上 下
16 / 48
第1部 勇者令嬢アキラ

第16話 ジャクソンの覚悟。

しおりを挟む
 スカイフォール城の前に到着した私とジャクソン。城門は固く閉ざされ、中に入るには荒っぽい事をしなければ無さそうだ。

 城壁は石造りで、その中央にアーチ状の鉄扉。上方は見張り台になっており、城壁の各所に見張り用の穴が空いている。

 高さはかなりあるが、私の【超健脚】なら飛び越える事は可能かも知れない。

 だがそれは、この城の中にいる者が「普通の人間」だった場合に限られる。私の見立てでは、奴は人間じゃない。城の周囲には、魔術結界が張られている筈だ。

「どうにかして、扉を壊すしか無さそうね」

 ちなみに【超健脚】で何度か蹴ってみたが、扉はびくともしなかった。

 私は「うーん」と唸った。しかし、やはりどう考えても同じ結論に行き着く。

「この扉の強度が魔術によるものなら、魔術の影響を受けないジャクソンが壊すのが正解かも」

 と、言っては見たものの......。いくらジャクソンが怪我をしないとは言っても、怪力な訳では無い。人間の腕力で鉄扉を破壊するのは不可能だ。もちろん石の城壁も。

「僕の力では、多分この扉は壊せないですね」

 ジャクソンは、至極真っ当な事を言った。

「そうよね、ごめんなさい。別の方法を......」

「なので、僕を蹴って下さい」

「え?」

 ジャクソン、今、なんて言ったの......?

「僕を蹴って、扉にぶつけて欲しいんです。僕は絶対に怪我をしませんし。痛みや苦しみも感じないんです」

 微笑むジャクソン。

「そんな......! ダメよそんなの。他に何か方法が......」

「探してる暇はないんです。アキラ様はそれほど急いでいないと仰いましたが、僕は急いでいます。この城に、村のみんなの仇がいるんですよね。 こうしている間にも、逃げられてしまうかも知れない。なら、躊躇してる場合じゃないと思います」

 ジャクソンの顔からは笑みが消え、真剣な眼差しになった。

「だけど......いえ、確かにそうね。わかったわ。それじゃあ行くわよジャクソン!」

「はい!」

 両腕を胸の前に交差し、防御体制に入るジャクソン。私の蹴りは【超健脚】のスキルで足の力を高め、【神術】の【天使の祝福】でさらにパワーを増幅されている。

 普通の人間を蹴ったら、トマトみたいに破裂してしまうだろう。

 一瞬の躊躇いののちに、私は全力を込めてジャクソンを蹴った。

「ぐぅっ!」

 ジャクソンの顔が苦痛に歪む。彼は一瞬で後方に吹き飛び、城門の鉄扉に激突した。

 ドォォーーン!

 轟音が響き、ジャクソンはどしゃりと地面に落ちる。

 だが、扉は壊れなかった。

「もう一度、お願いします!」

 ジャクソンはヨロヨロと立ち上がった。

 いやだ......! もう、蹴りたくない......!

「ジャクソン、痛くないなんて、嘘なんでしょ......? さっき苦しそうな声、出してたじゃない」

 ジャクソンは一瞬目をそらし、それからまた、真っ直ぐ私を見た。

「痛くありません! びっくりして声が出ただけです!」

「嘘! だってあなたは、他人の痛みを知っている! 自分の痛みが分からない人が、そんなに思いやりがある筈ないわ! そんなに、優しい訳、ないじゃない......」

 私は涙が溢れた。

「それでも! 痛くても苦しくても! 僕は耐えます! 早くこの先に行きたい! 仇を討ちたいんです!」

「そう、そうよね......。ごめんなさい。私の覚悟がまだ、足りてなかったわ。わかった。ジャクソン。扉が壊れるまで、あなたを蹴り続ける。文句は後で受け付けるわ!」

「文句なんて言いません! お願いします!」

 ジャクソンがここまで覚悟してるんだ。私も覚悟を決める。

 私は奥歯を、ギリッと噛み締めた。

「行くわよ!」

「はい!」

 私は念動力でジャクソンを引き寄せ、思いっきり蹴り飛ばす。ジャクソンは、苦痛の声を漏らさなかった。

 扉に激突。ピシリとヒビが走る。

「アキラ様!」

「うん! どんどん行くよ!」

「はい! お願いします!」

 まるでボールのように、何度も壁と私の間を往復するジャクソン。私は罪悪感に心が折れそうになりながらも、彼を蹴り続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...