渇望の檻

凪玖海くみ

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第3章

01話「捜索の始まり」

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 秋の冷たい風が街を吹き抜け、住宅街の静寂が重くのしかかる。

 夏目匠は、優希の実家を訪れていた。インターホンを押すと、すぐに優希の母親が慌ただしい様子で出迎える。

「探偵さん、来てくださってありがとうございます……!」

 母親の顔には、明らかな不安が浮かんでいる。夏目は玄関で靴を脱ぎ、リビングに通されると、彼女がすぐに口を開いた。

「昨日の朝、優希はいつも通りバイトに行ったんです。でも、それ以来、帰ってこなくて……」

 母親はその瞬間、声を詰まらせたが、気を取り直すように深呼吸した。

「警察には連絡しました。でも、『自分の意思で出かけた可能性がある』って言われて、動いてもらえなくて……」

 夏目は静かに頷き、母親の話に耳を傾けた。

「優希は真面目で遅くなっても、ちゃんと帰ってくる子なんです……。いつもは必ず何かしら連絡をくれていました。それなのに、今回はそれがなくて……」

 母親の声には、不安と焦燥感がにじんでいる。彼女の目には何かが起こったという確信が宿っていた。

「警察だけでは心配で……どうしても早く見つけたくて、探偵さんにお願いしました」

 夏目は母親の話をメモに取りながら、少し考え込んだ。

「最後に優希くんと連絡を取ったのはいつですか?」

「昨日の朝です……カフェのバイトに行くって。それから何も……」
「アルバイト先には確認されましたか?」

「ええ……無事に出勤して、仕事もちゃんと終えたそうです。でも、その後の足取りが分からないって……」

 夏目は頷きながら、頭の中で状況を整理する。優希が普段は家族を心配させない性格で、必ず帰宅する子だったという点が引っかかる。彼の失踪には、ただの家出ではない何かが隠されているように思えた。


「……分かりました。アルバイト先や彼の知人から話を聞いてみます」

 夏目はそう言って立ち上がり、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。どうか、優希を……」

 母親の声には涙がにじんでいた。


 家を出た夏目は、冷たい風にジャケットの襟を立てながら歩き出した。

 頭の中で、優希との最後の会話が蘇る――カフェでの彼の不自然な態度、そしてその後のわずかな変化。

「はぁ……俺があの時にもう少し踏み入っていれば、違ったのかもしれない」

 その後悔が、彼の胸を締めつける。

 夏目は手帳を開き、バイト先のカフェの情報を確認する。優希の足取りを追う最初の場所――そこに、何か答えがあるはずだ。

「まずはバイト先のカフェ、だな」

 足早に駅へ向かいながら、夏目は冷静に状況を分析する。優希が姿を消した理由が、単なる偶然や衝動的な家出ではない――その確信が、彼を急がせた。
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