聖剣伝説〜乙女の姿しばしとどめむ〜

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竜神の羽ばたき ④

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「おお!勇者よ。よくぞ戻ってきた。」
「先の戦いで、そなたに芽生えた狂気は凄まじく、そなたは欲望の瘴気に呑まれて驕り高ぶり、もう二度と勇者としてそなたに会うことはできぬと思っていた。」
「どのようにして更生したかは分からぬが、とにかく、よくぞ戻った。」

「そして、今回がそなたの最後の戦いになるであろう。」
「悪の権化である竜王は今、女神がその体内にて力を抑えておられる。」
「欲望を抑えた衝撃で女神は岩となったが、そなたの活躍のおかげで元の姿を取り戻すことができた。しかし、 刻一刻とそのお命は鬼に喰われているのだ。」
「もはや一刻の猶予すらならん状況ではあるが、気高い女神様は我らには愚痴 ひとつこぼすことはない。」
「女神の生命の尽きる事は、この世界の破滅を意味し、我々も消えていくことになる。」
「そなたが最後の希望なのだ。」

「本当に、よくぞ戻ってきてくれた。そして余はそなたに厳命をくだす。」
「行け、勇者よ!女神を救い世界を守る英雄となれ。」
「必ず竜王の瘴気を払い、世界の平和を守るのだ。」

「今一度言う。勝ってこい勇者よ!」
国王が杖にすがりながら、弱った足腰で必死に立ち上がり、ブルブルと震えながら僕を見つめていた。
彼も必死なのだ。

街道の整備がされた女神の里への道は、散歩するほど近く感じられる。
以前の沼地も整備されて、石畳には馬車も走る。
僕は久しぶりに来たこの世界を懐かしく思っていた。
数週間前までは、毎日のようにここに来て戦い、鬼となったクラスメイトたちを救ってきたつもりになっていた。

今の僕は、救ってきたなどという思いを抱いてきたことが恥ずかしかった。
彼女たちと一緒に、彼女が捕まえていた瘴気や情念を打ち払ってきたに過ぎないのだ。
一人で戦っていたのだと思い上がっていた僕は、愚か者でしかなかった。
そして、その思いに驕り高ぶって、今のクラス内での僕の存在につながっている。
真実を知ってから取り繕っても全てが遅かったのだ。

今は僕一人だ。
男の友達すらもいなくなってしまった。
モブよりも底辺が、この僕の存在だった。
だが、夢の中のこの世界では、まだ国王にも大臣にも求められている。
今の僕には、この世界こそが外の誰かと繋がれる唯一の世界だった。

失いたくない。
国王も大臣も女神も町の人も・・・。
色々な人々が暮らしているこの世界を失いたくなかった。
誰かが作った道を通り、僕は皆の力を借りて進むのだ。

女神の里には国王からの伝達が入っているのか、岩の間に挟まるように商売を続けていた商人も、祠の中で金もうけに精を出す神父すらもいなかった。
祠の中の女神と僕だけの世界だった。


「おお、勇者よ。久しぶりであるな。」
「ここに来られると言うことは、そなたはまだ外の世界で欲望の制御をしていると見える。」
「良き心がけである。」

「前回の戦いより、そなたは尊大になり自分を見失ってはいなかったか?」
「 私は、今までに何人もの勇者を迎えてきた。」
「しかし、その者たちはことごとく己の驕りと傲慢により、聖剣と己の力を履き違え自滅していくのを見続けてきた。」

「あるものは社会的に孤立し、あるものはその欲望の虜となって廃人のように暮らしておる。」 「そして、ついにそなたもそこへ落ちたものと思っていたが、そなたは周りに恵まれていたものと見える。」

「誰かがそなたを止めてくれたのであろう。」
「誰かは知らぬが、そなたはその者への感謝を常に心の中に持っていなければならない。」
「なぜならば、その者こそがそなたを一番に思っている存在であるからである。」
「そなたはその者を生涯をかけて守り抜く義務がある。」 
「良いな。」

「そなたは、もうこの国へ参ることはなくなるのかもしれぬが、もしもそなたが望むのであれば、勇者としてこの地の平和をそなたに託すこともできる。」
「しかし、それには最初に約束したように、そなたの男としての欲望を意識して抑えておらねばならぬのだ。」
「無意識のもとでこの地に参り、若さを武器に戦わねばならない。」
「酷だ。条件が酷すぎるのだ。」
「だが、我はそなたへの感謝は永遠に忘れはしない。」
「たとえ、そなたが参らなくとも、このリーブラの心の中で伝説の勇者として生き続けることであろう。」

「これが、この地でのそなたの最後の戦いになるだろう。」
「この者は聖剣の力に驕り、妄執にとらわれ、ついには鬼となった若者である。」
「お前の前に、この地を浄化していた勇者である。」
「聖剣を操る者同士の戦いは、お互いの持つ力こそが全てだ。」

「そなたは弱い。」
「だが、そなたは聖剣による支配を跳ね除け、聖剣を己のもとで行使する道を選ぶことができた。」
「力では歯が立たぬが、精神力だけは奴よりも上ぞ。」

「良いか、必ず勝て!」
「勝って・・・、妄執に呑まれた先の勇者を永遠の地獄から解き放ってやってくれ。」
「私が召した勇者を救ってくれ。」

「そして、この世に平和を導いてほしい。」

「よいか、私はこれより私ではなくなる。」
「我が肉体であろうとも、私はリーブラではない。」
「戦うべき先代の勇者であることを心に刻んでおけ。」

「 服を脱げ、ズボンをおろせ。」
「我の前に聖剣をさらし、そして構えよ!」

「準備ができたならば、聖なる鏡を以前のように私に向けるのだ。」
僕は服を脱ぎ女神の視線に聖剣をさらす。
美女に見られていることが、ゾクゾクと聖剣に力を与えていく。
僕は、腹の傷から真実の鏡を取り出し、祠の中心にいる女神を鏡の中に収めた。

「行くぞ!勇者よ。」
女神が僕の目を見つめて合図を送ってきた。




つづく
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