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chapter.19
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「…なんで大事な話の時に限って発情すんだよ!」
「ごごごごめんって!」
あれから記憶が飛び飛びになった俺は、案の定気を失ったらしい。
飛んでいる記憶の中に、恒晟と碧斗とのにゃんにゃんしたものがあるから、恐らくはそういうことだろう。
なんかもう複数プレイが当たり前になってしまった…。
それに。
「どうしたの?」
「なんていうか…間接的にお前とセックスしたんだなーって思うと…うん」
「あー…」
北斗のちんこを咥え、腰を振っていたことを思い出し死にたくなる。
なにしてんだよ。マジで。
「でも暁のちんちんみるく、甘くておいしかったよ?」
「そういうことを言わない!」
だぁん!と座卓を拳で叩けば、ツネ子さんに睨まれた。
それに土下座で「ごめんなさい」をすれば、茶菓子をおまけしてくれた。
完全に小さい子供扱い。
しょもりと肩を落としながら茶菓子をもそもそと口にすれば「九尾様」とツネ子さんが北斗を見つめる。
「今のは九尾様がいけません」
「ご、ごめんなさい」
ぴしゃりとツネ子さんに言われて、北斗も頭を下げるとキヌさんがお茶菓子を置いている。
北斗も同じような扱いで安心したわ。
「でも、暁は僕のちんちんみるく美味しくなかった?」
「んげふぅ!」
ず、とお茶をすすっていた俺は、北斗のその言葉に勢いよく茶を吹き出すとツネ子さんがそれを無言でささっと拭いていく。
「お前な!」
「えー? だって暁のちんちんみるく甘くてさー、こう…ちょっと濃厚でおいしか…」
「おい! やめろ!」
咳き込んで顔が赤いまま、とんでもないことをいう北斗。それに噛みついたことはいいけど、きょとんとしている北斗に怒りは持続しない。
「異種族のちんちんみるくってあんなに甘くておいしいんだね♡」
「……………」
うふふと笑う北斗に、完全に怒りが飛んで行った。もうやだ。
「でも暁もそうじゃないの?」
「………ぅ゙」
じぃっと見つめてくる瞳に少しだけ後ずさると、さっと視線を逸らす。
まぁ、確かにあいつらのザーメンは甘くてうまい。だからこそ「もっとちょうだい」になるわけで。
「でもやっぱり危険だよね。異種族の体液って」
「まぁ…うん」
「それに媚薬効果も桁違いだし」
「うん?」
今、なんかさらっととんでもないことを言われたような…?
「北斗」
「うん? なぁに?」
ぴこぴこと耳を動かしながら茶菓子をぽいっと口の中へと茶菓子を放り込む北斗に、キヌさんからの鋭い視線が刺さる。
「…はしたないですよ。九尾様」
「んぐ。ごめんって。キヌ」
ツネ子さんとは違い、キヌさんとは仲がいいようだ。
だからツネ子さんとキヌさんの態度の違いは何なんだよ!
「九尾様。暁様が聞きたいことがあるようですので、先にそちらにお答えください」
「…はい。おばあ様」
「んんっ!」
しょんと耳と尻尾を下げる北斗と、ツネ子さんを交互に見れば「ああ。そうでした」と上品にツネ子さんが笑う。
「九尾様はわたくしの孫ですのよ」
「マジかよ!」
「はい。キヌは九尾様の妹でございます」
「おっふ」
だからとんでもないことをさらっと言うのやめてもらえませんかね?!
「つか、北斗の祖母ってことは…?!」
「うん。父さんは九尾を僕に譲ってさっさと引退した」
「おうふ」
だからツネ子さんの言うことはよく聞くのか。
身体を小さくして事情を話す北斗。だからこいつが里長になってるのか。納得。
「じゃねぇ! 催淫効果って何のことだよ!」
ばぁん!と今度は手の平で座卓を叩けば、キヌさんの肩が小さく跳ねた。
あ、ごめん。
「そうそう。それを言おうとしたら僕が発情しちゃったんだっけ」
「そういう大事なことは早く言え!」
がるると北斗に噛みつけば「ごめん、ごめん」と笑っている。
ちなみに斗真と三人は二つ隣の部屋で待機中である。
「だって…。まさか暁の『匂い』がこんなにも相性いいとは思わなくてさ…」
なぜか頬を染めながら、両人差し指をちょんちょんと突く北斗が可愛くて思わず「ん゙っ」と唸ったことは許してほしい。
「異種族…人間っておもしろい動きをなさるのね…」
ぱちぱちと瞬きを繰り返すキヌさんに、違うと言おうと思ったがなんとなくそのままの方が面白そうなので黙っておく。
「キヌ。人間じゃなくて、暁の動き“が”面白いんだよ」
「そうなのですか。兄様」
「そうだよー」
ふふふーとほんわかと話す兄妹を見ながら、ツネ子さんがくれた茶菓子を口に放り込む。
「つか。催淫効果って番にしか効果ないのか?」
「普通はね。どこにだって例外はあるでしょ?」
「まぁ…」
そういえば同性同士の番は数百年ぶりだっていってたしな。それの影響なのか?
「あ、そうだ。なぁ、北斗」
「なに?」
尻尾を左右に振り振りしている北斗にふと違和感を抱く。
「…お前の尻尾、二つだっけ?」
「あ、これ?」
違和感を言葉にすれば、尻尾をさらに振ってくれる。
「なんかね、暁のちんちんみるく飲んだら霊力がすごくてさ」
「はい待った。霊力とは?」
もうこの際、ちんちんみるくのことについては放置しよう。何度も言われるうちに羞恥など吹っ飛んだ。
「僕らはそもそも『霊力』の多さに比例して人型になれるんだ」
「んじゃ、お前の『霊力』は多い、と」
「そうだね。父から『九尾』を受け継いだから、っていうのもあるんだけど…」
そこまで告げると、わざとらしく視線を逸らす。
「暁を『こっち』に呼んだら『霊力』をほぼ使い果たしちゃって…えと…」
「だから尻尾が少ない、と」
「はい」
しょん、と耳とさっきまで元気よく振っていた尻尾を垂らす。
きゅーん…と叱られた犬のようで頭を撫でたくなるが、我慢だ。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ばっと北斗が顔を上げる。
「でもね。暁と斗真のおかげで少しずつ『霊力』は戻ってるんだ!」
「九尾様。斗真の『霊力』はお子を成すために必要なので、ほぼ暁様の『霊力』でございますよ」
「え? そうなんですか?」
「そうでございます」
「お前も案外適当だよな」
あははと笑えば、北斗の頬が羞恥で赤く染まる。
そうかー。北斗の『霊力』は殆ど俺のちんちんみるくから摂取してるのかー。
どんなクソゲーだよ。
ふふっと現実逃避をかましていると「それで、何か聞きたかったんじゃないの?」と首を傾げる北斗。
「あ、そうそう。母さんとか父さんとか心配してないのかなって」
「ご家族のことなら心配ないよ」
「…ならいいんだけど」
誘拐ともいえる手段で恐らくは碧斗が連れてきたんだろうけど、こっちに来てから向こうだと騒ぎになってないかなって思ってたんだよ。
元居たとこはきっと大変なことになってるだろうから。
「あー…できれば早く発見されてるといいな」
「? なんのこと?」
「うん? ああ、俺の死体のことだよ。一週間とかなら既に発見されてるとは思うんだけどさ」
「そのことなんだけどさ…」
「うん」
えーっと、と何やら言いにくそうに視線をまたしてもそらしている北斗に、半眼で「早く言え」と圧をかけてみる。
すると「分かったからそんな可愛い顔しちゃダメだよ!」と顔を両手で覆って尻尾と共に、左右に揺れる。
な、なんなんだ?
どういうこと?とツネ子さんを見れば、またもや袖で鼻を覆っている。
あれ?! デジャヴ?!
「北斗?! 落ち着け?!」
「お、落ち着いてるよー…!」
「どこが?!」
キヌさんも、そそっと少し距離を取ってるけど昨日みたいな『匂い』は漂ってこない。
北斗は悶えたままだけど。
どうしたらいい?ってツネ子さんに視線で問えば、すいっと視線が廊下に向いた。
もしかして?
「斗真!」
「九尾様?!」
俺の呼びかけにすぱーん!と勢いよく障子を開けて中に入ってくる斗真に、北斗がびくりと肩を震わせる。
そんな北斗の肩を抱く斗真を見ていると、後ろから俺も抱きしめられた。
「何かあった?」
「なんか北斗が悶えてたから」
「ああ。暁が可愛いことしたからだろう」
「その可愛い事って何なの?」
ちゅ、ちゅとこめかみから頭に向かってキスを降らす恒晟に問いかけてみた。
「そういうところ、かな?」
「だからわっかんねぇんだって!」
キスに夢中な恒晟の代わりに碧斗が答えてくれたけど、やっぱり分からなくて。
むがー!と怒ってみたけど、やっぱり返ってきた言葉は「可愛い」で。
そんな俺たちをツネ子さんとキヌさんがくすくすと笑っている。
北斗が悶え終えるのはいつだろうか、と思いながら三人からの好き好き攻撃を受けていた。
「ごめんね。暁」
「いや、いいんだけどさ」
こほんと軽く咳払いをする北斗の後ろには斗真とキヌさん。
俺の後ろには樹享、碧斗、恒晟。隣にはツネ子さんがいる。
ツネ子さんは三人が俺に襲い掛からないようにストッパーを買って出てくれた。それに北斗も「その方がいいかも」と言ってくれたからそうしてるんだけど…。
「ツネ子さんの無限茶菓子編が今も続いている…」
「暁様にはもっと食べていただいて、元気なお子を最低でも三匹は産んでいただかねばなりませんからね」
「んげふ」
ほほほと笑うツネ子さんのとんでも発言に、口にしていた栗まんじゅうを喉に詰まらせる。
どんどんと胸を叩いてお茶で流せば、背中を三人がさすってくれていて…。
耳と尻尾を下げて「大丈夫か」と訴えてくる三人に「んぐぅ」と息を詰まらせれば「あらあら」とツネ子さんが笑う。
「というか最低でも三匹とは…?」
「だって暁の番、三人いるからね」
そうにっこりと笑う北斗に「そうだすね」と答えると、後ろからぶおんぶおん風を切る音が聞こえる。
すげぇ喜んでる。
「それよりなんだっけ?」
「ああ、そうだ。俺の今の家族ってどうなってんのかなって」
そう。あっちの俺は最悪もう火葬されて骨になっている可能性がある。
…大変親不孝者でした。ごめん。父さん、母さん。
そんな親不孝者な俺はこっちでも親不孝なんだろう。
なんせ狐の里にいるからな。
あっちの家族みたいに『死んだ』報告ではなく『元気』にやってるぞ、という報告をしたいわけで。
「君の家族…というより君たちの家族は問題ないよ」
「と、いうと?」
「『この世界』は狐の嫁入り、もしくは狐に導かれて神隠しにあうことがとても幸福なことだと知らせてあるからね」
「…それはそれでどうなんだ?」
つまりは神隠しにあった方が幸福ってことだろ?
人一人いなくなる方が幸福とはこれまた。
「暁の世界ではどうかは分からないけど『この世界』は『そう』なんだ。暁が気に病むことじゃないよ」
「なら、父さんも母さんも幸せ、なのか?」
「そうだね」
にこりと笑う北斗を見て、少しの寂しさがないといえばウソになる。
けれど北斗がそう言うのならそうなのだろう。
「じゃあ、心配はないんだな?」
「うん。問題ないよ」
「そっか」
「それに、君たち家族には狐族が味方に付くんだ。この先『幸福』しかないから安心してね?」
「ありがとな」
「いえいえ。どういたしまして」
ふふーっと笑う北斗にほっと息を一つ落とすと、ツネ子さんから茶菓子を受け取る。
「大丈夫ですよ。暁様」
「うん。ありがとう。ツネ子さん」
受け取った茶菓子をもふりと口にすれば、じんわりとなぜか涙が溢れだしてきて。
「暁?!」
訳も分からずぽろぽろと涙を流す俺を抱きしめてくれたのは三人で。
「ごめん…なんで、涙が…?」
「きっとご家族のことで安心したんだよ」
「うん。暁は家族思いだったからね」
「泣け。悲しくなるまで泣け」
ぎゅうと三人に抱きしめられながら優しく声をかけられたところで、俺の涙腺は決壊した。
碧斗の胸に顔を埋めて、子供のようにわんわんと声も殺さずに泣けば頭を撫でてくれて。
ふんわりとした尻尾でも慰められて、子供の様に泣きじゃくった。
「暁。大丈夫だからね」
「うん」
北斗の声を聞きながら、三人の匂いに安心して。
これで『家族』を悲しませないですむと。
泣きじゃくった俺はそのまま三人とふかふかの尻尾に包まれながら優しく寝かしつけられて。
「目が覚めたら、いつも通りだよ。だから安心してお休み」
そっと北斗の手の平が瞼に乗せられた、と思った時にはすでにうとうととしていた俺はそのままゆっくりと瞼を完全に閉じたのだった。
「お休み。目が覚めたら『この世界』は隔離されてるからね」
北斗の声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだと思った俺は意識をすとんと落とした。
すやすやと子供の様に眠る暁を見て少しだけ胸が痛む。
「九尾様」
「大丈夫。時間がかかっちゃったけど問題ないよ。君たちもお疲れ様」
「いえ」
暁を尻尾の上に乗せたまま三人が頭を下げる。
「九尾様。これで…」
じぃっと僕を見つめる斗真の瞳には期待の色が広がっていて。
それにこくりと頷くと、斗真も三人もほっと息を吐いた。
「これで暁は完全にこちらの世界に閉じ込められたよ。もう…何にも縛られない」
僕の言葉に祖母も、妹も、そして斗真も頭を下げる。
「あとは…暁の甘くて濃厚なちんちんみるくを貰って霊力を回復させるだけだね」
大仕事を終えた僕の言葉に、その場にいた全員の肩が小さく震えた。
「ごごごごめんって!」
あれから記憶が飛び飛びになった俺は、案の定気を失ったらしい。
飛んでいる記憶の中に、恒晟と碧斗とのにゃんにゃんしたものがあるから、恐らくはそういうことだろう。
なんかもう複数プレイが当たり前になってしまった…。
それに。
「どうしたの?」
「なんていうか…間接的にお前とセックスしたんだなーって思うと…うん」
「あー…」
北斗のちんこを咥え、腰を振っていたことを思い出し死にたくなる。
なにしてんだよ。マジで。
「でも暁のちんちんみるく、甘くておいしかったよ?」
「そういうことを言わない!」
だぁん!と座卓を拳で叩けば、ツネ子さんに睨まれた。
それに土下座で「ごめんなさい」をすれば、茶菓子をおまけしてくれた。
完全に小さい子供扱い。
しょもりと肩を落としながら茶菓子をもそもそと口にすれば「九尾様」とツネ子さんが北斗を見つめる。
「今のは九尾様がいけません」
「ご、ごめんなさい」
ぴしゃりとツネ子さんに言われて、北斗も頭を下げるとキヌさんがお茶菓子を置いている。
北斗も同じような扱いで安心したわ。
「でも、暁は僕のちんちんみるく美味しくなかった?」
「んげふぅ!」
ず、とお茶をすすっていた俺は、北斗のその言葉に勢いよく茶を吹き出すとツネ子さんがそれを無言でささっと拭いていく。
「お前な!」
「えー? だって暁のちんちんみるく甘くてさー、こう…ちょっと濃厚でおいしか…」
「おい! やめろ!」
咳き込んで顔が赤いまま、とんでもないことをいう北斗。それに噛みついたことはいいけど、きょとんとしている北斗に怒りは持続しない。
「異種族のちんちんみるくってあんなに甘くておいしいんだね♡」
「……………」
うふふと笑う北斗に、完全に怒りが飛んで行った。もうやだ。
「でも暁もそうじゃないの?」
「………ぅ゙」
じぃっと見つめてくる瞳に少しだけ後ずさると、さっと視線を逸らす。
まぁ、確かにあいつらのザーメンは甘くてうまい。だからこそ「もっとちょうだい」になるわけで。
「でもやっぱり危険だよね。異種族の体液って」
「まぁ…うん」
「それに媚薬効果も桁違いだし」
「うん?」
今、なんかさらっととんでもないことを言われたような…?
「北斗」
「うん? なぁに?」
ぴこぴこと耳を動かしながら茶菓子をぽいっと口の中へと茶菓子を放り込む北斗に、キヌさんからの鋭い視線が刺さる。
「…はしたないですよ。九尾様」
「んぐ。ごめんって。キヌ」
ツネ子さんとは違い、キヌさんとは仲がいいようだ。
だからツネ子さんとキヌさんの態度の違いは何なんだよ!
「九尾様。暁様が聞きたいことがあるようですので、先にそちらにお答えください」
「…はい。おばあ様」
「んんっ!」
しょんと耳と尻尾を下げる北斗と、ツネ子さんを交互に見れば「ああ。そうでした」と上品にツネ子さんが笑う。
「九尾様はわたくしの孫ですのよ」
「マジかよ!」
「はい。キヌは九尾様の妹でございます」
「おっふ」
だからとんでもないことをさらっと言うのやめてもらえませんかね?!
「つか、北斗の祖母ってことは…?!」
「うん。父さんは九尾を僕に譲ってさっさと引退した」
「おうふ」
だからツネ子さんの言うことはよく聞くのか。
身体を小さくして事情を話す北斗。だからこいつが里長になってるのか。納得。
「じゃねぇ! 催淫効果って何のことだよ!」
ばぁん!と今度は手の平で座卓を叩けば、キヌさんの肩が小さく跳ねた。
あ、ごめん。
「そうそう。それを言おうとしたら僕が発情しちゃったんだっけ」
「そういう大事なことは早く言え!」
がるると北斗に噛みつけば「ごめん、ごめん」と笑っている。
ちなみに斗真と三人は二つ隣の部屋で待機中である。
「だって…。まさか暁の『匂い』がこんなにも相性いいとは思わなくてさ…」
なぜか頬を染めながら、両人差し指をちょんちょんと突く北斗が可愛くて思わず「ん゙っ」と唸ったことは許してほしい。
「異種族…人間っておもしろい動きをなさるのね…」
ぱちぱちと瞬きを繰り返すキヌさんに、違うと言おうと思ったがなんとなくそのままの方が面白そうなので黙っておく。
「キヌ。人間じゃなくて、暁の動き“が”面白いんだよ」
「そうなのですか。兄様」
「そうだよー」
ふふふーとほんわかと話す兄妹を見ながら、ツネ子さんがくれた茶菓子を口に放り込む。
「つか。催淫効果って番にしか効果ないのか?」
「普通はね。どこにだって例外はあるでしょ?」
「まぁ…」
そういえば同性同士の番は数百年ぶりだっていってたしな。それの影響なのか?
「あ、そうだ。なぁ、北斗」
「なに?」
尻尾を左右に振り振りしている北斗にふと違和感を抱く。
「…お前の尻尾、二つだっけ?」
「あ、これ?」
違和感を言葉にすれば、尻尾をさらに振ってくれる。
「なんかね、暁のちんちんみるく飲んだら霊力がすごくてさ」
「はい待った。霊力とは?」
もうこの際、ちんちんみるくのことについては放置しよう。何度も言われるうちに羞恥など吹っ飛んだ。
「僕らはそもそも『霊力』の多さに比例して人型になれるんだ」
「んじゃ、お前の『霊力』は多い、と」
「そうだね。父から『九尾』を受け継いだから、っていうのもあるんだけど…」
そこまで告げると、わざとらしく視線を逸らす。
「暁を『こっち』に呼んだら『霊力』をほぼ使い果たしちゃって…えと…」
「だから尻尾が少ない、と」
「はい」
しょん、と耳とさっきまで元気よく振っていた尻尾を垂らす。
きゅーん…と叱られた犬のようで頭を撫でたくなるが、我慢だ。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ばっと北斗が顔を上げる。
「でもね。暁と斗真のおかげで少しずつ『霊力』は戻ってるんだ!」
「九尾様。斗真の『霊力』はお子を成すために必要なので、ほぼ暁様の『霊力』でございますよ」
「え? そうなんですか?」
「そうでございます」
「お前も案外適当だよな」
あははと笑えば、北斗の頬が羞恥で赤く染まる。
そうかー。北斗の『霊力』は殆ど俺のちんちんみるくから摂取してるのかー。
どんなクソゲーだよ。
ふふっと現実逃避をかましていると「それで、何か聞きたかったんじゃないの?」と首を傾げる北斗。
「あ、そうそう。母さんとか父さんとか心配してないのかなって」
「ご家族のことなら心配ないよ」
「…ならいいんだけど」
誘拐ともいえる手段で恐らくは碧斗が連れてきたんだろうけど、こっちに来てから向こうだと騒ぎになってないかなって思ってたんだよ。
元居たとこはきっと大変なことになってるだろうから。
「あー…できれば早く発見されてるといいな」
「? なんのこと?」
「うん? ああ、俺の死体のことだよ。一週間とかなら既に発見されてるとは思うんだけどさ」
「そのことなんだけどさ…」
「うん」
えーっと、と何やら言いにくそうに視線をまたしてもそらしている北斗に、半眼で「早く言え」と圧をかけてみる。
すると「分かったからそんな可愛い顔しちゃダメだよ!」と顔を両手で覆って尻尾と共に、左右に揺れる。
な、なんなんだ?
どういうこと?とツネ子さんを見れば、またもや袖で鼻を覆っている。
あれ?! デジャヴ?!
「北斗?! 落ち着け?!」
「お、落ち着いてるよー…!」
「どこが?!」
キヌさんも、そそっと少し距離を取ってるけど昨日みたいな『匂い』は漂ってこない。
北斗は悶えたままだけど。
どうしたらいい?ってツネ子さんに視線で問えば、すいっと視線が廊下に向いた。
もしかして?
「斗真!」
「九尾様?!」
俺の呼びかけにすぱーん!と勢いよく障子を開けて中に入ってくる斗真に、北斗がびくりと肩を震わせる。
そんな北斗の肩を抱く斗真を見ていると、後ろから俺も抱きしめられた。
「何かあった?」
「なんか北斗が悶えてたから」
「ああ。暁が可愛いことしたからだろう」
「その可愛い事って何なの?」
ちゅ、ちゅとこめかみから頭に向かってキスを降らす恒晟に問いかけてみた。
「そういうところ、かな?」
「だからわっかんねぇんだって!」
キスに夢中な恒晟の代わりに碧斗が答えてくれたけど、やっぱり分からなくて。
むがー!と怒ってみたけど、やっぱり返ってきた言葉は「可愛い」で。
そんな俺たちをツネ子さんとキヌさんがくすくすと笑っている。
北斗が悶え終えるのはいつだろうか、と思いながら三人からの好き好き攻撃を受けていた。
「ごめんね。暁」
「いや、いいんだけどさ」
こほんと軽く咳払いをする北斗の後ろには斗真とキヌさん。
俺の後ろには樹享、碧斗、恒晟。隣にはツネ子さんがいる。
ツネ子さんは三人が俺に襲い掛からないようにストッパーを買って出てくれた。それに北斗も「その方がいいかも」と言ってくれたからそうしてるんだけど…。
「ツネ子さんの無限茶菓子編が今も続いている…」
「暁様にはもっと食べていただいて、元気なお子を最低でも三匹は産んでいただかねばなりませんからね」
「んげふ」
ほほほと笑うツネ子さんのとんでも発言に、口にしていた栗まんじゅうを喉に詰まらせる。
どんどんと胸を叩いてお茶で流せば、背中を三人がさすってくれていて…。
耳と尻尾を下げて「大丈夫か」と訴えてくる三人に「んぐぅ」と息を詰まらせれば「あらあら」とツネ子さんが笑う。
「というか最低でも三匹とは…?」
「だって暁の番、三人いるからね」
そうにっこりと笑う北斗に「そうだすね」と答えると、後ろからぶおんぶおん風を切る音が聞こえる。
すげぇ喜んでる。
「それよりなんだっけ?」
「ああ、そうだ。俺の今の家族ってどうなってんのかなって」
そう。あっちの俺は最悪もう火葬されて骨になっている可能性がある。
…大変親不孝者でした。ごめん。父さん、母さん。
そんな親不孝者な俺はこっちでも親不孝なんだろう。
なんせ狐の里にいるからな。
あっちの家族みたいに『死んだ』報告ではなく『元気』にやってるぞ、という報告をしたいわけで。
「君の家族…というより君たちの家族は問題ないよ」
「と、いうと?」
「『この世界』は狐の嫁入り、もしくは狐に導かれて神隠しにあうことがとても幸福なことだと知らせてあるからね」
「…それはそれでどうなんだ?」
つまりは神隠しにあった方が幸福ってことだろ?
人一人いなくなる方が幸福とはこれまた。
「暁の世界ではどうかは分からないけど『この世界』は『そう』なんだ。暁が気に病むことじゃないよ」
「なら、父さんも母さんも幸せ、なのか?」
「そうだね」
にこりと笑う北斗を見て、少しの寂しさがないといえばウソになる。
けれど北斗がそう言うのならそうなのだろう。
「じゃあ、心配はないんだな?」
「うん。問題ないよ」
「そっか」
「それに、君たち家族には狐族が味方に付くんだ。この先『幸福』しかないから安心してね?」
「ありがとな」
「いえいえ。どういたしまして」
ふふーっと笑う北斗にほっと息を一つ落とすと、ツネ子さんから茶菓子を受け取る。
「大丈夫ですよ。暁様」
「うん。ありがとう。ツネ子さん」
受け取った茶菓子をもふりと口にすれば、じんわりとなぜか涙が溢れだしてきて。
「暁?!」
訳も分からずぽろぽろと涙を流す俺を抱きしめてくれたのは三人で。
「ごめん…なんで、涙が…?」
「きっとご家族のことで安心したんだよ」
「うん。暁は家族思いだったからね」
「泣け。悲しくなるまで泣け」
ぎゅうと三人に抱きしめられながら優しく声をかけられたところで、俺の涙腺は決壊した。
碧斗の胸に顔を埋めて、子供のようにわんわんと声も殺さずに泣けば頭を撫でてくれて。
ふんわりとした尻尾でも慰められて、子供の様に泣きじゃくった。
「暁。大丈夫だからね」
「うん」
北斗の声を聞きながら、三人の匂いに安心して。
これで『家族』を悲しませないですむと。
泣きじゃくった俺はそのまま三人とふかふかの尻尾に包まれながら優しく寝かしつけられて。
「目が覚めたら、いつも通りだよ。だから安心してお休み」
そっと北斗の手の平が瞼に乗せられた、と思った時にはすでにうとうととしていた俺はそのままゆっくりと瞼を完全に閉じたのだった。
「お休み。目が覚めたら『この世界』は隔離されてるからね」
北斗の声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだと思った俺は意識をすとんと落とした。
すやすやと子供の様に眠る暁を見て少しだけ胸が痛む。
「九尾様」
「大丈夫。時間がかかっちゃったけど問題ないよ。君たちもお疲れ様」
「いえ」
暁を尻尾の上に乗せたまま三人が頭を下げる。
「九尾様。これで…」
じぃっと僕を見つめる斗真の瞳には期待の色が広がっていて。
それにこくりと頷くと、斗真も三人もほっと息を吐いた。
「これで暁は完全にこちらの世界に閉じ込められたよ。もう…何にも縛られない」
僕の言葉に祖母も、妹も、そして斗真も頭を下げる。
「あとは…暁の甘くて濃厚なちんちんみるくを貰って霊力を回復させるだけだね」
大仕事を終えた僕の言葉に、その場にいた全員の肩が小さく震えた。
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