2 / 92
1章
プロローグ
しおりを挟む日曜日。小春は図書館に来ていた。
相楽小春、20歳女子大学生。
特出するような才能があるわけでも、人とは違う何かがあるわけでもない一般人。強いて言うなら、そこそこ頭は良い方なのでそれなりに良い大学に進学し、充実した大学生活を送っている。
余談ではあるが、休日に一人で図書館に来ているのは、別に友達いない悲しい人間だからというわけではない。
友人と呼べる関係性の人間はそこそこいる。ただ、インドア気質も相まって、プライベートで絡むことはほとんどないだけである。
と、誰に言われるでもなく、名誉のために前置きしておく。
普段であれば、特にバイトなどの予定がない日は、1人家でダラダラ過ごしているのだが、今回にかぎっては話が違った。
近々学期末の試験があるのだ。
一応、そういう理由でバイトを入れないようにしている手前、勉強しないわけにもいかない。ましてや単位を落とすのも忍びない。
つまり、小春は勉強をしに図書館に来たわけだ。
否、本来はそういう目的だった、だろうか。
良くも悪くも小春は本を読むのが昔から好きだ。
それは図書館というのが、小春にとっては魅惑の空間そのものであるという意味合いで。
そんな小春が興味をそそる本がズラズラ並んでいる本棚を見たとすれば、勉強が片手間になるのは致し方ないと思うのだ。
とまぁこんな長い前置きも、とどのつまり勉強をサボるための体の良い言い訳である。
小春は一応小1時間ほどは勉強していた。
しかし、集中力が切れてしまってからは、案の定席を離れ、好きな作家の作品や面白そうな本を発掘しようと本棚に張り付いている。
めぼしい本は、大抵読み漁ってしまったが、毎月新作は何十冊も入荷される。同じ本も、初めて読んだときとは違う視点でみれば新しい面白さに出会える。
本当は、この熱意を勉強に向けられれば苦労がないのだが。
ふと視線を隣に向けると、目線の先に背の低い高齢の女性が高いところにある本に手を伸ばしているのが見えた。
小春は、それを見るや否や、女性の目的であろう本に手を伸ばした。
「これですか?」
「え、ええ。ありがとう」
手に取った本を差し出すと、女性は突然声を掛けられたことに戸惑いつつ、朗らかに微笑んだ。
女性が会釈をしてその場を後にするのを、笑顔で見送ったあと、再び本棚に目を向けた。
(さてと、私も何か借りて帰るかな)
と興味を引くタイトルに手を伸ばした、──瞬間。
「───召喚の義は成功した!!」
静かだったはずの空間にはっきりとした声が響き渡った。
小春は図書館という場にふさわしくないその声に眉をひそめると、視界には異様な光景が広がっていることに気づく。
大理石の床、やけに広い部屋、装飾が施された大きい窓。目線を上げれば自分の身長の何倍もあるだろう天井。そしてそこに描かれている絵画とアンティーク調のシャンデリア、エトセトラ。
明らかに図書館と呼べるような場所とは異なる空間。さらにそこにいるアニメや漫画でしかみたことのない衣装を纏う人々が異質さを際立たせる。
なんだここは……
「なによここ!!意味わかんないんだけど!」
自分の心の声と重なった若々しい声に目を向けると、この空間では初めて見慣れた格好の2人。1人はトレーナーと緩めのパンツというあきらか部屋着のような服を着ており、1人はなんとブレザーを着ている。つまりイマドキJKだ。
今の状況を把握することも忘れ、その少女たちをジィと見つめた。
それにしても最近のJKはなぜああもスカートの丈を短くするのか。しかもメイクまでバッチリ決めてらっしゃる。
などと思いながら。
つい最近まで(とはいっても2年前)JKだった小春が言うのもおかしな話だが。
なので、どちらかといえばもう1人、明らかに家にいたであろう部屋着の女の子のほうが、小春と同じ匂いがするからか、親しみを感じられる。
そんな2人に目を向けてみて、さきほどの声の主はJKだろうと判断する。部屋着の少女の方は、この状況に怯えて縮こまっているのだと、一目見て分かったからだ。
それぞれ混乱している少女たちを見て、所謂自分より怖がる人がいると逆に怖くない的な現象で、小春は冷静に今どんな状況か考えられる。
(状況的に異世界転生……いや、この場合は異世界転移のほうか)
なんてベタな。と小春は心の中で苦笑いをするのだった。
15
お気に入りに追加
1,273
あなたにおすすめの小説

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる