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第2部 令嬢魔王リーファ

第6話 リーファ救出作戦。

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「あらあら、これは随分と勇敢な少年がいたものね。馬車から飛び降りる子なんて、初めて見たわ」

   目を開いたジコンは、飛び込んできた光景に心臓が跳ね上がるのを感じた。

   長く黒い髪。白く美しい肌。ジコンを支える華奢な腕。柔らかでふくよかな胸。

   間違いない。伝説の勇者アキラだ。英雄ジャクソンの妻であり、頼れる相棒。そしてリーファの母親である。

   美しい。年はジコンの母と同じく三十は越えているはずだ。だがまるで二十代のような若さと美貌だった。その健康的な美しさに、ジコンは言葉を失い、見惚れた。

   これまでも、本の挿絵や、勇者の戦いを描いた絵画などで目にした事はあった。だが実物は、やはり圧倒的な存在感だった。

「ははっ、さすが素早いなアキラ。結構距離あったのに。俺だけだったら間に合わなかったかも知れない」

   そう言いながらやって来たのは、同じく伝説の存在。英雄ジャクソンだ。リーファの父親。ジコンの憧れの対象である。

「あ、あの、もう、大丈夫です。歩けます」

   ジコンはしどろもどろになって、アキラに向かってそう言った。

「おっ、さすが子供は元気ね! よしよしいい子」

   アキラはジコンをぎゅっと抱きしめて頬ずりすると、ようやく彼を地面に立たせた。

   ジコンは、自分の母親にでさえ、ここまで愛情を示された事はなかった。顔が熱くなっているのがわかる。それに心臓が高鳴りすぎて、口から飛び出しそうだ。

「助けて下さって、ありがとうございます」

   アキラに髪を撫でられながら、ジコンは二人に礼を言った。

「ああ、あのままだったら大怪我だったな。どうして馬車を飛び降りたりしたんだい?」

   ジャクソンがジコンの肩にそっと手を置き、目線を合わせて微笑んだ。

「あ、えっと。実はリーファと喧嘩になっちゃって。リーファが魔術を使ったとかで、騎士に捕まっちゃったんです。だけどリーファは魔術なんて使ってません。父に助けを頼んだんですけど、受け入れてもらえなくて。僕一人で、助けに行こうとしたんです」

   ジャクソンはアキラと視線を交わした。それから二人は微笑んで、ジコンを抱きしめた。

「ありがとう少年! うちの娘のためにそこまでしてくれて!きっとリーファの親友だな!」

「そうね! 親に逆らってまで友情を取るなんて、そうそう出来る事じゃないわ!」

   二人に抱きしめられて、ジコンは息苦しさと嬉しさを同時に味わった。

「あの、僕、リーファとは今日友達になったばかりなんです! だけどあいつを助けたい! 一緒に行ってもらえませんか!」

   ジャクソンとアキラは再びお互いの顔を見合わせ、強く頷いた。

「そいつは願ったり叶ったりだ。俺たちもこれから、屯所に行くところだったんだ。騎士団長から呼び出しを受けてね。なぁアキラ」

「ええ、どうやってリーファを奪い返してやろうかと考えていたところよ。あの子が魔術なんて、使う訳がないからね。君の証言があれば百人力よ。あ、そうだ君、名前は?」

「えっと、ジコンです」

   二人の英雄に挟まれ、顔を真っ赤にして、ジコンは答えた。

   まもなく馬車がジコンを探しに戻ってきたが、二人がうまく言いくるめてくれたおかげで、ジコンは屯所に行く事を許された。

「よし、行くぞジコン君! 勇者パーティ出陣!」

「ふふっ! クエスト名はさしずめ、リーファ救出作戦ってとこかしらね!」

「はい! 頑張ります!」

   ジコンはパーティやクエスト、と言う単語を聞いて胸が踊った。リーファを助け出したら、みんなにこの冒険を話して聞かせよう。そう思うと、ワクワクが止まらなかった。








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