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chapter.17 ◇
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「やっぱりおかしいって!」
三人とにゃんにゃんした次の日。
これまた枕元に座っていた北斗に起こされ飯を食って落ち着いた後に、だん!と座卓に拳を叩きつければ、せっかくの茶がこぼれてしまった。
「暁。ダメだよ?」
「んぐぅ!」
北斗にやんわりと叱られ、小さくなるも今のは俺が悪い。
いつも俺の側にいるお手伝いの狐…ツネ子さんに「ごめんなさい」と頭を下げれば、茶菓子を追加してくれた。
それをポイっと口へと放り込んで、茶をすすれば疲れた身体を癒してくれる。
「でもなんか俺の身体…なのか頭なのかおかしいんだよなぁ…?」
べしょりと座卓に頬を押し当てて愚痴れば「暁」と北斗が俺を呼ぶ。
「暁。言い忘れてたことがあるんだ」
「…なに?」
顎を乗せたままそう言えば、なんだか北斗の毛がつやつやになっていることに気付いた。
「なんか今日の北斗の毛並み、綺麗だな」
「ぎくっ」
「なんかあった?」
じっと北斗を見つめれば、耳と尻尾が忙しなく動いている。動揺しすぎだろ。
「べべべbbbbbbb別に? naにもないyo?」
「いや。絶対なんかあっただろ」
「暁様」
動揺しまくりの北斗の代わりに、ツネ子さんがそこりと話しかけてきた。
ちなみに北斗は今、湯呑を持つ手をがたがたと震わせているためか、あちこちに茶を払まいている最中だ。それをキヌさん(これまた狐)が何も言わずに、こぼれた場所を布巾で拭いている。
「九尾様は番様と子作りをなされているので」
「番…ってーと、斗真か」
「はい。ですので毛並みが艶々なのでございます」
「ほう」
こそこそと会話している俺たちにすら気付かない北斗は、空になったらしい湯呑に茶を注いでもらっている。
「それに、九尾様が子作りを恥ずかしがらずになさるのは暁様のおかげでございますから」
「うん?」
どういうこと?とにこにこ顔のツネ子さんに聞けば、手を口元に当て上品に笑う。
「九尾様は恥ずかしがりでございましてね。交尾、となると尻込みされまして…。ですが暁様と番様たちの番をご覧になられましたら…」
「え?」
「九尾様が子作りに積極的になられましてね。これも暁様と番様たちのおかげでございます」
うふふと笑うツネ子さんに、俺は口元を引きつらせる。
え? 俺たちのせっk…にゃんにゃんを北斗に見られ…?
「うううううう嘘だろ?!」
「暁?!」
しゅばっとツネ子さんから距離を取ると、突然大声を出した俺を北斗が目を丸くして見ている。
それよりも『見られていた』ということを知って、顔が熱くなる。
「あ、暁、大丈夫? 顔真っ赤…」
「だだだだだだだだだいじょ…ダイジョウブ!」
「全然大丈夫には見えないけど…」
「お前に言われたかないわ!」
お前だって毛並みについて聞いたらめちゃくちゃ動揺してたじゃねぇか!
ふーふーとない耳と尻尾を逆立てて北斗に噛みつけば、北斗が何かに気付いたようで「あ! ツネ子さん!」とこっちも顔を真っ赤にして、ほほほと笑うツネ子さんに噛みついた。
「言っちゃったんですか?!」
「言われて困ることもございませんでしょうに」
「だだだだだからって…!」
「それに、我々狐一族は九尾様がようやく子作りをなされたことの方が嬉しいのでございますよ?」
「うぐ…!」
おっと? 北斗がツネ子さんにたじたじだ。
と、いうことはツネ子さんがラスボスなのでは?
「昨日も暁様と九尾様のお声が屋敷中に響いておりましたのに、何を今さら恥ずかしがっておいでで?」
「「えっ?!」」
ツネ子さんのさらっとした爆弾発言に北斗と俺の声が重なる。
そして、しゅばっと二人で北斗の隣にいたキヌさんに視線を向ければ、にこりと微笑まれて…。
「嘘だろぉぉぉぉっ?!」
「え?え? 僕の声、響いてたの?!」
と、動揺しまくる俺たちに、ツネ子さんとキヌさんがにこにことしていたのだった。
穴があったら入りたい、と散々恥ずかしさを味わった後、ツネ子さんからは無限茶菓子を再開され、北斗は羞恥で顔を赤くしながらもなんとか体裁を保っていた。
なんで重要な話の時に限ってとんでも発言が飛び出すんだよ…。
茶菓子をやけ食いして、茶を飲んで一息ついたころ。ようやく俺たちは冷静さを取り戻し、再び向き合っていた。
「そ、それでね?」
「お、おう」
まぁ、まだ動揺は隠せないんだけどな。
「九尾様。あのことは暁様にとっては重要なことでございます」
「わ、分かってるよ。ツネ子さん」
じろりとツネ子さんに見られた北斗がたじろぐと、こほんと咳ばらいを一つ。
「それでね、暁。君のその…なんていうか発情?しちゃうことなんだけどね」
「お、おう。その話か」
「うん。実は僕達狐族は『魅了』の力を持っているんだ」
「うん?」
なんか北斗の口からゲームでしか味わえないような言葉が飛び出したぞ?
いや。ここゲームの世界なんだけど。
「『魅了』?」
「そう。狐って化ける能力に特化してるでしょ?」
「あー…まぁ世間?ではそうだな」
「その能力の一つなんだけど…」
「けど?」
意味深にそこで言葉を切ると、北斗の口が開く。
「異種族同士だとその『魅了』の力が増すんだ」
「いしゅぞく」
またもやとんでもない言葉が飛び出してオウム返しに口にすると「そう」と北斗が頷く。
「あの三人はすでに『人』ではなく『狐』なんだ」
「はぁ…」
「ってあんまり驚かないんだね?」
「まぁ? あいつらの狐耳とか尻尾付とか見てるからあんまり実感がないというかなんというか…」
ぽりぽりと後頭部を掻けば「うーん」と北斗が笑う。
「暁にとっては種族は関係ない、ということでいいのかな?」
「そう…なのかも? あっちでも人間が好きか、って言われたら興味ないって感じだったらかな」
「…なんというか。君の人間関係が心配になるね」
「心配されなくてもボッチって結構気楽なんだよ。特に俺みたいな人と会わせることが苦手な人間にとっては…な」
あっちでは中々に生き辛かったと思う。
会社に行けば嫌でも人間関係が付きまとう。それでも何とかやってこれたのは、たぶん周りが理解ある人たちだったから、だと思う。
無理矢理飲み会とかにも参加させないし、何だったら挨拶も小声だ。
陰キャの集まり、という感じだったから居心地がよかった。他の所からも『陰キャの集まりで暗い』からあまり近寄りたくない、と言われているのを知っている。
そういう人間を一塊にしてくれたのは感謝しかない。
「僕はあの三人しか知らないから良く分からないけど…。暁がいいならそれでいいのかな?」
「まぁ人それぞれってやつだな。自分の価値観を押し付けてくる奴が一番厄介だから」
「あー…分かるかも」
「そういや、親父さんもそうなんだったか?」
「んー。そう、だね? というか里全体がそんな感じかな? 古狐のいうことは絶対、みたいな感じだったし」
「あー」
分かるわぁ、と頷くと、ツネ子さんもうんうんと頷いているが、キヌさんはよく分かっていない感じだ。
「話がずれたけど『魅了』について話しておくね」
「お、忘れてた」
「こっちが本題なんだけどね」
あははと苦笑いを浮かべる北斗に、俺も笑うと茶菓子を口へと放り込む。するとツネ子さんがまたもや茶菓子を直ぐに用意してくれる。
お、今度は煎餅。口の中が甘くなってるからここにきての塩味は神。
ツネ子さん、分かってるな。
にやりとツネ子さんを見れば、ツネ子さんもまたにこりと笑っていて。
ツネ子さんとは気が合うなぁと思いながら、煎餅を食らう。
「異種族での『魅了』は強くなる、って話だけど、これは番になるとさらに強くなるんだ」
「ふむふむ」
ばりばりと音を立てながら煎餅を食べる俺にキヌさんの眉間に皺が寄るけど、ツネ子さんはすんっとしている。
何だろうな。この違い。
「ってちょっと待て」
「どうぞ」
「お前の言う『番』はあいつらのことでいいんだよな?」
「そうだね」
「というかさ。あいつらと俺、いつ『番』になったんだ?」
すっかりと忘れていたが、俺はいつの間にあいつらと結婚したんだ?
気付いたら『花嫁』としてここにいた。
んで、その花婿があの三人。
「あと、普通に重婚だけどいいの?」
「まずは暁がいつあの三人と番になったのか、って話だけどね。僕があの社で消えた時に君たちを『番』認定したんだ」
「認定した、ということは、お前がこの里の『長』でいいんだな?」
「あ、そっか。それも話してなかった!」
「おい!」
「だって。暁がここに来たら直ぐにあの三人と子作り始めちゃって話ができる状態じゃなかったし…。子作りを見ながら話をしようかとも思ったんだけど、斗真が君たちに中てられて僕らもそのまま子作り…」
そこまで話してから北斗がはっとする。
自分で斗真と子作りしてると言ってしまったことに、尻尾が反応した。
「あ、えと、まぁ…うん! 暁がここにきてまだ一週間だけど、ずっと子作りしてるからなかなか話ができなくて…その…」
もにょもにょと次第に語尾が小さくなると同時に、尻尾がぶおんぶおんと大きく揺らぐ。その尻尾に当たらないようにキヌさんが距離を置いた。
「なら北斗も一緒に子作りしてるわけだ?」
「ふぐ!」
俺のストレートな言葉に言葉を詰まらせると、顔を真っ赤に染める。それから、こくりと頷いた。
「だ…だって…暁って素直に言葉にするし、それに…」
「それに?」
「すっごい気持ちがよさそうだから…僕も、気持ちよくなれるんじゃないかって思ったら…。こう…お腹が…」
「九尾様。『香り』が…」
ツネ子さんの言葉にハッとした北斗が慌てて尻尾を大きく揺らして『香り』を散らす。
よく見ればツネ子さんもキヌさんも袖で鼻を隠していた。
「ごごごごめん! 暁は大丈夫?」
「別に問題ないけど…? つか『香り』ってなんだ?」
「暁様と九尾様は互いが『女』なのでお互いの『香り』では発情しないのでしょうね」
眉を寄せながらツネ子さんとキヌさんが徐々に距離を取り始める。
「ちょ、ちょっとツネ子さん?! キヌさんまで?!」
え? どうしたの?!
「ごめんね。僕の『香り』は番以外の狐にも反応しちゃうみたいでさ…」
「なんでまたそんな厄介なことに…」
「同性で番うことは数百年ぶりなのでございますからね…。我々も気を抜くと…」
「そんなにやばいのかよ! 北斗!」
「や、やってるんだけど…! あ♡ ダメかも♡♡」
「諦めんなああぁぁ!」
はぁ、と瞳の中にハートマークを浮かべながら、頬を染めて艶めかしく息を吐く北斗。
それにツネ子さんとキヌさんが反応し始めて…。
「落ち着け! な?」
「もう暁でもいいや♡」
「よくねぇ! ほら!しっかりしろ! 斗真あぁぁぁっ!お前の番が盛ってるぞおおぉぉ!」
というかあいつらどこ行ったんだよ!
はぁはぁと息を荒くしながら、なぜか俺の側まで四つん這いで這ってくる。きちんと来ていた着物も肩からはだけで乳首が見える。
いや、だからといって発情はしてない。
どうするべきかと考えていたその間にも、北斗が這いよる。そしてふとツネ子さんと目が合った。
何とか匂いに耐えているツネ子さんが頷くと、訳も分からず頷いた。
瞬間。
「暁ぁ♡」
「うわああああああ! 押し倒すなああぁぁ!」
少しの隙を狙われ、畳に両手を縫い付けられる。
口の端から垂れ落ちる唾液にぞわりとしながら、とにかくこれ以上されるわけにはいかない。
「あは♡ 暁のちんちんしっかり勃ってる♡」
「うわあああ!」
くすりと笑う北斗はぶっちゃけるとめちゃくちゃエロい。十代には耐え切れないエロさ。
精神年齢は高いとは思うけど、身体の年齢はぴちぴちの十代。しかもヤりたい盛りの十六歳。
健康男子がエロい物を見ておっ勃てないはずがなく…。
「ふふ♡ 暁のちんちん可愛い♡」
「さり気にひどいこと言うな?!」
「僕も小さいとは思ってたけど、暁のちんちんはもっと小さいね♡」
「ぐぅ…気にしていることを…!」
にこりと悪びれることなく告げる北斗の頭を殴りたいが、手が自由に動かない。こいつ見た目に反してめちゃくちゃ力が強い。
「暁の乳首はどんな感じかな?」
「だあああぁぁ! いい加減にしろ!」
くすくすと妖艶に笑いながら、合わせの部分を口で器用に開ける。
そして大きく開かれた胸を見た北斗が、ぺろりと舌なめずりした。
「わお♡ 暁の乳首♡ ぽってりしておいしそう♡」
「北斗、いい加減怒るぞ?」
「怒るなら怒ればいいよ♡ 可愛いぽってり乳首、いただきまーす♡」
口を開いて俺の乳首を食べようとした北斗に、我慢の限界を迎えたその時。
「北斗」
低く怒気の含んだその声に、北斗がびくりと肩を揺らす。
そして。
「ぅあ!」
北斗の小さく漏れたうめき声が聞こえたと思ったら、俺の目の前が突然真っ暗になった。
三人とにゃんにゃんした次の日。
これまた枕元に座っていた北斗に起こされ飯を食って落ち着いた後に、だん!と座卓に拳を叩きつければ、せっかくの茶がこぼれてしまった。
「暁。ダメだよ?」
「んぐぅ!」
北斗にやんわりと叱られ、小さくなるも今のは俺が悪い。
いつも俺の側にいるお手伝いの狐…ツネ子さんに「ごめんなさい」と頭を下げれば、茶菓子を追加してくれた。
それをポイっと口へと放り込んで、茶をすすれば疲れた身体を癒してくれる。
「でもなんか俺の身体…なのか頭なのかおかしいんだよなぁ…?」
べしょりと座卓に頬を押し当てて愚痴れば「暁」と北斗が俺を呼ぶ。
「暁。言い忘れてたことがあるんだ」
「…なに?」
顎を乗せたままそう言えば、なんだか北斗の毛がつやつやになっていることに気付いた。
「なんか今日の北斗の毛並み、綺麗だな」
「ぎくっ」
「なんかあった?」
じっと北斗を見つめれば、耳と尻尾が忙しなく動いている。動揺しすぎだろ。
「べべべbbbbbbb別に? naにもないyo?」
「いや。絶対なんかあっただろ」
「暁様」
動揺しまくりの北斗の代わりに、ツネ子さんがそこりと話しかけてきた。
ちなみに北斗は今、湯呑を持つ手をがたがたと震わせているためか、あちこちに茶を払まいている最中だ。それをキヌさん(これまた狐)が何も言わずに、こぼれた場所を布巾で拭いている。
「九尾様は番様と子作りをなされているので」
「番…ってーと、斗真か」
「はい。ですので毛並みが艶々なのでございます」
「ほう」
こそこそと会話している俺たちにすら気付かない北斗は、空になったらしい湯呑に茶を注いでもらっている。
「それに、九尾様が子作りを恥ずかしがらずになさるのは暁様のおかげでございますから」
「うん?」
どういうこと?とにこにこ顔のツネ子さんに聞けば、手を口元に当て上品に笑う。
「九尾様は恥ずかしがりでございましてね。交尾、となると尻込みされまして…。ですが暁様と番様たちの番をご覧になられましたら…」
「え?」
「九尾様が子作りに積極的になられましてね。これも暁様と番様たちのおかげでございます」
うふふと笑うツネ子さんに、俺は口元を引きつらせる。
え? 俺たちのせっk…にゃんにゃんを北斗に見られ…?
「うううううう嘘だろ?!」
「暁?!」
しゅばっとツネ子さんから距離を取ると、突然大声を出した俺を北斗が目を丸くして見ている。
それよりも『見られていた』ということを知って、顔が熱くなる。
「あ、暁、大丈夫? 顔真っ赤…」
「だだだだだだだだだいじょ…ダイジョウブ!」
「全然大丈夫には見えないけど…」
「お前に言われたかないわ!」
お前だって毛並みについて聞いたらめちゃくちゃ動揺してたじゃねぇか!
ふーふーとない耳と尻尾を逆立てて北斗に噛みつけば、北斗が何かに気付いたようで「あ! ツネ子さん!」とこっちも顔を真っ赤にして、ほほほと笑うツネ子さんに噛みついた。
「言っちゃったんですか?!」
「言われて困ることもございませんでしょうに」
「だだだだだからって…!」
「それに、我々狐一族は九尾様がようやく子作りをなされたことの方が嬉しいのでございますよ?」
「うぐ…!」
おっと? 北斗がツネ子さんにたじたじだ。
と、いうことはツネ子さんがラスボスなのでは?
「昨日も暁様と九尾様のお声が屋敷中に響いておりましたのに、何を今さら恥ずかしがっておいでで?」
「「えっ?!」」
ツネ子さんのさらっとした爆弾発言に北斗と俺の声が重なる。
そして、しゅばっと二人で北斗の隣にいたキヌさんに視線を向ければ、にこりと微笑まれて…。
「嘘だろぉぉぉぉっ?!」
「え?え? 僕の声、響いてたの?!」
と、動揺しまくる俺たちに、ツネ子さんとキヌさんがにこにことしていたのだった。
穴があったら入りたい、と散々恥ずかしさを味わった後、ツネ子さんからは無限茶菓子を再開され、北斗は羞恥で顔を赤くしながらもなんとか体裁を保っていた。
なんで重要な話の時に限ってとんでも発言が飛び出すんだよ…。
茶菓子をやけ食いして、茶を飲んで一息ついたころ。ようやく俺たちは冷静さを取り戻し、再び向き合っていた。
「そ、それでね?」
「お、おう」
まぁ、まだ動揺は隠せないんだけどな。
「九尾様。あのことは暁様にとっては重要なことでございます」
「わ、分かってるよ。ツネ子さん」
じろりとツネ子さんに見られた北斗がたじろぐと、こほんと咳ばらいを一つ。
「それでね、暁。君のその…なんていうか発情?しちゃうことなんだけどね」
「お、おう。その話か」
「うん。実は僕達狐族は『魅了』の力を持っているんだ」
「うん?」
なんか北斗の口からゲームでしか味わえないような言葉が飛び出したぞ?
いや。ここゲームの世界なんだけど。
「『魅了』?」
「そう。狐って化ける能力に特化してるでしょ?」
「あー…まぁ世間?ではそうだな」
「その能力の一つなんだけど…」
「けど?」
意味深にそこで言葉を切ると、北斗の口が開く。
「異種族同士だとその『魅了』の力が増すんだ」
「いしゅぞく」
またもやとんでもない言葉が飛び出してオウム返しに口にすると「そう」と北斗が頷く。
「あの三人はすでに『人』ではなく『狐』なんだ」
「はぁ…」
「ってあんまり驚かないんだね?」
「まぁ? あいつらの狐耳とか尻尾付とか見てるからあんまり実感がないというかなんというか…」
ぽりぽりと後頭部を掻けば「うーん」と北斗が笑う。
「暁にとっては種族は関係ない、ということでいいのかな?」
「そう…なのかも? あっちでも人間が好きか、って言われたら興味ないって感じだったらかな」
「…なんというか。君の人間関係が心配になるね」
「心配されなくてもボッチって結構気楽なんだよ。特に俺みたいな人と会わせることが苦手な人間にとっては…な」
あっちでは中々に生き辛かったと思う。
会社に行けば嫌でも人間関係が付きまとう。それでも何とかやってこれたのは、たぶん周りが理解ある人たちだったから、だと思う。
無理矢理飲み会とかにも参加させないし、何だったら挨拶も小声だ。
陰キャの集まり、という感じだったから居心地がよかった。他の所からも『陰キャの集まりで暗い』からあまり近寄りたくない、と言われているのを知っている。
そういう人間を一塊にしてくれたのは感謝しかない。
「僕はあの三人しか知らないから良く分からないけど…。暁がいいならそれでいいのかな?」
「まぁ人それぞれってやつだな。自分の価値観を押し付けてくる奴が一番厄介だから」
「あー…分かるかも」
「そういや、親父さんもそうなんだったか?」
「んー。そう、だね? というか里全体がそんな感じかな? 古狐のいうことは絶対、みたいな感じだったし」
「あー」
分かるわぁ、と頷くと、ツネ子さんもうんうんと頷いているが、キヌさんはよく分かっていない感じだ。
「話がずれたけど『魅了』について話しておくね」
「お、忘れてた」
「こっちが本題なんだけどね」
あははと苦笑いを浮かべる北斗に、俺も笑うと茶菓子を口へと放り込む。するとツネ子さんがまたもや茶菓子を直ぐに用意してくれる。
お、今度は煎餅。口の中が甘くなってるからここにきての塩味は神。
ツネ子さん、分かってるな。
にやりとツネ子さんを見れば、ツネ子さんもまたにこりと笑っていて。
ツネ子さんとは気が合うなぁと思いながら、煎餅を食らう。
「異種族での『魅了』は強くなる、って話だけど、これは番になるとさらに強くなるんだ」
「ふむふむ」
ばりばりと音を立てながら煎餅を食べる俺にキヌさんの眉間に皺が寄るけど、ツネ子さんはすんっとしている。
何だろうな。この違い。
「ってちょっと待て」
「どうぞ」
「お前の言う『番』はあいつらのことでいいんだよな?」
「そうだね」
「というかさ。あいつらと俺、いつ『番』になったんだ?」
すっかりと忘れていたが、俺はいつの間にあいつらと結婚したんだ?
気付いたら『花嫁』としてここにいた。
んで、その花婿があの三人。
「あと、普通に重婚だけどいいの?」
「まずは暁がいつあの三人と番になったのか、って話だけどね。僕があの社で消えた時に君たちを『番』認定したんだ」
「認定した、ということは、お前がこの里の『長』でいいんだな?」
「あ、そっか。それも話してなかった!」
「おい!」
「だって。暁がここに来たら直ぐにあの三人と子作り始めちゃって話ができる状態じゃなかったし…。子作りを見ながら話をしようかとも思ったんだけど、斗真が君たちに中てられて僕らもそのまま子作り…」
そこまで話してから北斗がはっとする。
自分で斗真と子作りしてると言ってしまったことに、尻尾が反応した。
「あ、えと、まぁ…うん! 暁がここにきてまだ一週間だけど、ずっと子作りしてるからなかなか話ができなくて…その…」
もにょもにょと次第に語尾が小さくなると同時に、尻尾がぶおんぶおんと大きく揺らぐ。その尻尾に当たらないようにキヌさんが距離を置いた。
「なら北斗も一緒に子作りしてるわけだ?」
「ふぐ!」
俺のストレートな言葉に言葉を詰まらせると、顔を真っ赤に染める。それから、こくりと頷いた。
「だ…だって…暁って素直に言葉にするし、それに…」
「それに?」
「すっごい気持ちがよさそうだから…僕も、気持ちよくなれるんじゃないかって思ったら…。こう…お腹が…」
「九尾様。『香り』が…」
ツネ子さんの言葉にハッとした北斗が慌てて尻尾を大きく揺らして『香り』を散らす。
よく見ればツネ子さんもキヌさんも袖で鼻を隠していた。
「ごごごごめん! 暁は大丈夫?」
「別に問題ないけど…? つか『香り』ってなんだ?」
「暁様と九尾様は互いが『女』なのでお互いの『香り』では発情しないのでしょうね」
眉を寄せながらツネ子さんとキヌさんが徐々に距離を取り始める。
「ちょ、ちょっとツネ子さん?! キヌさんまで?!」
え? どうしたの?!
「ごめんね。僕の『香り』は番以外の狐にも反応しちゃうみたいでさ…」
「なんでまたそんな厄介なことに…」
「同性で番うことは数百年ぶりなのでございますからね…。我々も気を抜くと…」
「そんなにやばいのかよ! 北斗!」
「や、やってるんだけど…! あ♡ ダメかも♡♡」
「諦めんなああぁぁ!」
はぁ、と瞳の中にハートマークを浮かべながら、頬を染めて艶めかしく息を吐く北斗。
それにツネ子さんとキヌさんが反応し始めて…。
「落ち着け! な?」
「もう暁でもいいや♡」
「よくねぇ! ほら!しっかりしろ! 斗真あぁぁぁっ!お前の番が盛ってるぞおおぉぉ!」
というかあいつらどこ行ったんだよ!
はぁはぁと息を荒くしながら、なぜか俺の側まで四つん這いで這ってくる。きちんと来ていた着物も肩からはだけで乳首が見える。
いや、だからといって発情はしてない。
どうするべきかと考えていたその間にも、北斗が這いよる。そしてふとツネ子さんと目が合った。
何とか匂いに耐えているツネ子さんが頷くと、訳も分からず頷いた。
瞬間。
「暁ぁ♡」
「うわああああああ! 押し倒すなああぁぁ!」
少しの隙を狙われ、畳に両手を縫い付けられる。
口の端から垂れ落ちる唾液にぞわりとしながら、とにかくこれ以上されるわけにはいかない。
「あは♡ 暁のちんちんしっかり勃ってる♡」
「うわあああ!」
くすりと笑う北斗はぶっちゃけるとめちゃくちゃエロい。十代には耐え切れないエロさ。
精神年齢は高いとは思うけど、身体の年齢はぴちぴちの十代。しかもヤりたい盛りの十六歳。
健康男子がエロい物を見ておっ勃てないはずがなく…。
「ふふ♡ 暁のちんちん可愛い♡」
「さり気にひどいこと言うな?!」
「僕も小さいとは思ってたけど、暁のちんちんはもっと小さいね♡」
「ぐぅ…気にしていることを…!」
にこりと悪びれることなく告げる北斗の頭を殴りたいが、手が自由に動かない。こいつ見た目に反してめちゃくちゃ力が強い。
「暁の乳首はどんな感じかな?」
「だあああぁぁ! いい加減にしろ!」
くすくすと妖艶に笑いながら、合わせの部分を口で器用に開ける。
そして大きく開かれた胸を見た北斗が、ぺろりと舌なめずりした。
「わお♡ 暁の乳首♡ ぽってりしておいしそう♡」
「北斗、いい加減怒るぞ?」
「怒るなら怒ればいいよ♡ 可愛いぽってり乳首、いただきまーす♡」
口を開いて俺の乳首を食べようとした北斗に、我慢の限界を迎えたその時。
「北斗」
低く怒気の含んだその声に、北斗がびくりと肩を揺らす。
そして。
「ぅあ!」
北斗の小さく漏れたうめき声が聞こえたと思ったら、俺の目の前が突然真っ暗になった。
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