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第8話 ミーナさん怖いからノーマンは土下座。(ノーマン視点)
しおりを挟む「よし、二人とも準備はいいな? ルールを説明する。武器は殺傷力の弱い、最低ランクのものを使ってもらう。ミーナはダガーを三本、ノーマンはロングソードを二本だ。急所である頭、眼球、喉、心臓への故意による攻撃は禁止。殺すのも禁止。相手の『戦意喪失』『失神』『戦闘不能状態』いずれかに持ち込めば勝ち。以上だ。質問はあるか?」
「ないぜ」
「ないでーす」
「よし。では始め!」
う
太郎の戦闘スタイルは「魔術剣士」。魔術で武器を強化し、二刀流で一気にケリを付ける。
太郎は素早く「エンチャント魔術」を使用し、二本のロングソードを強化した。片方は「炎属性」もう片方は「氷属性」。この二つの属性による同時攻撃に、耐えられる敵は少ない。熱して冷やす。それにより、硬い装甲ですら破壊する事が可能なのだ。
太郎がエンチャント魔術を使用してミーナに斬りかかるまで、ほんの一秒ほど。その間、ミーナはダガーを構えただけ。
ダガー使いということは、暗殺士か盗賊あたりか。だが反応が遅すぎる。手練れの冒険者なら、すでにダガーを投げつけてきているはずだ。もちろんそんな事をされても、簡単に避けられるが。
「勝った!」
太郎は二本のロングソードで、上方と下方、両方から同時に斬りかかった。今までこれを避けたものはいない。
「!?」
剣がミーナに当たる直前、太郎は違和感を感じた。そうか、ミーナはダガーを持っていない。ダガー特有の構えだけとっているが、肝心のダガーがどこにも見当たらない。
ロングソードがミーナに当たる。ミーナの肩と脇腹から鮮血がほとばしり、彼女は絶叫と共に倒れた。ダガーを持っていなかった理由は、わからないままだったが、勝てばいい。問題はない。
「ふぅ。やっぱり雑魚だったか」
太郎は倒れる彼女を見下ろし、それから周囲に目を向けた。おかしい。誰もいない。
それどころか、音も聞こえない。いや、そもそも、ここはどこだ?真っ黒で何も見えない、黒い世界。
「ここはあなたの心の世界だよ、太郎君」
「ひぃっ!」
耳元で突然囁かれ、太郎はその場を飛び退いた。そして無様に転ぶ。
「ああ......」
太郎は自分の声を聞き、手足や体を見下ろした。自分の姿、ノーマンの姿は見える。いや、違う、ノーマンの姿じゃない。自分は今、山田太郎に戻ってしまっている。
「うふふ。怖い? そんな訳ないよね。私はG級雑魚冒険者だし。あなたはSS級だもの。怖い訳がない。そうでしょ?」
声だけだった存在が、暗闇の中から姿を表す。マントを羽織った猫耳の女。ミーナだ。
おかしい。彼女は血を吹き出して倒れているはず。なのに目の前のミーナには、傷一つない。
「ここは太郎君の心の世界で、私と君しかいないの。だからルール違反しても全然オッケー。目玉をくり抜いても、心臓をえぐり出してもいいのよ。どんな死に方がお好み? リクエストに答えてあげる」
そんな、そんな死に方、いやだ。死にたくない。死にたくない。
「た、助けてください。許してください」
震える声が、やっと喉から出てくれた。
「ああ、それって戦意喪失ってやつかな? 私の勝ち? でもいいの? 太郎君、G級になっちゃうよ?」
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
「いいです。僕の負けでいいです。だから、殺さないでください。お願いします、お願いします」
涙が溢れる。
「うーん、どうしよっかなぁ。私、スッゴい侮辱されたし。結構傷ついちゃったなぁ」
「ど、土下座しますから!」
太郎は真っ暗闇の中、床らしきものに頭を擦り付け、土下座した。
「それじゃあ、今後は太郎君、私の手下ね。私がカップ麺買ってきてって頼んだら、すぐ買ってくるのよ。いい?」
「はい! 是非買わせてください! 」
「そう? なら許してあげる。命は取らない。SS級ランクの剥奪で許してあげる」
「ありがとうございます!」
床に頭を擦り付けたまま、太郎は叫んだ。すると、周囲の音が戻ってきた。
「嘘だろ、あのノーマンが......」
「土下座かよ、みっともねぇな」
「あいつ、性格悪いからいい気味だぜ。G級に転落らしいから、こき使ってやろう」
「だけど一体、何が起こったんだ? あのミーナって女、何もしてないぜ?」
戻ってきた。あの暗闇から、戻ってきたんだ。
太郎は喜びのあまり歓喜の涙を流し、顔をあげた。そこには女神のような美しさで笑顔を浮かべる、ミーナの姿があった。
彼女はしゃがみ込み、そっと太郎の耳に唇を近づけた。
「うふふっ♡ ざまぁ」
そう囁いた彼女の言葉が、電撃となって太郎の全身を駆け巡った。
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