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02話「映画制作と信頼」
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映画研究会の部室では、次回作の映画企画が議論されていた。
ホワイトボードにはいくつかのアイデアが書き出されているが、どれもパッとしない。そんな中、陽斗が手を挙げて口を開いた。
「次の映画は、普通の大学生の日常をテーマにしたいと思います」
その一言に、部室はしんと静まり返った。
「普通の大学生の日常……?」
「そうです。特別じゃない人たちの中にある小さなドラマを描きたいんです。そう、たとえば――小鳥遊先輩みたいな人を主役にして」
「え、俺……?」
翔は驚きのあまり椅子を転がした。
「そうです。先輩みたいな普通の人が一番いい素材なんですよ。何も飾らなくていい。リアルな人間ドラマにぴったりです」
陽斗の言葉に、部室の空気が変わった。他の部員たちも興味を持ったようで小声で話し始める。
「確かに、普通の中にドラマがあるってわかる気がする」
「でも、小鳥遊先輩が主役って……一体どうなるんだろう?」
翔は焦りながらも、なんとか断ろうと陽斗に向き直る。
「いやいや、ちょっと待てよ。俺にはそんな大役無理だって。他にもっと適任が――」
「いませんよ。僕の映画には、先輩以外考えられませんから」
「考えられないって……何でそう言い切れるんだよ?」
陽斗は真剣な目で翔を見据えた。
「先輩の中にある無自覚な魅力が映画を支えるんです。自分では気づいてないんでしょうけど」
「無自覚な魅力……?」
翔はきょとんとしたまま呟いた。
「わからないですよね。だからこそ、僕がそれを引き出すんです。まあ、撮影しながら証明しますよ」
翔は困惑しつつも、周囲の視線に押されて結局主役を引き受ける羽目になった。
☆ ☆ ☆
数日後、撮影がスタートした。しかし、慣れない演技に翔は早速苦戦していた。
「カット!」
陽斗が声を上げ、監督として厳しい口調が翔に飛ばされる。
「先輩、今の動き、ぎこちなさ過ぎます。もっと自然にしてください」
「ええ……自然って、難しいんだよ!」
翔は思わず反論したが、陽斗は首を振るだけだった。
「じゃあ次のセリフ、もう一回やりましょう」
翔は深呼吸をしてセリフを口にした。しかし、またしても噛んでしまい周囲が笑いを堪え、陽斗が冷たい声で言った。
「……先輩、それはわざとですか? 普通にやればいいだけなのに」
「わざとじゃないけど……!」
翔は悔しそうに言い返したが、陽斗の真剣な目を前にそれ以上何も言えなくなった。
本日分の撮影が終わり、翔はカメラの横で項垂れていた。そんな彼に陽斗が近づいてきて、いつもの挑発的な態度を少し崩した。
「先輩、今日の最後のシーンに限っては悪くなかったです」
「……は? 悪くないって……それ、褒めてるの?」
「まぁ、あのくらいなら次はもっと良くなるかもって話です。肩の力を抜けば、先輩らしい演技ができるはずですから」
陽斗の不器用なフォローに、翔は少し拍子抜けしたように笑った。
「っ……長谷川くん、君ってやつは……! そういう言い方するなら最初から優しくしてくれよ」
「別に、僕は事実を言ってるだけですから」
陽斗はそう言ってそっぽを向く。
翔は後輩の背中を見ては小さく息をついた。
「本当に面倒くさいやつだな……でも、期待に応えたいと思ってしまうのが、不思議だ」
ホワイトボードにはいくつかのアイデアが書き出されているが、どれもパッとしない。そんな中、陽斗が手を挙げて口を開いた。
「次の映画は、普通の大学生の日常をテーマにしたいと思います」
その一言に、部室はしんと静まり返った。
「普通の大学生の日常……?」
「そうです。特別じゃない人たちの中にある小さなドラマを描きたいんです。そう、たとえば――小鳥遊先輩みたいな人を主役にして」
「え、俺……?」
翔は驚きのあまり椅子を転がした。
「そうです。先輩みたいな普通の人が一番いい素材なんですよ。何も飾らなくていい。リアルな人間ドラマにぴったりです」
陽斗の言葉に、部室の空気が変わった。他の部員たちも興味を持ったようで小声で話し始める。
「確かに、普通の中にドラマがあるってわかる気がする」
「でも、小鳥遊先輩が主役って……一体どうなるんだろう?」
翔は焦りながらも、なんとか断ろうと陽斗に向き直る。
「いやいや、ちょっと待てよ。俺にはそんな大役無理だって。他にもっと適任が――」
「いませんよ。僕の映画には、先輩以外考えられませんから」
「考えられないって……何でそう言い切れるんだよ?」
陽斗は真剣な目で翔を見据えた。
「先輩の中にある無自覚な魅力が映画を支えるんです。自分では気づいてないんでしょうけど」
「無自覚な魅力……?」
翔はきょとんとしたまま呟いた。
「わからないですよね。だからこそ、僕がそれを引き出すんです。まあ、撮影しながら証明しますよ」
翔は困惑しつつも、周囲の視線に押されて結局主役を引き受ける羽目になった。
☆ ☆ ☆
数日後、撮影がスタートした。しかし、慣れない演技に翔は早速苦戦していた。
「カット!」
陽斗が声を上げ、監督として厳しい口調が翔に飛ばされる。
「先輩、今の動き、ぎこちなさ過ぎます。もっと自然にしてください」
「ええ……自然って、難しいんだよ!」
翔は思わず反論したが、陽斗は首を振るだけだった。
「じゃあ次のセリフ、もう一回やりましょう」
翔は深呼吸をしてセリフを口にした。しかし、またしても噛んでしまい周囲が笑いを堪え、陽斗が冷たい声で言った。
「……先輩、それはわざとですか? 普通にやればいいだけなのに」
「わざとじゃないけど……!」
翔は悔しそうに言い返したが、陽斗の真剣な目を前にそれ以上何も言えなくなった。
本日分の撮影が終わり、翔はカメラの横で項垂れていた。そんな彼に陽斗が近づいてきて、いつもの挑発的な態度を少し崩した。
「先輩、今日の最後のシーンに限っては悪くなかったです」
「……は? 悪くないって……それ、褒めてるの?」
「まぁ、あのくらいなら次はもっと良くなるかもって話です。肩の力を抜けば、先輩らしい演技ができるはずですから」
陽斗の不器用なフォローに、翔は少し拍子抜けしたように笑った。
「っ……長谷川くん、君ってやつは……! そういう言い方するなら最初から優しくしてくれよ」
「別に、僕は事実を言ってるだけですから」
陽斗はそう言ってそっぽを向く。
翔は後輩の背中を見ては小さく息をついた。
「本当に面倒くさいやつだな……でも、期待に応えたいと思ってしまうのが、不思議だ」
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