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第1部 勇者令嬢アキラ

第23話 アキラちゃんに大拍手。

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 オリビアの夢を完食して、私は夢から覚めた。私の目の前には、リーファの顔がある。

 私達は、ベッドに横になって、仲良く向かい合わせに眠っていたのだ。

「お父様......」

 リーファが目を開き、私を見てそう言った。

「リーファ、私が誰だか、どうしてわかったの?」

 オリビアの記憶が消えたリーファは、私が実は女である事を知らない筈だ。

「何故だろう。何故か知っている気がする。今ね、夢を見ていたの。とても楽しいんだけど、少し悲しい夢。そこではね、お父様が女の子で、私の友達なの」

「リーファ......」

 私はリーファを抱きしめた。そして自分の事と、オリビアの事を話した。

「そうだったんだ。あのね、私、お父様が女の子でも構わないよ。新しく友達が出来たみたいで嬉しいの」

「あはっ。そう? 良かった。ありがとうリーファ。これからもよろしくね」

 手を取り合って笑い合う。その時扉がノックされた。

「アキラ様、ジャクソンです。ご報告したい事があるのですが、入ってもよろしいですか?」

「いいわよ。入って。オリビアは消えたわ」

「失礼します」

 ジャクソンは一人の男を連れて入室した。黒い燕尾服を着た、執事の様な男。だがその顔は腫れ上がり、元がどんな顔だったのかは想像出来ない。

「ジャクソン......! その人は?」

「メフィストと名乗りました」

「メフィスト!?」

「ええ。そして申し上げにくいのですが......長年、王妃ディアナとして生活してきたそうです。アキラ様の力を奪い、オリビアに復讐を果たさせるのが目的だったと。そして最終的にはリーファ様をさらい、自分の妻とするのが目的だった様です」

「なっ......!」

 私は言葉を失った。では全てが、この男の手のひらの上だったという事?

 私はリーファを見た。彼女も目を見開き、ショックで言葉を失っている。私はリーファを抱き寄せ、その髪を撫でた。

「見ての通り、僕が少し懲らしめました。モック村の襲撃も、この男の仕業らしいです。本当は殺してやりたい。みんなの仇を取りたいです。でも、考え直しました。きっとみんな、そんな事を望んではいない。とても優しい......人たちでしたから」

 ジャクソンがグッと涙を堪える。

「石像になった人たちも、コイツの仕業です。もう治したと言ってるんですが、信用は出来ませんからね。これからコイツを連れて確認に行ってきます。アキラ様はどうされますか?」

「私も行くわ。リーファも来て。私が守るから」

「うん! アキラちゃん!」

 アキラちゃん!? うーん、まぁ、いいか。

 メフィストの言う通り、石像になっていた人々は元に戻っていた。みんな何が起こったのか理解に苦しんでおり、ワイワイと立ち話に興じていた。

「ほら、言った通りだろう! 私は嘘をつかないのだ」

 メフィストが喚くが、ジャクソンが睨むと大人しくなった。

「ジャクソン、ちょっとメフィストを見張っててくれる? どうやらあなたに怯えているみたいだし」

 私はジャクソンにそう言って、いたずらっぽく笑った。彼は少し頬を赤らめ、「わかりました」と頷いた。

 私はリーファと手分けして、王城の人々を大広間に集めた。

 そしてジャクソンとリーファ、メフィストを連れて壇上へ。

「皆のもの! よくぞ集まってくれた! 私はアキラ・スカイフォール! かつてこの地に召喚された、勇者アキラだ! 訳あって男となり、この国を治めていた!」

 広場の人々が、一斉にざわめく。だがその多くは、勇者アキラを賛美する声だった。

「勇者様が国王様だったなんて!」

「なんと素晴らしい!」

「勇者アキラ様、万歳!」

 湧き立つ人々に手を振り、ジェスチャーで一旦静かにしてもらう。

「みんな、ありがとう。これから私が言う事を、よく聞いて欲しい。近頃の魔物騒動。あれは魔王の仕業などではなかった。魔王ミリアは人間の国と結んだ盟約を忘れてはいない。変わらずこのアキラの親友だ! 真の犯人はこの男! 魔王に反旗を翻した、魔人メフィストだ!」

 観衆から私への歓声と、メフィストへのブーイングが沸き起こる。

「お前のせいで大勢が苦しんだんだ!」

「私たちを石に変えたのも、あいつらしいぞ!」

 みんなの怒りは中々収まらなかった。私は両手を上げてそれを制す。

「私の隣にいる、兵士のジャクソン。彼の活躍で、メフィストを捕らえる事に成功した。今後は地下牢に幽閉し、二度と地上に出す事はない。魔物が人々を襲う事は、もうないと約束しよう!」

 おおー!と歓声が上がる。

「ジャクソン! よくやった!」

 王宮兵士団の隊長ナッシュが、ジャクソンに拍手を送る。ジャクソンは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。

「スカイフォールには平和が訪れた! だが、私も娘のリーファも、今後は王族から退こうと思う。もっとふさわしい者に、国王の座を譲るつもりだ!」

 再び広間に騒めきが起こる。

「アキラ様がいいです!」

「他にふさわしい者などいません!」

 私は謝罪の意を込めて、みんなに頭を下げた。

「すまないみんな。だが、少し旅に出ようと思うんだ。今回の事について、魔王と話しがしたい。またこの国に戻ってきた時は、暖かく迎えて欲しい」

 広間は静まり返った。そして誰かからともなく拍手が起こり、それは大きな大拍手となった。
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