上 下
3 / 9

第2話 ユウノ、冒険者になる。

しおりを挟む
 街に入ると、エルはまず商業ギルドに向かった。そこで仕事の契約をし、住む場所を紹介してもらうのが、移住者の通例らしい。

 村は領主が治めているが、街は商人たちの管轄。商人ギルドの支配下にある。仕事をしない者は、街に住む事は許されないのだ。

 エルは荷運びの仕事を請け負った。確かに彼のスピードなら、荷運びはうってつけの仕事かも知れない。

「よし、これで仕事と住む場所は手に入ったな。仕事は明日からだから、今日は生活に必要な物を購入しよう」

「うん!」


 エルはテキパキと商店を周り、必要な物を買い揃えて行く。私は置いていかれないように必死について行く。

 距離が離れると、エルは振り返って待っていてくれる。私が小走りで追いつくと、微笑んで頭を撫でてくれた。

「よし、こんなところかな。家に行こう」

「うん!」

 家は木造の平屋だった。綺麗に掃除されていて、家具も最低限は揃ってる。これならすぐに住めそうだ。そんなに広くはないけれど、二人で住むには充分だろう。

「ふああー。なんか疲れちゃったね」

 私はベッドにぽすんと倒れ込んだ。エルはそんな私を見て、笑いながら荷物を下ろす。そしてそれらを棚などに配置し、お湯を沸かしてお茶を入れてくれた。

「ほら、これを飲め。疲れが取れるぞ」

「ありがとう、エル」

 円卓に座り、二人でお茶を飲む。

「美味しい!」

「ふふっ。ラーティム茶って言うんだ。美味いし、あったまるだろ?」

「うん!」

 本当に体の疲れが取れて行く。

「ごめんね、エル。何から何まで。お金も出して貰っちゃって。大丈夫?」

「ふっ、余計な心配をするな。生計を立て、子供を守り育てるのが親の役割だろう」

 そう言って私の髪を撫でるエル。だけど、本当にお金は心配だ。エルは狼として生きていたのに、どうしてお金を持っていたんだろう。それに人間の生活についても詳しすぎる。

「ねぇエル。この街に来るのは、初めてじゃないの? なんだか慣れてるよね」

「ん? ああ。少しだけ住んでいた事がある。父と母に連れられてな。いつか役に立つだろうと言われた。お金もその時に貰ったのさ。今こうして役に立った。親の言う事は聞くものだな」

「そっかぁ。私も、エルの言う事ちゃんと聞くね」

「ふふっ。良い子だ。おいで」

 エルが両手を広げる。私は椅子を降りて彼に飛びつく。エルは優しくハグしてくれた。

 夕飯もエルが作ってくれた。お風呂は無いので、公衆浴場に入りに行く。

「体があったまってる内に、眠った方がいい。さぁ、もうお休み」

 てっきり一緒に寝てくれるのかと思っていたのだが、私とエルの部屋は別々だった。彼は私をベッドに寝かせると、あやすようにポン、ポン、と一定のリズムで私の体を叩いた。

「人間は子供を寝かせる時、こうやって寝かせるそうだ。どうだ、眠れそうか?」

「うん。眠れそう......でもね、エル、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「あのね......一緒に寝て欲しいの。狼の姿で」

 あのモフモフが忘れられない。あれに包まれたら、秒殺だと思う。

「なんだ、そんな事か。いいぞ」

 エルは瞬時に大きな狼に変身する。そして私の横に、ゆっくりと横たわった。うっとりする程美しい毛並み。

「ふぁー。やっぱり気持ちいい。モフモフであったかいよう......」

「ふふっ。そうか? 良かったな。ゆっくりお休み」

 エルの声が遠くに聞こえる。私は本当にあっという間に、眠りへと落ちていった。

 翌朝。エルは私の分の朝食を用意し、早々に仕事に出ていった。

「夕方には帰るから、家で待ってるんだぞ」

「はぁい」

 エルが出かけた後、私は言いつけを破って家の外に出た。ちゃんと言う事聞くって言ったのに、ごめんなさい。

 私の体は確かに幼く、非力で小さい。だけど精神は大人だ。このままエルだけに負担をかけるのは、なんだか申し訳ない気がしたのである。

 それに一日中家の中にいるなんて、退屈で死んでしまう。せっかく異世界に来たんだから、冒険がしたい。

 お金を稼いで冒険も出来る、うってつけの仕事がある。そう、みんなの憧れ、冒険者だ!

 冒険者ギルドの場所はわかってる。商業ギルドの一階が、冒険者ギルドなのだ。昨日訪れた時に、ちゃんと見ていた。

 私は幼く短い足を必死に動かし、商業ギルドへと歩いた。エルに出くわす可能性もあるけど、その時はその時だ。

「ふぅ、ふぅ、やっと着いたよう」

 大きな大きな商業ギルドの建物。沢山の人が、忙しそうに出入りしている。油断すると人混みに流されてしまいそうだ。

 タイミングを見計らって......。

「えいっ!」

 私は思い切って人混みに飛び込んだ。

「ひやぁー!」

 大人たちの流れに乗って、一気にギルド内へ。ギルド内も凄い人混みだ。

 ほとんどの人が階段を登って二階、商業ギルドへと向かう。一階には冒険者ギルドの受付カウンターと、スイングドアの向こうに酒場がある。

 人混みをどうにか抜け、冒険者ギルドの受付へ。こちらはあまり混んでない。良かった。

 少しだけ待って、私の番。カウンターに手を乗せて、受付のお姉さんを見上げる。

「すいませーん。冒険者になりたいんですけど」

 私に気づき、お姉さんがハッとした顔で口を手で覆う。

「ええ!? ちょっ、何この子......! 可愛いー!」

 お姉さんは目をハートにしている。

「お父さんのお使いで来たの?」

「いえ、私が冒険者になりたいんです!」

 私はめげずに頑張る。

「えええー! こんなちっちゃいのに!? 確かに冒険者になるのに年齢制限はないけど......!」

 目をめっちゃ見開くお姉さん。すると隣に立っていたもう一人のお姉さんが、彼女に耳打ちをする。

「えっ、さっきも子供が? めちゃくちゃ凄いステータス? マジ?」

 どうやら私の他にも、冒険者希望の幼児がいたらしい。お姉さんはコホンと咳払いをする。

「それじゃあ一応、ステータスを調べるわね。えーっと」

 お姉さんは眼鏡をかけて、私を見る。すると眼鏡が青く光った。

「はぁ!? な、な、なんじゃこりゃー!」

 お姉さんはガクガクしてブルブル震えている。

「な、なな、なんなのこの子! やばい! やばすぎる! 可愛い上に超やばいわこの子!」

 お姉さんは荒ぶっている。ランクとか数値とか説明されたけど、よく分からない。

「えっとね、ざっくり言うと、あなたはモンスターや精霊に愛される体質なの。モンスターを従え、精霊魔法を自在に操れるわ。うん、合格よ!」

 お姉さんに太鼓判を押され、私は晴れて冒険者となった。

「これが冒険者証よ。他の街のギルドでも、このカードがあれば仕事を斡旋してもらえるわ。それからこれが、冒険者の心得が書かれたマニュアル本ね。スキルの使い方はそれを読めばわかるわ」

「ありがとうございます」

 私はそれを受け取って、エルに買ってもらった肩掛け鞄に入れた。

 これで私も冒険者! 胸躍る冒険が、きっと私を待っている。でも、エルの仕事が終わるまでに帰らなくちゃ。いっぱい稼いで驚かせるの。私も役に立てるんだよって。

 そして、いっぱい褒めてもらうんだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...