【完結】婚約破棄された猫耳令嬢、転生してOLになる。〜特技は暗殺です〜

アキ・スマイリー

文字の大きさ
上 下
33 / 35

第33話 最終決戦。

しおりを挟む
 レアスキル「インサイド・シャドー」。

 それは対象の生物の「影」と一体化し、身を潜めるスキル。私しか使えないスキル。魔王もその存在を知らなかっただろう。

 私はホムラの影となり、ここまでやってきた。全ては身を挺して戦ってくれた、ホムラとイグニスのお陰だ。二人とも今や石像になってしまった。ごめんね。必ず元に戻してあげるから、ちょっと待っててね。

 その甲斐もあって、魔王の暗殺に成功したと思ってたんだけど......。床に転がった魔王の生首は、驚くべき事に、まだ生きているようだ。彼女はまっすぐに、私を見つめている。

「貴様、何者だ......! 何故、私の邪魔をする!」

 そうか。彼女とは駅で会っているが、あの時私の姿は猫柳美奈子だった。ミーナとして魔王に会うのは初めてだ。

「私はミーナ・キャティ。ユークリウッドの幼なじみで、元婚約者。ユークの生まれ代わりである勇気を救出しに来たの。あなたの横暴を見逃せないから。自分勝手に殺したり、生まれ変われさせたり。人の命を何だと思ってるの? 勇気はあなたのおもちゃじゃないわ!」

 感情が昂ぶる。冷静さを失えば敗北に繋がる。それはわかっている。わかってるんだけど......どうしても私は、魔王を許せなかった。殺意を抱いてしまう程に。

「元、婚約者......か。では今は違うのだろう。ならば貴様にも勇気を独占する権利などない筈だ。欲しければ力ずくで奪うがいい。私はまだ、敗北した訳ではないからな」

 魔王の言葉に反応したように、側に立っていた勇気が生首を持ち上げ、彼女の体にくっつける。

「ありがとうユーク。この邪魔者を始末したら、またゆっくり愛し合おうぞ」

 魔王の首は元どうりに再生。勇気に抱き抱えられながら立ち上がり、彼と唇を重ねる。勇気の目には光がない。きっと「魅了」のスキルで心を操られているんだ。

「勇気から離れなさいよ!」

 首がダメなら心臓だ。私は魔王の心臓を貫くべく、ダガーを構えて彼女に襲いかかる。

 だが魔王を庇うように勇気が立ち塞がる。彼は両手を広げ、魔王の盾となった。

「くっ!」

 これでは手がだせない。

「マオを傷つける奴は許さない。マオは俺の命より大切な人なんだ」

「勇気......! お願い、目を覚まして!」

 抑揚のない、勇気の声。操られているのはわかってるけど、その言葉は私に少なからずダメージを与えた。

「ふふっ。ユークの愛は私の物だ。誰にも渡しはせぬ」

 そう言って、また勇気とキスをする魔王。こんにゃろぉー!

 だめだ。怒って冷静さを失ったら相手の思うツボ。落ち着くのよミーナ。

 まずは勇気の「魅了」を解いてあげないと。

「魔力崩壊!」

 私はレアスキル【魔力崩壊】を勇気に向かって放った。これは持続性のある魔術や呪いの魔力を崩壊させ、無効にするスキル。私の右手から放たれた光が、一直線に勇気に向かっていく。これが決まれば、勇気は正気に戻るはずだ。

「させぬよ」

 魔王は素早く勇気の前に出る。そして裏拳で【魔力崩壊】の光線を弾き飛ばした。

「レアスキル【魔返撃】だ。スピードが早くて打ち返す事は出来なかったが、弾く程度なら容易い」

「......!」

 私は思わず言葉を失った。レアスキルは極稀にしか体得出来ないスキル。【魔返撃】は、私以外の使い手はいないと思ってたのに......!

「ミーナ!」

 突然背後から、私を呼ぶ声がした。振り返った先には、火凛ちゃんと凛太郎君が呆然とした表情で立っていた。

 そうか! 魔返撃が弾かれて、ホムラとイグニスの石化を解いたんだ。きっと威力が強すぎて、変身までも解いてしまったに違いない。

「火凛ちゃん! 早く変身して!」

 私は叫ぶ。だけど火凛ちゃんも凛太郎君も、戸惑っている。

「変身出来ないの! どうしよう! 私......!」

 ええ!?

「これはいい。ここで殺しておこう!」

 魔王が両手の間に魔力の球を作り出す。恐ろしい魔力だ。こんなものを食らったら、普通の人間は骨も残らない。

「イビル・ナパーム!」

 魔王の両手から、魔力球が放たれる。

「二人とも逃げて!」

「お姉ちゃん!」

「きゃああーっ!」

 凛太郎君が火凛ちゃんの前に立ち、背を向けて彼女を守ろうとする。

 私は叫ぶ。走る。だが、間に合わない!

 どうしよう! どうしよう! 二人が死んでしまう!

 何かないの!? 方法はないの!? 

 ダメ! 思いつかないよぉ!

 一瞬の間に、超高速で思考が巡る。

「いやぁぁーっ!」

 魔力球が、凛太郎君の背中に直撃......したかのように見えた。

「間に合ったね。大丈夫? 二人とも」

 魔力球は、寸前で止まった。二人の前に現れた青年が、片手で受け止めたのだ。

 ああ......! あの姿は......! 彼は......!

「な、何故だ! そんなはずは......!」

 声を震わせる魔王。

「危なかった。俺の大切な仲間を、また死なせてしまう所だった」

 優しく、そして爽やかに微笑む青年。

 ああ......! 会いたかった。ずっと......! あの時から、ずっと......!

「ユークリウッド!」

 私は走り続け、そして、彼の胸に飛び込んだ。勇気が目覚めたんだ! ユークリウッドの、力と記憶と姿を、取り戻したんだ!

「ただいま、ミーナ」

「ユーク! お帰りなさい! ああ......私の勇者様! 会いたかった! 会いたかったよぉ!」

 私は声を上げ、わんわんと泣いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。

金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。 デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。 天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。 そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。 リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。 しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。 さて、カナリアは見つかるのか? アマーリアはカナリアなのか? 緩い世界の緩いお話です。 独自の異世界の話です。 初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。 応援してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...