一般人になりたい成り行き聖女と一枚上手な腹黒王弟殿下の攻防につき

tanuTa

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1章

プロローグ

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 日曜日。小春は図書館に来ていた。

 相楽小春、20歳女子大学生。
 特出するような才能があるわけでも、人とは違う何かがあるわけでもない一般人。強いて言うなら、そこそこ頭は良い方なのでそれなりに良い大学に進学し、充実した大学生活を送っている。

 余談ではあるが、休日に一人で図書館に来ているのは、別に友達いない悲しい人間だからというわけではない。
 友人と呼べる関係性の人間はそこそこいる。ただ、インドア気質も相まって、プライベートで絡むことはほとんどないだけである。
 と、誰に言われるでもなく、名誉のために前置きしておく。
 
 普段であれば、特にバイトなどの予定がない日は、1人家でダラダラ過ごしているのだが、今回にかぎっては話が違った。
 近々学期末の試験があるのだ。
 一応、そういう理由でバイトを入れないようにしている手前、勉強しないわけにもいかない。ましてや単位を落とすのも忍びない。
 つまり、小春は勉強をしに図書館に来たわけだ。

 否、本来はそういう目的だった、だろうか。
 良くも悪くも小春は本を読むのが昔から好きだ。
 それは図書館というのが、小春にとっては魅惑の空間そのものであるという意味合いで。
 そんな小春が興味をそそる本がズラズラ並んでいる本棚を見たとすれば、勉強が片手間になるのは致し方ないと思うのだ。

 とまぁこんな長い前置きも、とどのつまり勉強をサボるための体の良い言い訳である。

 小春は一応小1時間ほどは勉強していた。
 しかし、集中力が切れてしまってからは、案の定席を離れ、好きな作家の作品や面白そうな本を発掘しようと本棚に張り付いている。
 めぼしい本は、大抵読み漁ってしまったが、毎月新作は何十冊も入荷される。同じ本も、初めて読んだときとは違う視点でみれば新しい面白さに出会える。

 本当は、この熱意を勉強に向けられれば苦労がないのだが。

 ふと視線を隣に向けると、目線の先に背の低い高齢の女性が高いところにある本に手を伸ばしているのが見えた。
 小春は、それを見るや否や、女性の目的であろう本に手を伸ばした。

「これですか?」
「え、ええ。ありがとう」

 手に取った本を差し出すと、女性は突然声を掛けられたことに戸惑いつつ、朗らかに微笑んだ。
 女性が会釈をしてその場を後にするのを、笑顔で見送ったあと、再び本棚に目を向けた。

(さてと、私も何か借りて帰るかな)

 と興味を引くタイトルに手を伸ばした、──瞬間。



「───召喚の義は成功した!!」



 静かだったはずの空間にはっきりとした声が響き渡った。

 小春は図書館という場にふさわしくないその声に眉をひそめると、視界には異様な光景が広がっていることに気づく。

 大理石の床、やけに広い部屋、装飾が施された大きい窓。目線を上げれば自分の身長の何倍もあるだろう天井。そしてそこに描かれている絵画とアンティーク調のシャンデリア、エトセトラ。

 明らかに図書館と呼べるような場所とは異なる空間。さらにそこにいるアニメや漫画でしかみたことのない衣装を纏う人々が異質さを際立たせる。

 なんだここは……

「なによここ!!意味わかんないんだけど!」

 自分の心の声と重なった若々しい声に目を向けると、この空間では初めて見慣れた格好の2人。1人はトレーナーと緩めのパンツというあきらか部屋着のような服を着ており、1人はなんとブレザーを着ている。つまりイマドキJKだ。

 今の状況を把握することも忘れ、その少女たちをジィと見つめた。
 それにしても最近のJKはなぜああもスカートの丈を短くするのか。しかもメイクまでバッチリ決めてらっしゃる。
 などと思いながら。 

 つい最近まで(とはいっても2年前)JKだった小春が言うのもおかしな話だが。

 なので、どちらかといえばもう1人、明らかに家にいたであろう部屋着の女の子のほうが、小春と同じ匂いがするからか、親しみを感じられる。  

 そんな2人に目を向けてみて、さきほどの声の主はJKだろうと判断する。部屋着の少女の方は、この状況に怯えて縮こまっているのだと、一目見て分かったからだ。

 それぞれ混乱している少女たちを見て、所謂自分より怖がる人がいると逆に怖くない的な現象で、小春は冷静に今どんな状況か考えられる。

(状況的に異世界転生……いや、この場合は異世界転移のほうか)

 なんてベタな。と小春は心の中で苦笑いをするのだった。

 
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