兄貴、甘えすぎにご用心！

第1章 突然の義兄弟生活スタート

04話「微妙な変化と二人だけの休日」

　休日の朝、蒼はリビングで静かにコーヒーを飲んでいた。久々に一人でのんびりとした時間を過ごせると思っていた矢先、バタバタと足音が響き、響が寝起きのままの姿でリビングに現れるまでは。

「兄貴、おはよ！」

「……お前、もう少し静かに起きろ」

　蒼はため息をつきながらも、響のテンションに押される形でカップを置いた。

「ねえ、今日は何か予定ある？」

「別に、ないけど……」
「よし、じゃあ出かけよう！」

　響はニコニコと無邪気に笑いながら、蒼の腕を引っ張る。

「せっかくの休日だし、兄貴と出かけたいんだもん」
「休みなんだぞ。少しはゆっくりさせろ」

　蒼がそう言うと、響はわざと拗ねたように唇を尖らせた。

「えー、俺は兄貴と一緒にいる方がリラックスできるのに」

　その言葉に蒼は一瞬だけ固まったが、気づかれないように咳払いをしてごまかした。

　結局、蒼は響に押し切られる形で買い物に出かけることになった。街へ出た二人は、近くのカフェで一息つき、ショッピングモールを散策する。

「ねぇ、これとか兄貴に似合うんじゃない？」

　響は蒼に服を持たせ、あれこれと試着を促す。蒼は面倒そうな顔をしながらも、結局付き合わされる羽目になる。

「ほんと仲のいい兄弟だね」

　店員が微笑んでそう言った瞬間、蒼は何か胸の奥に引っかかるものを感じた。

　兄弟と言われることに、これまでは何の違和感もなかったはずなのに――。


　帰り道、響は満足そうに袋を手にして歩いていた。

「今日は楽しかったね！」

「……お前、どこにそんな体力があるんだ」

　蒼は呆れたように笑いながら、重い荷物を手に提げた。

「兄貴が一緒だと、一日中でも楽しいんだよ」

　響の無邪気な一言が、蒼の心にズキリと響く。

「……お前は、ほんとに単純だな」

　蒼はわざと素っ気なく答えたが、その胸のざわめきが消えることはなかった。


　家に戻り、二人はソファに腰を下ろしていた。買い物で疲れたはずなのに、響は楽しそうな顔をしている。

「こうして兄貴と一緒にいられるのが、一番楽しいんだよね」

　響がぽつりと漏らしたその言葉に、蒼は無意識に息を飲んだ。

「……お前、甘えすぎだ」
「だって兄貴と一緒だと楽しいからさ。えへへ、つい甘えたくなっちゃって」

　響は肩をすくめ、蒼に寄りかかるように身を預けた。

　蒼は彼をたしなめようとしたが、その声はどこか弱々しかった。今、自分の胸の中で何が起きているのか、完全には理解できなかったからだ。