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04話「距離が縮まり始める二人」
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休日の昼下がり、英士はいつものように『ねこふく』の扉を開けた。
「こんにちは。はは、今日もたくさん遊ぼうな」
店内に入ると、黒猫のクロが足元に駆け寄り、さっそくスリスリと甘えてきた。
「クロ、今日も元気そうだね」
英士がしゃがみ込み、クロの頭を撫でているとカウンターの奥から廉の低い声が聞こえた。
「あんた、本当に猫たちに好かれるな」
「いやいや、店主さんの猫たちを奪うつもりなんてないですよ」
「……全部持って行きそうな勢いだな」
廉がぽつりと呟くように言い、微かに笑ったように見えた。英士はその一瞬の表情に驚きつつもなぜか嬉しくなる。
キャットタワーの隅では三毛猫のミケが、じっとこちらを見つめている。
「今日こそ膝に乗ってくれるかな?」
冗談交じりに声をかけると、ミケは慎重に歩み寄り、ついに英士の膝の上に座った。
「えっ、ミケが膝に乗るなんて……これ、レアだよね?」
「……本当に懐かれるのが上手いな」
その言葉に、英士は得意げな笑みを浮かべた。
ミケを膝に乗せたまま、英士はふと廉に話しかけた。
「店主さんも猫ともっと遊べばいいのに」
廉はクロの毛並みを整えながら、無表情で答えた。
「俺が遊ぶ必要はない。こいつらは勝手に楽しんでるからな」
「あー……あと、お節介かもしれませんが、接客態度は改めた方がいいかと」
廉が少し考えるように視線を落とし、静かに呟いた。
「俺は人間より猫がいい」
「えー……そんなこと言わないでくださいよ」
英士が冗談めかして言うと、廉がほんの少し驚いたように英士を見た。その表情が新鮮で、英士は思わずこう付け加えた。
「猫好きに悪い人はいないって言うじゃないですか。だから店主さんもきっと……」
廉は何も言わず、ただ目を細めてクロの頭を撫で続けた。
店内が静かになり、猫たちがそれぞれくつろぎ始めた頃、英士は何気なく廉に尋ねた。
「店主さんにとって、猫以外で大切なものって何ですか?」
「ない」
「……そっか」
その言葉に、英士は少し寂しそうな表情を浮かべる。廉はその反応に気づいたようだったが、特に何も言い足さないまま作業に戻った。
☆ ☆ ☆
店を出て帰り道を歩きながら、英士は彼の冷たい言葉が頭から離れなかった。
「やっぱり、俺なんてただの客でしかないのかな……」
廉の時折見せる優しさと、淡々とした態度。そのギャップに混乱しながらも、英士は自分の気持ちに少しずつ気づき始める。
――もし、迷惑に思っていたら……。
心が揺らぐ。
猫は好きだが、店主がいい顔をしないのであれば店から暫く離れるべきでは、と思考を宿して。
「こんにちは。はは、今日もたくさん遊ぼうな」
店内に入ると、黒猫のクロが足元に駆け寄り、さっそくスリスリと甘えてきた。
「クロ、今日も元気そうだね」
英士がしゃがみ込み、クロの頭を撫でているとカウンターの奥から廉の低い声が聞こえた。
「あんた、本当に猫たちに好かれるな」
「いやいや、店主さんの猫たちを奪うつもりなんてないですよ」
「……全部持って行きそうな勢いだな」
廉がぽつりと呟くように言い、微かに笑ったように見えた。英士はその一瞬の表情に驚きつつもなぜか嬉しくなる。
キャットタワーの隅では三毛猫のミケが、じっとこちらを見つめている。
「今日こそ膝に乗ってくれるかな?」
冗談交じりに声をかけると、ミケは慎重に歩み寄り、ついに英士の膝の上に座った。
「えっ、ミケが膝に乗るなんて……これ、レアだよね?」
「……本当に懐かれるのが上手いな」
その言葉に、英士は得意げな笑みを浮かべた。
ミケを膝に乗せたまま、英士はふと廉に話しかけた。
「店主さんも猫ともっと遊べばいいのに」
廉はクロの毛並みを整えながら、無表情で答えた。
「俺が遊ぶ必要はない。こいつらは勝手に楽しんでるからな」
「あー……あと、お節介かもしれませんが、接客態度は改めた方がいいかと」
廉が少し考えるように視線を落とし、静かに呟いた。
「俺は人間より猫がいい」
「えー……そんなこと言わないでくださいよ」
英士が冗談めかして言うと、廉がほんの少し驚いたように英士を見た。その表情が新鮮で、英士は思わずこう付け加えた。
「猫好きに悪い人はいないって言うじゃないですか。だから店主さんもきっと……」
廉は何も言わず、ただ目を細めてクロの頭を撫で続けた。
店内が静かになり、猫たちがそれぞれくつろぎ始めた頃、英士は何気なく廉に尋ねた。
「店主さんにとって、猫以外で大切なものって何ですか?」
「ない」
「……そっか」
その言葉に、英士は少し寂しそうな表情を浮かべる。廉はその反応に気づいたようだったが、特に何も言い足さないまま作業に戻った。
☆ ☆ ☆
店を出て帰り道を歩きながら、英士は彼の冷たい言葉が頭から離れなかった。
「やっぱり、俺なんてただの客でしかないのかな……」
廉の時折見せる優しさと、淡々とした態度。そのギャップに混乱しながらも、英士は自分の気持ちに少しずつ気づき始める。
――もし、迷惑に思っていたら……。
心が揺らぐ。
猫は好きだが、店主がいい顔をしないのであれば店から暫く離れるべきでは、と思考を宿して。
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