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第1部 勇者令嬢アキラ
第3話 国王様、美少女になる。
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まだ日は落ちていないが、森の中は暗い。進むのには慣れが必要だが、身を隠すには好都合な場所だ。
やがて兵士たちが私の脱走に気づき、森は少し騒がしくなった。だが、見つかる事はないだろう。クラウドが住んでいる場所を知っているのも私だけだ。おそらく、兵士達ではたどり着けないだろう。遭難者も出てしまうかも知れない。
後でクラウドに頼んで、彼らを城に転送してもらおう。魔術でね。
迷路のような森の奥。そこにクラウドの住むコテージがある。ようやくたどり着いた私は、入り口のドアをノックした。するとドアは、ギィーと音を立てて内側に開く。これも魔術だ。
さほど広くない室内には、質素な調度品が置かれている。二階へ登る階段が左手にあり、中央の壁際には暖炉がある。今はまだ春先。薪はくべられていない。
「よく来たなアキラ。会いたかったぞ」
右手側にある円卓から、一人の青年が立ち上がってそう言った。四十代の私より年上の筈だが、外見的には二十代半ばといったところだ。彼の背後には本棚があり、無数の本で埋め尽くされている。
「私も会いたかった。大変な事が起こったんだ」
親友であるクラウドの前では、私も王と言う立場を忘れ、砕けた話し方になる。人嫌いのクラウドも、私にだけは心を開く。私達はガッチリ握手を交わし、円卓で向かい合うように腰掛けた。
私はクラウドに現状を説明した。彼は深刻な顔になり、「うーむ」と唸った。
「魔王の事、俺に相談して来ないから大丈夫なのかと思っていたぞ。まさか禁断の勇者召喚をするまでに追い詰められていたとはな。もっと早く相談してくれれば良かったのに。勇者は異世界人からランダムに選ばれる。当たり外れがあるんだ。今回は外れだな」
「ああ。面目無い。人嫌いのお前に、力を借りるのをためらっていた。だが友人の機嫌を伺うよりも、国民の安全を最優先するべきだった。私は国王失格だ」
私はうなだれ、反省の色を示した。
「フッ。だが死人は出てないんだろ? ならまだ挽回出来るさ。お前に施してあった封印を、今解いてやる」
「封印?」
初耳だった。全く記憶に無い。
「覚えていないのも無理はない。お前の力と共に、記憶も封印してあるんだ。それと、恋心もな」
「恋心だって? 私に同性愛の趣味はないぞ、クラウド」
戸惑う私に、クラウドは「フッ」と微笑する。
「まぁ、封印を解けば意味が分かるさ。この王国が危機に陥った時、封印を解くと約束していたんだ。では行くぞアキラ!」
クラウドは何やら複雑な動きをし、腰につけていた小さな杖を、手に持って振った。
「解呪!」
杖が輝きを放ち、放たれた光が私の全身を包む。うわわ、なんか体が縮んでいく......!
「よし、成功だ! ほら見ろアキラ! これがお前の本当の姿だ!」
クラウドが鏡を取って、私に渡す。
「え!? これって......えええ!?」
私の口から、可愛らしい声が漏れる。まだ記憶が完全に戻っていないのか、違和感ありありだ。だって、だって鏡に映っているのは......!
「うはぁ! やっぱりお前は超絶可愛いな、アキラ!」
クラウドが、背丈の縮んだ私の頭を撫でる。クラウドがデレデレするのも無理はない。鏡に映っていたのは、黒髪で小柄、だけど曲線美な完璧プロポーションの美少女なのだ!
「これが、私なのか?」
震える声でそう言った。いや、声もマジ可愛いぞコレ。
「ああ、そうだ。お前はかつてこの王国を救った英雄! 異世界から来た美少女勇者、アキラだ!」
やがて兵士たちが私の脱走に気づき、森は少し騒がしくなった。だが、見つかる事はないだろう。クラウドが住んでいる場所を知っているのも私だけだ。おそらく、兵士達ではたどり着けないだろう。遭難者も出てしまうかも知れない。
後でクラウドに頼んで、彼らを城に転送してもらおう。魔術でね。
迷路のような森の奥。そこにクラウドの住むコテージがある。ようやくたどり着いた私は、入り口のドアをノックした。するとドアは、ギィーと音を立てて内側に開く。これも魔術だ。
さほど広くない室内には、質素な調度品が置かれている。二階へ登る階段が左手にあり、中央の壁際には暖炉がある。今はまだ春先。薪はくべられていない。
「よく来たなアキラ。会いたかったぞ」
右手側にある円卓から、一人の青年が立ち上がってそう言った。四十代の私より年上の筈だが、外見的には二十代半ばといったところだ。彼の背後には本棚があり、無数の本で埋め尽くされている。
「私も会いたかった。大変な事が起こったんだ」
親友であるクラウドの前では、私も王と言う立場を忘れ、砕けた話し方になる。人嫌いのクラウドも、私にだけは心を開く。私達はガッチリ握手を交わし、円卓で向かい合うように腰掛けた。
私はクラウドに現状を説明した。彼は深刻な顔になり、「うーむ」と唸った。
「魔王の事、俺に相談して来ないから大丈夫なのかと思っていたぞ。まさか禁断の勇者召喚をするまでに追い詰められていたとはな。もっと早く相談してくれれば良かったのに。勇者は異世界人からランダムに選ばれる。当たり外れがあるんだ。今回は外れだな」
「ああ。面目無い。人嫌いのお前に、力を借りるのをためらっていた。だが友人の機嫌を伺うよりも、国民の安全を最優先するべきだった。私は国王失格だ」
私はうなだれ、反省の色を示した。
「フッ。だが死人は出てないんだろ? ならまだ挽回出来るさ。お前に施してあった封印を、今解いてやる」
「封印?」
初耳だった。全く記憶に無い。
「覚えていないのも無理はない。お前の力と共に、記憶も封印してあるんだ。それと、恋心もな」
「恋心だって? 私に同性愛の趣味はないぞ、クラウド」
戸惑う私に、クラウドは「フッ」と微笑する。
「まぁ、封印を解けば意味が分かるさ。この王国が危機に陥った時、封印を解くと約束していたんだ。では行くぞアキラ!」
クラウドは何やら複雑な動きをし、腰につけていた小さな杖を、手に持って振った。
「解呪!」
杖が輝きを放ち、放たれた光が私の全身を包む。うわわ、なんか体が縮んでいく......!
「よし、成功だ! ほら見ろアキラ! これがお前の本当の姿だ!」
クラウドが鏡を取って、私に渡す。
「え!? これって......えええ!?」
私の口から、可愛らしい声が漏れる。まだ記憶が完全に戻っていないのか、違和感ありありだ。だって、だって鏡に映っているのは......!
「うはぁ! やっぱりお前は超絶可愛いな、アキラ!」
クラウドが、背丈の縮んだ私の頭を撫でる。クラウドがデレデレするのも無理はない。鏡に映っていたのは、黒髪で小柄、だけど曲線美な完璧プロポーションの美少女なのだ!
「これが、私なのか?」
震える声でそう言った。いや、声もマジ可愛いぞコレ。
「ああ、そうだ。お前はかつてこの王国を救った英雄! 異世界から来た美少女勇者、アキラだ!」
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