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第33話 最終決戦。
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レアスキル「インサイド・シャドー」。
それは対象の生物の「影」と一体化し、身を潜めるスキル。私しか使えないスキル。魔王もその存在を知らなかっただろう。
私はホムラの影となり、ここまでやってきた。全ては身を挺して戦ってくれた、ホムラとイグニスのお陰だ。二人とも今や石像になってしまった。ごめんね。必ず元に戻してあげるから、ちょっと待っててね。
その甲斐もあって、魔王の暗殺に成功したと思ってたんだけど......。床に転がった魔王の生首は、驚くべき事に、まだ生きているようだ。彼女はまっすぐに、私を見つめている。
「貴様、何者だ......! 何故、私の邪魔をする!」
そうか。彼女とは駅で会っているが、あの時私の姿は猫柳美奈子だった。ミーナとして魔王に会うのは初めてだ。
「私はミーナ・キャティ。ユークリウッドの幼なじみで、元婚約者。ユークの生まれ代わりである勇気を救出しに来たの。あなたの横暴を見逃せないから。自分勝手に殺したり、生まれ変われさせたり。人の命を何だと思ってるの? 勇気はあなたのおもちゃじゃないわ!」
感情が昂ぶる。冷静さを失えば敗北に繋がる。それはわかっている。わかってるんだけど......どうしても私は、魔王を許せなかった。殺意を抱いてしまう程に。
「元、婚約者......か。では今は違うのだろう。ならば貴様にも勇気を独占する権利などない筈だ。欲しければ力ずくで奪うがいい。私はまだ、敗北した訳ではないからな」
魔王の言葉に反応したように、側に立っていた勇気が生首を持ち上げ、彼女の体にくっつける。
「ありがとうユーク。この邪魔者を始末したら、またゆっくり愛し合おうぞ」
魔王の首は元どうりに再生。勇気に抱き抱えられながら立ち上がり、彼と唇を重ねる。勇気の目には光がない。きっと「魅了」のスキルで心を操られているんだ。
「勇気から離れなさいよ!」
首がダメなら心臓だ。私は魔王の心臓を貫くべく、ダガーを構えて彼女に襲いかかる。
だが魔王を庇うように勇気が立ち塞がる。彼は両手を広げ、魔王の盾となった。
「くっ!」
これでは手がだせない。
「マオを傷つける奴は許さない。マオは俺の命より大切な人なんだ」
「勇気......! お願い、目を覚まして!」
抑揚のない、勇気の声。操られているのはわかってるけど、その言葉は私に少なからずダメージを与えた。
「ふふっ。ユークの愛は私の物だ。誰にも渡しはせぬ」
そう言って、また勇気とキスをする魔王。こんにゃろぉー!
だめだ。怒って冷静さを失ったら相手の思うツボ。落ち着くのよミーナ。
まずは勇気の「魅了」を解いてあげないと。
「魔力崩壊!」
私はレアスキル【魔力崩壊】を勇気に向かって放った。これは持続性のある魔術や呪いの魔力を崩壊させ、無効にするスキル。私の右手から放たれた光が、一直線に勇気に向かっていく。これが決まれば、勇気は正気に戻るはずだ。
「させぬよ」
魔王は素早く勇気の前に出る。そして裏拳で【魔力崩壊】の光線を弾き飛ばした。
「レアスキル【魔返撃】だ。スピードが早くて打ち返す事は出来なかったが、弾く程度なら容易い」
「......!」
私は思わず言葉を失った。レアスキルは極稀にしか体得出来ないスキル。【魔返撃】は、私以外の使い手はいないと思ってたのに......!
「ミーナ!」
突然背後から、私を呼ぶ声がした。振り返った先には、火凛ちゃんと凛太郎君が呆然とした表情で立っていた。
そうか! 魔返撃が弾かれて、ホムラとイグニスの石化を解いたんだ。きっと威力が強すぎて、変身までも解いてしまったに違いない。
「火凛ちゃん! 早く変身して!」
私は叫ぶ。だけど火凛ちゃんも凛太郎君も、戸惑っている。
「変身出来ないの! どうしよう! 私......!」
ええ!?
「これはいい。ここで殺しておこう!」
魔王が両手の間に魔力の球を作り出す。恐ろしい魔力だ。こんなものを食らったら、普通の人間は骨も残らない。
「イビル・ナパーム!」
魔王の両手から、魔力球が放たれる。
「二人とも逃げて!」
「お姉ちゃん!」
「きゃああーっ!」
凛太郎君が火凛ちゃんの前に立ち、背を向けて彼女を守ろうとする。
私は叫ぶ。走る。だが、間に合わない!
どうしよう! どうしよう! 二人が死んでしまう!
何かないの!? 方法はないの!?
ダメ! 思いつかないよぉ!
一瞬の間に、超高速で思考が巡る。
「いやぁぁーっ!」
魔力球が、凛太郎君の背中に直撃......したかのように見えた。
「間に合ったね。大丈夫? 二人とも」
魔力球は、寸前で止まった。二人の前に現れた青年が、片手で受け止めたのだ。
ああ......! あの姿は......! 彼は......!
「な、何故だ! そんなはずは......!」
声を震わせる魔王。
「危なかった。俺の大切な仲間を、また死なせてしまう所だった」
優しく、そして爽やかに微笑む青年。
ああ......! 会いたかった。ずっと......! あの時から、ずっと......!
「ユークリウッド!」
私は走り続け、そして、彼の胸に飛び込んだ。勇気が目覚めたんだ! ユークリウッドの、力と記憶と姿を、取り戻したんだ!
「ただいま、ミーナ」
「ユーク! お帰りなさい! ああ......私の勇者様! 会いたかった! 会いたかったよぉ!」
私は声を上げ、わんわんと泣いた。
それは対象の生物の「影」と一体化し、身を潜めるスキル。私しか使えないスキル。魔王もその存在を知らなかっただろう。
私はホムラの影となり、ここまでやってきた。全ては身を挺して戦ってくれた、ホムラとイグニスのお陰だ。二人とも今や石像になってしまった。ごめんね。必ず元に戻してあげるから、ちょっと待っててね。
その甲斐もあって、魔王の暗殺に成功したと思ってたんだけど......。床に転がった魔王の生首は、驚くべき事に、まだ生きているようだ。彼女はまっすぐに、私を見つめている。
「貴様、何者だ......! 何故、私の邪魔をする!」
そうか。彼女とは駅で会っているが、あの時私の姿は猫柳美奈子だった。ミーナとして魔王に会うのは初めてだ。
「私はミーナ・キャティ。ユークリウッドの幼なじみで、元婚約者。ユークの生まれ代わりである勇気を救出しに来たの。あなたの横暴を見逃せないから。自分勝手に殺したり、生まれ変われさせたり。人の命を何だと思ってるの? 勇気はあなたのおもちゃじゃないわ!」
感情が昂ぶる。冷静さを失えば敗北に繋がる。それはわかっている。わかってるんだけど......どうしても私は、魔王を許せなかった。殺意を抱いてしまう程に。
「元、婚約者......か。では今は違うのだろう。ならば貴様にも勇気を独占する権利などない筈だ。欲しければ力ずくで奪うがいい。私はまだ、敗北した訳ではないからな」
魔王の言葉に反応したように、側に立っていた勇気が生首を持ち上げ、彼女の体にくっつける。
「ありがとうユーク。この邪魔者を始末したら、またゆっくり愛し合おうぞ」
魔王の首は元どうりに再生。勇気に抱き抱えられながら立ち上がり、彼と唇を重ねる。勇気の目には光がない。きっと「魅了」のスキルで心を操られているんだ。
「勇気から離れなさいよ!」
首がダメなら心臓だ。私は魔王の心臓を貫くべく、ダガーを構えて彼女に襲いかかる。
だが魔王を庇うように勇気が立ち塞がる。彼は両手を広げ、魔王の盾となった。
「くっ!」
これでは手がだせない。
「マオを傷つける奴は許さない。マオは俺の命より大切な人なんだ」
「勇気......! お願い、目を覚まして!」
抑揚のない、勇気の声。操られているのはわかってるけど、その言葉は私に少なからずダメージを与えた。
「ふふっ。ユークの愛は私の物だ。誰にも渡しはせぬ」
そう言って、また勇気とキスをする魔王。こんにゃろぉー!
だめだ。怒って冷静さを失ったら相手の思うツボ。落ち着くのよミーナ。
まずは勇気の「魅了」を解いてあげないと。
「魔力崩壊!」
私はレアスキル【魔力崩壊】を勇気に向かって放った。これは持続性のある魔術や呪いの魔力を崩壊させ、無効にするスキル。私の右手から放たれた光が、一直線に勇気に向かっていく。これが決まれば、勇気は正気に戻るはずだ。
「させぬよ」
魔王は素早く勇気の前に出る。そして裏拳で【魔力崩壊】の光線を弾き飛ばした。
「レアスキル【魔返撃】だ。スピードが早くて打ち返す事は出来なかったが、弾く程度なら容易い」
「......!」
私は思わず言葉を失った。レアスキルは極稀にしか体得出来ないスキル。【魔返撃】は、私以外の使い手はいないと思ってたのに......!
「ミーナ!」
突然背後から、私を呼ぶ声がした。振り返った先には、火凛ちゃんと凛太郎君が呆然とした表情で立っていた。
そうか! 魔返撃が弾かれて、ホムラとイグニスの石化を解いたんだ。きっと威力が強すぎて、変身までも解いてしまったに違いない。
「火凛ちゃん! 早く変身して!」
私は叫ぶ。だけど火凛ちゃんも凛太郎君も、戸惑っている。
「変身出来ないの! どうしよう! 私......!」
ええ!?
「これはいい。ここで殺しておこう!」
魔王が両手の間に魔力の球を作り出す。恐ろしい魔力だ。こんなものを食らったら、普通の人間は骨も残らない。
「イビル・ナパーム!」
魔王の両手から、魔力球が放たれる。
「二人とも逃げて!」
「お姉ちゃん!」
「きゃああーっ!」
凛太郎君が火凛ちゃんの前に立ち、背を向けて彼女を守ろうとする。
私は叫ぶ。走る。だが、間に合わない!
どうしよう! どうしよう! 二人が死んでしまう!
何かないの!? 方法はないの!?
ダメ! 思いつかないよぉ!
一瞬の間に、超高速で思考が巡る。
「いやぁぁーっ!」
魔力球が、凛太郎君の背中に直撃......したかのように見えた。
「間に合ったね。大丈夫? 二人とも」
魔力球は、寸前で止まった。二人の前に現れた青年が、片手で受け止めたのだ。
ああ......! あの姿は......! 彼は......!
「な、何故だ! そんなはずは......!」
声を震わせる魔王。
「危なかった。俺の大切な仲間を、また死なせてしまう所だった」
優しく、そして爽やかに微笑む青年。
ああ......! 会いたかった。ずっと......! あの時から、ずっと......!
「ユークリウッド!」
私は走り続け、そして、彼の胸に飛び込んだ。勇気が目覚めたんだ! ユークリウッドの、力と記憶と姿を、取り戻したんだ!
「ただいま、ミーナ」
「ユーク! お帰りなさい! ああ......私の勇者様! 会いたかった! 会いたかったよぉ!」
私は声を上げ、わんわんと泣いた。
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