転生先はKOTY乙女ゲー部門大賞受賞作品でした

マンゴー山田

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chapter. 5

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「どうしたの?」
「暁…五月七日つゆりの具合が悪くて」
「そうだったの。立石寺くん、五月七日くんをベッドに下ろしてもらってもいい?」
「はい」

保険医の先生がカーテンを開けてくれて、空いてるベッドに下ろしてくれる。
すると先生が体温計を渡してくれたから、それを受け取り熱を測る。

「顔色が少し悪いわね。熱がなくても少し休んでいきなさい」
「…はぁい」

そんなに顔色は悪くないと思ったんだけどな、なんて思っていると三人がじっと見つめてくる。
お、おう。どうした?
というか俺の熱の測り待ちか。確かこの後。なんて思っていたら「ピピピ」と体温計が鳴る。
それを抜いて見てみれば、36.9度。うん、微妙。

「先生、はい」
「熱はなさそうだけど、上がるかもしれないわね。一時間位様子を見ましょうか」
「ほーい」

先生に軽く返事をすると、カーテンを碧斗が閉めてくれる。
さて。

「というかあなたたちは教室に戻りなさい」
「五月七日が心配なのでここにいてもいいですか?」

恒晟のその言葉に、先生が困り果てる。そりゃそうだ。こいつらはただの学校の先輩なのだ。
樹享だけは一応家族…になるのか?

「なら一人だけ。一人だけならいいわ」

先生の言葉に、三人の空気がピリッと張り詰める。
無理もない。ここでようやく選択肢が求められるのだから。

「なら…」
「それは五月七日つゆりくんに選んでもらってね」

樹享の言葉を遮るように先生が告げると、三人の視線が俺に向く。
ここで『狐』を選べば物語は進む。だから間違えられない。

「じゃあ…恒晟先輩。お願いしてもいいですか?」
「喜んで」
「暁!」
「はいはい。門田屋敷くんと小見くんは教室に戻るように」

樹享がどうして、という表情を浮かべるが悪いな。俺はこのゲームのクソさをよく知ってんだ。

「恒晟。お前、生物の小テスト受けてないだろ?」
「え…?そう…だったかな?」
「そうだ。だから今日受けないとやばいぞ」

碧斗が恒晟にそう言うと、ぐっと唇を噛む。樹享は恒晟と碧斗とは一つ下、俺とは一つ上の2年。だから俺の側にいてくれようとしてくれる。
けど。

「樹享。お前も教室に戻れ」
「なんで?!」
「オリエンテーションの班決めだろう?」
「なんでそんなこと…!」

本当だよ。なんで樹享のクラスのことを知ってんだよ。
でもそうしなければならない理由があるからな。しょうがない。

「なら樹享も戻ってよ」
「暁…!」
「恒晟先輩も。テストは大事でしょ」
「そう…なんだけど、さ…」
「大丈夫だって。碧斗先輩がいてくれるんだし」
「あら、じゃあ小見くんが残るのね?」
「はい」

先生の言葉に頷くと、樹享と恒晟が追い出されるようにカーテンに近付く。
そんな二人に手を振って「大丈夫だって」と言えば、渋々出ていく。そんな二人を追い出した碧斗先輩に、先生が声をかける。

「小見くんがいるなら安心だから、先生ちょっと職員室に戻るわね」
「はい」
「何かあったらすぐに呼んでちょうだい」
「分かりました」
「五月七日くんも。何かあったら小見くんに言ってね」
「はーい」
「じゃあ、先生一時間くらいで戻ってくるから。その間に誰か来たらよろしくね」

「あとはよろしくね。小見くん」と言ってさっさと出ていく。うん。実に鮮やかな退場だ。
変なことに感心していると、碧斗が丸椅子を引きずって座る。

「ほら、暁も寝ろ」
「あー…うん…」

そう。これがイベント。
つまりはこれで『狐』が確定する。
ランダムで『狐』が決まるから、あの選択肢で間違えればこうして『狐』が他の二人を排除してくれる。
実にクソな仕様だ。
その前に、主人公にはなぜか『狐』になったやつの頭に靄が見える仕様なんだけどさ。これも三人にかかるんだけど、一人だけ少しだけ靄が濃い相手が『狐』だ。
こんなどうでもいいことに気付いたのはクソ仕様のランダムのせい。完全ランダムだから、攻略したい奴が『狐』になるまで延々とアホみたいなパートを見続けなくてはならないのだ。だから二連続、樹享になるなんてことはざらで。その度にリセットし、やり直し。さすがに三連続恒晟の時は怒りに任せてビールをあおりながらプレイした。
とにかくストレスが半端ないのが特徴で、このゲームをプレイしていた時はストレスを発散していた。

…これ、スキップ機能が付いてないのもクソゲーたる所以なんだけどな。

そしてどうでもいい事に気付いたことはいいけど、周回プレイするには苦行すぎて同士がいなくなった時にはちょっと泣いた。
一人で全エンディング回収して、感想という名のレポートを書き込めば賞賛の嵐で、俺の無駄に過ごした時間が報われたような気がした。
そんな努力のかいあって、こうして無事『狐』を見つけ出せたわけだけど…。

「なぁ、碧斗」
「なんだ?」

微笑む碧斗に、俺も微笑み返せばぴくりと口元が動く。
『狐』もまさかこの時点でバレている、なんて思っていないだろうしな。
今は物語の序盤…と見せかけてすでに中盤である。中身スカスカなのが逆に助かる。
だから『狐』がまだ悪さをしていない段階で『狐』をどうこうしてしまえば、俺も碧斗もハッピーエンドで終わるのでは?ということで、さっさとクリアをしてしまおう。
俺にしたらただの苦行という思いでしかないのだから。

「先生がいないからさ」
「うん」
「ちょっと外いかねぇ?」


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