渇望の檻

第1章

05話「希望の光と揺れる心」

　朝の静寂を破るように、扉の鍵が回る音が響いた。優希は目を覚まし、瞬時に気を引き締める。食事の時間――そのはずだった。

　しかし、開かれた扉の先に見えたのは、新しい二重の鍵。それを見た瞬間、優希の胸に焦燥が走った。

　――扉が……もしかして監視が厳しくなって……る？

　零は淡々とした表情で食事のトレーを持ち、部屋の中に入ってきた。優希は無言で彼を見つめ、冷えた空気の中でその気配を感じ取った。


「っ、五十嵐先輩。こんなことを続けても、何も変わりませんよ」

　優希は冷たく言い放ったが、零は微動だにしない。まるで、その言葉を聞いていないかのようだった。

「変わらなくていい。お前がここにいれば、それでいい」

　その言葉の中には、彼の強い執着が込められていた。それは優希を安心させるための言葉ではなく、自分のための『縛り』のように感じられた。


　零が去った後、優希はすぐに冷静さを取り戻し、脱出の計画を再び立て直した。

　次のチャンスがいつ訪れるかは分からない。だが、それを逃さず掴むしかない――そう強く心に決めた。

　部屋を見渡し、何か脱出の糸口を探し始める。
　机の引き出しを開け、壁を叩き、少しでも隙間を見つけようとする。しばらくして、部屋の隅にある換気口に目を留めた。

　優希は慎重に換気口のカバーを外そうと試みた。古いビスで固定されていたが、何とか緩ませることができそうと思考を施す。

　手先の感覚が冷たくなっていくのを無視して、作業を続けた。しかし、換気口の内部はあまりに狭く、体が通ることはできない。

「……やっぱり、無理か」

　落胆が胸に広がる。それでも、どこかに希望を見出さなければ、ここから抜け出せないことも分かっていた。

　ふと、ポケットに手を入れると、指先がペンダントに触れた。それは高校時代に零との時間を象徴するものだった。優希にとって、わずかながらも温かい記憶。

　――あの頃の五十嵐先輩なら、こんなことはしなかったのに。

　優希はペンダントを握りしめ、しばらく目を閉じる。

　彼が知っている零は、もっと穏やかで優しい人だった。今の零はその面影を残しながらも、どこか壊れてしまっているように見える。

「……どうして、変わってしまったんだろう」

　呟きながら、優希の心にわずかな同情が芽生える。だが、それを振り払うように頭を振り、再び脱出への決意を固めた。

「次にこの扉が開いたとき……絶対に逃げ出す」

　優希は心の中でそう誓い、扉が開く瞬間を逃さないために計画を練り始めた。

　今度こそ――この場所から自由になるために。