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6. 心の傷の治し方

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※うちの白蛇様は特別な訓練を受けているので人間の食べ物でも、もぐもぐおいしく食べられます。



父ちゃんの言葉に、お兄さん…じゃなかったギルバードさんはきゅっと口を閉じ、父ちゃんをじっと見つめている。
訂正しないからお兄さんは「ヴァルハード第一騎士団団長補佐 ギルバード・タリス」で間違いないみたいだね。
そうかー…騎士ぽいとは思ってたけどまさかの団長補佐。というか団長補佐ってなにするんだろう?

「…よく、お分かりで」
「ふん、ギルド長をなめるなよ」

鋭い視線でギルバードさんを睨む父ちゃんは少し怖い。後ろにいる兄ちゃんずもちょっと怖い。
いつも僕にはそれなりに厳しいけどここまであからさまに敵意を向ける父ちゃんと、ずっと甘やかして自分の好きなものもほいほいと僕に分け与えてくれる兄ちゃんずは初めてかも。
そういや一度今の比じゃないくらい殺気を纏ってたことがあったな。あれも怖かったなー。今もちょっと怖いけど。
この三人が敵意を向くのはギルバートさんに対してか、騎士団に対してか。
「平気か?」と白蛇様が頭を擡げ、心配そうに見つめてくる。それに「大丈夫だよ」と言いながら頭を撫でれば、チロチロと舌を動かす。可愛いな。

「この話も後だ。まずはなぜ大蛇の卵を狙った」
「個人的な依頼なのでお話はできません」

父ちゃんの質問にギルバードさんは、はっきりとそう告げる。

「そう言えば、おにいさ…ギルバードさんは大蛇の卵が狩猟禁止だってことを知らなかったよね?」
「…………」

僕がそう言えば、父ちゃんもギルバードさんも黙ってしまった。
あれ?父ちゃんまで黙っちゃった。
それにこくりと首を傾げれば背後から「ライ、そんな可愛いことをしたらダメだ」とユリウス兄ちゃんに言われた。だから可愛くないよ。

「そうか。中央には届いていないか」

バジル兄ちゃんに頭を撫でてもらっていると、父ちゃんがそう告げた。
中央、つまり王都のギルドだ。
ギルドはそれぞれ独立しているけど、総まとめは中央のギルドが行っている。ただ最近はギルドと騎士団の距離が近付いた、なんて話があるらしい。この辺りの話は、僕は関われないからよく分らないけど。
騎士団とギルドと繋がれば、今いる冒険者は魔物から落ちる素材―いわゆるドロップ品を個人で売買できなくなる可能性があるんだ。
全部騎士団に持って行かれちゃうからね。だから中央には知られないように、周りのギルドが連携して有益な情報なんかをあえて回さずクズ情報を回す、ってことをやってるらしい。
だから中央のギルドにはせいぜい迷子を探す依頼とか、王都周辺に出た魔物退治とかの初心者冒険者ができそうなものしか出回っていない。
しかしそういう情報が回らないからか、他のギルドは知ってるけど中央のギルドは知らない狩猟禁止の魔物とかの素材とかがたくさんあるのだ。今回の大蛇の卵は乱獲され蛇自体の数が減ってしまった。しかも大蛇になるには数十から数百年は必要で。
その間に絶滅してしまったら今度は別の問題が発生するのだ。所謂弱肉強食が狂ってしまう。そうなると凶暴な魔物が中央以外で暴れまわり、最悪村がなくなる、なんてことがあるかもしれない。
中央に情報を回さなかったツケ、と言われればそれまでだけど中央で依頼を出したら冒険者が大量に押し掛けてくるのもいただけない。他の村はそれでいいかもしれないけど、この村はそうはいかない。なんせ『訳あり村』だからね。

「個人的な依頼なら、依頼書は…」
「ありません」
「口頭で依頼されたのか?」
「答える義務はありません」

父ちゃんの質問にそう淡々と答えていくギルバードさん。父ちゃんも一筋縄ではいかないと分っているからか、深くは突かない。表面上の質問しかしていないからね。

「依頼主が何を考えているかは分からんが…あの卵を持って近くの村に着いたらお前さんは恐らく捕まってたぞ」
「…そう、ですね」
「そういえば、冒険者が一人こっちに来てない?昨日逃げてきたはずなんだけど」
「いや?そういった話は聞いてないな」
「昨日はライがいなくなったと大騒ぎだったから」

あ、そっか。
昨日は「森で素材取ってくる」って村を出たんだっけ。それから悲鳴が聞こえてギルバードさんと会って、白蛇様にチャンスをもらって、ベヒモスが出て。
うん、なかなかに濃い一日だった。

「それに、ライを探しに行こうかと隊を組んでいたが、森の奥で何やら地響きや木々がなぎ倒される音なんかが響いてきたからな」
「うわぁ…」

結構な大事になってた。

「ライ、ユリウスが飛び出そうとするのを止めるの大変だったんだぞ」
「てめ! バジル! お前だって「ちょっと風魔法使って見に行ってきます」って森に行こうとしたじゃねぇか!」
「なっ?!」

突然始まった口喧嘩に僕は「ふふっ」笑えば、兄ちゃんずが気まずそうに顔を見合わせてまた背筋を伸ばした。ありがとう、兄ちゃんず。帰ってきたんだなって思ったよ。
となると、昨日見送った冒険者はどこに消えたのか。どこかの村で保護されてればいいけど、白蛇様の話しをして捕まってないといいな。

「しかしギル坊、おめぇ命拾いしたな」
「ギル坊…」

父ちゃん、その呼び方はいかがなものかと思うよ。ギルバードさんは兄ちゃんずよりも下みたいだけどさ。

「さっきも言っただろ。大蛇の卵狩猟は禁止だ。これを破れば捕まるし、最悪死罪だ」
「――っ?! そんなバカな?!」

父ちゃんの言葉にたまらずギルバードさんがソファから勢いよく立ち上がる。それに驚く僕と、冷たい視線を向ける兄ちゃんず。

「これは中央を除くすべてのギルドの決まり事だ。例え国のお偉いさんが卵狩猟をやってもな」
「……………」

テーブルに手を付いて立ち上がったギルバードさんに僕は「とりあえず座ろ?」と服を引っ張れば、ハッとしたように僕を見た。その綺麗な空色の瞳が動揺で揺れている。

「一緒に帰ってきたのがうちの倅でよかったな。説明がなければ拷問してでも依頼主を吐いてもらう所だった」
「……………」

父ちゃんがそういいながらニヤリと笑えば、ギルバードさんは肩を落とし「まさか。そんな」と俯いて呟いてる。ぎゅっと握られた組まれた手が小さく震えているから、よほどショックなことがあったらしいというのはすぐにわかる程に。

「更に言うとな、ギル坊」

父ちゃんのその言葉にビクリと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げる。その顔はギルバードさんの感情を表していて。

「恐らくライの言っていた奴は捕まったか、魔物に襲われたかの二択になる。運よくこの村に来ていたとしても大蛇を倒す、なんて言った瞬間に捕まえている」
「…そう、ですか」

淡々と話す父ちゃんの言葉にギルバードさんは再び俯いた。そして暫しの静寂。コチコチと時計の針が動く音だけが部屋に響く。

「俺は…」

するとギルバードさんが両手を組んだ手に力を込め、口を開いた。

「俺は部下を…友を二人失った、ということか」
「お兄さん…」

組んだ手に額を当て、悔いるように話すギルバードさんの服を僕はきゅっと摘まむ。

「なら今、騎士団に戻ればどうなるか分かるな?」
「…………。はい」

ギルバードさんの力のない返答に父ちゃんは立ち上がると「しばらくはここにいるといい」と告げ、兄ちゃんずを呼んだ。きっと村にギルバードさんが留まることを知らせるんだろう。
父ちゃんたちがリビングから去って、残された僕と白蛇様はまるで祈りを捧げているようにも見えるギルバードさんに声をかけることもできず。
それに父ちゃんが言っていた「騎士団に戻ればどうなるか」って言葉。
部下を二人無くしていることを報告すればなぜそんなことになっているのか責任を問われるのは当たり前だ。しかも団長補佐、という立場。なにをするのかは分からないけどたぶん結構上だろう。
しかも依頼主が明かせないこの依頼。いや、ギルバードさんはきっとどれだけ拷問されても依頼主は言わないだろう依頼。責任感が強い人だから。そしてその責任を取らされるのはギルバードさんだけなんだろう。

なんか、酷い。

依頼をした人にむかむかとしていると、白蛇様が「私もだ」とチロチロと舌を動かす。
すると母ちゃんがこっそりと僕とギルバードさんの前にカップとちょっとしたおやつを置いていく。ありがとう、と言えばにこりと笑ってまたキッチンへ戻っていった。夕飯の準備をするんだろう。
置いていったおやつに興味を示したのは白蛇様だった。しゅるると僕の膝の上から滑るように移動すると、母ちゃんが置いていったパウンドケーキの香りを嗅いでいるようだ。そしてがぶりと一切れにかじり付くと、んぐんぐと飲み込んでいく。
白蛇様って人間の食べ物に興味あるんだなぁ、なんて考えながら再びがぶりとかじる白蛇様の頭を指先でこちょこちょとくすぐれば「フシュー、フシュー」と威嚇された。

「ごめんなさい。可愛くてつい」
「シャー!」

大蛇の時はあれだけ迫力があったのに、小さくなった白蛇様がやるとものすごく可愛い。
思わずふふっと笑えば、ギルバードさんがもぞりと動いた。大丈夫かな?

「ギ…」

ギルバードさん、と名前を呼ぼうとしたらその前にその腕の中にいた。首筋に顔を埋めてぎゅうぎゅうと抱き締めてくるギルバードさんに「痛い」とはいえず、そっと背中に手を回せば「っつ!」と小さく息を飲んだ。

「大丈夫。ここは訳あり村だから」

ぽんぽんと兄ちゃんずと同じくらいの広い背中を、落ち着かせるようにゆっくりと軽く叩きながら「大丈夫、大丈夫」と僕は言い続ける。
その度に腕に力が入って息苦しいけど、まるで縋るように抱き付くギルバードさんを突き放すこともできなくて。
さっきの会話が相当堪えたんだろうなぁ。
それかその依頼主に裏切りにも近い仕打ちを受けたことか。
しばらく抱き合ってちらりと白蛇様を見ればパウンドケーキをすべて食べてしまったらしく、お腹をはちきれんばかりにぱんぱんにさせてひっくり返っていた。そんな白蛇様に苦笑いを浮かべると、もぞもぞと身動ぎする。

「お兄さん、聞こえてる?」

返事はないけど、腕に力がこもったから聞こえてるな。よしよし。

「話しづらいなら違う所で話そう?」

背中に回した右手を引き抜いて金の髪をよしよしと撫でると、こくりと頷いた。うーん…相当参ってるね…。

「母ちゃん。ちょっと山の上まで行ってくる」

静かにそう言えば、母ちゃんがキッチンから姿を現した。

「気をつけるんだよ。それとおやつ」
「ありがと」

テーブルに置かれた包みはきっと白蛇様が全部食べちゃったパウンドケーキだろう。それに水筒も一緒に置いてくれた。

「それじゃ、ちょっといってきます」
「ちゃんと帰ってくるんだよ」
「分かってる」

母ちゃんに挨拶をすると、僕はそのままギルバードさんを抱きしめたまま村全体が見渡せる山へと“飛んだ”。
それを父ちゃんと兄ちゃんずが見ているとは気付かずに。


◆ ◆ ◆


“飛んだ”先は山の8合目辺り。ちょっとした丘みたいにしたんだ。ここで晴れた日にお弁当食べるとおいしいから。ここに連れてくるのはギルバードさんが初めてじゃない。
訳あり村という名の通り、ここにはさまざま理由で元いた場所へと帰れなかったりしている人が殆どだ。
主に殺されそうになった人、貴族の権力争いに負けた人、政略結婚から逃れてきた人達など。
ここには心に傷を負った人たちがたくさんいる。
だから人が信じられず、怯えきっている人をここに連れてきて数日過ごさせたりもする。その為にちゃんとログハウスなるものも完備している。もちろん僕作である。
とはいってもちゃんとキッチン、トイレ、風呂、ベッドがある。まぁお風呂はちょっと大きめにしたけど。だって森を見ながらお風呂とかちょっと憧れない?

そんな見晴らしのいい場所へとやって来た僕はとりあえずギルバードさんが落ち着くまでくっついていることにした。今までも兄ちゃんずや父ちゃんから離れたくない、という人がいたからね。
心細かったり、ずっと追われてたりして安心できなかったりするから。
ぎゅうと抱き締めてくるギルバードさんの頭を撫でながら「大丈夫、大丈夫」と言い続ける。すると
にょきっとギルバードさんの頭から白蛇様が現れて僕は驚く。だってなんか殿さまみたいな髪みたいになってるんだもん。
それにくすくすと笑うと、するるとギルバードさんの首へとやんわりと巻き付いた。そして頭を撫でているように舌を動かす白蛇様にほっこりとしてしまう。
すると白蛇様がくすぐったかったのか、僕を抱き締めていた腕から少し力が抜けた。

「落ち着いた?」
「…すまない」

熱い吐息が首筋にかかりぞくぞくとするけど、気にしないことにする。ずっと撫でていた右腕が辛くなってきたから、頭を撫でる代わりに左手で背中を擦る。
とくとく、というギルバードさんの鼓動を聞きながらしばらく抱き合っていると「ありがとう」というお礼の後に、ゆっくりと身体を離していく。今まであった温もりがなくなり、代わりに風が吹き込むとそれが少しだけ寒いと感じる。それ程までに長く抱き合ってたんだな、と思うと頬が熱くなる。

「ライル…」
「どうしたの? お兄さん」

にこりと笑いながらそう言えば、泣きそうな顔をするギルバードさん。するとまた僕をぎゅうと抱き締めてくる。

温かい。

それになんだか安心できる。昨夜一晩抱き締められて寝てたからかな? すり、と胸に頬を擦りよせればギルバードさんも僕の頭に頬を擦りよせた。

「名前は…呼ばないんだな」
「…呼んでほしいなら呼ぶよ」
「…いや、ライルにはお兄さんって呼んでほしい」

ちゅ、とつむじにキスされてふふっと笑えば、ちゅ、ちゅと続けてキスを落とされる。それが何だかくすぐったくて顔を上げれば、綺麗な空色の瞳の中に雨雲が広がっている。

「お兄さん」

腋から両腕を引き抜いて、そっと泣きそうな顔をしているお兄さんの両頬を包む。そう、傷を治そうとした時と同じように。
でも今の傷は僕には治せない。
だから。
瞼を閉じて顔を近付ければ、お兄さんの顔も近付いてくる。そして唇が重なると何度も触れては離れさせる。ちゅ、ちゅというリップ音が羞恥を煽るけど、でも離れるなんてことはできなくて。

「んっ、おにいさ…ンンッ」
「ライル…ライ…」

お互い名前を呼びながら、唇に触れるだけのキスを繰り返す。するとお兄さんの手も僕の頬を包んでくれて、はぅと息を吐けばその吐息がお兄さんに食べられた。

「んぐ…っ!」

唇を吸われ、舐められる。その先の気持ちよさを知っているから僕は口を開けるとすぐに、にゅるりと熱い肉厚のものが侵入してきた。そのまま口腔内を舐め、歯列をなぞったかと思えば最後に僕の舌を絡めとった。僕もお兄さんの舌に必死に絡めていると頬からするりと手が離れ、指先が頬を撫で首筋を撫でる。

「ふぁ…っ、あ、ンっ」
「そう言えば、キスマークなくなってた」
「それは…ぁン、っあ」

舌を離すと、ちゅ、と唇を啄まれた。首筋を何度も上下に指先で撫でられれば、腰に熱が渦巻く。びくりと膝を跳ねさせ、瞼を開けば頬を上気させてじいっと僕を見つめてくる綺麗な空色。その中に雨雲が過ぎ去り赤い夕陽が映りこんでいる事に笑えば、再び唇を奪われる。

「ん、ふぅ…っ! あ、ふ…っ」

今度こそ舌をしっかりと絡められ、吸われ、噛まれる。表面を舐められ送られてくる唾液を必死になって飲み込めば、首筋を撫でていた指先がいつの間にか胸をなぞり腰のラインを撫でていく。

「あ、んんっ…ふ!」

既に息が上がってはいるけど、お兄さんに呼吸を食べられているからうまく酸素が取りこめない。呼吸の仕方が分からない、訳ではない。お兄さんの鼻息が僕の皮膚に当たるからそこで息をしなきゃいけないのは分ってるんだけど、やっぱり恥ずかしくて。

「――…ッ?!」

するとじゅるる、と音を立て唾液をお兄さんに吸われていく。溜まっていた唾液がすっかりなくなったのをお兄さんの舌が確認すると、最後にやっぱりちゅっと唇を吸われ離れていった。
はぅはぅと肩を上下に大きく動かしお兄さんに凭れるように身体を預けると、空色から夕日に変わったその瞳が揺れていた。

「ん…っ! あんん…っ!」

すると身体をなぞっていた指先がするりと腰を周り、尻を掴んでいる。そのまま、やわやわと揉まれる度に「あっ、あっ」と短い声が漏れ出る。もう片方の手は胸を下から上へと揉みあげてくるから、背中が反り胸を突き出してしまう。

「ここ、触ってもいい?」

お兄さんの艶のある声で、耳元で言われれば頷くしかなくて。顔を真っ赤にしながら頷けば、するりと服の中へとその手が入りこむ。

「ふぁ?!」

直接肌を撫でられたその時、またしても温かなものが身体中を巡り始める。

「おにいさ…まりょく…」
「うん、ここまで移動して魔力、使ったでしょ? だから…」

補充、と耳に言葉をねじ込まれればぞくぞくとしたものが背中を駆け抜けていく。お兄さんの魔力が身体をぐるぐる回るだけでもヤバいのに、耳を言葉で愛撫されれば直ぐにイクのは仕方ないことだと思うんだ。
びくびくと身体を跳ねさせ軽くイけば、頭がぼーっとしてくる。きっと今僕は呆けた変な顔しているんだろうけど、お兄さんの瞳の中の夕日が更に赤みを増し喉が上下に動いた。
ああ、なんだか食べられそうだな。
なんてぼんやり思っていれば、首筋に顔が突っ込まれピリリとした痛みが走る。ちゅ、ちゅと唇が移動するたびにその痛みを伴うのが面白くてへらりと笑うけどその顔は見られることもなく。

「ひゃあぁぅ!」

完全に油断していた。首筋の唇に無中になりすぎて、素肌を撫でる手をすっかりと忘れていた。
魔力を纏わせた掌で兄ちゃんずやお兄さんよりも薄い腹を撫でられれば、そこがきゅうんと切なく締め付ける。つつ、と指先を移動させ臍にそれを入れられ魔力を流されればお腹が温かくて、でも切なくて僕はぱくぱくと口を開閉する。

「あァ…ッ! あ、あぁ…ッ!」

はくはくと動く口から出る言葉は一文字しかなくて。魔力を流される気持ちよさと身体を駆け巡る温かのあまりの気持ちよさに顔をあげ喉をさらけ出す。
するとすぐにお兄さんの舌が喉を舐める。きっと飲みきれない唾液が口の端から流れているから、それを舐めとったんだろう。その動きにも身体は反応し、びくびくと肩が、膝が、腰が跳ねる。
靴で隠されている足の指も、きゅうぅと丸まり全身が気持ちいいと訴える。

「やらぁ?! おにいしゃ…?!」

そんな僕に更にお兄さんは露わになった乳首をぱくんと口の中へと入れてしまう。その何とも言えない感覚に下を向けば、夕日に染まったお兄さんの瞳とかちりと合わさる。
その夕日が少し細まったことに、ぞくりと肌が粟立ち次の悲鳴に備える。

「んやああぁぁっ!」

じゅう、と乳首を吸われたかと思えば柔い尻を揉まれ、臍から魔力を注がれる。気持ちいいが身体を支配し、僕はただ喘ぐことしかできない。しかもお兄さんが瞳を細めて笑うからそれだけで気持ちよくて。
頭も真っ白になって、ただ身体がびくびくと跳ねる。開きっぱなしの口からは意味のない声と飲み切れない唾液が溢れ流れ落ちる。けれどさっき舐めとってくれたお兄さんの舌は今、じんじんとする乳首の先をぺろぺろと舐めていて。流れ落ちたそれは服へと染み込んでいく。
冷たくて少し気持ち悪いけど、それ以上にお兄さんに触られるのが気持ちよくて「あ、あ、あ」としか声が発せられない。

「にゃああ! やらぁ…っ! も…ぺろぺろしちゃやらぁ!」

身体をくねらせお兄さんの口から逃れようとするが、そんなことはできる訳がなく。

「ああ…ぅ! やあぁ、ぁン…っ!」

じゅっと乳輪まで食べられ、舌で先端を弾かれる。それにいやいやと首を振ってもそれが逆にお兄さんを興奮せるのか、弾かれていた先端を吸われ尻を揉んでいた指が次第に尻たぶの間へと移動していて。

「おにいしゃ…! おっぱ…すっても、れない…よぉ?」
「じゃあ、出るまで吸ってみる?」
「あ、にゃあぁぁ…ッ!」

にこりと笑うお兄さんの笑顔にどきりと心臓が跳ねるとちゅう、と今度は吸い付きながら痛くないように甘噛みされる。その未知の刺激に僕は腰を震わせイくけどお兄さんはそれに気付かない。
お尻にお兄さんの物が当っていて、ドキドキとするけど僕は最後までできないから。だからせめて。

「おにいしゃ…はしゃむから…」
「ライ?」

もう気持ちいいしか考えられなくてお兄さんのそこに手を乗せれば「っつ」と息を飲んだ。それににこりと笑えば、吸われながらにゅーっと引っ張られる。

「あー! あー! ッん! やあぁ!」

もうダメ。魔力を流され、尻を揉まれながらその間にあるそこを指でぐにぐにと押される。乳首は時折ピリッと痛みが走るがその度に流された魔力がそこへ集まり、じんじんと甘い痒みへと変えていく。それがもどかしくて、はうぅと息を漏らせば今度は吸われる。
髪を振り乱して気持ちいの洪水に飲まれていると、お兄さんの腰がぴくりと動くのをお尻で知ると、逆にぐっとお尻を押し当てる。

「ライ…ッ!」
「ふともも…はしゃむから、ね?」

ああ、もう。気持ちよすぎて舌がうまく回らない。でもお兄さんの魔力はやっぱり気持ちいい。乳首を吸われるのも、お尻を揉まれるのも全部、全部。
はふはふと息を乱しながらこくりと首を傾げれば「ライ…」と名前を呼ばれて僕の胸に顔を埋める。うん、お兄さんに名前呼んでもらうのも好き。大好き。

「おに、しゃ…」
「ちょっと待ってくれ」

言いながら魔力を流していた指を離し、ごそごそと下肢で手を動かしている。けど片手だとうまくいかないようで、僕がそっとお兄さんの下肢に手を伸ばす。そしてボタンを外しジジ、とファスナーを下げるとお兄さんの手が性急に下着からそれを取り出す。
ぶるりとそそり立つそれに僕は知らずこくりと喉を鳴らすと、僕もズボンと下着を脱ごうとするけど足に力が入らなくて「どうしよう」とお兄さんに訴えれば、ふーふーと荒い息を吐く姿はまるでご飯を前にした魔物のようで。でもそんなお兄さんに興奮しちゃう僕も僕だけど。

「膝で立って」
「ん…」

お兄さんに腰を支えられながら震える膝を叱咤しながら地面につけると、ずるりとズボンと下着を腿の辺りまで降ろされた。

「ライ?」
「あんま…みないで…はじゅかしい、から…」

お兄さんの目の前に晒された僕の下肢はなんの反応もせずただ、力なく垂れさがっているだけ。それが恥ずかしくて「みちゃやら…」と涙目で告げれば、お兄さんの手が力なく垂れているそれを掴む。

「…可愛い」
「かわいくない」

ふっと笑うお兄さんに、熱い頬がもっと熱くなる。
これについては説明しなきゃならないかな?と、ちらっとお兄さんを見れば「うん、可愛い」と口元を緩めているだけ。僕も脱ぐとは思ってなかったからさ、ともごもごと口を動かしているとその唇にちゅっとキスされた。

「太腿、挟んでくれるんだっけ?」

ぎらりと光るお兄さんの夕焼け色の瞳に僕はこくりと頷けば、どくどくと脈打ち、ぷくりと液を流しているそれに視線がいってしまう。

「その前に片足持ち上げられるか?」
「しゃしゃえてて…くれるなら…」
「よし、なら肩に手を置いて」

お兄さんに言われるまま肩に手を置くと、ずるりと勢いよくそれらが脱がされた。途端に感じる空気に羞恥が襲う。
もじもじと内股にして力なく垂れさがっているそれを隠そうとするが腰の支えをなくし、かくんと身体が重力に従い下へと落ちる。

「あ…っ」

とすんと落ちたと思ったらくるりと視界が反転し、背中に感じる地面にぱちりと瞬きを一つ。僕を見下ろしてくるお兄さんの顔があるから、どうやら僕は寝転がっているらしい。頬に触れる草がくすぐったい。

「ライ」
「…おに、しゃ…」

膝を合わせたところでお兄さんの手がそのまま固定すると、にゅる、と舌よりも、唇よりも体温よりも少し熱いどくどくと脈打ったものが太腿に挿入された。それだけで僕はびくんと身体を跳ねさせると「可愛い」という言葉が降ってきた。
恥ずかしくて顔を覆えば手首をやんわりと掴まれ、そっと外された。

「ライの可愛い顔、見せて」
「ううう…」

お兄さんの言葉は魔法みたいだ。
言われるとしなきゃいけないような気がして、ゆっくりと顔から手を離していく。その間じっと僕を見ていたらしいお兄さんの夕日色の瞳が揺らいだ。「あ」と思ったらそのままキスをされる。
キスって気持ちいいんだね。体中を触られるのも気持ちいいけど。
そんなこと考えられなかったし。
ちゅ、ちゅと触れては離れるキス、すごく好き。舌を絡めて呼吸を奪い合いような激しいキスも好きだけど、こういうキスもいいな。
前は経験できなかったことを今はたくさん経験できるのも嬉しい。
ふふっと思わず笑えば、前髪をくしゃりと撫でられた。

「どうした?」
「おにいしゃんとのキス、うれしくてきもちいいから」

幸せだな、って。
そう自然と言葉が出ていた。

その言葉に驚いたのは僕とお兄さん。夕日色の瞳が大きく見開かれた後、すぐに戻っちゃったけどその顔はとても嬉しそうで。

「ん、おにいしゃ…うごいてよ」
「…分かった」

両手を伸ばして「いいよ」と態度で示せば、お兄さんのそれがびくびくと震え大きくなった。うん、お兄さんのそれ、おっきいね。まだ大きくなるとか言わないよね?前の僕のものもそこまで「ご立派」ではなかったけど、お兄さんのは「ヒョオォォ! スッゲー!」というレベルだ。
これ受け入れる女性は大変だろうな、なんて太腿に挟まるそれを感じながらじぃっとそれを見れば、視界がお兄さんでいっぱいになった。

「ライ。そんなにこれが気になる?」
「ん…ぼくのとはぜんぜんちがう、から」

素直にそう言えば「ははっ」とお兄さんが笑う。そしてキスを落とされると、ずるりと腰を引かれた。

「あぁ…っ?!」
「じゃあ、これでライを可愛がってあげるから、ね?」

ちゅ、ちゅと頬にキスをされながら、甘く蕩ける声で囁かれたら僕はもうただされるがままになるしかなくて。

「んっ、おに…しゃ…んぅ!」
「可愛い、ライ。可愛い」

ゆっくりと腰を動かし始めたお兄さんに「きもちい?」と聞けば「もちろん」と返ってきたことに、ほっとする。僕の太腿ってあんまりお肉がついてないからさ。むちむちした太腿ならもっと気持ちいいのかな?

「ふにゃ?!」
「何考えてるの?」
「にゃ、にも…ぉ! やぁ…ッ、んんっ!」

お兄さんのそれが僕の力ないそれをずりゅ、と擦るからびくん、と膝が跳ねた。それにふ、と笑うお兄さんの顔が興奮してるのか頬が上気している。僕で欲情するなんて、って昨日思ったけど欲情してくれたことが嬉しく思うなんて。
ただこれが傷を癒すだけのものだとしても、僕は嬉しいから。
両腕をお兄さんの首に絡ませ引き寄せれば、首筋に吸い込まれていった。そのままちゅ、ちゅとキスされては吸われる。腰を動かしながら僕のものも一緒に可愛がってくれるお兄さんにしがみついて、ただ僕は嬌声を上げるだけ。

「おに…おにぃしゃ…ぁ! あっ、あっ!」
「ライ、ライル」

頭を撫でられながら魔力を与えられれば、びくびくと腰が跳ねる。散々いじめられた乳首もじんじんとして物足りなくなってる。どうしよう。気持ちいいけど、なんだか胸もぱくりと口開くそこも物足りない。でも、最後まではできないから。
でも。

「きもちぃ…きもちいい…」
「ライ?」

気持ちがいい。うん、お兄さんに与えられるもの、全部が気持ちいい。
耳の後ろにキスしていたお兄さんの唇が耳に触れた時、びりびりとしたものが身体を駆け抜ける。

「おにいしゃ…きもちいい」
「……俺も気持ちいいよ。ライ」

お兄さんの少しの躊躇いは僕に向けたものか、それとも亡くした友へ向けたものか。
今はそんなことは考えないでおこう。ただ、気持ちいいを追いかけよう。

「にゅるにゅる…きもちい…。また、からだ…っあ、びくびくしちゃう…!」
「ん、俺もイきそう」

はっはっ、と荒い息を繰り返すお兄さんの声が少し切羽詰まっているようで、僕はきゅっと太腿に力を入れてお兄さんのものに圧を加えれば「っつ、ライ!」と苛立ったような声を上げた。
それにふふっと笑ってお兄さんの耳元で「イこう?」と僕もびっくりするくらいの甘く、媚びた声で囁けばお兄さんが「ごくり」とつばを飲み込んだ。

「あっ、おに…おにいしゃ…ぁ!」
「…っつ! ライ…、ライ…っ!」

僕の名前を呼びながら、ズッ、と腰を付き入れたその瞬間、びゅるると白濁の液が剥きだしの胸へとかかる。熱いそれと雄の匂いに僕も「んは、あぁああっ!」と全身を震わせて絶頂した。


◆ ◆ ◆


「…ライルの魔力が乱れている」
「くっそ! だから魔力を渡すなと…!」

水晶でライルの魔力を感知していた私たちはライルとギルバードが何をしているのか察することができた。
ユリウスはバシッと拳を掌に打ち付け、苛立ちを隠そうともしない。私も苛立ってはいるがライルがそれを望むならば止めはしない。ただ、ライルが「嫌」だと思っていて無理矢理そうなっているのならば容赦はしないが。
かちゃ、と落ち着かせる為に眼鏡を中指で押し上げると、団長が腕を組んだままじっと水晶を見つめているのを視界にとらえた。
するとその水晶が淡く光ったのを見て、ユリウスと団長が息を飲んだ。

「…少し破られたようです。いかがしますか。団長」
「………」

ユリウスも団長を見て言葉を待っていると、団長が口を開いた。

「リリス様の仰ったとおりになり始めたか…。まさか奴が『運命の鍵』を握っているとはな」

団長のどこか落胆にも似た声に私たちは何も言えず。けれど団長の顔は既に覚悟を決めていて。
いや、この村を見つけた時から…ライルを見た時から覚悟は決まっているのだ。

「村の連中に知らせろ。奴が『運命の鍵』を握るものだと」
「はっ」

団長の言葉にユリウスと共に返事を返すとすぐさま緊急用のデンワという魔道具を使い、村中の仲間たちへと団長の言葉を告げた。


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姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

【完結】王子様の婚約者になった僕の話

うらひと
BL
ひょんな事から第3王子のエドワードの婚約者になってしまったアンドル。 容姿端麗でマナーも頭も良いと評判エドワード王子なのに、僕に対しては嘘をついたり、ちょっとおかしい。その内エドワード王子を好きな同級生から意地悪をされたり、一切話す事や会う事も無くなったりするけれど….どうやら王子は僕の事が好きみたい。 婚約者の主人公を好きすぎる、容姿端麗な王子のハートフル変態物語です。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】予想外の異世界で俺は第二の人生を生きることになった

オレンジペコ
BL
死のうと思っていたのに、何故か異世界に召喚された主人公のお話です。 初投稿です。 誤字脱字報告は嬉しいですが、感想はお手柔らかにお願いいたします。 R-18は保険。 そのうちそういうシーンが入るかな~という希望的観測です。 予めご了承ください。 ***** アクアブロンシュタルト王国に突如訪れた悲劇。 氷漬けにされた国王や重鎮達。 一体誰が何の目的でそんなことをしたのか? これはそんな不幸に見舞われ、父の跡を継いで急遽宰相職に就いた男と、 召喚で呼び出されたはいいものの、仲間だったはずの聖女に逃げられて日本に帰れなくなった勇者と、 そんな二人を仕方がないなぁと思いつつ手助けすることになった主人公のとりとめのない話である。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

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