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11. 俺のこと知って嫌いになった?

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お風呂で色んな意味でさっぱりして、母ちゃんに渡されたカバンから着替えを出して着替えてる最中も、キスをしたり身体を触ったりとじゃれあいながら風呂を済ませる。
洗濯物はもちろんお風呂場で水魔法+石鹸+風魔法=洗濯終了となった。浄化魔法でもよかったけどやっぱり洗った方が気持ちいいからね!
泥も水魔法でとことん落として綺麗になった。今は夜だから風魔法で乾燥させて、明日の朝ちゃんと干そう。生乾きとか嫌だし。

そういえば白蛇様もカバンに入っていたらしく、着替えを出してた時に、にゅっ!と生えて僕は驚きのあまりお兄さんにしがみついた。ホントびっくりするからやめてね、白蛇様。
あ、白蛇様のお社はちゃんと建ててあるよ。
村の中心に。
けど白蛇様はそこに小さくなってる卵を置いて本人?はずっと僕たちと一緒にいる。
バジル兄ちゃん曰く「ライとギルくんの混ざった魔力が好きみたい」とのこと。混ざった魔力が好きとか変わってるなー、なんて思ってたけどそういえばイチャイチャしてる所に白蛇様っていつもいたなと思い当たる。というかずっと僕たちのいちゃいちゃ見てるんだよね。白蛇様。
なんか恥ずかしい。

「何か食べたいのある?」
「ライが作るのか?」
「作る…うーん…作るといえば作る…のかな?」
「…曖昧だな」
「だって…」

と言いながら僕たちは手を繋いでキッチンへと移動する。そして僕はくるりと円を描くとそこから小さなツボみたいなやつを出す。

「ツボ?」
「これにね、材料を入れるとできるんだよ」
「へぇ…面白いね」

綺麗な空色がキラキラと輝いてる。可愛い。

「だから作る、と言われると微妙なんだよね」
「確かに」

うん、と頷くお兄さんにふふっと笑うと「ぐううぅぅ」と僕のお腹の怪獣が鳴いた。
もういいよ! このくだり!
「きゅるるるる」と切なく鳴る僕のお腹を見てお兄さんが吹き出し、僕はただただお腹を押さえ赤面する。
うううう…なんでこういうタイミングで鳴るかなー…。

「じゃ、じゃあオムライス、食べようか」
「…そうする」

食べたいものを言ってくれるのは嬉しいけど、お兄さんの肩が震えっぱなしなのが気になる。そんなにおもしろかった? なら、いいや。
「きゅるきゅる」と鳴くお腹をなだめながら、僕はそのツボの中にオムライスの材料を投入していく。実はここには空間収納がついてる。見えない所にね。そこにはたっぷりの食材が詰め込まれてる。米や小麦、野菜に果物。それがたっぷり詰まってるのはここが緊急の避難所になるから。
村に来て慣れない人を落ち着くまで過ごさせるのは村に何かあったらここに来るように、との意味も込められてる。だから食料や飲み物がパンパンに詰まってる。村の人全員が来てもいいようにね。
というのも日本は災害が多いから備蓄をするからその知識でこの場所に備蓄場所を作った。もちろん村の備蓄倉庫にもたっぷりの食料や飲み物、毛布や服なんかが詰まってる。
その中にこの不思議なツボもある。敵襲や災害なんかがあった時、火が使えないから火が使えなくても料理や飲み物ができるものを、と思って作ったんだ。で、なんでツボなのかって話しなんだけど…。
ホットクックみたいなのをポンと渡されても見たこともない物の中に材料を入れるのは不安だからね。見慣れたツボだったら少量、かつ簡単にできる。
いや、一回母ちゃんにホットクックを見せたら力技で蓋をね…やっちゃって。それに結構気持ち悪そうに見てたってのもある。ツボにしたら母ちゃんが嬉々としてガンガン材料を入れて料理作っちゃって、父ちゃんや兄ちゃんずが食べても消費しきれずに近所におすそ分けをする、という事態になった。
楽しかったみたいだけど、それ以来このツボは封印された。非常事態以外は触るな、と父ちゃんに言われた母ちゃんはすごくしょんぼりしてたけど、父ちゃんがいない時とかは僕が母ちゃんに渡してる。おやつ作りとか面倒だし。
小さい子供がいる家庭には貸し出したりしてるから、使い方はばっちりだ。

材料を投入して蓋をしてしばし待つ。何度目かの「ぎゅるるる」という僕の怪獣が鳴いたころに、おいしそうな匂いが鼻孔を擽る。それに合わせて「ぐるるるる」と僕のお腹がまた鳴いた。

お腹空いた…。

面倒だから、オムライス、コーンスープ、サラダ、パフェと四つのツボを使って調理した。ほぼ同時に出来上がった料理をお兄さんに手渡しテーブルに並べてもらってる。パフェはアイスが溶けちゃうからしばらくはツボの中。ツボの中は亜空間だからアイスも解けないし温かい料理は温かい。不思議ー。
コップに僕はお水を、お兄さんは黒ビールをと思ったら止められちゃった。そう言えば話しがあるって言ってたもんね。お兄さんのもお水をコップの中に入れて二人で手を合わせていただきます。
お腹が空いてた僕は必死にオムライスを口に運んでは咀嚼する。んまい。コーンスープも一口。んまーい!サラダにはシーザーサラダドレッシングをかけてもぐり。んまー!
そんな僕をお兄さんが笑いをかみ殺しながら食べてるとは思ってもみなかったけど。

食後のパフェを白蛇様と食べて、白蛇様用のおやつを用意してお兄さんと並んでソファに座る。
ちょっとだけ緊張した空気に、ドキドキしながらお兄さんはコーヒーを、僕はミルクコーヒーを飲んでいる。

「ライル」
「ん? なぁに?」

こつんとお兄さんの肩に頭を乗せて、上目遣いで答えると肩を抱かれた。ちょっとだけ硬い表情のお兄さんがぎこちなく笑う。

「ライル。まずは謝らなければならない」
「? 何を?」

じっと見つめてくる綺麗な空色の瞳は少し曇り空へと変わる。

「俺はギルバード・タリスだと村長が言ったよな?」
「ん? うん。違うの?」
「…俺の本当の名前はギルベルト。ギルベルト・ヴァルハード」
「ヴァル…」

肩を抱いてるお兄さんの手に力がこもったけど、それよりもお兄さんの本当の名前を知って僕は瞳を大きくする。

「ヴァルハード」

それが意味するのはただ一つ。

「…俺はこの国の第二王子だった」

お兄さんの表情からどうやら第一王子、ローレンスのしたことを知っているようだった。僕の過去はもうお兄さんは知っているから別にいいんだけど、まさかここに繋がるとは思わなかった。
ああ、だから『運命の鍵』を持っているんだ、と。

「だった…?」
「ああ。俺とローレンス…は腹違いの兄弟だ」
「腹違い…」

となると、お兄さんは母親似なのかな? ローレンスとはパーツも色も違うし。

「もう一人、俺の下に義弟がいる。こっちはローレンスの実弟だな」
「はえー…」

僕はこっちに来てからずっとこの村にいたから王様とか知らなかったけどそうなんだ。子供は三人。うち二人はお兄さんの言葉からして王妃の子だろう。じゃあ、お兄さんは。

「俺は側室の子だ」
「なるほど?」

こういう関係、僕は苦手だ。頭がこんがらがってくる。

「だが俺は産まれて直ぐ養子に出された」
「え?」
「国王の命で俺は産まれなかったことになっている」
「なんで?」
「王妃がそうしたようだ。他の子供が王族争いに加わらないように」
「はー…」

なんかすごい世界だなー。現代日本だとありえない…わけでもなさそうだけど少なくとも僕の周りはそう言った人はいなかったから。権力争いか…。嫌だな。
思わず瞳を伏せれば「ライル、気分は大丈夫か?」と聞かれる。
ああ、ローレンスの名前が出てるからか。あいつにされたことはもう過去になってるけど、やっぱり怖かったみたい。身体がちょっと震えてる。
ぎゅっとお兄さんに抱き付くと、つむじにキスを落とされる。汗臭くないから何度でもして。
背中をさすりながら頭にキスしてくれるお兄さんはやっぱりローレンスとは違う。

「ん、だいじょぶ。ありがと」
「いや、あいつがしたことを身体は覚えているんだ。怖がらせた」
「お兄さんは、大丈夫。あいつ…とは全然違うから」

やっぱりまだダメだな、なんて思いながらぎゅうぎゅうとお兄さんに甘えるように抱き付けば、頭にキスをたくさん落としてくれる。嬉しい。
しばらくセミみたいにお兄さんに抱き付いて身体の震えを治めて顔を上げたら、ちゅっと唇にキスをくれた。
うん、お兄さんとのキス、めっちゃ好き。
ちゅ、ちゅと触れあうだけのキスを繰り返して、ぺろりと唇を舐められた。うわ、唇舐められたの初めてかも。

「甘い」
「…お砂糖いっぱい入ってるから」

僕の唇を舐めたお兄さんの感想に僕は唇を尖らせる。だってブラックコーヒーって苦いじゃん。そりゃ昔はビール飲んでたけど、今は子供舌になっちゃってるんだもん。苦いの無理。けどピーマンの肉詰めは好きだぞ。

「そうか」
「そうだよ」

ふへっと笑えば、お兄さんも小さく笑う。
ちゅっと瞼にキスをされて離れて行くと、お兄さんの顔から笑みが消えた。
うん、まだ続いてたもんね。大丈夫、ちゃんと最後まで聞くから。

「王妃だからって勝手に養子に出していいの?」

僕の質問にお兄さんは瞳を伏せ「いや」と首を振った。

「俺に関しては国王も了承している」
「ってことは…」
「父に捨てられたんだ」
「酷い…」

ぎゅうとまたお兄さんに抱き付くと、今度は僕の頭の上にお兄さんの頭が乗せられた。ちょっと重いけどこの重みがいい。

「その時叔父が俺を引き取って育ててくれた」
「そっか…おにいさ…ってどう呼んだ方がいい?」
「ライはどう呼びたい?」
「んー…お兄さんって呼んでる方が長かったからお兄さんかな?」
「じゃあ、それでいいよ」
「いいんだ」
「ああ。ライが呼んでくれるなら。でも本当の名前ならちょっと呼んでほしいかも」

そう言って小さく笑うお兄さんを上目遣いで見つめて「ギルベルト」と何となしに呼んでみれば、お兄さんの頭が勢いよく持ち上がり「ちょ、ちょっと待って」と口元を手で隠している。
どうしたの?と首を傾げれば「ああー…もう!」となぜかお兄さんが悶えてる。

え?僕なんかお兄さんのツボ押した?

「え、と?」
「ライは直ぐそうやって…」
「?????」

そうやってなんだろう? 何もしてない…とは思うけど…。うわぁ、気になるー。
お兄さんが僕から顔を背けて落ち着くのを待つ。僕もお兄さんに待ってもらったからね。何時間でも待つよ!というかお兄さんもだんだんユリウス兄ちゃんに似てきたなぁ…。
白蛇様にクッキーを食べさせながらまったりしていると、ようやくお兄さんが戻ってきた。おかえり。

「こほん、悪い。取り乱した」
「気にしなくていいよ。ユリウス兄ちゃんで慣れてるから」
「ユリウス…ああ、そいうえば彼も…」

よく身悶えていたな、とぽつりと呟くお兄さんに、僕はたまらず吹き出す。うん、そうだね。

「それで…ギルb「うん、名前呼びは危険だと知ったから今まで通りでいいよ」

食い気味に名前呼びは却下されたからお兄さんって呼ぶね。

「じゃあお兄さんがここにいるのも偶然?」

義兄であるローレンスがここを見つけて、僕がうにゃうにゃされて。その弟であるお兄さんがここにいるのは偶然なんだろうか。お兄さんとえっちいことするのは好きだけど。だって好きなんだもん。

「そのことなんだが…」
「ん?」
「俺は義兄の命でここに来た」
「わお!」

じゃあ白蛇様に襲われてたのも演出?だとしたら殺された二人が可哀相過ぎない?

「ああ、白蛇に襲われていたのは本当に偶然だ」
「あ、そうなんだ」
「だが、もしかしたら白蛇がベヒモスに居場所を追われたのも偶然とは言い難い」
「うん…そうなんだよね…」

たまたまベヒモスが白蛇様の住処を奪ってあの森に追い出す。そこをお兄さんたちが鉢合わせて攻撃をする。中央は大蛇討伐が禁止されてることは知らないから攻撃をした時点で禁止事項に触れている。
そこで全員やられる可能性は零に近い。なんせお兄さんがいるんだから。仮にお兄さんが殺されていれば遺体捜索を理由に軍がこの森へと来るだろう。恐らくはこの村の存在を知っているローレンスが指揮を執る。
理由は…考えたくないけど。
となるとやっぱり情報がどこかから漏れてるね。この村からかはたまた違う村からか。
ネズミさんはもう行動を起こして…ん?ベヒモス?

「あ」
「どうした?」
「ベヒモスも仕掛けられた可能性があるかも」
「何?!」

僕の言葉に流石にお兄さんも驚く。
うん、まさかそこまで仕掛けられてるとは思わないよね。というかそもそも滅多にお目にかかれないベヒモス。それとお兄さんは戦ったことがあるって言ってたし。

「お兄さんがベヒモスと戦ったのはいつ頃か分る?」
「…5年前だ」
「5年…。うん、間違いない。ネズミさんはあれを使ったんだ」
「あれ?」
「うん。一度、魔物をカードの中に閉じ込められないかやってみたことがあるんだ」
「…………」

うわぁ、お兄さんの視線が痛い。そんなバカなことするのは僕くらいだよね。というか僕しかできないと思うよ。

「それが5年前。成功はしたんだけど危なすぎるからダメだって父ちゃんに禁止された」
「まぁ…そうだろうな」

だってTCGのモンスターとかカッコイイじゃん!僕のターン!とか言ってカードから魔物が出てきたらテンション上がるし!
でもよくよく考えてみたら、野生の魔物を捕まえて野に放ったらヤバいよね。
で、その魔物用の空のカードは父ちゃんが厳重に管理してるはず。
ならどこで漏れた?
この家の中に入れるのは、元兵の6人とおじいちゃん司祭だけのはず。

「お兄さんはベヒモスと何で戦ったの?」
「王都の近くにベヒモスが出た、という報告があって」
「なんで王都の近くに…この近くだったら討伐したかったのにー!」

むー!と頬を膨らませてもこれは5年も前の話なのだ。今、どうこう言っても仕方ない。

「はぁ、まあいいや。それであいつの命って?」
「…ライルを連れて来い、と」
「あぁー…まだ諦めてないのー…」

しつこい男は嫌われるぞー!とここで言ったところで聞いているのはお兄さんと白蛇様だけだし。
するとお兄さんの指がぴくりと動いた。

「義兄は…」
「うん?」
「ライルを妻にする、と」
「はい?」

お兄さんの言葉に僕は間の抜けた声を上げてしまったのは仕方ないと思う。



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