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幽世 5-1
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雰囲気に似使わぬ涼やかな音と一緒に、ソレは姿を見せた。
鼻から上を黒い面で隠し、紺色の着物を羽織りのようにゆるく肩にかけている。チリチリと鈴の音がするのは、その手に持った携帯から。……携帯からである。
あやかしが携帯とか持つのか、とか携帯のライト使って辺りを照らしてるけど夜目効かないのかな、とか。
色々浮かんでくるけど、ソレは口元をまっすぐ引き締めたまま、怪我をしている鴉を抱き上げる。
口だけあやかしとわたしは、ソレの空気に圧されて固まったまま。鴉が小さく鳴いて、それを頷きながら聞いている。
自分の肩に鴉を乗せると、わたしのほうへ顔を向ける。お面で隠れているから、視線がどこを向いているのかわからない。
「鴉を助けてくれてありがとう。この子、おつかいに行ったきり戻ってこないから、様子を見に来たんだ」
「おつかい?」
「うん、おつかい」
普通に言葉が返ってきたので、やばいと口を閉じる。
この殺気立つ空気から突然平和な単語が飛び出たから、思わず聞き返してしまったけど、多分こういうのが良くないんだろうなって反省。
口だけあやかしは、よだれをたらしながら少しづつ後退していく。そして、静かに闇の中へと消えていった。
助かった……? いや、喰われるのが今か後かの違いなだけ!?
肩に乗った鴉の鳴き声にふんふん、と頷いてからソレがわたしのそばに来る。今すぐ喰らおうとする感じではないけど、大あやかしの気配に自然と体が冷たくなる。
大あやかしは、鬼や妖狐といった、有名どころなあやかしのことを指す。人から忘れられていくことで力を失っていったスイのように、人の意識はあやかしに影響することが多い。
姿かたちが曖昧なものは名前を持たず、はっきりと名前を持ったあやかしは、強さも比例してくるものだ。
このあやかしは、妖力の強さからして名前持ちだと思う。それも、有名なやつ。
「行こうか」
へ、間抜けな声が漏れて、次に突然の浮遊感にびっくりして思わずわたしを抱き上げたソレにしがみつく。
背中から黒い羽……鴉の羽を生やしたソレは、鴉天狗という大あやかしだった。触れた肌が意外と温かいことだけが伝わってきて、わたしは鴉天狗に抱き上げられたまま、闇の中へ。
眼下に眩しい光。
唸るような風の音に、自分がいるのは空の上だと理解する。落ちてる、すぐにその感覚が伝わってきて無意識に手を伸ばす。その手が握られることはなかったけど、羽を散らしながらさっきの鴉天狗がわたしの体を受け止める。
安堵しかけて、スピードがさっきより増していることに悲鳴をあげそうになる。
落ちないように必死にしがみついて、目を瞑る。触れた体温だけが、唯一心を落ち着かせるものだった。
ジェットコースターなど甘く感じるほどのスピードで地面に降り立った鴉天狗は、しがみついたままのわたしに「どうしたの?」と不思議そうな声で尋ねてくる。
答える余裕はない。心臓が暴れ、激しく脈打って体が揺れているように感じる。
いつの間にか息が浅くなっていたようで、落ち着くために深呼吸を繰り返す。首にまわした腕をゆっくりと解いて、目を開けると光が目に入ってくる。
「……眩しい」
「ここら辺は賑やかだよね。君の家はどこなの?」
「え……」
あれ、もしかしてわたし、あやかしに間違えられてる? ……なるほど、どうりで自然な流れで幽世に連れてこられたわけだ。鴉天狗はわたしをあやかしだと思って、住処に帰るつもりで連れてきたんだろう。
これはどうしたらいいのだろう。人間ですと素直に言う? そうしたら、喰われるかもしれない。いや、でも大あやかしなだけあって、理性的ではある。話もできるし。少なくとも口だけあやかしよりはいい。
「まぁいいや。怪我してるから、薬湯に入った方がいいよ」
いいのか。
くすりゆ。聞きなれない単語に、首を傾げる。体が震えてるのを感じたのか、わたしを下ろすことなく歩き出す。迷いのない足取りに少しだけ不安が湧いたけど、何となく大丈夫な気がする、という謎の勘に頼って大人しくする。
怪我をしている、と言われて自分の体を見ると、雨降りの後に転んだせいで泥がついて手足を擦りむいていることに今更気付く。
着いたのは、傾いた看板にデカデカと薬湯、と書かれた銭湯のような建物。くすんだ赤の屋根に、所々ヒビの入った壁。これ本当に大丈夫なのかなと思いながら暖簾をくぐって中に進むと、外観からは想像もつかないほど大きな広間。
「大きい」
「妖都で一番人気だからね」
初めて銭湯なるものに入ったけど、鴉天狗は慣れた様子でお金を入り口に腰掛けて煙管をふかしていたおばあさんに渡し、真っ直ぐ進んでいく。
一番人気と言う割には、人気がない。ゆっくり下ろされて、女湯、と書かれた暖簾の前に立つ。振り返ると男湯の暖簾をくぐっていったのが見えたので、わたしも暖簾をくぐる。
脱衣場にもあやかしは居らず、恐る恐る服を脱いで風呂場に入ったけど、誰もいない。中はすごく綺麗なのに。時間帯? とかの問題なのかもしれない。わたし的には、下手に他のあやかしと会うよりはいい。
体を洗って湯船に浸かると、柑橘類の爽やかな香りが漂ってくる。強ばっていた体の力が少しづつ抜けていく。
お風呂から出る頃には、擦りむいた所が綺麗に治っていた。これが薬湯の力なのか。さっぱりした上にもう一度泥まみれの制服を着る気になれず、和服とも洋服とも言い難い上着とズボンを着ることにした。
制服は畳んで、タオルに包んでおく。
「出たの? 怪我、治ったでしょ」
「あ、はい。お陰様で」
早く出ていたのか、鴉天狗はわたしの着ている服の色違いを着て、のんびりと椅子に腰掛けて瓶に入ったフルーツ牛乳を飲んでいた。
普通に返事したけど、置かれている状況考えたら呑気にお風呂入ってる場合じゃなかった。
「あれぇ? 鴉、あんた人間の子供連れてどうしたの」
声をかけ、寄ってきたあやかしは鼻が利くようで、わたしが人間だと匂いでわかったみたいだ。さらりと鴉天狗に人間であることがバレてしまい、天を仰ぐ。仰いだところで何か考えが浮かぶわけでもなく……。
反応がないことに、更にそのあやかしが突っ込んでくる。
「……まさか誘拐してきたのか?」
「いや、あの」
「君、人間だったの? 迷子のあやかしかと思ったよ」
誘拐というか近いんだけど違うというか。答えに詰まっていると、驚いた様子もなく鴉天狗がわたしを見る。
どうやらわたしのことをあやかしだと思った上に、現世に迷い込んで困っていると勘違いしたらしい。
親切で幽世に連れてきてくれたのか……その親切心はとてもありがたいけど、口だけあやかしがいなくなったあとに説明する時間が欲しかった。
2匹のあやかしは襲ってくる様子はなく、声をかけてきたあやかしはわたしを心配するように見てから鴉天狗を睨んでいるし、お面で表情がわからないけど鴉天狗の方もわたしを見ているように思える。
「えっと……」
とりあえず人間であることと、誘拐されたわけではないことも伝える。訝しげに聞いていたけど、鼻をひくつかせて「嘘じゃないね」と呟きを漏らす。匂いでわかるみたいだ。
鴉天狗の方は顎をさすりながら、考え込んでいるように見える。面で隠れているから、表情がわかりづらくてドキドキしてしまう。
視線を向けていいのか分からず、かといって露骨に逸らすのもなぁと思い、結果うろうろと頼りなくさ迷わせる。
妖都って、現世でいうところの東京みたいなものかな。外は明かりも沢山あって、賑やかだったし……でも妖都で一番人気のあるお風呂屋さんの割にお客さん少ないよね、ここ。お風呂から出て、初めて他のお客さん見たよ。
幽世って、明るいんだな。あやかしは暗いところや人気のないところによく出るから、てっきりそういうところが好きなのかと思ってたけど、都ともなると、違うみたい。
幽世に来てしまった現実から目を逸らすために色々と考えてみるけど、考えるほど幽世に来てしまったんだと深く実感したので逆効果だった。
どうしよう、現世に帰りたい。幽世で人間のわたしがいることは、どうぞ喰ってくださいと言っているようなもの。そばに大あやかしがいるから下級あやかしは寄ってこれないと思うけど、それも鴉天狗の気分次第。
あやかしの道に入ったことはあれど、流石に幽世に来たことはないから、当たり前だけど怖い。気分で生命がかかっているなんて、怖くて当然だ。
だけど、怖くて怯えているだけじゃ、何も変わらない。
息を吸って、震えそうになる体を叱咤して、鴉天狗の面の奥を見るようにまっすぐ言葉を放つ。
「あ、の。わたしを、現世に帰してください」
「そうしたいんだけど、扉がどこだったかなって」
へ、間抜けな声が出た。連れてこられたときと同じ声だった。
勇気を振り絞り、心臓が暴れ狂ってるのを必死で抑えながら発した思いを鴉天狗が当たり前のように受け入れたことに驚き、口が閉じない。多分、わたしは今すごく間抜けな顔を晒している。
扉、扉と言った。気がついたら空の上だったし、扉のようなものを通った記憶はない。けれど、連れてきた当の本人は首を傾げながらどこだったかな、と呟いている。扉を探せばいいのかな……? どんな扉なのかわからないけど。
なんとも言い難い空気が流れ、それまで黙って見ていたあやかしの声で霧散する。
「仕方ねぇ、オレが探すよ。鼻が利くからな。現世の匂いでわかる」
知り合いのやったことだしな、と付け足す。
鴉天狗も元は迷子(に見えた)を連れてきたわけだし、そこまで人間や力に執着しない性質なのかもしれない。
鼻から上を黒い面で隠し、紺色の着物を羽織りのようにゆるく肩にかけている。チリチリと鈴の音がするのは、その手に持った携帯から。……携帯からである。
あやかしが携帯とか持つのか、とか携帯のライト使って辺りを照らしてるけど夜目効かないのかな、とか。
色々浮かんでくるけど、ソレは口元をまっすぐ引き締めたまま、怪我をしている鴉を抱き上げる。
口だけあやかしとわたしは、ソレの空気に圧されて固まったまま。鴉が小さく鳴いて、それを頷きながら聞いている。
自分の肩に鴉を乗せると、わたしのほうへ顔を向ける。お面で隠れているから、視線がどこを向いているのかわからない。
「鴉を助けてくれてありがとう。この子、おつかいに行ったきり戻ってこないから、様子を見に来たんだ」
「おつかい?」
「うん、おつかい」
普通に言葉が返ってきたので、やばいと口を閉じる。
この殺気立つ空気から突然平和な単語が飛び出たから、思わず聞き返してしまったけど、多分こういうのが良くないんだろうなって反省。
口だけあやかしは、よだれをたらしながら少しづつ後退していく。そして、静かに闇の中へと消えていった。
助かった……? いや、喰われるのが今か後かの違いなだけ!?
肩に乗った鴉の鳴き声にふんふん、と頷いてからソレがわたしのそばに来る。今すぐ喰らおうとする感じではないけど、大あやかしの気配に自然と体が冷たくなる。
大あやかしは、鬼や妖狐といった、有名どころなあやかしのことを指す。人から忘れられていくことで力を失っていったスイのように、人の意識はあやかしに影響することが多い。
姿かたちが曖昧なものは名前を持たず、はっきりと名前を持ったあやかしは、強さも比例してくるものだ。
このあやかしは、妖力の強さからして名前持ちだと思う。それも、有名なやつ。
「行こうか」
へ、間抜けな声が漏れて、次に突然の浮遊感にびっくりして思わずわたしを抱き上げたソレにしがみつく。
背中から黒い羽……鴉の羽を生やしたソレは、鴉天狗という大あやかしだった。触れた肌が意外と温かいことだけが伝わってきて、わたしは鴉天狗に抱き上げられたまま、闇の中へ。
眼下に眩しい光。
唸るような風の音に、自分がいるのは空の上だと理解する。落ちてる、すぐにその感覚が伝わってきて無意識に手を伸ばす。その手が握られることはなかったけど、羽を散らしながらさっきの鴉天狗がわたしの体を受け止める。
安堵しかけて、スピードがさっきより増していることに悲鳴をあげそうになる。
落ちないように必死にしがみついて、目を瞑る。触れた体温だけが、唯一心を落ち着かせるものだった。
ジェットコースターなど甘く感じるほどのスピードで地面に降り立った鴉天狗は、しがみついたままのわたしに「どうしたの?」と不思議そうな声で尋ねてくる。
答える余裕はない。心臓が暴れ、激しく脈打って体が揺れているように感じる。
いつの間にか息が浅くなっていたようで、落ち着くために深呼吸を繰り返す。首にまわした腕をゆっくりと解いて、目を開けると光が目に入ってくる。
「……眩しい」
「ここら辺は賑やかだよね。君の家はどこなの?」
「え……」
あれ、もしかしてわたし、あやかしに間違えられてる? ……なるほど、どうりで自然な流れで幽世に連れてこられたわけだ。鴉天狗はわたしをあやかしだと思って、住処に帰るつもりで連れてきたんだろう。
これはどうしたらいいのだろう。人間ですと素直に言う? そうしたら、喰われるかもしれない。いや、でも大あやかしなだけあって、理性的ではある。話もできるし。少なくとも口だけあやかしよりはいい。
「まぁいいや。怪我してるから、薬湯に入った方がいいよ」
いいのか。
くすりゆ。聞きなれない単語に、首を傾げる。体が震えてるのを感じたのか、わたしを下ろすことなく歩き出す。迷いのない足取りに少しだけ不安が湧いたけど、何となく大丈夫な気がする、という謎の勘に頼って大人しくする。
怪我をしている、と言われて自分の体を見ると、雨降りの後に転んだせいで泥がついて手足を擦りむいていることに今更気付く。
着いたのは、傾いた看板にデカデカと薬湯、と書かれた銭湯のような建物。くすんだ赤の屋根に、所々ヒビの入った壁。これ本当に大丈夫なのかなと思いながら暖簾をくぐって中に進むと、外観からは想像もつかないほど大きな広間。
「大きい」
「妖都で一番人気だからね」
初めて銭湯なるものに入ったけど、鴉天狗は慣れた様子でお金を入り口に腰掛けて煙管をふかしていたおばあさんに渡し、真っ直ぐ進んでいく。
一番人気と言う割には、人気がない。ゆっくり下ろされて、女湯、と書かれた暖簾の前に立つ。振り返ると男湯の暖簾をくぐっていったのが見えたので、わたしも暖簾をくぐる。
脱衣場にもあやかしは居らず、恐る恐る服を脱いで風呂場に入ったけど、誰もいない。中はすごく綺麗なのに。時間帯? とかの問題なのかもしれない。わたし的には、下手に他のあやかしと会うよりはいい。
体を洗って湯船に浸かると、柑橘類の爽やかな香りが漂ってくる。強ばっていた体の力が少しづつ抜けていく。
お風呂から出る頃には、擦りむいた所が綺麗に治っていた。これが薬湯の力なのか。さっぱりした上にもう一度泥まみれの制服を着る気になれず、和服とも洋服とも言い難い上着とズボンを着ることにした。
制服は畳んで、タオルに包んでおく。
「出たの? 怪我、治ったでしょ」
「あ、はい。お陰様で」
早く出ていたのか、鴉天狗はわたしの着ている服の色違いを着て、のんびりと椅子に腰掛けて瓶に入ったフルーツ牛乳を飲んでいた。
普通に返事したけど、置かれている状況考えたら呑気にお風呂入ってる場合じゃなかった。
「あれぇ? 鴉、あんた人間の子供連れてどうしたの」
声をかけ、寄ってきたあやかしは鼻が利くようで、わたしが人間だと匂いでわかったみたいだ。さらりと鴉天狗に人間であることがバレてしまい、天を仰ぐ。仰いだところで何か考えが浮かぶわけでもなく……。
反応がないことに、更にそのあやかしが突っ込んでくる。
「……まさか誘拐してきたのか?」
「いや、あの」
「君、人間だったの? 迷子のあやかしかと思ったよ」
誘拐というか近いんだけど違うというか。答えに詰まっていると、驚いた様子もなく鴉天狗がわたしを見る。
どうやらわたしのことをあやかしだと思った上に、現世に迷い込んで困っていると勘違いしたらしい。
親切で幽世に連れてきてくれたのか……その親切心はとてもありがたいけど、口だけあやかしがいなくなったあとに説明する時間が欲しかった。
2匹のあやかしは襲ってくる様子はなく、声をかけてきたあやかしはわたしを心配するように見てから鴉天狗を睨んでいるし、お面で表情がわからないけど鴉天狗の方もわたしを見ているように思える。
「えっと……」
とりあえず人間であることと、誘拐されたわけではないことも伝える。訝しげに聞いていたけど、鼻をひくつかせて「嘘じゃないね」と呟きを漏らす。匂いでわかるみたいだ。
鴉天狗の方は顎をさすりながら、考え込んでいるように見える。面で隠れているから、表情がわかりづらくてドキドキしてしまう。
視線を向けていいのか分からず、かといって露骨に逸らすのもなぁと思い、結果うろうろと頼りなくさ迷わせる。
妖都って、現世でいうところの東京みたいなものかな。外は明かりも沢山あって、賑やかだったし……でも妖都で一番人気のあるお風呂屋さんの割にお客さん少ないよね、ここ。お風呂から出て、初めて他のお客さん見たよ。
幽世って、明るいんだな。あやかしは暗いところや人気のないところによく出るから、てっきりそういうところが好きなのかと思ってたけど、都ともなると、違うみたい。
幽世に来てしまった現実から目を逸らすために色々と考えてみるけど、考えるほど幽世に来てしまったんだと深く実感したので逆効果だった。
どうしよう、現世に帰りたい。幽世で人間のわたしがいることは、どうぞ喰ってくださいと言っているようなもの。そばに大あやかしがいるから下級あやかしは寄ってこれないと思うけど、それも鴉天狗の気分次第。
あやかしの道に入ったことはあれど、流石に幽世に来たことはないから、当たり前だけど怖い。気分で生命がかかっているなんて、怖くて当然だ。
だけど、怖くて怯えているだけじゃ、何も変わらない。
息を吸って、震えそうになる体を叱咤して、鴉天狗の面の奥を見るようにまっすぐ言葉を放つ。
「あ、の。わたしを、現世に帰してください」
「そうしたいんだけど、扉がどこだったかなって」
へ、間抜けな声が出た。連れてこられたときと同じ声だった。
勇気を振り絞り、心臓が暴れ狂ってるのを必死で抑えながら発した思いを鴉天狗が当たり前のように受け入れたことに驚き、口が閉じない。多分、わたしは今すごく間抜けな顔を晒している。
扉、扉と言った。気がついたら空の上だったし、扉のようなものを通った記憶はない。けれど、連れてきた当の本人は首を傾げながらどこだったかな、と呟いている。扉を探せばいいのかな……? どんな扉なのかわからないけど。
なんとも言い難い空気が流れ、それまで黙って見ていたあやかしの声で霧散する。
「仕方ねぇ、オレが探すよ。鼻が利くからな。現世の匂いでわかる」
知り合いのやったことだしな、と付け足す。
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