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05話「告白」
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朝の職場。夏井光一は、デスクに向かいながら気が散るのを感じていた。湊がどこか落ち着かない様子で、ちらちらとこちらを見ている。
気になりつつも放置していたが、昼休みになると湊が近づいてきた。
「夏井さん、少しよろしいですか?」
「はい?」
「……今夜、お時間をいただけませんか? お話ししたいことがあります」
「今夜? まあ別に構わないですが……仕事の話でしょうか?」
「はい、仕事の話も含めて」
湊の真剣な顔に、光一は首を傾げながらも了承した。
その日の定時後、湊に連れられて向かったのは前回とは別の落ち着いた雰囲気のレストランだった。テーブルに着くと、湊が静かに話し始めた。
「……最近、何か変だと思われていませんか?」
「最近っていうか、今日の瀬尾が全然落ち着いてないなっていうのは感じたな」
面白半分で返した光一だったが、湊の真剣な表情に口をつぐんだ。
「……すみません。どうしても、伝えたいことがあったんです」
食事を進めながら、湊がぽつりぽつりと話を始めた。
「僕が今ここにいるのは、夏井さんのおかげです」
「ああ、それは前にも聞いたな。バイト時代の話だろ?」
「そうです。でも、それだけではありません」
湊が視線を落とし、言葉を選ぶように一瞬黙る。
「夏井さん、僕は――あなたが好きです。昔から、ずっと」
その一言に、光一は息を呑んだ。
「……お前、何を言ってるんだ?」
「正直な気持ちです。憧れだけじゃない。仕事の先輩としてだけでもない……別の、そういう意味で好きなんです」
湊の言葉は揺るぎないものだった。だが、それが光一を戸惑わせた。
「……俺を、そういう意味で見てたということか?」
「はい。隠そうとしても隠せませんでした。僕にとって、夏井さんは特別な存在なんです」
真剣な湊の目を見て、光一は何も言えない。
自分を慕ってくれる後輩として湊を見ていた時間が長すぎて、どう返せばいいのかわからなかった。
「……すまない、俺には今すぐ答えは出せない」
「わかっています。でも、答えを急ぎません。ただ、この気持ちを伝えたかったんです」
湊は穏やかに微笑んで、グラスを手に取った。その表情に、光一はさらに胸が締め付けられるようだった。
食事を終え、店を出た後も光一の頭は混乱していた。湊はいつもどおり、仕事の話をしながら送ってくれたが、光一の心には彼の言葉が何度もよみがえっていた。
『――あなたが好きです』
自宅への帰り道、光一はため息をつきながら頭を掻いた。
「瀬尾の気持ちは恐らく、本気だ。……だからこそ、俺はどう向き合えばいいんだ……?」
湊の想いを知り、光一の心は大きく揺れ動いていた。
気になりつつも放置していたが、昼休みになると湊が近づいてきた。
「夏井さん、少しよろしいですか?」
「はい?」
「……今夜、お時間をいただけませんか? お話ししたいことがあります」
「今夜? まあ別に構わないですが……仕事の話でしょうか?」
「はい、仕事の話も含めて」
湊の真剣な顔に、光一は首を傾げながらも了承した。
その日の定時後、湊に連れられて向かったのは前回とは別の落ち着いた雰囲気のレストランだった。テーブルに着くと、湊が静かに話し始めた。
「……最近、何か変だと思われていませんか?」
「最近っていうか、今日の瀬尾が全然落ち着いてないなっていうのは感じたな」
面白半分で返した光一だったが、湊の真剣な表情に口をつぐんだ。
「……すみません。どうしても、伝えたいことがあったんです」
食事を進めながら、湊がぽつりぽつりと話を始めた。
「僕が今ここにいるのは、夏井さんのおかげです」
「ああ、それは前にも聞いたな。バイト時代の話だろ?」
「そうです。でも、それだけではありません」
湊が視線を落とし、言葉を選ぶように一瞬黙る。
「夏井さん、僕は――あなたが好きです。昔から、ずっと」
その一言に、光一は息を呑んだ。
「……お前、何を言ってるんだ?」
「正直な気持ちです。憧れだけじゃない。仕事の先輩としてだけでもない……別の、そういう意味で好きなんです」
湊の言葉は揺るぎないものだった。だが、それが光一を戸惑わせた。
「……俺を、そういう意味で見てたということか?」
「はい。隠そうとしても隠せませんでした。僕にとって、夏井さんは特別な存在なんです」
真剣な湊の目を見て、光一は何も言えない。
自分を慕ってくれる後輩として湊を見ていた時間が長すぎて、どう返せばいいのかわからなかった。
「……すまない、俺には今すぐ答えは出せない」
「わかっています。でも、答えを急ぎません。ただ、この気持ちを伝えたかったんです」
湊は穏やかに微笑んで、グラスを手に取った。その表情に、光一はさらに胸が締め付けられるようだった。
食事を終え、店を出た後も光一の頭は混乱していた。湊はいつもどおり、仕事の話をしながら送ってくれたが、光一の心には彼の言葉が何度もよみがえっていた。
『――あなたが好きです』
自宅への帰り道、光一はため息をつきながら頭を掻いた。
「瀬尾の気持ちは恐らく、本気だ。……だからこそ、俺はどう向き合えばいいんだ……?」
湊の想いを知り、光一の心は大きく揺れ動いていた。
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