兄貴、甘えすぎにご用心！

第2章 日常に潜む小さな違和感

01話「距離が縮まりすぎた瞬間」

　朝日がリビングに差し込む中、蒼はキッチンから漂う香りに目を覚ました。寝ぼけた頭を抱えながらリビングへ向かうと、エプロン姿の響が台所で料理をしている姿が目に入る。

「おはよ、兄貴！　ちょうどできたところだよ」

「……朝から元気だな」

　蒼は呆れたように言いながら、リビングのソファに腰を下ろした。
　いつの間にか、こうして響が朝食を作ることが当たり前になっている。

「今日は特別サービスね、兄貴の大好物のオムレツだよ！」

　響が自慢げに笑いながら、二人分のプレートをテーブルに並べた。蒼はフォークを手に取り、オムレツをひと口頬張る。

「……うん、悪くない」
「ふふん、頑張ったからね！」

　響は満足げに胸を張り、隣に座り込む。その無邪気な笑顔に、蒼は思わず視線を外した。


　朝食を終えた後、二人はしばらくソファでくつろいでいた。テレビをぼんやり見つめる蒼の隣で、響が突然蒼に体を預けてくる。

「兄貴さ、今日暇？」

　響が甘えた声で尋ねる。

「……まあ。特に予定はない」
「じゃあさ、どっか行こうよ！　ずっと家にいるのはつまんないし」

　蒼は軽くため息をついたが、響の期待に満ちた視線を前に断り切れなかった。

「……分かった。どこに行きたいんだ？」
「えーっと、兄貴が決めてよ！」

　響は楽しげに笑いながら、さらに蒼に寄りかかってくる。

「……お前、距離が近い」

　蒼は肩を押し返すように言ったが、響はまったく気にする様子もなく、笑顔を崩さない。

「いいじゃん、兄弟なんだしさ。それに……」

　響が少し真剣な顔を見せて言葉を続けた。

「こうしてると、兄貴と本当に家族になったんだなって思うんだ」

　その言葉に、蒼は胸の奥がチクリと痛む。響が言う家族という言葉が、どこか違和感があって、遠く感じられたからだ。


「……そんなこと、わざわざ確認することか？」
「ううん、でも兄貴の隣にいると、そう思えるんだ」

　響の無邪気な言葉に、蒼は返す言葉を見つけられなかった。

　自分の胸に芽生えた感情は、一体何か――それすらも理解できずに。


　響がリモコンを手に取り、テレビのチャンネルを変えながら軽くため息をつく。

「ま、今日は兄貴をいっぱい独り占めする日だから、どこに行っても楽しいよね！」

　そう言って響は再び蒼に体を預け、頭を肩に乗せる。
　蒼は軽く響をたしなめようとしたが、結局彼はそのまま受け入れてしまう。