者ガルフェイン。そして元老院の三名。この者達は結託して私を罠に嵌めた。陥れて奴隷に堕とし、ここへ追放した犯罪者だ。ガルフェインとは既に婚約は解消している。ファリアンヌは私と同じ顔であるのを良い事に、現在私になりすましている。私はこの者達を討伐せねばならん。ロークよ、今すぐ私とネリスをここから出せ」
「はっ、お任せを! 陛下、それでは城に戻られるのでございますか?」
「いや。今戻っても私の勝ち目は薄い。ファリアンヌは私を偽物として、魔王軍総出で捕らえようとするだろう。ロークよ、もしも貴様が私の側についたとしても、戦いは避けられん。おそらく犠牲者も出るだろう。それは私の本意ではない。よって私は、リーファスに向かうつもりだ」
「何と! リーファス聖王国に!? 敵国に向かうと言うのですか!?」
驚くロークに向かって、私は諭すように人差し指を立てる。
「今の私には、更なる力が必要だ。リーファスで聖女となり、ネリスを勇者とする。その上でファリアンヌとガルフェインを討伐。私は再び魔王の座に着き、ネリスは魔勇者となる。そう言う筋書きだ」
「なるほど......! さすがでございます魔王様! ところでこの男は、どう致しますか? この監獄において、どうやら陛下にご無礼を働いたようですが......処刑致しますか?」
ロークはパンデリンの頭をガシッと踏みつける。
「ひぃぃっ! お許しを!」
泣き叫ぶパンデリン。いい気味だが、少し哀れでもある。
「ふふっ。まぁ、なにも殺す事はあるまい。今日まで私が生きて来られたのは、この男のおかげでもある。多少のセクハラや傲慢な態度には目を瞑るさ。この男、パンデリンは看守長から下級奴隷へ降格処分とする。仕事は処刑場の掃除と処刑人の世話だ」
「はっ! かしこまりました! 良かったなパンデリン。命拾いしたぞ。陛下の寛大なお心に感謝するんだな」
「は、はいい! ありがとうございます、ファリエッダ魔王陛下!」
パンデリンは涙と涎と鼻水を垂らしながら、何度も床に頭を擦り付け、感謝の言葉を述べたのだった。
私の真横に立っていたネリスは、私に向き直りながらひざまずき、驚きを隠さずにそう言った。
「気にしないで。後で説明するから。楽にしてていいよ」
私はネリスにそう言って彼を立ち上がらせた後、ミルダ、フォリーに微笑んで立ち上がらせる。それから正面に向き直り、ローク達を睨む。
「久しぶりだな、ロークよ。私の顔と声、よく覚えていたな。数える程しか会ったことはないと思うが」
「はっ! 偉大なる魔王ファリエッダ様のご尊顔と美声は、忘れる事など出来る筈もなく......! ですが最近視力が低下しておりまして、すぐに気付く事ができませんでした! どうか、処刑だけはお許しを!」
全身を震わせ、額に脂汗を滲ませるローク。パンデリンはと言えば、床に額を擦り付けている。
私は少し考えた。今のロークの受け答え。私を「元魔王」ではなく「魔王」と言った。彼は魔王城にも頻繁に出入りしている筈だ。つまりファリアンヌが正式に魔王となっていれば、私を魔王と呼ぶわけは無い。
おそらく状況はこうだ。今、ファリアンヌは私の振りをしている。つまり、魔王ファリエッダと名乗っている筈だ。私を追放した事実も、おそらく隠している。パンデリンは私の顔を見ても、魔王だとは気づかなかった。ファリアンヌは私を知らない人物の元へ、私を追放したのだ。
今回の騒動でロークが監獄を訪れた事は、ファリアンヌにとって予定外の事だったに違いない。
双子だった私とファリアンヌは、どちらかが魔王、そしてもう片方が「魔女」兼「影武者」となる運命だった。結果ファリアンヌは私の影武者となり、幼い頃から仮面を着けて過ごした。一部の限られた者しか、彼女の素顔を知らない。私になりすます事など容易いだろう。
ならばこの状況を利用しない手はない。思わぬ幸運が訪れてくれた。全てはパンデリンの思い付きが発端だ。そう言う意味では、彼に感謝しなくてはならないかも知れない。
「貴様を許そう、ローク。今の私は機嫌が良いのでな」
「ははー! ありがたき幸せ! 寛大なお心に感謝致します!」
ロークは神を崇めるように、ひざまずいたまま何度もお辞儀した。
「ところで、貴様に紹介したい者がいる。ネリス、こっちに来て」
「あ、ああ」
ネリスは戸惑いながらも、私の側に寄る。私は彼の腰を抱き、胸に顔を預けた。
「このネリスはな、私の新しい婚約者だ。実は私は、反逆者によってこの監獄へと追放されてしまったのだ。だが、彼のお陰で私は救われた。ネリスが私を、支えてくれたのだ」
「反逆者、ですと!?」
「えっ、アリエッタ、婚約って!?」
ロークとネリスが同時に叫ぶ。私は一旦ロークを無視し、ネリスをじっと見つめた。
「結婚しよう、ネリス。それとも私じゃ、嫌かな」
「とっ、とんでもない! 嬉しいよ! 結婚しよう、アリエッタ!」
私とネリスは見つめ合い、そしてキスをする。私とネリスがキスを楽しんでいる間、しばらく全員の動きが固まっていた。
「あのさ、アリエッタ、そろそろ続きの説明をしないと。ほら、さっきの反逆者って所。僕も気になるし」
何度もキスを求める私を制し、少し困ったようにネリスが笑う。
「あっ、そうだった。えっと、コホン」
私は咳払いをして、ローク達に向き直る。
「反逆者は五名。私の双子の妹ファリアンヌと、魔勇者ガルフェイン。そして元老院の三名。この者達は結託して私を罠に嵌めた。陥れて奴隷に堕とし、ここへ追放した犯罪者だ。ガルフェインとは既に婚約は解消している。ファリアンヌは私と同じ顔であるのを良い事に、現在私になりすましている。私はこの者達を討伐せねばならん。ロークよ、今すぐ私とネリスをここから出せ」
「はっ、お任せを! 陛下、それでは城に戻られるのでございますか?」
「いや。今戻っても私の勝ち目は薄い。ファリアンヌは私を偽物として、魔王軍総出で捕らえようとするだろう。ロークよ、もしも貴様が私の側についたとしても、戦いは避けられん。おそらく犠牲者も出るだろう。それは私の本意ではない。よって私は、リーファスに向かうつもりだ」
「何と! リーファス聖王国に!? 敵国に向かうと言うのですか!?」
驚くロークに向かって、私は諭すように人差し指を立てる。
「今の私には、更なる力が必要だ。リーファスで聖女となり、ネリスを勇者とする。その上でファリアンヌとガルフェインを討伐。私は再び魔王の座に着き、ネリスは魔勇者となる。そう言う筋書きだ」
「なるほど......! さすがでございます魔王様! ところでこの男は、どう致しますか? この監獄において、どうやら陛下にご無礼を働いたようですが......処刑致しますか?」
ロークはパンデリンの頭をガシッと踏みつける。
「ひぃぃっ! お許しを!」
泣き叫ぶパンデリン。いい気味だが、少し哀れでもある。
「ふふっ。まぁ、なにも殺す事はあるまい。今日まで私が生きて来られたのは、この男のおかげでもある。多少のセクハラや傲慢な態度には目を瞑るさ。この男、パンデリンは看守長から下級奴隷へ降格処分とする。仕事は処刑場の掃除と処刑人の世話だ」
「はっ! かしこまりました! 良かったなパンデリン。命拾いしたぞ。陛下の寛大なお心に感謝するんだな」
「は、はいい! ありがとうございます、ファリエッダ魔王陛下!」
パンデリンは涙と涎と鼻水を垂らしながら、何度も床に頭を擦り付け、感謝の言葉を述べたのだった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる