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03話「意外な過去」
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こなれた手付きで『ねこふく』の扉を開けた英士は、猫たちが自由気ままに過ごしている店内を見渡して心が和むのを感じた。
「クロ、元気そうだな」
黒猫のクロが早速足元に駆け寄り、体をすり寄せてくる。英士はしゃがみ込んでクロの頭を優しく撫でた。
「よしよし、今日も甘えん坊だね」
キャットタワーの隅では三毛猫のミケがじっとこちらを見つめている。その警戒心の強そうな目に気づいた英士は、そっと手を差し出した。
「大丈夫だよ。ほら、怖くないから」
ミケは少しずつ近づいてきて、英士の手を一瞬鼻で匂いを嗅いだかと思うと、すぐにまた距離を取る。
「……まあ、これくらいが君にはちょうどいいのかな」
英士は無理に距離を縮めようとはせずに他の猫と遊ぶ。そんな彼の様子を、カウンターの奥から廉は静かに見ていた。
店内の客も英士だけになった頃、廉が静かに店の片付けを始めた。
「あ、何か手伝いましょうか?」
英士が声をかけるとは手を止め、じっとこちらを見つめた。
「客が片付けをする必要はない。そこに座っていろ」
「……すみません」
短い言葉で拒否され、英士は苦笑しながら椅子に腰を下ろした。
暫くして、閉店時間が近づいたことを知らせるベルが鳴ると英士は立ち上がり、名残惜しそうに猫たちに別れを告げる。
「また来るね、クロ。ミケも」
店を出た後、ふと裏手から猫の鳴き声が聞こえてきた。
気になってそちらを覗くと廉がしゃがみ込み、野良猫たちに餌を与えているのが見えた。
「……あの店主さん、その子たち野良猫、ですか?」
思わず声をかけると廉は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに淡々とした声で答えた。
「そうだけど?」
その言葉は素っ気なかったが、その仕草には猫たちへの深い愛情がにじみ出ていた。英士はしゃがみ込み、一ノ瀬の隣に座る。
「へぇ……店主さんがこうして餌をあげてるおかげで、この子たちは安心してここに集まれるんですかね?」
「……まあ、そうかもな。近所迷惑にならない程度に気を付けてる、つもり」
その声にはどこか寂しさが混じっているように聞こえた。
「――昔、飼ってた猫がいた」
「……?」
「俺にとっては家族みたいな存在だった。でも、そいつがいなくなってから、人に何かを期待するのはやめた」
廉の淡々とした口調には深い悲しみが感じられた。英士はどう返せばいいのか分からず、ただ静かに店主を静かに見つめた。
帰り道、英士の胸には一ノ瀬の言葉がずっと残っていた。
――あの人、冷たく見えるけど、本当はすごく優しいのかも……。猫好きに悪い人はいないっていう独自の理論もあるし!
猫への深い愛情が垣間見えた一ノ瀬の姿を思い出しながら、英士は不器用な彼の本当の姿を知りたいと思った。
――もっと話を聞きたい。あの人に何かしてあげられることがあるなら……。
英士はそんな考えを抱えながら、猫よりも彼に会うために行っていることを今は気付かない。
「クロ、元気そうだな」
黒猫のクロが早速足元に駆け寄り、体をすり寄せてくる。英士はしゃがみ込んでクロの頭を優しく撫でた。
「よしよし、今日も甘えん坊だね」
キャットタワーの隅では三毛猫のミケがじっとこちらを見つめている。その警戒心の強そうな目に気づいた英士は、そっと手を差し出した。
「大丈夫だよ。ほら、怖くないから」
ミケは少しずつ近づいてきて、英士の手を一瞬鼻で匂いを嗅いだかと思うと、すぐにまた距離を取る。
「……まあ、これくらいが君にはちょうどいいのかな」
英士は無理に距離を縮めようとはせずに他の猫と遊ぶ。そんな彼の様子を、カウンターの奥から廉は静かに見ていた。
店内の客も英士だけになった頃、廉が静かに店の片付けを始めた。
「あ、何か手伝いましょうか?」
英士が声をかけるとは手を止め、じっとこちらを見つめた。
「客が片付けをする必要はない。そこに座っていろ」
「……すみません」
短い言葉で拒否され、英士は苦笑しながら椅子に腰を下ろした。
暫くして、閉店時間が近づいたことを知らせるベルが鳴ると英士は立ち上がり、名残惜しそうに猫たちに別れを告げる。
「また来るね、クロ。ミケも」
店を出た後、ふと裏手から猫の鳴き声が聞こえてきた。
気になってそちらを覗くと廉がしゃがみ込み、野良猫たちに餌を与えているのが見えた。
「……あの店主さん、その子たち野良猫、ですか?」
思わず声をかけると廉は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに淡々とした声で答えた。
「そうだけど?」
その言葉は素っ気なかったが、その仕草には猫たちへの深い愛情がにじみ出ていた。英士はしゃがみ込み、一ノ瀬の隣に座る。
「へぇ……店主さんがこうして餌をあげてるおかげで、この子たちは安心してここに集まれるんですかね?」
「……まあ、そうかもな。近所迷惑にならない程度に気を付けてる、つもり」
その声にはどこか寂しさが混じっているように聞こえた。
「――昔、飼ってた猫がいた」
「……?」
「俺にとっては家族みたいな存在だった。でも、そいつがいなくなってから、人に何かを期待するのはやめた」
廉の淡々とした口調には深い悲しみが感じられた。英士はどう返せばいいのか分からず、ただ静かに店主を静かに見つめた。
帰り道、英士の胸には一ノ瀬の言葉がずっと残っていた。
――あの人、冷たく見えるけど、本当はすごく優しいのかも……。猫好きに悪い人はいないっていう独自の理論もあるし!
猫への深い愛情が垣間見えた一ノ瀬の姿を思い出しながら、英士は不器用な彼の本当の姿を知りたいと思った。
――もっと話を聞きたい。あの人に何かしてあげられることがあるなら……。
英士はそんな考えを抱えながら、猫よりも彼に会うために行っていることを今は気付かない。
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