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chapter. 3
しおりを挟む「…ところでマジでどこなんだ? ここ…」
気が付いたらここにいた。そして、イケメン三人がなぜか俺を構い倒す。
樹享は母さんから「何言ってんの。ずっと遊んでもらってたでしょ?」という言葉からして幼馴染らしい。俺の記憶には全くないけど。
それに。
休み時間だというのに、誰も俺に話しかけてこない。つまりはボッチなわけで。
…まぁ、記憶がないから別にいいんだけど。
すると、近くで話していた女子たちの会話が漏れてきた。別に盗み聞きとかじゃないからな? 近くにいたから聞こえて来ただけだ。
窓の外を見ながら「気にしてませんよ」と興味のないふりをしていたからか、女子たちの声が徐々に大きくなる。
「狐の嫁入りってことはやっぱりさぁ…」
「あー。だろうねー。今度は誰がいなくなったんだろうね?」
うん? なかなかバイオレンスなワードが聞こえてきますな。
狐の嫁入り…は朝の雨のことだよな? それよりも「誰がいなくなったんだろうね?」という言葉である。
そもそも狐の嫁入りって、狐同士のことじゃねぇのか?
狐の…嫁入り…?
何度も言葉にしていてふとあることを思い出した。
狐の嫁入り、幼馴染と二人のイケメン、図書室。
ぱちぱちとピースがはまっていき、ぱちりと最後のピースがかちりとはまった瞬間。
「っあ――!」
がたん!と椅子を蹴倒し立ち上がる。
そんな俺を、近くにいた女子たちが何か言いながら離れていく。恐らく教室にいた奴ら全員が俺を奇妙な目で見ているみたいだが、そんなものはどうでもよかった。
「あれ?! ってことはここ…!」
きょろきょろと教室中を見回してから、窓の外を見る。
そこから見えるのはグラウンドと、学校内には珍しい木々が生い茂った場所が見える。
「間違いない…! ここは…!」
狐の嫁入り-闇の花嫁-じゃねぇか?!
って待て待て! なんで俺はこんなところにいるんだ?! 思い出せ…!思い出せ…!
頭を抱えてその場にしゃがんで、今の状況を確認する。
俺はどういう理由か分からないけれど、狐の嫁入り-闇の花嫁-という乙女ゲーの中にいる。
ラノベやweb小説サイトでいけば、転生、という形になる…はずだ。なんせ俺は…。
三十路を超えた社会人。しかもクソゲーハンターだったはずなのだ。
「よりによってKOTY大賞受賞のソフトかよ…!」
これは非常にまずい。
なんせこのゲームは…クソゲーなのだから。
KOTY。クソゲーオブザイヤー。
その名の通り、クソゲーの中のクソゲーを決める大変不名誉なものだ。その大賞ともなれば…。
しかし、クソゲーだからこそ抜け道があるはずなのだ。
頭から手を離して立ち上がると、クラス中の視線が俺に注がれた。
そして近くにいた女子生徒に話しかける。
「狐の嫁入りって七不思議でいいんだよな?!」
「え?」
「ここの七不思議!」
「ぁ、う…うん」
怯えるように頷いた女子には申し訳ないと思うが、これで確定だ。
「ってことは…誰かがすでに狐になってる可能性があるのか。やばいな」
このゲーム。一見普通の乙女ゲーと見せかけて内容はスッカスカで人気声優を採用してはいるが、その声優ファンでさえ萌えられなかったという偉業を成し遂げている。
しかも乙女ゲーの醍醐味、好感度を上げることは一切ないのだ。なんせ、攻略対象者全員が初めから好感度MAXなのだから。その状態でちょくちょく挟まれる選択肢を選んでから成り行きを見守るだけのゲームなのだ。
プレイヤーを置き去りに、ずっといちゃいちゃしているのを見るだけ。それだけならクソゲーとは言い難い。いや十分クソゲーなのだけれども。
このゲームがクソゲーと呼ばれる所以はさっき言った『狐』がランダムなのだ。
つまり。攻略対象がランダムで決まる、超クソ仕様。
自分が攻略したいキャラを選べないというクソさに、当時乙女ゲーを楽しみにしていたお姉さま方は撃沈した。
どの世界に攻略対象が選べない乙女ゲーがあるというのだろうか。
実際ここにあるんだけどさ!
「ああ。だから樹享のあの言葉と態度か」
迎えに来てくれた樹享が天気雨を見て変な態度になったのは仕様なのだろう。
なんせ攻略対象なのだから。
「いやいや。だからってキスとか胸を揉むとかあるか?」
なんせ元は“全年齢”のゲームだ。
それなのに樹享はなぜか俺の胸を揉んできた。元にはもちろんそんな描写はない。あったとしても臭わせ程度だろうし。
クソゲーハンターだった頃の俺の記憶を呼び戻しながらうんうんと唸っていると、ばたばたと複数の足音が聞こえてきた。
まぁ、授業が始まる時間が近いから教室に戻ってきた生徒のものだろうと気にしなかった。
そう。俺の近くにその足音が聞こえてくるまでは。
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