上 下
4 / 48
第1部 勇者令嬢アキラ

第4話 公爵令嬢アーキュラ・スチュアート。

しおりを挟む
 私の頭に、記憶が奔流のように押し寄せる。かつて公爵令嬢「アーキュラ・スチュアート」として生まれ、王子と婚約するも破棄された事。そして悪役令嬢としてヒロインおよび王子に逆転ざまぁし、その直後に勇者としてこの世界に召喚された事も。

 そして理解した。何故私が、クラウドに自らの封印を頼んだのか。

「アキラ様。お慕い申し上げております」

「ディアナ姫、私は女ですよ?」

「構いません。私と、結婚して下さい」

 私が魔王との和解を果たし、スカイフォール王国が救われた日。ディアナ姫は、私に求婚した。私も同性でありながら、彼女を愛していた。

「ならぬ。いくらアキラ殿が、救国の英雄であっても。女同士の結婚など、許せるはずがない」

 ディアナの父、先代国王ヴァリアスは私たちの結婚に反対した。同性愛は、この国では認められていない。

「お父様、お願いです! 私はアキラ様無しでは生きられないんです!」

 膝をつき、祈るように懇願するディアナ。私も同様にして、ヴァリアス王に気持ちを訴えた。

「陛下、私が実は男だった、と言う事にしていただいても構いません。世継ぎは作れませんが、養子を取る、と言う方法もございます。どうか、私たちの結婚をお許しください」

 無理を承知で、私は頭を下げ続けた。正直、私は女らしい格好で胸も大きく、世間では「美少女勇者アキラ」として名が通っていた。今さら男だったと言うのには、かなり無理がある。

「やむを得ん。ならばアキラ殿、そなたに三つの条件を課そう」

 国王が私に課した条件。それは私の封印へと繋がるものだった。

 私は森で隠居生活を送っている賢者クラウドの元を訪れ、ディアナとの事を相談した。

「お前がそんなにもディアナ姫に本気だったとはな。俺と縁を戻す気は無いのか?」

 クラウドと私は、かつて恋人同士だった。何度も肌を重ねた仲だ。

「ごめん。あなたの事は今でも好きだけど、私はディアナを守ると誓ったの。だから今言った条件を全てクリア出来るよう、魔術をかけて欲しい」

 条件は三つ。1、完全な男になる事。2、不老不死の力をなくし、普通に歳をとる事。3、女である自覚、記憶を消す事。これら全てを満たさなければならない。

「変身の魔術と、記憶封印、それとスキル封印の魔術を折り重ねれば可能ではあるが......本当にいいんだなアキラ。後悔しないな?」

「うん、お願い。だけど一つだけ。もしも王国に再び危機が訪れて、私がその事で相談に来たら......元に戻して欲しい」

 そう言った私を、クラウドは抱きしめる。

「わかった。アキラ、もう少し抱きしめていていてもいいか? もう女のお前に会えないかも知れないんだ。俺と愛し合った日々も、忘れてしまう。だから......」

「うん、いいよ。きっとディアナも許してくれると思う」

 私はクラウドの気が済むまで、抱きしめさせてあげた。クラウドは泣いていた。

「ありがとう、アキラ。愛してる。じゃあ、魔術かけるぞ」

「......うん」

 クラウドの魔術で、私は何のスキルも持たない、普通の少年になった。今思えば、顔はほとんど変わっていなかったけど、男っぽい印象になっていた。胸もぺったんこで、少し筋肉がついた。

 記憶を失った私は、この国の人々の事は覚えていたけど、自分自身の事は一切覚えていなかった。クラウドに魔術で城へと送ってもらい、ディアナとヴァリアス王に新たな記憶を刷り込まれた。

「孤児だったそなたは教会で育ち、敬虔なルクリエ教徒である私と妻が引き取った。我が養子となったのだ。今後はディアナの夫となり、このスカイフォール王国を守って欲しい」

「幼い頃よりお慕いしております、アキラお兄様」

 二人の言う事は真っ赤な嘘だったけど、私の為についてくれた、優しい嘘だ。

 私は二人を信じた。ディアナを愛している事は、しっかり覚えていたし、疑う理由はなかった。それから十年程して、娘のリーファが私たち夫婦の元へとやってきた。幸せだった。

 それを、あのクズ勇者が......!私から全て奪ったんだ!

「思い出したわクラウド!自分の力の使い方も! この力で私は......! あいつを殺す!」

 わなわなと拳を震わす私を見て、クラウドは優しく抱きしめてきた。

「落ち着けよ。お前が人を殺したなんて知ったら、ディアナもリーファも悲しむぞ。殺さなくたって、他にもヨシオを懲らしめる方法は沢山あるさ。それにまずは、「夢」を食べて力を回復しなきゃならない。そうだろ?」

「まぁ、それもそうね」

 クラウドのお陰で、少し落ち着いた。

 夢を喰らうという、幻獣バク。私はその力を具現化したスキル「夢喰い」を身につけていた。ヨシオと同様、勇者召喚で異世界を渡る時に身に付けた力だ。夢喰いは夢を食べる事で、様々な追加スキルを獲得できる。

 だが「不老不死」だけは、最初から備わっていた。バクは不老不死なのだ。

「封印されてた影響で、【不老不死】以外のスキルは全部無くなってる。また一から集め直しね」

「フッ、そうだな。ならまずは、俺の夢を食べると良い。また前みたいに、一緒に寝るか?」

 クラウドは「よっ」と言って私をお姫様抱っこし、二階への階段を上り始めた。

「寝るのはいいけど、変な事しないでよ?」

「わかってるよ。寝るだけだ。添い寝してくれればそれでいい」

「わ、私にはディアナがいるんだから! 本当に変な事しないでね!? もしエッチな事したら、絶交だからね!」

「わかったわかった。何もしないさ」

 うう......ちょっとだけ心配だけど、信じよう。うん。親友だしね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...