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01話「イタズラのはじまり」
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朝のオフィス。いつものように時間ぴったりに出社した真壁尚也は軽く周囲に会釈をしてタイムカードを押した。
几帳面で真面目な性格の彼には、一分たりとも遅れることは許されない。デスクへ向かおうとしたその時、後輩の市川悠太の声が後ろから飛んできた。
「おはようございます、真壁先生!」
「……先生じゃない。ただの真壁だ」
尚也は振り返りもしないで答えた。その態度をまるで気にする様子もなく、悠太は軽快な足取りで尚也の横に並ぶ。
「そんなにカリカリしないでくださいよ。朝から険しい顔してたら、仕事も捗りませんって」
「別に険しくなんかない」
「いやいや、眉間に皺、寄ってますよ。ほら、こうやって指でグッと押して……」
「やめろ。触るなッ」
悠太が尚也の額に手を伸ばしたところで、尚也は冷たい声で制止した。それでも悠太は悪びれた様子もなく、ニヤニヤと笑いながら自分のデスクへ向かっていく。
尚也が自分のデスクに座ると、そこに見慣れない封筒が置かれているのに気づいた。
封筒にはハートのシールが貼られ『秘密のファンより』と書かれている。
「……なんだ、これ」
開封すると、ラブレターのような内容が丁寧な字で綴られていた。
《真壁さん、いつも頑張ってる姿が素敵です。疲れているときは無理をしないでくださいね》
文面自体は真面目だが、どことなくからかわれているような雰囲気がある。尚也は一瞬で送り主が誰なのかを察した。同僚たちも興味津々で集まり始める。
「真壁さん、モテるんですねぇ」
「これは熱烈なファンじゃないですか?」
「ち、違う。ただの……これは多分――」
誰かの悪ふざけだと言いたかったが、同僚たちの冗談交じりの視線に阻まれ、言葉が詰まる。
顔を引きつらせながらデスクを見回し、例の人物を探した。悠太は少し離れた場所で、にやにやと笑いながらこちらを見ている。
「市川……お前だろ」
尚也は席を立ち、悠太に詰め寄った。すると、悠太は無邪気な笑みを浮かべたまま、軽く手を挙げた。
「いやいや、俺じゃないですよ。……まあ、ちょっとヒントを出しただけですけどね」
「お前……どういうつもりだ」
「え? 真壁さん、最近疲れてるみたいだから、元気づけようと思いまして」
「余計なお世話だ」
尚也は肩をすくめる悠太を睨みつけたが、その反応すら楽しむように悠太は肩を揺らして笑った。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。先輩って、もっと笑ったほうがいいですよ。こう、にっこりと」
「仕事中にふざけるな」
「真面目だなぁ、真壁さんは」
尚也はそれ以上言葉を返さず席に戻った。しかし、周囲の冷やかしや悠太の軽口が頭にこびりついて離れない。
昼休み、同僚たちの雑談が飛び交う中、尚也は静かに弁当を広げていた。そこへ悠太が軽やかにやってきて空いている椅子に腰を下ろす。
「真壁さん、本当に真面目だなぁ。そういうとこ、嫌いじゃないですけど」
「……だから、なんでお前がここに座る」
「いいじゃないですか。ちょっとくらい付き合ってくださいよ」
「……忙しい」
「今、昼休みですよ?」
悠太の笑顔に押される形で、尚也はため息をつきながら会話を終わらせた。だがその胸中には、小さな疑問が芽生え始めていた。
「……あいつ、どうしてこんなに俺に構うんだ」
几帳面で真面目な性格の彼には、一分たりとも遅れることは許されない。デスクへ向かおうとしたその時、後輩の市川悠太の声が後ろから飛んできた。
「おはようございます、真壁先生!」
「……先生じゃない。ただの真壁だ」
尚也は振り返りもしないで答えた。その態度をまるで気にする様子もなく、悠太は軽快な足取りで尚也の横に並ぶ。
「そんなにカリカリしないでくださいよ。朝から険しい顔してたら、仕事も捗りませんって」
「別に険しくなんかない」
「いやいや、眉間に皺、寄ってますよ。ほら、こうやって指でグッと押して……」
「やめろ。触るなッ」
悠太が尚也の額に手を伸ばしたところで、尚也は冷たい声で制止した。それでも悠太は悪びれた様子もなく、ニヤニヤと笑いながら自分のデスクへ向かっていく。
尚也が自分のデスクに座ると、そこに見慣れない封筒が置かれているのに気づいた。
封筒にはハートのシールが貼られ『秘密のファンより』と書かれている。
「……なんだ、これ」
開封すると、ラブレターのような内容が丁寧な字で綴られていた。
《真壁さん、いつも頑張ってる姿が素敵です。疲れているときは無理をしないでくださいね》
文面自体は真面目だが、どことなくからかわれているような雰囲気がある。尚也は一瞬で送り主が誰なのかを察した。同僚たちも興味津々で集まり始める。
「真壁さん、モテるんですねぇ」
「これは熱烈なファンじゃないですか?」
「ち、違う。ただの……これは多分――」
誰かの悪ふざけだと言いたかったが、同僚たちの冗談交じりの視線に阻まれ、言葉が詰まる。
顔を引きつらせながらデスクを見回し、例の人物を探した。悠太は少し離れた場所で、にやにやと笑いながらこちらを見ている。
「市川……お前だろ」
尚也は席を立ち、悠太に詰め寄った。すると、悠太は無邪気な笑みを浮かべたまま、軽く手を挙げた。
「いやいや、俺じゃないですよ。……まあ、ちょっとヒントを出しただけですけどね」
「お前……どういうつもりだ」
「え? 真壁さん、最近疲れてるみたいだから、元気づけようと思いまして」
「余計なお世話だ」
尚也は肩をすくめる悠太を睨みつけたが、その反応すら楽しむように悠太は肩を揺らして笑った。
「そんな怖い顔しないでくださいよ。先輩って、もっと笑ったほうがいいですよ。こう、にっこりと」
「仕事中にふざけるな」
「真面目だなぁ、真壁さんは」
尚也はそれ以上言葉を返さず席に戻った。しかし、周囲の冷やかしや悠太の軽口が頭にこびりついて離れない。
昼休み、同僚たちの雑談が飛び交う中、尚也は静かに弁当を広げていた。そこへ悠太が軽やかにやってきて空いている椅子に腰を下ろす。
「真壁さん、本当に真面目だなぁ。そういうとこ、嫌いじゃないですけど」
「……だから、なんでお前がここに座る」
「いいじゃないですか。ちょっとくらい付き合ってくださいよ」
「……忙しい」
「今、昼休みですよ?」
悠太の笑顔に押される形で、尚也はため息をつきながら会話を終わらせた。だがその胸中には、小さな疑問が芽生え始めていた。
「……あいつ、どうしてこんなに俺に構うんだ」
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