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第1部 勇者令嬢アキラ

第14話 勇者ヨシオの誤算。

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(いない! いない! どこにいるんだアキラ! 俺の前に姿を現してくれ、アキラ!)

 走り続けるヨシオ。そして街の教会付近で、ようやく発見する。

「いた! おーいアキラ! 俺、やったよ! ケルベロス倒したぞー!」

 アキラがヨシオに気づき、手を振ってきた。

「頑張ったじゃん! ほんのちょっとだけ見直したよ! こっちにおいでー!」

「おう!」

(アキラが俺を、見直したって! 嬉しいぜ! ああ、アキラ! 好きだアキラ!)

 ヨシオはアキラのいる教会の前まで、猛烈にダッシュした。

 アキラの側には、男が二人。一人はさっきもみた、ジャクソンと呼ばれる少年。自分と同い年くらいだろう。もう一人は二十代前半くらいの青年。長身で、ゆったりとしたローブとダボっとしたズボンを身にまとっている。杖は持っていないが、魔術士だろうか。

(あの二人はアキラとどう言う関係だ? いや、そんなの関係ねぇ! アキラは俺のものにするんだ!)

「アキラー! 好きだ! 【洗脳】!」

 アキラ達まであと数歩の距離で、ヨシオは【洗脳】のスキルを放った。

 ヨシオの指先から打ち出された稲妻が、真っ直ぐアキラに飛んで行く。

「あー、やっぱクズだったわね【洗脳】」

 アキラの指先からも、同様の稲妻がほとばしる。稲妻は空中で打ち消し合い、バリバリと言う音だけを残して消失した。

「思った通り打ち消し合ったわね。私もあんたと同じスキルが使えるの。【洗脳】は効かないわよ」

「チッ!」

 ヨシオは思わず舌打ちした。ならば......!

「そいつを人質にしてやるぜ!」

 魔術士っぽい青年には効かない可能性がある為、ヨシオはジャクソン目掛けて【洗脳】を放った。

 稲妻がほとばしり、ジャクソンを直撃した。

「はははっ! よーしジャクソン! アキラをこっちに連れて来い! 言う事を聞かないようなら、お前は自殺しろ!」

(くくくっ! これでアキラは俺の言う事を聞かざるを得ない! お前は俺のものだ!)

「嫌です」

 だがジャクソンは眉間に皺を寄せ、ヨシオの命令を拒否した。

「は!?」

 ヨシオは事態を飲み込めなかった。何故だ? 何故こんなガキが、俺の【洗脳】をくらって、ケロッとしていられる?

「ジャクソン、やっちゃっていいわよ」

「はい!」

 ジャクソンは怒りに満ちた顔で、ヨシオの目の前に立つ。

「お前のせいで、大勢の人が傷ついた! 国王アキラ様は大切な家族を奪われ、幽閉された! 城の兵士は心を奪われ! 振るいたくもない暴力を街の人々に振るった! 挙句の果てに、助けを求める人々を見捨て、お前は一人で逃げた! それをアキラ様が助けて神術で治療し、ここまで避難させたんだぞ!」

 ジャクソンは、唇と拳をワナワナと震わせる。

「全て聞いた! 街の人々からな! そんなお前に、アキラ様はチャンスを下さったんだ! ケルベロスを倒せば、許してやろうとな! だがお前はその思いを裏切った! ゲスな【洗脳】で、またアキラ様から大切なものを奪おうとしたんだ!」

「また、だと......?」

 どう言う意味だ? まさか......!

「そうだ! お前の目の前にいる真の勇者アキラ様は、国王アキラ様だ! こちらにいる賢者クラウド様のお力で、本当のお姿を取り戻したのだ!」

「う、嘘だろ......!」

 アキラがあの、おっさんだっただと......!?

「アキラ様からお許しが出たから、僕はお前を殴る! 覚悟しろ!」

「ざけんじゃねぇ! この俺がテメェみてぇなクソザコに黙って殴られる訳ねぇだろ! 【洗脳】! 【洗脳】! 【洗脳】!」

 ヨシオは【洗脳】を連打した。だが、やはりジャクソンには効かない。

 クラウドがやれやれと首を振っているのが、視界の端に映る。

「チッ! なら殺してやる!」

 ヨシオは魔剣【双竜剣】をジャクソンに振るった。

「なっ、なにぃ!?」

 二本の剣は、ジャクソンを切り裂く事なく、その肩口で止まった。

「お、おいおい、なんだよそれ! 鎧も着てねぇのに! 化け物か、テメェ!」

 ヨシオはもう一度剣を振りかぶる。

「言いたい事は、それだけか!」

 ジャクソンは握りしめていた拳を、遂にヨシオの顔面に振るった。腰を入れた渾身のパンチ。

「あげぇぇぇーっ!」

 ヨシオの歯が、数本折れ飛ぶ。顎の骨も折れたかも知れない。

 空中を高速できりもみ回転し、ズシャッと地面に落下するヨシオ。

「これから教会の地下大聖堂に連れていく! お前はそこで、全員に土下座しろ! そしたら許してやる! いいな!」

「わかりまひたぁ......」

 完全な誤算だった。

(こいつ、めちゃくちゃ強いじゃん......)

 ヨシオはジャクソンを見上げながら、そう思った。




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