上 下
21 / 38

爽やかな君の潮味 ②

しおりを挟む



そんな浮かれている僕に、クラス委員長の〇〇さんが歩み寄ってきて、僕のとんがりをギューッと掴んだ。

「校則違反!!」
髪を掴んでグリグリと動かす。
委員長の手の中で、必死で言い訳をする僕の寝癖でついたはずもない、ユニコーンの角が折れて、下向きの矢印になった。
「ホームルームが始まるまでに、水道で落としてきなさい。」
ピシャリと言われる僕を、男子生徒が『いい気味だ。』と言わんばかりに、ニヤニヤとしながら見つめていた。

後ろからせっつかれて、廊下の水道へと歩かされていく。
予鈴が鳴り、廊下で話をしたりしていた生徒達が、教室に吸い込まれるように入って行く。
「早く!先生が来ちゃうから。」
委員長の有無を言わせぬ言葉に、水道の蛇口を渋々ひねると、流しの中に頭を突っ込んだ。
冷たい水が、僕をヒーローから一般人へと変化させていく。

「もっとこっちまで洗って!」
委員長が僕の頭を流しの奥へとぐっと押し込んで、後頭部も洗わせる。
冷たい水が制服の中に入って首を縮こませる僕は、もう完全に元通りのモブで、底辺にいる一般生徒に戻っていた。

「はいっ。」
委員長の差し出してくれたタオルは、朝練を終えた女の子の体臭を吸い込んだ、彼女の使用済みの香りがした。
僕は頭を拭きながら、彼女の身体の隅々までも知り尽くしているであろう、そのタオルの端をこっそりと顔に当てて、その香りとタオル地の持つ柔らかな質感に彼女の素肌を重ねて想像していた。

「ありがとう・・・。」
そう言いながら、名残惜しく彼女にタオルを渡す僕の下半身は、気づかない間にズボンを押し上げていた。
チラリと見た彼女の視線で、僕は自分の状態に気がついたが、いつものリュックを教室に置いてきていたので隠しようがなく、僕は何事もないふりをしながら、うちまたでもじもじとしていた。
彼女はそこにはもう視線を向けなかったが、僕の耳元に顔を近づけて囁く。

「オ・ン・ナ、の匂いがした?」
完全に弄ばれ、僕は顔を真っ赤にしてサッと両手で股間を隠した。
「さぁ、教室に戻るわよ。」
ちゃきちゃきと指示を出す彼女は、どこか満足そうであり、少し垂れ目気味に見える彼女の表情は、優しく微笑んでいるようにも見えた。

先生が教室に入ってきた。
まだ新任の先生であったが、数ヶ月が経って、心の表情が穏やかになっているように思える。
他のクラスからも羨ましいと噂される程の人気がある。
小動物のように愛らしい先生だった。
教壇に立ち先生が出席を取る。

全員の出席を確認した先生が、委員長を教壇に呼んだ。
「突然なんですけども、〇〇さんがご両親のお仕事の関係で、転校することになりました。」

「〇〇さんからみんなに、何かあれば一言をみんなに伝えて欲しいの。」
先生は、〇〇さんにみんなへの言葉を求めた。
僕であれば突然みんなの前でそんなことを言われても、モジモジするだけであろう。
驚いたことに、彼女は当たり前のように皆の前で話し始めた。
まるで先生が2人いるのではないかと思える程に、堂々とした話ぶりであった。


「みんなには黙っていましたが、私はこの鼻にコンプレックスを持っていました。」
〇〇さんの突然の告白に、教室中がざわめいた。
クラスメート達が一斉に彼女の顔の中心を凝視した。

「少し低いでしょう。」
クラスメイト全員が、言われて初めてその事に気がついたようであった。
言われてみれば確かに少し低いのかもしれないが、その程度の誤差であった。
「私は転校するこの機会に、鼻を高く整形しようと思っていたんだけど・・・」
教室のざわつきがさらに大きくなり、先生が慌てて静止しようと試みたが、ざわめきを抑える事はできなかった。
しかし、彼女が次の言葉を発する直前に、ざわめきは静寂へと変わった。

「昨日まではね。 昨日ある夢を見たの。」
「 男の子が私の鼻を見つめてこう言うの。」
「 気にしなければいいんじゃない?って、 私、怒ってその男の子をボコボコにしたんだけど、男の子は我慢強く耐えて私に鏡を見せてきたの。」

「これが君の顔だって。 何の変化もなく、普通に私の顔だったわ。」
「 でも、それを見てなんだかバカバカしくなってきたの。」
「 私が一人で鼻が低いと思って、私一人で傷ついていただけじゃないのかなって。」
「人目を気にして自信がなくなってしまうなら整形すればいいけど、私はこんなの気にしなくてもいいぐらい自分に自信を持っているんだと気づいたら、本当に今まで何を悩んでいたのかなって、・・・」
「だから、私は私のままで生きていくつもり。」
「みんなも多分、自分の中でいろんなコンプレックスを持っていると思うけど、多分別に大したことじゃないと思うわよ。」
「私から見て、みんなそれぞれに素敵だから。」

「それぞれ、自信を持って二度と戻らない大人と子供の真ん中の、中学生の青春を楽しんでいきましょうね。」
 「それと、高校に入ったら多分ここにいる何人かとは、一緒の学校に行くと思うから、また一緒に大人の高校生活を楽しみましょうね。」

「あと、その夢の中でその男の子が何か欲しがっていたんだけど、 私、その男の子をフワフワの羽に包んで独り占めしたいぐらいに思って、そのくらい格好良かったから、何かをそこに置いてきたような気がするんだけど・・・。」
「まぁ、夢だからどうでもいいんだけどね。」

夢の中の出来事で自分を変えた、〇〇さんが、まだ髪の毛が少し濡れている僕の方をチラリと見て笑っているように思えた。
彼女の白い歯を見た時に、先ほどのタオルの移り香が、僕の頬の一部から流れて来るような気がした。
僕は再び股間を熱くしながら、その先っちょをつまんでいた。



つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

声楽学園日記~女体化魔法少女の僕が劣等生男子の才能を開花させ、成り上がらせたら素敵な旦那様に!~

卯月らいな
ファンタジー
魔法が歌声によって操られる世界で、男性の声は攻撃や祭事、狩猟に、女性の声は補助や回復、農業に用いられる。男女が合唱することで魔法はより強力となるため、魔法学園では入学時にペアを組む風習がある。 この物語は、エリック、エリーゼ、アキラの三人の主人公の群像劇である。 エリーゼは、新聞記者だった父が、議員のスキャンダルを暴く過程で不当に命を落とす。父の死後、エリーゼは母と共に貧困に苦しみ、社会の底辺での生活を余儀なくされる。この経験から彼女は運命を変え、父の死に関わった者への復讐を誓う。だが、直接復讐を果たす力は彼女にはない。そこで、魔法の力を最大限に引き出し、社会の頂点へと上り詰めるため、魔法学園での地位を確立する計画を立てる。 魔法学園にはエリックという才能あふれる生徒がおり、彼は入学から一週間後、同級生エリーゼの禁じられた魔法によって彼女と体が入れ替わる。この予期せぬ出来事をきっかけに、元々女声魔法の英才教育を受けていたエリックは女性として女声の魔法をマスターし、新たな男声パートナー、アキラと共に高みを目指すことを誓う。 アキラは日本から来た異世界転生者で、彼の世界には存在しなかった歌声の魔法に最初は馴染めなかったが、エリックとの多くの試練を経て、隠された音楽の才能を開花させる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...