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第2部 令嬢魔王リーファ

第11話 魔物が街にやって来た。

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   ジコン君のパパが領主を務める町「フェイザール」。人口は五千人ほどで、いくつも川がある。

   中心街は石畳で舗装されているけど、それ以外は土でデコボコしている。その為、雨が降った後はぬかるんでいて、馬車ではなく渡船を移動手段に選ぶ人も多い。ちなみに今日は、雲一つない青空が広がっている。

   これから私は冒険者ギルドに行く訳だけど、ジコン君も同行してくれる事になった。

「どうせ今日は学校休みになっちまったし、付き合うぜ。俺にも責任の一端はあるしな」

   との事。さすが次期領主。責任感が強い。

「冒険者ギルドは、俺たちが今いる屯所からだと、馬車で三十分ほどの距離だな。乗合馬車に乗って行こうぜ。停留所はすぐそこだ」

   私は屯所に来たのは初めてだったので、ジコン君の案内にはとても助けられた。持つべきものは友達だ。

   木製の看板が立つだけの、簡易な停留所。そこで待つ間、ジコン君は色々な話をしてくれた。貴族たちのお茶会や舞踏会、料理や音楽、ファッションなど。

   私には全く未知の世界で、とてもワクワクしたし、実際面白かった。お返しに私はパパとママの冒険談を話した。ジコン君は興奮して、鼻の穴を三倍くらいに大きく膨らませていた。

「それにしても馬車、遅いな」

「確かに遅いね」

   馬車が走って来るであろう方向を見ても、馬車の影は見えない。そろそろ来てもいい時間なんだけれど。

「陛下、どうやらかつて魔人が召喚した魔物たちが、町へ攻め込んで来たようですじゃ。率いているのはおそらく魔人。魔人や魔物の持つ魔力は、人間とは異質で、すぐに区別が付くのですじゃ。馬車が遅れているのは、それが原因でしょうな」

「なんですって!? 魔物!?」

   アルダラインさんの報告に、私は思わず叫んだ。

「なんだよ魔物って。いきなり何言ってんだリーファ。また現実と物語の区別がつかなくなったのか?」

   ジコン君が笑いながら私を見る。だけど私には冗談を言う余裕はなかった。

「ごめん、ジコン君! 私には秘密があるんだ! 先代魔王の直属の部下が、私の爪に十人宿ってる! 私にしか見えないけど! その一人が、魔物が町に攻めてきてるって言ってるの!だから私、ちょっと見てくるね!安全な場所に避難してて!」

「えっ!? おま、何言って」

   言いかけたジコン君をその場に残し、私とアルダラインさんは宙に舞い上がった。風の魔術で体を浮き上がらせたのだ。

   上空から町の様子を眺める。少し向こうの商店街が騒がしいので、そちらに目をこらす。小さくて緑色の魔物たちが、町の住人を追いかけ回しているのが見えた。手には剣や弓を持っている。

「アルダラインさん! あれ、なんとかして!」

   私は風魔術の達人である、緑ローブの老人に指示を出した。

「ようやくわしの出番ですな。待ちくたびれましたぞ陛下。今こそお力をお見せしましょう」

   アルダラインさんはフォッと笑って、指先を魔物たちに向けた。すると魔物たちはあっという間に宙に巻き上げられた。彼らはジタバタと混乱し、意味不明な言葉を叫んだ。数は十匹ほどだ。

「わしの記憶を得た陛下もご存知とは思いますが、こやつらはゴブリンですな。粗暴で野蛮、群れをなして人を襲います。ですが基本的に町などには手を出しません。騎士や冒険者がいますのでな」

「だよね。魔物をけしかけた統率者の狙いは何だろう」

「おそらく、力の誇示でしょうな。もしかしたら、魔王様に変わる存在が現れ、魔人どもをまとめているのかも知れませぬ。これは一大事ですぞ、陛下。不届き者には罰を与えねば」

   アルダラインさんはそう言って、パチンと指を鳴らした。するとゴブリン達の体がねじれていき、彼らは苦しみに「グエエ」と喘いだ。

「やめて! そんな事しちゃダメ!」

「こやつらに人間の言葉は通じませんぞ。今は時間がありませぬ。早く始末して他の魔物や統率者を探さねば」

「私が力を奪うから! 【ドレイン・ライフ】で!」

   私は「吸い取る」と念じ、ゴブリン達に右手をかざした。するとゴブリンたちはぐったりとうなだれ、私の体に力がみなぎる。彼らの記憶も得たので、言葉も理解出来るようになった。

   私が力を返すまで、彼らが目覚める事はない。アルダラインさんに頼んで、眠るゴブリンたちを路地裏に寝かせてもらう事にした。
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