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第2話 猫耳令嬢「地球」に行く。
しおりを挟む「君の猫耳族としての能力や、暗殺の技術は確かに役に立ってくれた。だけど、面と向かっての戦闘では弱い事もわかった。これから行く魔界では、隠密行動は難しいだろう。つまり、君が足手まといになる可能性が大きいんだ。よって、君をパーティから追放する。もう二度と会う事もない」
「そんな! 私が役立たずなのはわかりました! でも婚約まで破棄しなくても! 私が嫌いになったのですか? マーガレットを選べば良かったと思っているのですか!?」
「ああ! そうさ! 君を選んで後悔してるよ! マーガレットを選べば良かった! そうすれば、婚約者を冒険に連れて行こうなんて、バカな考えを起こさずに済んだのに! 君を選ぶべきじゃなかった! 君を連れてくるべきじゃなかった!僕はとんでもない愚か者さ......! もう、さよならだ。僕の事は忘れてくれ。行くよホムラ!」
ユークリウッドは、これまで旅を共にしてきた仲間、美しく強い女武術士ホムラと、その従魔イグニスだけを連れて旅立った。
マーガレットは、きっと関係ない。私よりも、ホムラを好きになったんだ。そう思った。
その後私は冒険者ギルドへ登録し、冒険者となった。ユークリウッドへの想いを断ち切る為、がむしゃらになってモンスターを暗殺しまくった。
猫耳族である私は、猫の特性を備えている。それらは全て、暗殺士向きだった。やがて私はSSS級の暗殺士へと登りつめ、誰もが一目を置く存在となった。戦闘技術も死にものぐるいで磨いた。面と向かって戦っても、誰にも負けなくなった。
「猫耳令嬢ミーナ」。その名を知らぬ冒険者は居ない。
私の名前が、あの人の元まで届けばいい。そして私をそばに置いておかなかった事を、後悔するといい。そう願っていた。
勇者ユークリウッドが魔界へ向かい、数ヶ月が過ぎた。私がモンスター狩りに勤しむ中、王国中に衝撃が走る出来事が起こった。
「勇者と魔王が相打ちとなり、世界に平和が訪れた! 勇者とその仲間の葬儀は、明日の朝行われる!」
王都の広場。王宮の兵士たちが、大声でお触れを告げて回っている。
死んだ......ユークリウッドが。
「死んだの......?ユーク、死んでしまったの......?は、はは......。あははっ。 ざまぁみろ! 私を追放なんてするから! 私と、婚約破棄なんて、する......からぁ......」
彼は、どんな思いでその最後を迎えたのだろうか。涙が溢れる。悔しがってくれただろうか。いや、もうそんな事はどうでもいい。私は彼を愛していたんだ。もう一度、彼に会いたかった。
私は体中の力が抜け、その場で泣き崩れた。
そして、数ヶ月後。
「本当に行かれるのですか、お嬢様」
執事のクリストファーが、心配そうに私を見つめる。
「ええ。もう決めたの。行くわ、異世界へ」
転生の秘術。私は異世界「地球」に赤ん坊として生まれ変わる事になる。
突如出現した「次元の裂け目」により、大勢のモンスターが、異世界「地球」へ逃げ込んだらしい。そこはモンスターの天敵である「冒険者」が、存在しない世界。
既に裂け目は閉じられたが、その直前、数十人の冒険者やギルド関係者が裂け目から地球へ行ったらしい。彼らが地球においての、冒険者ギルド設立メンバーとなるのだろう。
「魔王が実は生きていて、異世界に逃げ込んだって言う噂もあるし。ユークリウッドなら、きっと私と同じ事をすると思うわ」
クリストファーは私の思いを汲んでくれた。優しく微笑み、私の両手を包むように握る。
「わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、もうお止めいたしません。旦那様と奥様へは、私からご説明しておきますので」
「いつもごめんね、クリストファー。ありがとう」
涙ぐむクリストファーを抱きしめ、私は屋敷を後にした。私が居なくなっても、妹のマリーがいる。父と母は私よりも妹を大事にしているし、きっと平気だろう。むしろ厄介払いが出来たと喜ぶかも知れない。
魔術士協会の扉を叩き、地球への転生を希望する。
「では、こちらでお待ちください」
待合室のような場所に通され、私は椅子に腰かけた。私以外にも数人の人が順番待ちをしていた。装備から察するに、みんな冒険者だろう。
彼らの会話から判断すると、どうやら記憶や能力は維持されるようだ。良かった。というか、そうでないと困る。
「次の方どうぞ」
私の番が来た。不安と期待に胸が高鳴る。
地球。一体どんな世界なんだろう。
まだ見ぬ異世界に思いを馳せながら、私は魔術陣へと足を踏み入れた。
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