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chapter. 10
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シン、とした静寂に包まれると、一応物語が終了したことにほっと息を吐く。
ゲームならばここからEDに入るのだが、碧斗は倒れたまま。さてどうするか、と悩み始めたタイミングで「ぅ、ん…」という声が碧斗から漏れる。
「あ…れ? ここ、は?」
「おーい。碧斗ー。重いから退いてくれると助かるー」
「あ、暁?!」
碧斗の下から「早くどけ」と伝えると、碧斗が慌てて俺の上から退いてくれた。
「ど…どうしてここに…?!」
「あ、お前に憑いてた『狐』は家に帰ったぞー」
「は?」
イケメンがまぬけ面をしてもイケメンなんだな、なんてことを思っていると碧斗が頭を抱える。
「そ…んな…。ならオレはどうすれば…!」
あ。そうだった。碧斗は母親が自分のせいで亡くなったと思い込んでいるから、女性が苦手なんだった。
自分が触れると死ぬんじゃないか、なんて思っているのを変えるために『狐』と手を組んだんだっけ。それをオレが潰したわけなんだけども…。
「あー…そのことなんだけどさ」
「このままでは暁にも触れられない…!」
「おん?」
「暁に触れられない…。恒晟と樹享に取られてしまう…!」
「おい! 落ち着けって!」
頭を抱えたまま、がたがたと震え始めた碧斗の肩を掴んで軽く揺さぶればのろりと瞳が俺を見た。
「ひ…っ!」
「落ち着けって」
小さな悲鳴を上げて固まってしまった碧斗をこれ以上怯えさせないように肩から手を離す。
「碧斗は俺が女の子に見えるか?」
「え…?」
俺の言葉にぱちりと瞬きをする碧斗に、苦笑いを浮かべると両手を広げて見せる。
「制服もお前と一緒だろ?」
「そう…いえば…?」
「だろ?」
「…だったらなぜ暁のとこを女性だと?」
混乱している碧斗だが、実は俺もそれは思っていた。というか碧斗のその言葉で、ここが『乙女ゲー』だということが証明された。なんせ主人公は女の子なのだから。
それなのに男である俺が主人公なんぞをしている。
…そういえばボブゲ(BLゲー)のクソゲーってあんまり聞いたことないな。エロゲ部門はあったけど、あくまでエロゲだったし。
いや。ボブゲでクソゲーなんてちょっとやてみたかった気もする。エロゲは同士が多いはずだが、ボブゲは男プレイヤーは少なそうだしな。
むふむふと碧斗を放置してボブゲのことで頭が一杯になって隙があったのは認めよう。
だけど。
「ぅわ?!」
「暁は…女の子じゃない…!」
「お、おう?」
ソウデスネ?となぜか背中を地面につけながら碧斗の顔を見上げれば、逆光でよく見えない。
それになんだかぞわぞわとしたものが全身を襲い、なにやらやばげな気配を感じる。
「なら…暁に触れても、いいんだよな?」
「ひぇ?!」
あばい。あばすぎる。逆光で見えなかった碧斗の顔が恍惚にも似たものになっていて、今度は俺の顔色が変わる。
「そうだな。暁は女性じゃないんだもんな」
「あああああああ碧斗?! 落ち着け?! な?!」
だらだらと冷や汗をかきながら、頬を褒めてうっとりと見つめている碧斗の顔が徐々に近付いていることに危機感を募らせる。
だが、思い出してほしい。
今しがた物語が終わったことを。
と、いうことは…。
残っているのはエピローグ…というかキャラとの個別EDなわけで。
それに気付いても、どうすることもできるわけもなく。
「んぅ?!」
頬を掴まれ固定されたかと思うと、碧斗の唇が俺の口を塞いでいて。
あれー?! スチルだとなんだかんだいい感じだったのに、現実だとめっちゃ怖いんですけどー?!
「ん、ふぅ…っ! んぐ?!」
「暁。可愛い、俺の暁」
おいー! 舌を入れんなー!
クソゲーハンターなんぞをしている俺に彼女などいるわけがないから、当然あっちにいた時の俺はまっさらだったんだよ!
それが、何が悲しくて男とキ…キスをー?! しかも、べろちゅーとか…?!
「んゃ…あ…っ」
「暁。暁」
舌を引き抜いて呼吸をしては再び口をふさぐ。おかげで酸素が足りなくなってきて、頭がくらくらしてくる。
ちょっとさすがにまずいとおもうんですよ。
口腔内にたまった二人分の唾液を飲みながら、絡まれる舌に翻弄される。
舌が引き抜かれ、唾液に濡れた唇が動くのをぼんやりと見つめていると抱き締められる。
「あお…」
「暁。今まで触れられなかった分、触れさせて?」
耳元で囁かれ、こくりと喉を上下に動かす。
「だめ?」
「ぁ…」
ちゅ、と耳にキスをされてぞわりと毛が逆立つ。
それに…。
「ぃ…いよ…」
「うん?」
「触っても…いいよ」
何故そう口走ったのは分からない。
はたして主人公もこんなことを口走ったのだろうか?
今となってはスチルでしか分からないが、この後のことを考えるとそうだったかもしれない。
もちろん全年齢だから、そんなシーンはすっ飛ばす…。
そこまで考えて『俺』がここに来た理由がなんとなくわかってしまった。
「暁?」
「んー? 何でもない」
こつん、と額と額を合わせて見つめてくる碧斗に笑う。
そうだ。
ここに来る前にこのゲームをプレイしていたのは、クソゲーを久々にプレイしたかったからだ。
そしてビールも飲んで酔っ払った状態だったのがよくなかったのか、普段の生活が祟ったのかそのどちらもなのか。
あまりにストレスをためすぎて、頭に血が上ったときに血管が切れたような感じがしたんだ。
恐らく俺はくも膜下出血でぽっくり逝ってしまった…のだと思う。
だとしたら部屋の中にある大量のクソゲたちはどうなってしまうのか…。いや、そもそもクソゲーごときで死ぬとは…。
俺らしい人生だった。
ということは俺はこのゲームの主人公に転生した、ということだろう。
つか乙女ゲーなのにBLゲーにしてどうすんだってことよ。
それにさ。
「うわ!」
「暁が心配だから抱えていく」
「ちょ…?!」
「いいだろ?」
「んぐ…」
お互い制服に土を付けて保健室に戻ればきっと怪しまれる。それでもいいや、なんて思ってしまうのはこいつ(碧斗)が悩みから解放されたから。
…いや。根本的にはなーんにも解決してないんだけど、それは後々解決するからいっか。
「はぁ…。こんなことならオレも暁にもっと触ってればよかった」
これまた横抱きにされてグラウンドにいる生徒達を避けて保健室へと速足で戻る。
昇降口で降ろしてもらって、お互いに付いた土を払い落としこそこそと戻ればそこにはなぜか怒り心頭な恒晟と樹享がいて。
「暁。今までどこで何をしていたか教えてもらおうか」
「ひぇ…!」
「碧斗も。保健の先生には誤魔化しておいたけど、ちゃんと説明をしてもらうからな」
「…ああ。分かってる」
こうして『狐の嫁入り』の物語が終わった――。
はずだった。
ゲームならばここからEDに入るのだが、碧斗は倒れたまま。さてどうするか、と悩み始めたタイミングで「ぅ、ん…」という声が碧斗から漏れる。
「あ…れ? ここ、は?」
「おーい。碧斗ー。重いから退いてくれると助かるー」
「あ、暁?!」
碧斗の下から「早くどけ」と伝えると、碧斗が慌てて俺の上から退いてくれた。
「ど…どうしてここに…?!」
「あ、お前に憑いてた『狐』は家に帰ったぞー」
「は?」
イケメンがまぬけ面をしてもイケメンなんだな、なんてことを思っていると碧斗が頭を抱える。
「そ…んな…。ならオレはどうすれば…!」
あ。そうだった。碧斗は母親が自分のせいで亡くなったと思い込んでいるから、女性が苦手なんだった。
自分が触れると死ぬんじゃないか、なんて思っているのを変えるために『狐』と手を組んだんだっけ。それをオレが潰したわけなんだけども…。
「あー…そのことなんだけどさ」
「このままでは暁にも触れられない…!」
「おん?」
「暁に触れられない…。恒晟と樹享に取られてしまう…!」
「おい! 落ち着けって!」
頭を抱えたまま、がたがたと震え始めた碧斗の肩を掴んで軽く揺さぶればのろりと瞳が俺を見た。
「ひ…っ!」
「落ち着けって」
小さな悲鳴を上げて固まってしまった碧斗をこれ以上怯えさせないように肩から手を離す。
「碧斗は俺が女の子に見えるか?」
「え…?」
俺の言葉にぱちりと瞬きをする碧斗に、苦笑いを浮かべると両手を広げて見せる。
「制服もお前と一緒だろ?」
「そう…いえば…?」
「だろ?」
「…だったらなぜ暁のとこを女性だと?」
混乱している碧斗だが、実は俺もそれは思っていた。というか碧斗のその言葉で、ここが『乙女ゲー』だということが証明された。なんせ主人公は女の子なのだから。
それなのに男である俺が主人公なんぞをしている。
…そういえばボブゲ(BLゲー)のクソゲーってあんまり聞いたことないな。エロゲ部門はあったけど、あくまでエロゲだったし。
いや。ボブゲでクソゲーなんてちょっとやてみたかった気もする。エロゲは同士が多いはずだが、ボブゲは男プレイヤーは少なそうだしな。
むふむふと碧斗を放置してボブゲのことで頭が一杯になって隙があったのは認めよう。
だけど。
「ぅわ?!」
「暁は…女の子じゃない…!」
「お、おう?」
ソウデスネ?となぜか背中を地面につけながら碧斗の顔を見上げれば、逆光でよく見えない。
それになんだかぞわぞわとしたものが全身を襲い、なにやらやばげな気配を感じる。
「なら…暁に触れても、いいんだよな?」
「ひぇ?!」
あばい。あばすぎる。逆光で見えなかった碧斗の顔が恍惚にも似たものになっていて、今度は俺の顔色が変わる。
「そうだな。暁は女性じゃないんだもんな」
「あああああああ碧斗?! 落ち着け?! な?!」
だらだらと冷や汗をかきながら、頬を褒めてうっとりと見つめている碧斗の顔が徐々に近付いていることに危機感を募らせる。
だが、思い出してほしい。
今しがた物語が終わったことを。
と、いうことは…。
残っているのはエピローグ…というかキャラとの個別EDなわけで。
それに気付いても、どうすることもできるわけもなく。
「んぅ?!」
頬を掴まれ固定されたかと思うと、碧斗の唇が俺の口を塞いでいて。
あれー?! スチルだとなんだかんだいい感じだったのに、現実だとめっちゃ怖いんですけどー?!
「ん、ふぅ…っ! んぐ?!」
「暁。可愛い、俺の暁」
おいー! 舌を入れんなー!
クソゲーハンターなんぞをしている俺に彼女などいるわけがないから、当然あっちにいた時の俺はまっさらだったんだよ!
それが、何が悲しくて男とキ…キスをー?! しかも、べろちゅーとか…?!
「んゃ…あ…っ」
「暁。暁」
舌を引き抜いて呼吸をしては再び口をふさぐ。おかげで酸素が足りなくなってきて、頭がくらくらしてくる。
ちょっとさすがにまずいとおもうんですよ。
口腔内にたまった二人分の唾液を飲みながら、絡まれる舌に翻弄される。
舌が引き抜かれ、唾液に濡れた唇が動くのをぼんやりと見つめていると抱き締められる。
「あお…」
「暁。今まで触れられなかった分、触れさせて?」
耳元で囁かれ、こくりと喉を上下に動かす。
「だめ?」
「ぁ…」
ちゅ、と耳にキスをされてぞわりと毛が逆立つ。
それに…。
「ぃ…いよ…」
「うん?」
「触っても…いいよ」
何故そう口走ったのは分からない。
はたして主人公もこんなことを口走ったのだろうか?
今となってはスチルでしか分からないが、この後のことを考えるとそうだったかもしれない。
もちろん全年齢だから、そんなシーンはすっ飛ばす…。
そこまで考えて『俺』がここに来た理由がなんとなくわかってしまった。
「暁?」
「んー? 何でもない」
こつん、と額と額を合わせて見つめてくる碧斗に笑う。
そうだ。
ここに来る前にこのゲームをプレイしていたのは、クソゲーを久々にプレイしたかったからだ。
そしてビールも飲んで酔っ払った状態だったのがよくなかったのか、普段の生活が祟ったのかそのどちらもなのか。
あまりにストレスをためすぎて、頭に血が上ったときに血管が切れたような感じがしたんだ。
恐らく俺はくも膜下出血でぽっくり逝ってしまった…のだと思う。
だとしたら部屋の中にある大量のクソゲたちはどうなってしまうのか…。いや、そもそもクソゲーごときで死ぬとは…。
俺らしい人生だった。
ということは俺はこのゲームの主人公に転生した、ということだろう。
つか乙女ゲーなのにBLゲーにしてどうすんだってことよ。
それにさ。
「うわ!」
「暁が心配だから抱えていく」
「ちょ…?!」
「いいだろ?」
「んぐ…」
お互い制服に土を付けて保健室に戻ればきっと怪しまれる。それでもいいや、なんて思ってしまうのはこいつ(碧斗)が悩みから解放されたから。
…いや。根本的にはなーんにも解決してないんだけど、それは後々解決するからいっか。
「はぁ…。こんなことならオレも暁にもっと触ってればよかった」
これまた横抱きにされてグラウンドにいる生徒達を避けて保健室へと速足で戻る。
昇降口で降ろしてもらって、お互いに付いた土を払い落としこそこそと戻ればそこにはなぜか怒り心頭な恒晟と樹享がいて。
「暁。今までどこで何をしていたか教えてもらおうか」
「ひぇ…!」
「碧斗も。保健の先生には誤魔化しておいたけど、ちゃんと説明をしてもらうからな」
「…ああ。分かってる」
こうして『狐の嫁入り』の物語が終わった――。
はずだった。
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