猫カフェで恋は飼えない

凪玖海くみ

文字の大きさ
上 下
4 / 7

04話「距離が縮まり始める二人」

しおりを挟む
 休日の昼下がり、英士はいつものように『ねこふく』の扉を開けた。

「こんにちは。はは、今日もたくさん遊ぼうな」

 店内に入ると、黒猫のクロが足元に駆け寄り、さっそくスリスリと甘えてきた。

「クロ、今日も元気そうだね」

 英士がしゃがみ込み、クロの頭を撫でているとカウンターの奥から廉の低い声が聞こえた。

「あんた、本当に猫たちに好かれるな」
「いやいや、店主さんの猫たちを奪うつもりなんてないですよ」

「……全部持って行きそうな勢いだな」

 廉がぽつりと呟くように言い、微かに笑ったように見えた。英士はその一瞬の表情に驚きつつもなぜか嬉しくなる。

 キャットタワーの隅では三毛猫のミケが、じっとこちらを見つめている。

「今日こそ膝に乗ってくれるかな?」

 冗談交じりに声をかけると、ミケは慎重に歩み寄り、ついに英士の膝の上に座った。

「えっ、ミケが膝に乗るなんて……これ、レアだよね?」

「……本当に懐かれるのが上手いな」

 その言葉に、英士は得意げな笑みを浮かべた。

 ミケを膝に乗せたまま、英士はふと廉に話しかけた。

「店主さんも猫ともっと遊べばいいのに」

 廉はクロの毛並みを整えながら、無表情で答えた。

「俺が遊ぶ必要はない。こいつらは勝手に楽しんでるからな」

「あー……あと、お節介かもしれませんが、接客態度は改めた方がいいかと」

 廉が少し考えるように視線を落とし、静かに呟いた。

「俺は人間より猫がいい」
「えー……そんなこと言わないでくださいよ」

 英士が冗談めかして言うと、廉がほんの少し驚いたように英士を見た。その表情が新鮮で、英士は思わずこう付け加えた。

「猫好きに悪い人はいないって言うじゃないですか。だから店主さんもきっと……」

 廉は何も言わず、ただ目を細めてクロの頭を撫で続けた。

 店内が静かになり、猫たちがそれぞれくつろぎ始めた頃、英士は何気なく廉に尋ねた。

「店主さんにとって、猫以外で大切なものって何ですか?」
「ない」

「……そっか」

 その言葉に、英士は少し寂しそうな表情を浮かべる。廉はその反応に気づいたようだったが、特に何も言い足さないまま作業に戻った。


☆ ☆ ☆

 店を出て帰り道を歩きながら、英士は彼の冷たい言葉が頭から離れなかった。

「やっぱり、俺なんてただの客でしかないのかな……」

 廉の時折見せる優しさと、淡々とした態度。そのギャップに混乱しながらも、英士は自分の気持ちに少しずつ気づき始める。

 ――もし、迷惑に思っていたら……。

 心が揺らぐ。
 猫は好きだが、店主がいい顔をしないのであれば店から暫く離れるべきでは、と思考を宿して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました

むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

残念でした。悪役令嬢です【BL】

渡辺 佐倉
BL
転生ものBL この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。 主人公の蒼士もその一人だ。 日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。 だけど……。 同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。 エブリスタにも同じ内容で掲載中です。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

処理中です...