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第2部 令嬢魔王リーファ

第21話 公爵邸にて。

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   タオランに馬車の運転を任せ、私たちは「フェイザール」の領主、ルデラ・バーンシュタイン公爵の屋敷を目指した。

   馬車は六人乗りで、私たちはタオランを入れて七人だったので、全員乗る事が出来た。私が知っている馬車とは違い、とても乗り心地が良かった。サスペンションとかいうものを使っているらしい。

   馬車に揺られながら、ラーナキアの話や、ミリア母さんの話をみんなに聞いた。ミリア母さんはファミリアはもとより、ラーナキアの国民に、とても尊敬されていたそうだ。

「ミリア様がメフィストに毒を盛られた事を知る者は、ラーナキアにおいては我々ファミリアだけですじゃ。ほとんどの者が、勇者アキラが暗殺したと思っております。まぁ、当然と言えば当然。アキラとミリア様の間の友情。それをアキラが伝えたのは人間のみ。魔人に伝えた者はおりませんからなぁ」

   アルダはそう言ってヒゲをこすった。

「それじゃあ、ママはラーナキアの人たちには恨まれてるって事だよね? ママに育てられた私が魔王になった事で、反感を買うんじゃない?」

   私は不安になった。

「そうですな。可能性はあります。ですが、基本的に魔人は魔王に絶対的な忠誠を誓っておりますゆえ、反感を抱いたとしても口には出しますまい。陛下が国民に説明すれば、納得する者は多いでしょう。ですが、それはまだ先の話。今は目の前の事に集中ですじゃ」

   正論を言われ、私は押し黙った。そしてようやく、「そうだね」と返した。

   馬車がルデラ邸に到着すると、使用人によって門が開かれた。広い園庭を眺めつつ進んでいく。入り口の扉の前には、大勢の使用人たち。そしてこの屋敷の主ルデラ公爵と、公爵夫人タリアさん。そして息子のジコン君が出迎えに立っていてくれた。

   馬車から降りると、使用人たちが頭を下げ、ルデラ公爵は両手を広げた。

「ようこそおいで下さいました、リーファ魔王陛下。そろそろ正午です。まずは昼食でもいっしょにいかがですかな?腕の良い料理人に、腕を振るわせます。さぁ、どうぞ中へ。皆様も」

   ルデラ公爵に屋敷内に案内され、私らは巨大な食卓のある大広間へと入った。

「陛下は私の向かいの席にお願い致します。お連れの方々は、お好きな席におかけくださいませ。すぐに前菜をお持ちします」

   みんなは慣れた様子で着席していったが、私はガチガチに緊張していた。こんな場は久しぶりだ。私の両親も公爵だが、パパが元平民と言う事もあり、食事のマナーは一切気にしない家庭なのだ。

「陛下、もっとリラックスした方が良いですぞ。力みすぎて、うっかりオナラでも出たら目も当てられませぬ」

   アルダは固くなっている私を見て、愉快そうに笑った。ファミリア達はみんな私を尊敬しているようだけど、どうもアルダには小馬鹿にされている気がしてならない。

   食事が始まると、私は周りのみんなをマネしながら、どうにかナイフやフォークを使っていった。いかにマナー違反をせずに食事をするかに気をとられ、美味しいかどうかは二の次だった。

「陛下、このたびのご活躍、実にお見事でした。それにしてもそのお姿は、どう見ても成年女性に見えるのですが......本当にジコンの同級生なのですか?」

「え?......あっ!」

   いけない!メタモルフォーゼで大人に変身したままだった!

「えっと、そのう。これも魔王の力の一つでして。魔術ではないんですが、大人に変身できるんです。私は正真正銘、ジコン君の同級生です。年は十二歳です」

   私は急に自分の姿が恥ずかしくなり、少し前かがみになった。どうりでジコン君が、チラチラと私を見ていると思った。

「なるほど、そうでしたか。それにしても巨人まで倒してしまうとは、いやはや恐れいりましたぞ。それだけではなく、領民の避難に、破壊された建物や乗り物の修繕。怪我人の治療。その全てを的確に支持し、配下の皆さんに行わせた素晴らしい判断力。感服致しました」

   ルデラ公爵は、とにかく私を褒めちぎった。パパとママ以外にはあまり褒められた事のない私にとって、それはとてもくすぐったいものだった。ジコン君も自分の事のように喜び、素敵な笑顔を見せている。

「そんな、滅相もないです。仲間の助けがあってこそ、ですよ。私一人ではどうにもならなかったと思います」

「ご謙遜を。それから、あなた様を騎士たちが捕らえた件ですが......まことに無礼な事をしてしまい、申し訳ございませんでした」

   ルデラ公爵は頭をテーブルに擦り付けて謝罪した。公爵夫人もそれにならう。ジコン君は、驚きの表情で自分の両親と私を交互に見た。

「いえ、私がジコン君を気絶させてしまったのは事実ですので。あの、それじゃあパパとママを解放していただけるんですか?」

   私の心に、希望の光が差し込む。

「いえ、残念ながらそれは出来ません。今回の一件で、魔王陛下の事を善なるお方として見直した者は、多いと思います。ですが、やはり恐怖の象徴として見ている者たちも一定数います。それを完全に拭い去るには、やはり女神様にお会いになるのが一番かと」

    ルデラ公爵は申し訳なさそうに目を閉じた。

「そうですよね......わかりました」

   私はがっくりとうなだれたい気分だったが、ファミリアたちの手前、我慢した。

「ですが、牢ではなく、ジャクソン様とアキラ様の自宅に待機していただく形には出来ます。護衛という形で見張りをつけ、外出する時には必ず彼らが同行する。そういった形で今後は拘束させていただきます。無論、手錠は無しです」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

   私は思わず立ち上がり、ルデラ公爵に頭を深く下げた。

「滅相もございません。頭をお上げください陛下。ご両親を解放出来れば一番良いのですが、私にも領主としての務めがありますので......ご容赦を」

「いえ、充分です! ありがとうございます!」

  私はルデラ公爵に促されて、再び着席した。良かった......パパとママが、あの狭くて寒くて臭い牢屋に閉じ込められないだけでも、だいぶいい。

   これで安心して旅に出る事が出来る。私は嬉しくて、ジコン君の顔を見た。ジコン君は口パクで「良かったな」と言った。私は「うん」と唇を動かし、深く頷いた。
   
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