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第3章
05話「曖昧な手掛かり」
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カフェのドアベルが軽やかに鳴り響くと、夏目はジャケットを直しながら店内に足を踏み入れた。昼下がりの店内は落ち着いた空気に包まれ、常連らしき客がぽつぽつと席についている。
オーナーがカウンターの向こうから顔を上げ、夏目を見て微笑む。
「いらっしゃいませ、夏目さん」
夏目は軽く頭を下げ、カウンターの端に腰を下ろした。
「お忙しい時間帯にすみません。……少し、優希くんについてお話を伺いたくて」
オーナーは眉を寄せたものの、すぐに頷き、コーヒーを用意しながら答えた。
「ええ、もちろんです。あの子、突然連絡が途絶えて……心配してるんです」
夏目はメモ帳を開き、オーナーに問いかけた。
「ここ数日で彼は、何か変わった様子はありませんでしたか?」
オーナーは一瞬考え込んでから、首を振った。
「いいえ、特に変わったことはなかったんです。真面目な子で、バイトにもいつも通り来てましたし……」
そう言いながらも、オーナーの表情にふと曇りが見えた。
「……でも、一つだけ気になることがあるんです」
夏目はペンを持つ手を止め、目を細めた。
「気になること?」
「はい。先日、優希くんに誰かが会いに来たみたいで……。背の高い、落ち着いた感じの男性でした」
その言葉に、夏目の耳がピクリと反応する。
「その人のことを、もう少し詳しく教えていただけますか?」
オーナーは思い出すように眉をひそめ、続けた。
「特に怪しい様子はなかったんですけど……そうだ、優希くんがその人の名前を呼んでた気がします。ええっと『五十嵐……』とか、そんな名前だったような」
その瞬間、夏目の心に鋭い電流が走った。
「……五十嵐、ですか?」
オーナーは少し戸惑いながらも頷いた。
「ええ、確かそんな名前だったと思います。関係があるかはわかりませんが……」
夏目はペンを置き、じっくりと考え込んだ。
カフェのオーナーの何気ない一言が、優希の行方を追う上で重要な鍵になる可能性があった。
「その男性、何か印象に残る特徴はありましたか?」
「そう、ですね……。落ち着いてて、優しい感じの人でしたよ。でも、優希くんは何となく緊張しているように見えました」
夏目の胸に、徐々に疑念が湧き上がる。
「そうですか。有力な情報、感謝致します。……優希くんのことは、必ず見つけ出します」
オーナーは不安そうに笑いながら、夏目を見送った。
カフェを出た夏目は、冷たい風に襟を立てながら歩き出した。優希の失踪には、五十嵐という人物が深く関わっているかもしれない――その情報が確信に変化するまで、そう時間は掛からない。
「……無事でいてくれ、優希くん」
そう呟き、夏目は零の足取りを追うための次の行動に移ろうとしていた。
オーナーがカウンターの向こうから顔を上げ、夏目を見て微笑む。
「いらっしゃいませ、夏目さん」
夏目は軽く頭を下げ、カウンターの端に腰を下ろした。
「お忙しい時間帯にすみません。……少し、優希くんについてお話を伺いたくて」
オーナーは眉を寄せたものの、すぐに頷き、コーヒーを用意しながら答えた。
「ええ、もちろんです。あの子、突然連絡が途絶えて……心配してるんです」
夏目はメモ帳を開き、オーナーに問いかけた。
「ここ数日で彼は、何か変わった様子はありませんでしたか?」
オーナーは一瞬考え込んでから、首を振った。
「いいえ、特に変わったことはなかったんです。真面目な子で、バイトにもいつも通り来てましたし……」
そう言いながらも、オーナーの表情にふと曇りが見えた。
「……でも、一つだけ気になることがあるんです」
夏目はペンを持つ手を止め、目を細めた。
「気になること?」
「はい。先日、優希くんに誰かが会いに来たみたいで……。背の高い、落ち着いた感じの男性でした」
その言葉に、夏目の耳がピクリと反応する。
「その人のことを、もう少し詳しく教えていただけますか?」
オーナーは思い出すように眉をひそめ、続けた。
「特に怪しい様子はなかったんですけど……そうだ、優希くんがその人の名前を呼んでた気がします。ええっと『五十嵐……』とか、そんな名前だったような」
その瞬間、夏目の心に鋭い電流が走った。
「……五十嵐、ですか?」
オーナーは少し戸惑いながらも頷いた。
「ええ、確かそんな名前だったと思います。関係があるかはわかりませんが……」
夏目はペンを置き、じっくりと考え込んだ。
カフェのオーナーの何気ない一言が、優希の行方を追う上で重要な鍵になる可能性があった。
「その男性、何か印象に残る特徴はありましたか?」
「そう、ですね……。落ち着いてて、優しい感じの人でしたよ。でも、優希くんは何となく緊張しているように見えました」
夏目の胸に、徐々に疑念が湧き上がる。
「そうですか。有力な情報、感謝致します。……優希くんのことは、必ず見つけ出します」
オーナーは不安そうに笑いながら、夏目を見送った。
カフェを出た夏目は、冷たい風に襟を立てながら歩き出した。優希の失踪には、五十嵐という人物が深く関わっているかもしれない――その情報が確信に変化するまで、そう時間は掛からない。
「……無事でいてくれ、優希くん」
そう呟き、夏目は零の足取りを追うための次の行動に移ろうとしていた。
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