兄貴、甘えすぎにご用心！

第1章 突然の義兄弟生活スタート

02話「二人きりの夕食、そして心の距離が縮まる」

　その日の夕方、蒼はリビングで一息ついていた。両親は急な仕事で帰りが遅くなると連絡が入り、二人だけの夕食が決まったことに。

「夕飯、どうするかな……」

　自分で作ろうかと思ったそのとき、キッチンから軽快な音と楽しげな声が聞こえる。蒼が不思議そうに覗くと、エプロンを身に着けた響が台所で忙しそうに料理をしていた。

「あ、兄貴の分もちゃんと作ってるから、安心してね！」

　振り向いた響が、にこりと笑う。
　その笑顔に蒼は一瞬目を奪われたが、すぐに眉をひそめた。

「え……お前が、料理？」
「そうだよ！　料理くらいできるもん！」

　響は自信たっぷりに言う。

「家族になったんだから、兄貴の面倒も見なきゃね」

　蒼はその無邪気な響きに思わず言葉を失ったが、強く突っかかることもできなかった。


　しばらくして、夕食の準備が整った。
　テーブルには蒼の好きな和風オムライスが並べられ、香ばしい匂いが食欲を刺激する。

「どうぞ、兄貴！」

　響が自慢げに差し出す。蒼は少し戸惑いながらもフォークを手に取り、一口頬張った。

「……へぇ、意外とやるんだな」

　思わず漏れたその言葉に、自分でも驚いた。味も見た目も予想以上に良い。

「ふふん、褒められた！」

　響は胸を張り、得意げな表情を浮かべる。

「兄貴のために頑張ったんだからさ」

　その無邪気な言葉が蒼の胸にじんわりと染み込んだ。

　夕食が進む中、二人は自然と会話を交わした。
　学校の出来事、最近の趣味、好きな音楽――響は話が好きらしく、話題が豊富で途切れることを知らない。

「でね、最近のクラスで――あ、兄貴は何か面白いことあった？」

　突然話題を振られ、蒼は軽く肩をすくめた。

「……特にないな」
「えー、そんなのつまんないじゃん。もっと自分のこと話してよ！」

「別に面白い話はない」
「えー！　いいからいいから、こうして会話できるのが楽しいんだからさ」

　響は満足げに笑い、蒼にぐいっと近づいてくる。その距離感に蒼は一瞬たじろぐが、不思議と嫌ではない。

「お前、よくそんなに話せるな……」
「まあね。兄貴のこと知れるの楽しいからさ！」

　蒼は苦笑しながらも、いつの間にか少しだけ笑っていた。