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上から目線に感じるような言い方。
だけど、声には欠片も傲慢さは含まれていないし、友達かあるいは家族か。親愛の眼差しで手を差し出す姿に目が吸い寄せられる。
差し出された手を握ると、軽い力で引っ張られ自然と立ち上がる。そのまま賑やかな場所から離れていく。
手を引かれて進んでいくと、するするとあやかしの間を抜けて歩く。早くない歩調なのに、視界がどんどん開けていく。
路地裏に入り、物の隙間を通って、一枚の扉の前で止まった。
「神様」
声に反応したのか、音もなく静かに開いた。
かび臭い部屋の紐を引っ張ると、階段がおりてきた。黙ってここまできたあやがしが振り返って「足、大丈夫?」と聞いてきたので頷くと、上り始めたのでそれに続く。
屋根裏部屋みたいに小さなスペースに、人影がいくつか見える。
「神様、なり損ないの子、つれてきたよ」
「ありがとう。また一人、子供が増えたね」
窓から入った日の光で、白のような銀のような髪と黄金色の瞳が見えた。優しい目。穏やかで、温かい。陽だまりみたいな目をしたあやかしだ。
あやかしには性別はあまりないと思っていたけど、あまりにも綺麗だから、見入ってしまう。
人形みたいに白い肌はつるりとしていて、頬はほのかに色付いている。熟れたリンゴみたいに赤い唇は派手には見えず、相応しい色だと感じる。
ぼけっと見ていると、口端をゆるりと上げた。目じりを下げ、穏やかな目を細める。
「杠六花、君が生まれた人間の名前だ。私が誤ったばかりに、人間に生まれてしまった……本当に申し訳ないことをした。許してくれとは言わない、代わりに、チャンスを与えてくれないか?」
「何を、言っているのか……わかりません」
どうしてそんなに優しい顔で、苦しそうに懺悔のような言葉を出すんだろう。
名前を知っていることとか、浮かんだ疑問がシャボン玉のように静かに割れる。目の前にいる神様と呼ばれたあやかしが、悲しそうな苦しそうな声をすることが気にかかる。
何で、わたしのことで苦しむ必要がある? どうして、涙を流すの? あなたが何かしたわけじゃないのに。
声をかけようとして、言葉が出なくて詰まる。
まるで、人間に生まれてきたことが悲しくて苦しいことだと言うように泣く姿に、何も言えなくなる。俯いて、肩から落ちた髪の毛を指先に巻き付ける。
『六花』
怖い顔を緩めて、不器用に笑う顔。小さい頃は顔が怖くても笑うと可愛かったのに、大きくなったら笑っても顔が怖いといわれるらしい、大切な幼なじみ。
遠く離れてしまった人。そばにいたいとどれだけ頑張っても、住む世界が違うんだと拒絶された。
悲しくて、つらくて、胸の奥が痛む。
じくじく、内側から少しづつ広がっていく痛みが蝕んでいく。住む世界が違くて、離れていくのなら。わたしがいなくなっても、そーちゃんは変わらないのかな。
あやかしが見えても、祓い人と関わっても、学校があって友達がいて楽しく過ごせていた。そーちゃんの隣にいたい。そーちゃんが隣にいてほしい。だからわたしはいくらでも頑張れたのに。
そーちゃんは、違ったんだね。
人して生まれたから、そーちゃんと出会えた。わたしはそれを悲しいこととも苦しいこととも思わないけど、離れていってしまうのは悲しくて苦しい。
「……なり損ないって、あやかしになり損ねたってことですか?」
「そうだよ。本来ならリッカも、ここにいる子供たちも皆あやかしとして生まれるはずだった」
「チャンスって、どういうことですか」
自分がなり損ないとか、本当はあやかしに生まれるはずだったとか、どうでもよかった。少し気になったから聞いてみただけだ。
宝石みたいな淚を一粒落して、あやかしは微笑む。
「あやかしに生まれ変わるんだよ。私は、子供たちを今度こそ幸せにしたいんだ」
生まれ変わる。
……あやかしに? 周りにいる人たちも目の前のあやかしも、皆笑ってる。幸せそうに。
生まれ変わることが正しいと信じて疑わない目をしている。
ここにいる人は、生まれ変わって幸せになったんだろう。
だから、あやかしになればわたしも幸せだと言うように見ている。
人に生まれたことが間違いで、あやかしになることが正しいなら。
わたしはどうなるんだろう。
視界の端で、わたしを連れてきたあやかしが不安そうな顔で見ている。
わからないけど、泣きそうになって唇をかむ。
「考えさせて、ください」
しぼり出した自分の声は予想以上に弱々しく頼りがない。息を吐きだして、目を瞑る。考えすぎて頭がくらくらする。
口元に笑みを浮べたまま、少しだけ眉を下げた"神様"は静かに頷いた。
すっかり日が落ちて、部屋の電気がつく。何回か点滅してようやくついた明かりだったけど、隅の方は薄暗く明るいというには心もとない。
明かりの届いていない部屋の隅に座って膝の間に顔を埋める。誰とも目を合わせたくない。生まれ変わることが幸せなことなら、わたしは今不孝なのか。わからなかった。
暗くて、頭を使って疲れていたこともあって、いつの間にか寝てしまっていた。
起きたら布団の上で、垂れかけたよだれを慌てて拭う。月明りが部屋に注がれ、空に浮ぶ太陽や月は現世と何ら変わりないのに、ここは幽世なのだ。
2日目の夜を迎えてしまった。声が聞こえて、布団から出る。寝ている間に顔にあととかついていないか手で触って確認する。多分大丈夫。
扉を開けようとノブに手をかけたところで、"神様"の言葉が耳に入ってきた。
「リッカは、ここにいてはいけない。帰さなくては」
「でも……! 神様」
「あの子は、人間でいることを選びたいんだ。無理強いはだめだよ。だから、早く現世に帰さないと」
「現世に、帰れるんですか!」
気が付いたら"神様"に縋っていた。
そうだ、わたしは……帰りたい。
幽世じゃなくて、現世で生きたいんだ。例えあやかしに生まれ変わったとして、幸せかどうかはわたしが決めることだから。人に生まれたからそーちゃんや皆と出会えた。今は、それでいい。
驚いた顔でわたしの顔を見てから、"神様"は頷く。
「いいかい、リッカは妖力が強く、あやかしに近い。幽世にいる時間が長くなれば勝手に体があやかしに変わってしまう。おいで、ここの扉を開けたら帰りたい場所だから」
案内されたのは、人ひとりがやっと通れるぐらいの小さな木枠の古びた1枚の扉。
軽く押しただけで壊れそうな感じだけど……それにしても、あれほど探し回っても見つからなかった扉が目の前にあるなんて。
感動のあまり涙が出そうになるけど、幽世にいるとあやかしに変わってしまうと聞いて出かけた涙が引っ込む。
きて2日目だけど、大丈夫かな……心配になってくる。
とにかく、一刻も早く現世に帰らないと! もし何か異常があったら雨城さんか、犬飼さんに頼ろう。知識はわたしよりずっと深い2人だ。
そういえば、犬飼さんのマンションに行くって返事したまま来てしまったから、紅葉君と木葉ちゃんが心配。
「ありがとうございます!」
「リッカ、覚えていて。リッカが生まれ変わりを望んだら、いつでも私のところへ呼ぶから。だから、安心して帰りなさい」
穏やかな声。
泣きたくなるぐらい優しい笑顔に視界が滲むけど、笑って扉を開けて、振り返って頭を下げる。
ありがとう”神様”。生まれ変わることを選んだ人たちが幸せになれることを願う。
一歩、扉の向こう側へと足を踏みだした。
「わっ!」
目の前に白いものが現れて、足を踏み出した勢いのままぶつかってしまう。
当たってヒリヒリする鼻を手でさすって見上げて、息が止まる。
そーちゃんだ。会いたいと願った人。
"神様"が言っていた、扉を開けたら帰りたい場所だと……事故に遭う前、転校したそーちゃんの姿を見つけた時と同じぐらい嬉しくなる。
会いたかった。
「六花……? 今、声がーーどこだ、六花! いるのか!」
あれほど会いたいと思っていたそーちゃんはぶつかったわたしに気付かず、宙を見ている。
忙しなく動く視線が向けられることはなくーーーー全身から血がなくなったみたいに、体が冷たくなる。
寒さに震えるように歯が小刻みに震えて音が鳴っていて、ショックとか恐怖とか、色んな感情が混ざってぐちゃぐちゃ。
視界が揺れて、足の力が抜けてその場に座り込む。叫びたいのに、出てくるのは息だけ。唾が上手く喉を通らなくて、吐き気が襲ってくる。
はっ、はっ、呼吸がどんどん荒くなり銀色の粒が目の前を舞う。頭が割れそう、痛い。
気付かない。見えない? わたしの姿は、見えていない。
幽世に長くいるとあやかしになってしまう、"神様"はそう言っていた。
そうだ、あやかしは人には見えない存在だから、そーちゃんには見えないんだ。
虫が這い上がってくるおぞましい感覚、息が吸えない、苦しいよ。助けて、そーちゃん……!
「そー……ちゃ、ん」
かろじて掠れた声が出た。
額に玉の汗を浮かべたそーちゃんの目が、わたしを見た。
「りっーー、六花!」
肩を強く掴まれて、薄れた視界がクリアになる。崩れこんだ大きな体に包まれて、服に染み込む温かいものに手を伸ばす。
今度こそ、伸ばした手がそーちゃんに届いた。
しわくちゃになるのも構わず握りしめて体温を感じると、血が体に流れている。見えているんだと安心して何度も名前を呼ぶ。何度も何度も、服を握りしめて体を押し付ける。
ここに存在していることを確かめるように。
「う、あ……ああ、ああ……!」
何年ぶりだろう、大声を上げて泣いたのは。
だけど、声には欠片も傲慢さは含まれていないし、友達かあるいは家族か。親愛の眼差しで手を差し出す姿に目が吸い寄せられる。
差し出された手を握ると、軽い力で引っ張られ自然と立ち上がる。そのまま賑やかな場所から離れていく。
手を引かれて進んでいくと、するするとあやかしの間を抜けて歩く。早くない歩調なのに、視界がどんどん開けていく。
路地裏に入り、物の隙間を通って、一枚の扉の前で止まった。
「神様」
声に反応したのか、音もなく静かに開いた。
かび臭い部屋の紐を引っ張ると、階段がおりてきた。黙ってここまできたあやがしが振り返って「足、大丈夫?」と聞いてきたので頷くと、上り始めたのでそれに続く。
屋根裏部屋みたいに小さなスペースに、人影がいくつか見える。
「神様、なり損ないの子、つれてきたよ」
「ありがとう。また一人、子供が増えたね」
窓から入った日の光で、白のような銀のような髪と黄金色の瞳が見えた。優しい目。穏やかで、温かい。陽だまりみたいな目をしたあやかしだ。
あやかしには性別はあまりないと思っていたけど、あまりにも綺麗だから、見入ってしまう。
人形みたいに白い肌はつるりとしていて、頬はほのかに色付いている。熟れたリンゴみたいに赤い唇は派手には見えず、相応しい色だと感じる。
ぼけっと見ていると、口端をゆるりと上げた。目じりを下げ、穏やかな目を細める。
「杠六花、君が生まれた人間の名前だ。私が誤ったばかりに、人間に生まれてしまった……本当に申し訳ないことをした。許してくれとは言わない、代わりに、チャンスを与えてくれないか?」
「何を、言っているのか……わかりません」
どうしてそんなに優しい顔で、苦しそうに懺悔のような言葉を出すんだろう。
名前を知っていることとか、浮かんだ疑問がシャボン玉のように静かに割れる。目の前にいる神様と呼ばれたあやかしが、悲しそうな苦しそうな声をすることが気にかかる。
何で、わたしのことで苦しむ必要がある? どうして、涙を流すの? あなたが何かしたわけじゃないのに。
声をかけようとして、言葉が出なくて詰まる。
まるで、人間に生まれてきたことが悲しくて苦しいことだと言うように泣く姿に、何も言えなくなる。俯いて、肩から落ちた髪の毛を指先に巻き付ける。
『六花』
怖い顔を緩めて、不器用に笑う顔。小さい頃は顔が怖くても笑うと可愛かったのに、大きくなったら笑っても顔が怖いといわれるらしい、大切な幼なじみ。
遠く離れてしまった人。そばにいたいとどれだけ頑張っても、住む世界が違うんだと拒絶された。
悲しくて、つらくて、胸の奥が痛む。
じくじく、内側から少しづつ広がっていく痛みが蝕んでいく。住む世界が違くて、離れていくのなら。わたしがいなくなっても、そーちゃんは変わらないのかな。
あやかしが見えても、祓い人と関わっても、学校があって友達がいて楽しく過ごせていた。そーちゃんの隣にいたい。そーちゃんが隣にいてほしい。だからわたしはいくらでも頑張れたのに。
そーちゃんは、違ったんだね。
人して生まれたから、そーちゃんと出会えた。わたしはそれを悲しいこととも苦しいこととも思わないけど、離れていってしまうのは悲しくて苦しい。
「……なり損ないって、あやかしになり損ねたってことですか?」
「そうだよ。本来ならリッカも、ここにいる子供たちも皆あやかしとして生まれるはずだった」
「チャンスって、どういうことですか」
自分がなり損ないとか、本当はあやかしに生まれるはずだったとか、どうでもよかった。少し気になったから聞いてみただけだ。
宝石みたいな淚を一粒落して、あやかしは微笑む。
「あやかしに生まれ変わるんだよ。私は、子供たちを今度こそ幸せにしたいんだ」
生まれ変わる。
……あやかしに? 周りにいる人たちも目の前のあやかしも、皆笑ってる。幸せそうに。
生まれ変わることが正しいと信じて疑わない目をしている。
ここにいる人は、生まれ変わって幸せになったんだろう。
だから、あやかしになればわたしも幸せだと言うように見ている。
人に生まれたことが間違いで、あやかしになることが正しいなら。
わたしはどうなるんだろう。
視界の端で、わたしを連れてきたあやかしが不安そうな顔で見ている。
わからないけど、泣きそうになって唇をかむ。
「考えさせて、ください」
しぼり出した自分の声は予想以上に弱々しく頼りがない。息を吐きだして、目を瞑る。考えすぎて頭がくらくらする。
口元に笑みを浮べたまま、少しだけ眉を下げた"神様"は静かに頷いた。
すっかり日が落ちて、部屋の電気がつく。何回か点滅してようやくついた明かりだったけど、隅の方は薄暗く明るいというには心もとない。
明かりの届いていない部屋の隅に座って膝の間に顔を埋める。誰とも目を合わせたくない。生まれ変わることが幸せなことなら、わたしは今不孝なのか。わからなかった。
暗くて、頭を使って疲れていたこともあって、いつの間にか寝てしまっていた。
起きたら布団の上で、垂れかけたよだれを慌てて拭う。月明りが部屋に注がれ、空に浮ぶ太陽や月は現世と何ら変わりないのに、ここは幽世なのだ。
2日目の夜を迎えてしまった。声が聞こえて、布団から出る。寝ている間に顔にあととかついていないか手で触って確認する。多分大丈夫。
扉を開けようとノブに手をかけたところで、"神様"の言葉が耳に入ってきた。
「リッカは、ここにいてはいけない。帰さなくては」
「でも……! 神様」
「あの子は、人間でいることを選びたいんだ。無理強いはだめだよ。だから、早く現世に帰さないと」
「現世に、帰れるんですか!」
気が付いたら"神様"に縋っていた。
そうだ、わたしは……帰りたい。
幽世じゃなくて、現世で生きたいんだ。例えあやかしに生まれ変わったとして、幸せかどうかはわたしが決めることだから。人に生まれたからそーちゃんや皆と出会えた。今は、それでいい。
驚いた顔でわたしの顔を見てから、"神様"は頷く。
「いいかい、リッカは妖力が強く、あやかしに近い。幽世にいる時間が長くなれば勝手に体があやかしに変わってしまう。おいで、ここの扉を開けたら帰りたい場所だから」
案内されたのは、人ひとりがやっと通れるぐらいの小さな木枠の古びた1枚の扉。
軽く押しただけで壊れそうな感じだけど……それにしても、あれほど探し回っても見つからなかった扉が目の前にあるなんて。
感動のあまり涙が出そうになるけど、幽世にいるとあやかしに変わってしまうと聞いて出かけた涙が引っ込む。
きて2日目だけど、大丈夫かな……心配になってくる。
とにかく、一刻も早く現世に帰らないと! もし何か異常があったら雨城さんか、犬飼さんに頼ろう。知識はわたしよりずっと深い2人だ。
そういえば、犬飼さんのマンションに行くって返事したまま来てしまったから、紅葉君と木葉ちゃんが心配。
「ありがとうございます!」
「リッカ、覚えていて。リッカが生まれ変わりを望んだら、いつでも私のところへ呼ぶから。だから、安心して帰りなさい」
穏やかな声。
泣きたくなるぐらい優しい笑顔に視界が滲むけど、笑って扉を開けて、振り返って頭を下げる。
ありがとう”神様”。生まれ変わることを選んだ人たちが幸せになれることを願う。
一歩、扉の向こう側へと足を踏みだした。
「わっ!」
目の前に白いものが現れて、足を踏み出した勢いのままぶつかってしまう。
当たってヒリヒリする鼻を手でさすって見上げて、息が止まる。
そーちゃんだ。会いたいと願った人。
"神様"が言っていた、扉を開けたら帰りたい場所だと……事故に遭う前、転校したそーちゃんの姿を見つけた時と同じぐらい嬉しくなる。
会いたかった。
「六花……? 今、声がーーどこだ、六花! いるのか!」
あれほど会いたいと思っていたそーちゃんはぶつかったわたしに気付かず、宙を見ている。
忙しなく動く視線が向けられることはなくーーーー全身から血がなくなったみたいに、体が冷たくなる。
寒さに震えるように歯が小刻みに震えて音が鳴っていて、ショックとか恐怖とか、色んな感情が混ざってぐちゃぐちゃ。
視界が揺れて、足の力が抜けてその場に座り込む。叫びたいのに、出てくるのは息だけ。唾が上手く喉を通らなくて、吐き気が襲ってくる。
はっ、はっ、呼吸がどんどん荒くなり銀色の粒が目の前を舞う。頭が割れそう、痛い。
気付かない。見えない? わたしの姿は、見えていない。
幽世に長くいるとあやかしになってしまう、"神様"はそう言っていた。
そうだ、あやかしは人には見えない存在だから、そーちゃんには見えないんだ。
虫が這い上がってくるおぞましい感覚、息が吸えない、苦しいよ。助けて、そーちゃん……!
「そー……ちゃ、ん」
かろじて掠れた声が出た。
額に玉の汗を浮かべたそーちゃんの目が、わたしを見た。
「りっーー、六花!」
肩を強く掴まれて、薄れた視界がクリアになる。崩れこんだ大きな体に包まれて、服に染み込む温かいものに手を伸ばす。
今度こそ、伸ばした手がそーちゃんに届いた。
しわくちゃになるのも構わず握りしめて体温を感じると、血が体に流れている。見えているんだと安心して何度も名前を呼ぶ。何度も何度も、服を握りしめて体を押し付ける。
ここに存在していることを確かめるように。
「う、あ……ああ、ああ……!」
何年ぶりだろう、大声を上げて泣いたのは。
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