転生先はKOTY乙女ゲー部門大賞受賞作品でした

マンゴー山田

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chapter. 6

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「ダメだ。お前は具合が悪くてここにいるんだろうが」
「えー。だって熱もないんだぜ?」
「これから上がるかもしれないだろ。ほら、いい子だから」

そう言いながらも、碧斗に付いた頭から生えている耳と尻尾が激しく動いているのがおかしい。
『狐』が確定すると、そいつの頭に耳が生え、尻には尻尾が生える。まごうことなき『狐』になっているのだ。
ビジュアル的に喜ぶ人は喜ぶんだろうが、残念ながら俺は喜ばない方でな。許せ。

「えー。ね? ちょっとだけ、ちょっとでいいからー」
「ダメだ」
「けちー! いいよ!じゃあ帰りに恒晟でも誘って…」
「――――…ッ! それこそダメだ!」

俺の言葉に反応した碧斗に一応ビックリしたように見せかけるが、腹の中では大笑いである。
なんせ『狐』の対処は分かっているのだから。

「な、なんだよ…。そんな大声ださなくても…」
「――ぁ。悪い」

少しだけ怯えたように演技をすれば、碧斗の視線が左右に動く。
『狐』よ、今はまだ碧斗だもんな。
そう。この『狐』は乗っ取り型。しかもこいつは三人の闇を利用しているのだ。
乗っとる代わりに願いを叶える。その願いが何であれ、だ。
三人の願いはこれ。

樹享は小さいころ俺に怪我をさせた事で、過保護になった。その時の傷跡が残っているからその責任を取ろうとして『狐』と契約。樹享の願いは俺と一生共にいること。

恒晟は家族の問題。弟の方が優秀でいつも比べられていた。それが原因で家族との間に溝ができている。恒晟の願いは弟よりも自分を見てくれる俺の側にいること。樹享と似てるけどちょっと違うのが怖い。

碧斗は自分が生まれたせいで母が死んだこと。だから碧斗の願いは母を蘇らせるために『狐』と契約を結んでる。だから唯一俺とは直接関係ない…。はず。

それぞれの闇を利用して『狐』は嫁を捧げるために動いている。
だから狐の嫁入りがあると誰かが消えるのだ。
その名の通り、狐の嫁になるのだから。

それがこの学校だけで起こるものだから、七不思議に数えられる。
実際人間が一人いなくなるだけで大事件だが、この学校で起こったことはなぜか軽く見られているのだ。まぁゲームだから、といってしまえばそうなんだけど。

「…なんでそこまで怒るんだ?」
「だから…」
「ちょっと行って戻ってくるだけだよ」
「……………」
「ダメ?」

上目使いと首を傾げる仕草で碧斗を見れば、ぐっと言葉を詰まらせている。
ここまで「ダメ」と言い続ける碧斗に少しの疑問を視線に混ぜれば、視線を彷徨わせる。よし、これならもう少しで何とかなるな。

「前までなら「お前が言うなら」って言ってくれたのに」
「……ぁ」

さぁ、これで「お真は本当に碧斗か?」と疑問に思っている、ということを見せれば『狐』が動く。

「…分かった」
「さっすが碧斗! だから好き!」

そう言いながら碧斗に抱きつけば、頭を撫でられる。
…こいつら頭撫でるの好きだな。
まぁそれはいい。けれどこれで物語ストーリーが進むってもんだ。
しかも物語ストーリーを大幅にショートカットした、な。

もうすでにクソオブくそのようなものだけど、更にクソな仕様があるのだ。
だけどこれに気付いた人は殆どいないだろう、クソな仕様。
それは…。

存在しない選択肢があることだ。

さっきの誰を選ぶか、の時に実は四番目の選択肢があったのだ。これも偶然見つけたものだが、見つけた時は唖然としたもんだ。なんせ、カーソルが見えない所にあるのだから。
マジで何なんだこのゲームはと思ったが、クソゲーなので仕方ない。
なので、見えない選択肢を見えないカーソルで選ぶとなぜか物語が中盤から一気に終盤になる。
恐らくは『狐』が誰になるか分からない所までスキップできないイライラを解放するためにあるのではないかと思えてしまう。

ちなみにこのゲーム『狐』が誰になるかまでは一本道。しかも樹享と恒晟を攻略したいのなら、それを何度も見続けるという地獄を味わうのだ。

お陰で俺の血管がどれだけ切れそうになったことか…。
しかし、この救済措置?発見のおかげで血管は無事守られた。
頑張ったな、俺。

「暁? どうした?」
「ん? 碧斗と一緒にいられるのが嬉しくてさ!」
「調子のいい事をいうな」
「へへっ」

おっと。碧斗に怪しまれては大変だ。
まぁ、怪しむことなどないんだけど。
こう考えると、主人公もこいつらもだいぶあれだよな。

「先生が来る前に外に行くんだろ?」
「ああ!」
「けどグラウンドで体育の授業してるけど…?」
「ふっふっふっ。こんなこともあろうかと、グラウンドから見えない道を見つけておいたのさ」
「いつの間に…。というか、オレも知らない道?」
「まぁまぁ。たぶん、俺以外知らない道だから」

んふふと笑ってから、訝しむ碧斗の手を取る。

「行こうぜ」


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