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第14話 私の探し求めていた人。(サキュバス視点)
しおりを挟む「恭子ちゃん、ホムラちゃんが言ってる事は本当なのかい? 君はサキュバスで、勇者の俺を欺いてたって訳? 俺にはとても信じられない。可愛い君が、邪悪なモンスターだなんて」
勇気が不安そうな目で恭子を見る。だが確信は得られていないようだ。
「そんな訳ないじゃない。私は人間よ。あのホムラさんが、勘違いしてるんだわ」
恭子はそう言って、勇気の胸に顔を埋めた。
「くっ! サキュバス! さっさと勇気くんから離れろ! あの、勇気くん、早く、その女から離れて私の元へ! ああ、尊い......! イケメン・ヘブン毎週観てます!」
ホムラは顔を赤くし、潤んだ目で勇気を見つめている。どうやら勇気のファンのようだ。
「わー、嬉しいな。ホムラさん、ドラマ観てくれてるんだ。ありがとねー!」
勇気は呑気に、ホムラに手を振った。
「ふん! 愚かな冒険者め! 人間が、簡単にサキュバスから離れられると思うのか? その気になれば、すぐに吸精出来るんだ。お前の大好きな勇気を、ミイラ爺に変える事だって出来るんだぞ!」
「何!? とうとう本性を現したな! だがそんな事をするのはやめろ! お前だって、勇気くんがミイラ爺になるのは嫌だろう!」
(なんなのこいつ......すっごくやりづらいわ。まぁいい)
「ふんっ!確かに私だって嫌よ! だけどあんたが私を殺すつもりなら、やらざるを得ないわ!」
恭子は勇気の首を、ガシッと掴んだ。
「恭子ちゃん......本当にサキュバスだったんだね」
「ええ、騙してごめんね。だけどあなたを愛する気持ちは本当よ! さぁ、一緒に逃げましょう!」
恭子は「転移」の魔術の呪文を唱えた。別の場所に一瞬で移動出来る魔術だ。だがおかしい。転移出来ない!
「むっ! 魔術で逃げる気か! そうはさせんぞ! 今から攻撃するので、勇気くんは避けて下さいね!」
ホムラはそう言って、戦闘の構えを取った。
(こいつ、何を言っているの!? 勇気は普通の人間だよ!? 冒険者の攻撃を避けれる訳ないでしょーが! しかも攻撃してくれば勇気の精気を吸い取るって、脅してあるのに! バカなの!?)
「ふんっ! 【闘気錬成】! 出でよ! ヘルフレイム・グローブ!」
ホムラの両拳に、燃え盛る小手が装着される。
「行くぞ! ヘルフレイム・ボンバー!!」
ホムラは両拳を交互に繰り出し、炎の塊を二発撃ち出して来た。
「危ない! 恭子ちゃん!」
勇気が恭子の前に飛び出す。
「えっ、勇気さん! どうして!?」
だが炎の塊は勇気を避けるように軌道修正し、二発とも恭子に直撃した。
「ぎゃあああーっ!」
「恭子ちゃん!」
倒れる恭子に、勇気が寄り添う。
「勇気さん......どうして、助けてくれようとしたの? 私、サキュバスだよ? 悪い、モンスターなんだよ?」
恭子の目から、自然と涙が溢れる。こんな気持ちになったのは、いつぶりだろうか。暖かい。心が、ふわふわする。
「そんなの関係ねぇ! 恭子ちゃんは、俺の恋人のつもりだと言った! だから、今日、この時間! 俺は恭子ちゃんの恋人だ! 恋人は命がけで守るのが、勇者ってもんだろ!」
「勇気さん......」
(そうか。そうだったんだ......。彼だ。私は彼を探していたんだ。もう、男を漁るのはやめよう。勇気さえいれば、他の男なんてどうでもいい。セックスの時に、ほんの少しだけ精気を分けてもらって。それで生きて行こう)
ホムラは勇気の行動に戸惑っているのか、追撃して来ない。これなら逃げられるかも。恭子がそう思った時だった。
ぷぅぅぅーっ。
恭子の尻から、その音は漏れた。
「えっ!?」
一番驚いたのは、恭子自身。今のは、おなら?
ブーッ! ブッ、ブッ、ブビィーッ!
「い、いやぁぁーっ!」
思わず尻を抑える恭子。だがおならは止まらない。
勇気はどうしていいか分からず、硬直している。恭子は素早く立ち上がり、勇気から離れた。
人のいない所へ! そうだ! トイレ!
女子トイレに飛び込む。何故か個室は一つしか空いていなかった。迷わず飛び込む恭子。
「いらっしゃい♡ 待ってたよ、尻軽女」
そこには、青い髪に猫耳の女がいた。恭子の顔を見て、にっこりと微笑んでいた。
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