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04話「揺れる気持ちと信頼の絆」
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映画制作もいよいよ山場を迎え、クライマックスシーンの撮影が迫っていた。部室ではその準備としてリハーサルが行われている。
「はぁ……。このセリフ、どうしても硬くなっちゃうんだよな……」
翔は椅子に座ったまま、台本を手にぼやいた。何度も練習しているのに、どうしても台詞に感情が乗らない。
「だったら、先輩の言葉で言えばいいんですよ」
陽斗が翔の正面に座りながら軽い口調で言う。その目は真剣そのもので、翔をじっと見つめている。
「台本通りじゃなくてもいいってこと? そんなこと言っていいの?」
「いいんです。映画は生きてるんですから。台本なんて、ただの枠ですよ」
陽斗の言葉に、翔は半信半疑で頷いた。部室にいる他の部員たちは静かに見守っている。
そして撮影当日。重要なクライマックスシーンの撮影が始まる。しかし、翔はまたしても言葉を詰まらせ、表情も硬いままだった。
「カット!」
陽斗の声が響く。翔は肩を落としながらカメラの横に歩み寄る。
「やっぱり、俺には無理だよ……」
ぽつりと漏らしたその言葉に、周囲の空気が重くなる。
「先輩、それ、本気で言ってるんですか?」
陽斗が静かに、しかし確かな怒りを滲ませながら翔を見た。その瞳の強さに、翔は思わず目をそらす。
「だってさ、俺なんかよりもっと上手い人がやった方がいいんじゃないかって……」
「僕が選んだんです。先輩しかいないと思ったから。……けど、先輩がそれを信じられないなら、どうしようもないですね」
陽斗の言葉は冷たく突き放すようだったが、その声にはどこか寂しさも混じっていた。
「……ごめん」
翔は小さな声でそう呟くと、台本を握りしめた。
「もう一回、やってみる」
次のテイク。翔は陽斗のアドバイスを思い出し、自分の言葉で感情を込めて台詞を紡いだ。
「――本当は、ずっと怖かった。でも、今は違う。君がいるから、前を向ける」
カメラのレンズ越しに映る翔の姿は、確かに自然で、そこには彼自身の本心が垣間見えた。
「……よし、オッケーです!」
陽斗が満足げに声を上げると、周囲から拍手が湧き起こった。翔は緊張の糸が切れたように大きく息を吐き、カメラの方に歩いていく。
「いい演技でしたよ、先輩」
陽斗が小さな声でそう言うと、翔は肩をすくめて笑った。
「長谷川くんの言う『普通』ってやつ、ちょっとだけわかった気がするよ」
「そうですか。それなら僕の演出は成功ですね」
陽斗が少しだけ微笑む。その顔を見て翔は心の中で少し報われたな、と過った。
撮影後、翔と陽斗は帰り道を並んで歩く。撮影が無事終わった安心感からか、会話も少し穏やかだった。
「ねえ、長谷川くん。今日のシーン、俺……大丈夫だったかな」
「はい。大丈夫どころか、完璧でしたよ。僕が期待してた以上でした」
「そっか。ならいいんだけど……」
翔がホッとした表情を見せたその時、陽斗がふと立ち止まった。
「……でも。今の僕にとって、先輩は普通なんかじゃないんですよ」
突然の言葉に、翔は目を見開いた。
「……急に何言ってるの?」
翔が笑いながら聞き返すと、陽斗は少しだけ顔を赤くしてそっぽを向いた。
「別に。ただ、そう思っただけです。早く帰りましょう」
その不器用な態度に、翔は小さな笑みを浮かべながら歩き始めた。
陽斗の言葉が妙に胸に残る。
自分も彼に少しずつ引っ張られていることを、翔は初めて自覚し始めていた。
「はぁ……。このセリフ、どうしても硬くなっちゃうんだよな……」
翔は椅子に座ったまま、台本を手にぼやいた。何度も練習しているのに、どうしても台詞に感情が乗らない。
「だったら、先輩の言葉で言えばいいんですよ」
陽斗が翔の正面に座りながら軽い口調で言う。その目は真剣そのもので、翔をじっと見つめている。
「台本通りじゃなくてもいいってこと? そんなこと言っていいの?」
「いいんです。映画は生きてるんですから。台本なんて、ただの枠ですよ」
陽斗の言葉に、翔は半信半疑で頷いた。部室にいる他の部員たちは静かに見守っている。
そして撮影当日。重要なクライマックスシーンの撮影が始まる。しかし、翔はまたしても言葉を詰まらせ、表情も硬いままだった。
「カット!」
陽斗の声が響く。翔は肩を落としながらカメラの横に歩み寄る。
「やっぱり、俺には無理だよ……」
ぽつりと漏らしたその言葉に、周囲の空気が重くなる。
「先輩、それ、本気で言ってるんですか?」
陽斗が静かに、しかし確かな怒りを滲ませながら翔を見た。その瞳の強さに、翔は思わず目をそらす。
「だってさ、俺なんかよりもっと上手い人がやった方がいいんじゃないかって……」
「僕が選んだんです。先輩しかいないと思ったから。……けど、先輩がそれを信じられないなら、どうしようもないですね」
陽斗の言葉は冷たく突き放すようだったが、その声にはどこか寂しさも混じっていた。
「……ごめん」
翔は小さな声でそう呟くと、台本を握りしめた。
「もう一回、やってみる」
次のテイク。翔は陽斗のアドバイスを思い出し、自分の言葉で感情を込めて台詞を紡いだ。
「――本当は、ずっと怖かった。でも、今は違う。君がいるから、前を向ける」
カメラのレンズ越しに映る翔の姿は、確かに自然で、そこには彼自身の本心が垣間見えた。
「……よし、オッケーです!」
陽斗が満足げに声を上げると、周囲から拍手が湧き起こった。翔は緊張の糸が切れたように大きく息を吐き、カメラの方に歩いていく。
「いい演技でしたよ、先輩」
陽斗が小さな声でそう言うと、翔は肩をすくめて笑った。
「長谷川くんの言う『普通』ってやつ、ちょっとだけわかった気がするよ」
「そうですか。それなら僕の演出は成功ですね」
陽斗が少しだけ微笑む。その顔を見て翔は心の中で少し報われたな、と過った。
撮影後、翔と陽斗は帰り道を並んで歩く。撮影が無事終わった安心感からか、会話も少し穏やかだった。
「ねえ、長谷川くん。今日のシーン、俺……大丈夫だったかな」
「はい。大丈夫どころか、完璧でしたよ。僕が期待してた以上でした」
「そっか。ならいいんだけど……」
翔がホッとした表情を見せたその時、陽斗がふと立ち止まった。
「……でも。今の僕にとって、先輩は普通なんかじゃないんですよ」
突然の言葉に、翔は目を見開いた。
「……急に何言ってるの?」
翔が笑いながら聞き返すと、陽斗は少しだけ顔を赤くしてそっぽを向いた。
「別に。ただ、そう思っただけです。早く帰りましょう」
その不器用な態度に、翔は小さな笑みを浮かべながら歩き始めた。
陽斗の言葉が妙に胸に残る。
自分も彼に少しずつ引っ張られていることを、翔は初めて自覚し始めていた。
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