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第1部 勇者令嬢アキラ
第16話 ジャクソンの覚悟。
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スカイフォール城の前に到着した私とジャクソン。城門は固く閉ざされ、中に入るには荒っぽい事をしなければ無さそうだ。
城壁は石造りで、その中央にアーチ状の鉄扉。上方は見張り台になっており、城壁の各所に見張り用の穴が空いている。
高さはかなりあるが、私の【超健脚】なら飛び越える事は可能かも知れない。
だがそれは、この城の中にいる者が「普通の人間」だった場合に限られる。私の見立てでは、奴は人間じゃない。城の周囲には、魔術結界が張られている筈だ。
「どうにかして、扉を壊すしか無さそうね」
ちなみに【超健脚】で何度か蹴ってみたが、扉はびくともしなかった。
私は「うーん」と唸った。しかし、やはりどう考えても同じ結論に行き着く。
「この扉の強度が魔術によるものなら、魔術の影響を受けないジャクソンが壊すのが正解かも」
と、言っては見たものの......。いくらジャクソンが怪我をしないとは言っても、怪力な訳では無い。人間の腕力で鉄扉を破壊するのは不可能だ。もちろん石の城壁も。
「僕の力では、多分この扉は壊せないですね」
ジャクソンは、至極真っ当な事を言った。
「そうよね、ごめんなさい。別の方法を......」
「なので、僕を蹴って下さい」
「え?」
ジャクソン、今、なんて言ったの......?
「僕を蹴って、扉にぶつけて欲しいんです。僕は絶対に怪我をしませんし。痛みや苦しみも感じないんです」
微笑むジャクソン。
「そんな......! ダメよそんなの。他に何か方法が......」
「探してる暇はないんです。アキラ様はそれほど急いでいないと仰いましたが、僕は急いでいます。この城に、村のみんなの仇がいるんですよね。 こうしている間にも、逃げられてしまうかも知れない。なら、躊躇してる場合じゃないと思います」
ジャクソンの顔からは笑みが消え、真剣な眼差しになった。
「だけど......いえ、確かにそうね。わかったわ。それじゃあ行くわよジャクソン!」
「はい!」
両腕を胸の前に交差し、防御体制に入るジャクソン。私の蹴りは【超健脚】のスキルで足の力を高め、【神術】の【天使の祝福】でさらにパワーを増幅されている。
普通の人間を蹴ったら、トマトみたいに破裂してしまうだろう。
一瞬の躊躇いののちに、私は全力を込めてジャクソンを蹴った。
「ぐぅっ!」
ジャクソンの顔が苦痛に歪む。彼は一瞬で後方に吹き飛び、城門の鉄扉に激突した。
ドォォーーン!
轟音が響き、ジャクソンはどしゃりと地面に落ちる。
だが、扉は壊れなかった。
「もう一度、お願いします!」
ジャクソンはヨロヨロと立ち上がった。
いやだ......! もう、蹴りたくない......!
「ジャクソン、痛くないなんて、嘘なんでしょ......? さっき苦しそうな声、出してたじゃない」
ジャクソンは一瞬目をそらし、それからまた、真っ直ぐ私を見た。
「痛くありません! びっくりして声が出ただけです!」
「嘘! だってあなたは、他人の痛みを知っている! 自分の痛みが分からない人が、そんなに思いやりがある筈ないわ! そんなに、優しい訳、ないじゃない......」
私は涙が溢れた。
「それでも! 痛くても苦しくても! 僕は耐えます! 早くこの先に行きたい! 仇を討ちたいんです!」
「そう、そうよね......。ごめんなさい。私の覚悟がまだ、足りてなかったわ。わかった。ジャクソン。扉が壊れるまで、あなたを蹴り続ける。文句は後で受け付けるわ!」
「文句なんて言いません! お願いします!」
ジャクソンがここまで覚悟してるんだ。私も覚悟を決める。
私は奥歯を、ギリッと噛み締めた。
「行くわよ!」
「はい!」
私は念動力でジャクソンを引き寄せ、思いっきり蹴り飛ばす。ジャクソンは、苦痛の声を漏らさなかった。
扉に激突。ピシリとヒビが走る。
「アキラ様!」
「うん! どんどん行くよ!」
「はい! お願いします!」
まるでボールのように、何度も壁と私の間を往復するジャクソン。私は罪悪感に心が折れそうになりながらも、彼を蹴り続けた。
城壁は石造りで、その中央にアーチ状の鉄扉。上方は見張り台になっており、城壁の各所に見張り用の穴が空いている。
高さはかなりあるが、私の【超健脚】なら飛び越える事は可能かも知れない。
だがそれは、この城の中にいる者が「普通の人間」だった場合に限られる。私の見立てでは、奴は人間じゃない。城の周囲には、魔術結界が張られている筈だ。
「どうにかして、扉を壊すしか無さそうね」
ちなみに【超健脚】で何度か蹴ってみたが、扉はびくともしなかった。
私は「うーん」と唸った。しかし、やはりどう考えても同じ結論に行き着く。
「この扉の強度が魔術によるものなら、魔術の影響を受けないジャクソンが壊すのが正解かも」
と、言っては見たものの......。いくらジャクソンが怪我をしないとは言っても、怪力な訳では無い。人間の腕力で鉄扉を破壊するのは不可能だ。もちろん石の城壁も。
「僕の力では、多分この扉は壊せないですね」
ジャクソンは、至極真っ当な事を言った。
「そうよね、ごめんなさい。別の方法を......」
「なので、僕を蹴って下さい」
「え?」
ジャクソン、今、なんて言ったの......?
「僕を蹴って、扉にぶつけて欲しいんです。僕は絶対に怪我をしませんし。痛みや苦しみも感じないんです」
微笑むジャクソン。
「そんな......! ダメよそんなの。他に何か方法が......」
「探してる暇はないんです。アキラ様はそれほど急いでいないと仰いましたが、僕は急いでいます。この城に、村のみんなの仇がいるんですよね。 こうしている間にも、逃げられてしまうかも知れない。なら、躊躇してる場合じゃないと思います」
ジャクソンの顔からは笑みが消え、真剣な眼差しになった。
「だけど......いえ、確かにそうね。わかったわ。それじゃあ行くわよジャクソン!」
「はい!」
両腕を胸の前に交差し、防御体制に入るジャクソン。私の蹴りは【超健脚】のスキルで足の力を高め、【神術】の【天使の祝福】でさらにパワーを増幅されている。
普通の人間を蹴ったら、トマトみたいに破裂してしまうだろう。
一瞬の躊躇いののちに、私は全力を込めてジャクソンを蹴った。
「ぐぅっ!」
ジャクソンの顔が苦痛に歪む。彼は一瞬で後方に吹き飛び、城門の鉄扉に激突した。
ドォォーーン!
轟音が響き、ジャクソンはどしゃりと地面に落ちる。
だが、扉は壊れなかった。
「もう一度、お願いします!」
ジャクソンはヨロヨロと立ち上がった。
いやだ......! もう、蹴りたくない......!
「ジャクソン、痛くないなんて、嘘なんでしょ......? さっき苦しそうな声、出してたじゃない」
ジャクソンは一瞬目をそらし、それからまた、真っ直ぐ私を見た。
「痛くありません! びっくりして声が出ただけです!」
「嘘! だってあなたは、他人の痛みを知っている! 自分の痛みが分からない人が、そんなに思いやりがある筈ないわ! そんなに、優しい訳、ないじゃない......」
私は涙が溢れた。
「それでも! 痛くても苦しくても! 僕は耐えます! 早くこの先に行きたい! 仇を討ちたいんです!」
「そう、そうよね......。ごめんなさい。私の覚悟がまだ、足りてなかったわ。わかった。ジャクソン。扉が壊れるまで、あなたを蹴り続ける。文句は後で受け付けるわ!」
「文句なんて言いません! お願いします!」
ジャクソンがここまで覚悟してるんだ。私も覚悟を決める。
私は奥歯を、ギリッと噛み締めた。
「行くわよ!」
「はい!」
私は念動力でジャクソンを引き寄せ、思いっきり蹴り飛ばす。ジャクソンは、苦痛の声を漏らさなかった。
扉に激突。ピシリとヒビが走る。
「アキラ様!」
「うん! どんどん行くよ!」
「はい! お願いします!」
まるでボールのように、何度も壁と私の間を往復するジャクソン。私は罪悪感に心が折れそうになりながらも、彼を蹴り続けた。
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