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第1部 勇者令嬢アキラ

第13話 勇者ヨシオの恋。

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 アキラがサイクロップスを倒した時間より、少し時を遡る。

 ヨシオは生まれて初めて、恐怖というものを味わっていた。

(リーファの奴、【洗脳】の支配下にあるはずなのに、なんで俺に命令出来るんだ?」

 スカイフォール王国の王女リーファは、ヨシオの【洗脳】によって奴隷と化した筈だった。最初は確かにヨシオの命令に従っていた。だがいつの間にか、反論する様になった。

 今ではヨシオに命令までしてくる始末。【洗脳】を再度かけても効果なし。

 しかも、恐ろしい気迫で命令してくるのだ。思わずゾッとするような......。

(あいつはマジでおっかねぇ。もう関わるのはやめよう。王妃のディアナは従順でいい女だからちょいと勿体ねぇが......背に腹は変えられねぇぜ)

 王都に攻め入った魔物を撃退してこいと、リーファに命令されたヨシオだったが、実はこっそり逃げ出そうと考えていた。

(でもまぁ俺は強いし、活躍すればリーファの奴の態度も変わるかもしれねぇ。それに、愚民どもに俺の偉大さを知らしめるチャンスだ)

 そう考え直し、城の外へ出るヨシオ。城下町には、既に魔物の大群が押し寄せていた。王宮の兵士達が、必死に応戦している。

「勇者様だ! 助かった!」

「勇者様! お力を! どうか魔物を殲滅して下さい!」

(ふふっ! クソザコ兵士どもが......! 俺様の力を見て腰抜かすなよ!)

「下がってな兵士ども! 来い、【双竜剣】! 【魔龍の鎧】!」

 既に【創造】で作成しておいた二本の魔剣と鎧を【無限収納】から呼び出し、身に纏うヨシオ。

 おおーっ! と兵士達から歓声が上がる。

「勇者様!まだ逃げ遅れた街の人々がいます! 我々が教会の地下大聖堂への避難誘導を行いますので、その間、魔物をお願いしたします!」

「おお! 大船に乗ったつもりで任せとけ!」

 ヨシオは魔物退治を開始した。魔術が宿った剣と鎧は、魔物の体を容易く斬り刻み、攻撃をはじき返す。

「はははっ! こりゃ楽勝だぜ!」

 次々と魔物を倒していくヨシオ。だがその快進撃も、ケルベロス、サイクロップス、ヒドラの出現で止まってしまう。

(なんだよあの化け物は! あんなの、勝てる訳ねぇだろ)

 ヨシオは逃げ出した。城内には転移門と呼ばれる、魔術道具が設置された部屋がある。あそこに行けば、遠くに逃げられるかも知れない。

「勇者様! お助けくだ......ぎゃああっ!」

 街の住人を避難させている兵士達が、建物の崩落にまき込まれる。巨大な魔物達は、人々を襲うついでに建物も破壊していた。

「勇者様! 勇者様ぁー! うわぁぁー!」

 ヨシオは耳を塞いで走り続けた。街民や兵士がどうなろうが、自分には関係ない。

「よし、着いた!」

 城門の扉を開けようと、両手に力を込める。だが、門は開かない。

「なっ! どうなってやがる!」

 魔剣で斬りつけても、門には傷一つ付かなかった。魔術がかけられているのかも知れない。

「俺を......締め出しやがったのか!?」

 ヨシオは愕然とした。逃げ場がない。

「ヨシオ! 何やってんの! さっさと魔物を蹴散らしてよ!」

 ヨシオはビクリと身を震わせ、声がした方を見る。女だ。それもとんでもない美少女。スタイルも抜群だ。

(なんで俺の名前を......! こんな奴、俺の知り合いにいたか?)

 記憶を探っても、該当者はいなかった。

 女の名前はアキラと言った。自分と同じく、この世界に召喚された勇者らしい。

 アキラはヨシオをビンタし、無理やりケルベロスと戦わせた。だが、彼女の【神術】で勇気をもらったヨシオには、もう恐れるものはなかった。

「死ね、ワン公!」

 ケルベロスの三つの首を遂に切り落とし、ヨシオは遂にケルベロスに勝利した。

「やったぜ! アキラ! 俺はやった!」

 ヨシオの頭の中は、アキラの事でいっぱいだった。リーファもディアナも、もうどうでもいい。アキラを【洗脳】して、自分だけのものにする。

(国王のおっさんと同じ名前なのがちょいと気になるが......大した問題じゃねぇな。それにいい女なのは変わりねぇ)

 あの可憐な唇にキスをしたい。抱きしめて、柔肌を蹂躙したい。胸も、尻も、欲望のままに犯したい。

「アキラ! アキラ! 俺を褒めてくれ! 俺を愛してくれ!」

 アキラを探し求めて、ヨシオは走った。
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