4 / 21
第1章 相棒の始まり
04話「新たな衝突」
しおりを挟む
プロジェクトは佳境を迎え、クライアントからの追加要望が次々に入ってきた。
「この部分の色味をもう少し柔らかく……いや、全体的に明るい印象に……でも派手すぎないように」
曖昧な注文に、透也は慎重に修正を重ねていた。しかし、進捗が遅れることを懸念した天城は、その様子を見て軽く眉を寄せた。
「真柴くん、もう少しスピード重視で進めた方がいいと思うんだけど」
「……けど、このままだと完成度が下がります」
透也は画面を見つめたまま淡々と答えるが、その声には微かな苛立ちがにじんでいた。
天城は腕を組み、深呼吸するように息を吐く。
「今の段階なら、多少の修正はあとでもできる。先に全体を仕上げて提出しよう」
「それでは、結局手戻りが増えるだけです」
「……君は、どうしてそんなに慎重なんだ?」
天城が感情的に問いかけると、透也は冷静なまま答える。
「僕は質を重視しています。クオリティを守らない仕事は意味がありません」
「でも、僕たちはチームなんだ。時には割り切って進めることも必要だろう?」
その言葉に、透也は目を細めて天城を見た。
「それが営業の仕事ですか?」
天城はその一言に思わずムッとし、口元を引き締めた。
「営業だって必死なんだよ。真柴くんにはそれが分からないの?」
「……分かりませんね」
二人のやり取りを見かねた天城の同僚である竹内樹が、ため息をついて口を挟んだ。
「まあまあ、二人とも落ち着けよ。仕事なんだからさ」
天城は視線を逸らし、苛立ちを抑えるように肩をすくめた。透也もまた言葉を飲み込み、沈黙する。
樹と同様に隣で見ていた透也の同僚、遠山綾香が気まずそうに笑いながら、当たり障りのないように助言を放つ。
「ええっと、お互いの立場を理解するのも大事だよ思うよ?」
しかし、二人の間に漂う緊張感は簡単に拭えるものではなかった。
その日の午後、二人はそれぞれ黙ったまま自分の席に戻った。
透也は画面を見つめながら自分が頑なすぎたのだろうか、と悩み始める。
妥協することが悪いわけではないと頭では理解しているが、心がそれを拒んでいた。
§
翌朝、二人は気まずい雰囲気のまま再会した。
お互いに言葉を探しながら、ぎこちなく向き合う。
「昨日は……その、すみません。言い過ぎました」
透也が小さな声で謝ると、天城は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「いや、僕も悪かったよ。ごめんね」
短い謝罪と笑顔に、透也の胸の奥にわずかな温かさが広がった。それでも、まだ完全に分かり合えたわけではない。
二人の間に生まれた溝が、少しずつ埋まっていく感覚があった。
「この部分の色味をもう少し柔らかく……いや、全体的に明るい印象に……でも派手すぎないように」
曖昧な注文に、透也は慎重に修正を重ねていた。しかし、進捗が遅れることを懸念した天城は、その様子を見て軽く眉を寄せた。
「真柴くん、もう少しスピード重視で進めた方がいいと思うんだけど」
「……けど、このままだと完成度が下がります」
透也は画面を見つめたまま淡々と答えるが、その声には微かな苛立ちがにじんでいた。
天城は腕を組み、深呼吸するように息を吐く。
「今の段階なら、多少の修正はあとでもできる。先に全体を仕上げて提出しよう」
「それでは、結局手戻りが増えるだけです」
「……君は、どうしてそんなに慎重なんだ?」
天城が感情的に問いかけると、透也は冷静なまま答える。
「僕は質を重視しています。クオリティを守らない仕事は意味がありません」
「でも、僕たちはチームなんだ。時には割り切って進めることも必要だろう?」
その言葉に、透也は目を細めて天城を見た。
「それが営業の仕事ですか?」
天城はその一言に思わずムッとし、口元を引き締めた。
「営業だって必死なんだよ。真柴くんにはそれが分からないの?」
「……分かりませんね」
二人のやり取りを見かねた天城の同僚である竹内樹が、ため息をついて口を挟んだ。
「まあまあ、二人とも落ち着けよ。仕事なんだからさ」
天城は視線を逸らし、苛立ちを抑えるように肩をすくめた。透也もまた言葉を飲み込み、沈黙する。
樹と同様に隣で見ていた透也の同僚、遠山綾香が気まずそうに笑いながら、当たり障りのないように助言を放つ。
「ええっと、お互いの立場を理解するのも大事だよ思うよ?」
しかし、二人の間に漂う緊張感は簡単に拭えるものではなかった。
その日の午後、二人はそれぞれ黙ったまま自分の席に戻った。
透也は画面を見つめながら自分が頑なすぎたのだろうか、と悩み始める。
妥協することが悪いわけではないと頭では理解しているが、心がそれを拒んでいた。
§
翌朝、二人は気まずい雰囲気のまま再会した。
お互いに言葉を探しながら、ぎこちなく向き合う。
「昨日は……その、すみません。言い過ぎました」
透也が小さな声で謝ると、天城は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「いや、僕も悪かったよ。ごめんね」
短い謝罪と笑顔に、透也の胸の奥にわずかな温かさが広がった。それでも、まだ完全に分かり合えたわけではない。
二人の間に生まれた溝が、少しずつ埋まっていく感覚があった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末
すもも
BL
学校一のイケメン王子こと向坂秀星は俺のことが好きらしい。なんでそう思うかって、現在進行形で告白されているからだ。
「柿谷のこと好きだから、付き合ってほしいんだけど」
そうか、向坂は俺のことが好きなのか。
なら俺も、向坂のことを好きになってみたいと思った。
外面のいい腹黒?美形×無表情口下手平凡←誠実で一途な年下
罰ゲームの告白を本気にした受けと、自分の気持ちに素直になれない攻めとの長く不毛な恋のお話です。
ハッピーエンドで最終的には溺愛になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる