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第29話 二人の女神。
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サンドバッグ。そう表現するのが最も似つかわしいだろう。
俺はルインダネスの攻撃に対し、全くの無力だった。レベル五千を超える事で得ていた「混沌の神ケイオス」の加護も外され、古代魔術も使えない。オークに戻ってしまったのも、おそらくそれが関係している。
オークの持つ戦闘技術は剣や斧を使ったもの。素手での戦闘技術は持ち合わせていなかった。前世で生きていた時、ネットで見た空手。見よう見まねで不良を撃退した事があったが、ダークエルフの戦士には通用しなかった。
「うぐぅっ」
腹を拳で強打され、崩れ落ちる俺。
「ハハッ! どうした王様。そろそろギブアップか? それかとっとと気絶しちまえよ。そうすりゃ楽になれるぜ」
ルインダネスの挑発にも、言葉を返せない。全身を襲う激痛に意識を失いそうになるのを必死に堪える。
レベルが全てではない。俺はずっとそう思っていたし、仲間や敵にもそう言った事がある。俺の兄、ガオンハルトが口にした事もある言葉。だがそれは、ある程度近い実力を持つ者にのみ通じる事だった。
ルインダネスのレベルは「謙虚なる領域」の影響を受けないらしく、十のままだと彼女は言っていた。
レベル1である俺の十倍。その差は圧倒的だった。
レベル1といえば、なんの戦闘訓練も受けていない村人のようなもの。訓練を受けた強靭な肉体の戦士に勝てる要素は少ない。
だが。それでも俺は負ける訳にはいかない。この戦いには国の支配権がかかっている。もし俺が負ければ、きっと仲間達も無事では済まない。尊厳を奪われ、犯され、奴隷のような扱いを受ける事になるだろう。
「負けられ、ないんだ!」
俺は混濁する意識を覚醒させる為に自身の頬を両手で張り、骨折しまくった体を奮い立たせる。
だが......。
「ぶぐぁッ!」
激しい殴打。殴られてよろめく体を別方向からさらに殴られる。体がついていかない。数々の戦闘経験も、レベル1となった俺の肉体は全く生かす事が出来なかった。
「ハハハッ! よえぇ! 弱すぎだぜ王様! やっぱりテメーもその程度か! レベルの壁は超えられねぇ! オレの前では誰もが無力! この国は、オレがもらったぜェッ! オークになっちまったあんたに、エルフの王は務まらねぇさ!」
叫んだルインダネスの拳が、再び俺の顎を打ち抜く。脳が揺れ、意識が飛ぶ。
「ダー君!」
母さんの声が、遠くに聞こえた。そしてそのまま、俺の意思は闇へ沈んだ。
暗闇の中。俺は当てもなく歩き続ける。これは夢だろうか。それとも俺は、死んだのだろうか。
「そうではありません、ダーザイン」
「そう。君は死んでなどいない」
突然、俺の両脇に美少女が現れた。一人は真っ白な髪のショートヘア。キラキラと輝く大きな目、金色の瞳。小柄な体だが、異様な程胸が大きい。それも含め、彼女はちょっとノーティアスに似ている。
そしてもう一人は、濡れたような漆黒のロングヘア。潤んだ目は少し垂れていて、憂いを帯びている。胸はぺったんこだ。
「あなたは今、偶然ではありますが混沌の神ケイオスの加護から外れた。だから私達が、意識に介入する隙が出来たのです」
白い髪の美少女がそう言った。
「真の敵は魔族などでは無い。魔術大戦は我らの父ケイオスが暇潰しに考えたゲーム。奴の駒になって殺し合う事は避けなければならない」
黒い髪の美少女がそう続ける。
「君達は一体......」
俺が尋ねると、二人は俺を両側から挟むように抱きしめた。
「私は光の女神ルクス。人族を創りし者」
「私はその妹。闇の女神テネブラエ。魔族を創りし者」
美少女達は名乗ると、俺の頬に両側からキスをする。
「ルクスにテネブラエだって......!? 伝説の女神達が、俺の前に、いや、意識の中に現れたのか? これは、やっぱり夢なのか?」
「いいえ。夢でもありませんよダーザイン。今あなたは意識を失いかけている。気絶すれば勝負に負け、国と仲間を失います。あなたは勝たなければならない。勝ってルインダネスを打ち破り、彼女を味方に引き入れるのです。そしてオーガとヴァンパイア、二つの魔族の襲撃を凌ぎ、和平を結ぶのです」
「和平だって? 戦うなという事か?」
ルクスの提案に、俺は確認を取る。そこへルクスに代わり、テネブラエが口を開く。
「そうだ。私の子供達、魔族は本来人族を襲うような気質は持っていなかった。だがケイオスがそれを捻じ曲げた。人族と魔族が争う火種を作る為、魔族が人間を襲うように仕向けたのだ。あるものは犯し、あるものは使役、支配し、ある者は捕食する。人族はそれらに対抗し、やがて戦いが起きた。全てはケイオスの仕組んだ事。ダーザイン。君にはその理(ことわり)を、再びねじ曲げて欲しいのだ」
テネブラエは潤んだ目で俺を見上げる。ルクスも同様に、輝く大きな目で俺を見上げた。巨大な胸が、俺の体に押し付けられている。
くッ......まずい。女神に欲情しちまう。さすがに不謹慎だ。
「構いませんよ、ダーザイン。私達を、好きなだけ抱いて下さい。体の隅々まで味わい、堪能して下さい。そうする事で、あなたに私達の【力】が伝わり、【緑の主】に代わる新たな称号を得る事が出来ます」
ルクスは俺の心を読んだように、纏っていた衣服を脱ぎ捨てた。
「そうだ。君にはその資格がある。魔族でありながら人族となった君は、二つの種族を結ぶに相応しい。さぁ思う存分、私達を犯すといい。ここには時間の概念などないのだから」
むむっ。据え膳食わぬは男の恥。ここは遠慮なく戴くとしよう。
「わかった。二人とも、覚悟しろ! 俺の性欲は並じゃないぞ!」
突然目の前に現れた豪華な寝室。そのキングサイズベッドに二人を押し倒し、俺は彼女達を堪能した。
どれくらいの時が経ったのか。俺は何度も何度も女神を抱いた。抱くたびに、全身に力がみなぎっていく。欲望に終わりはなかった。だが唐突に、それが終わる瞬間がやってきた。
「ふふふっ。あなたは私達と交わる事で、新たな称号を得るに足る、強大な魂の力を得ました。少し残念ですが、交わりは一旦終了です」
「そんなに残念そうな顔をするな。君に抱かれるのはとても心地よかったが、このままだと永劫に終わりが来ぬのでな。私達も必死に我慢しているのだぞ。オークの荒々しさは本当に......こほん。では、人族と魔族の事、よろしく頼むぞ。もう魔術大戦は終わりにしよう」
俺が何も答えぬうちに、二人は姿を消した。そして再び、周囲を暗闇が包んだ。やがて俺の意識に、誰かの声が響く。
「【神魔が宿りし森の王】の称号を得ました。それによりレアスキル【フィクサー】を獲得しました。レベルが修正され、ゼロになりました」
レアスキル獲得は嬉しいけど、レベルゼロってなんだ!? 村人より弱いって事か!?
いや......違うな。一瞬だけ驚いたが、直後に俺は全てを理解した。もはや俺はレベルの概念を超越した存在となったのだ。この「フィクサー」のスキルがあれば、文字通り全ては俺の思い通りだ。待ってろよルインダネス! お前を屈服させる時が来たぜ!
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「うぐぅっ」
腹を拳で強打され、崩れ落ちる俺。
「ハハッ! どうした王様。そろそろギブアップか? それかとっとと気絶しちまえよ。そうすりゃ楽になれるぜ」
ルインダネスの挑発にも、言葉を返せない。全身を襲う激痛に意識を失いそうになるのを必死に堪える。
レベルが全てではない。俺はずっとそう思っていたし、仲間や敵にもそう言った事がある。俺の兄、ガオンハルトが口にした事もある言葉。だがそれは、ある程度近い実力を持つ者にのみ通じる事だった。
ルインダネスのレベルは「謙虚なる領域」の影響を受けないらしく、十のままだと彼女は言っていた。
レベル1である俺の十倍。その差は圧倒的だった。
レベル1といえば、なんの戦闘訓練も受けていない村人のようなもの。訓練を受けた強靭な肉体の戦士に勝てる要素は少ない。
だが。それでも俺は負ける訳にはいかない。この戦いには国の支配権がかかっている。もし俺が負ければ、きっと仲間達も無事では済まない。尊厳を奪われ、犯され、奴隷のような扱いを受ける事になるだろう。
「負けられ、ないんだ!」
俺は混濁する意識を覚醒させる為に自身の頬を両手で張り、骨折しまくった体を奮い立たせる。
だが......。
「ぶぐぁッ!」
激しい殴打。殴られてよろめく体を別方向からさらに殴られる。体がついていかない。数々の戦闘経験も、レベル1となった俺の肉体は全く生かす事が出来なかった。
「ハハハッ! よえぇ! 弱すぎだぜ王様! やっぱりテメーもその程度か! レベルの壁は超えられねぇ! オレの前では誰もが無力! この国は、オレがもらったぜェッ! オークになっちまったあんたに、エルフの王は務まらねぇさ!」
叫んだルインダネスの拳が、再び俺の顎を打ち抜く。脳が揺れ、意識が飛ぶ。
「ダー君!」
母さんの声が、遠くに聞こえた。そしてそのまま、俺の意思は闇へ沈んだ。
暗闇の中。俺は当てもなく歩き続ける。これは夢だろうか。それとも俺は、死んだのだろうか。
「そうではありません、ダーザイン」
「そう。君は死んでなどいない」
突然、俺の両脇に美少女が現れた。一人は真っ白な髪のショートヘア。キラキラと輝く大きな目、金色の瞳。小柄な体だが、異様な程胸が大きい。それも含め、彼女はちょっとノーティアスに似ている。
そしてもう一人は、濡れたような漆黒のロングヘア。潤んだ目は少し垂れていて、憂いを帯びている。胸はぺったんこだ。
「あなたは今、偶然ではありますが混沌の神ケイオスの加護から外れた。だから私達が、意識に介入する隙が出来たのです」
白い髪の美少女がそう言った。
「真の敵は魔族などでは無い。魔術大戦は我らの父ケイオスが暇潰しに考えたゲーム。奴の駒になって殺し合う事は避けなければならない」
黒い髪の美少女がそう続ける。
「君達は一体......」
俺が尋ねると、二人は俺を両側から挟むように抱きしめた。
「私は光の女神ルクス。人族を創りし者」
「私はその妹。闇の女神テネブラエ。魔族を創りし者」
美少女達は名乗ると、俺の頬に両側からキスをする。
「ルクスにテネブラエだって......!? 伝説の女神達が、俺の前に、いや、意識の中に現れたのか? これは、やっぱり夢なのか?」
「いいえ。夢でもありませんよダーザイン。今あなたは意識を失いかけている。気絶すれば勝負に負け、国と仲間を失います。あなたは勝たなければならない。勝ってルインダネスを打ち破り、彼女を味方に引き入れるのです。そしてオーガとヴァンパイア、二つの魔族の襲撃を凌ぎ、和平を結ぶのです」
「和平だって? 戦うなという事か?」
ルクスの提案に、俺は確認を取る。そこへルクスに代わり、テネブラエが口を開く。
「そうだ。私の子供達、魔族は本来人族を襲うような気質は持っていなかった。だがケイオスがそれを捻じ曲げた。人族と魔族が争う火種を作る為、魔族が人間を襲うように仕向けたのだ。あるものは犯し、あるものは使役、支配し、ある者は捕食する。人族はそれらに対抗し、やがて戦いが起きた。全てはケイオスの仕組んだ事。ダーザイン。君にはその理(ことわり)を、再びねじ曲げて欲しいのだ」
テネブラエは潤んだ目で俺を見上げる。ルクスも同様に、輝く大きな目で俺を見上げた。巨大な胸が、俺の体に押し付けられている。
くッ......まずい。女神に欲情しちまう。さすがに不謹慎だ。
「構いませんよ、ダーザイン。私達を、好きなだけ抱いて下さい。体の隅々まで味わい、堪能して下さい。そうする事で、あなたに私達の【力】が伝わり、【緑の主】に代わる新たな称号を得る事が出来ます」
ルクスは俺の心を読んだように、纏っていた衣服を脱ぎ捨てた。
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どれくらいの時が経ったのか。俺は何度も何度も女神を抱いた。抱くたびに、全身に力がみなぎっていく。欲望に終わりはなかった。だが唐突に、それが終わる瞬間がやってきた。
「ふふふっ。あなたは私達と交わる事で、新たな称号を得るに足る、強大な魂の力を得ました。少し残念ですが、交わりは一旦終了です」
「そんなに残念そうな顔をするな。君に抱かれるのはとても心地よかったが、このままだと永劫に終わりが来ぬのでな。私達も必死に我慢しているのだぞ。オークの荒々しさは本当に......こほん。では、人族と魔族の事、よろしく頼むぞ。もう魔術大戦は終わりにしよう」
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いや......違うな。一瞬だけ驚いたが、直後に俺は全てを理解した。もはや俺はレベルの概念を超越した存在となったのだ。この「フィクサー」のスキルがあれば、文字通り全ては俺の思い通りだ。待ってろよルインダネス! お前を屈服させる時が来たぜ!
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