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chapter. 2
しおりを挟む「よう! 元気になったか?」
「…うん」
わしわしと頭を撫でられているのは、恐らく寝癖が酷いからだろう。髪を乾かさずに寝たからな。
それを母さんに笑われ、父さんも苦笑いを浮かべていて。生温かな視線を受けながら朝食を食べてからいざ、学校へ。という所で、昨日家まで運んできてもらった樹享が玄関先にいて。
そして俺を見た瞬間、吹き出し寝癖を直されている。
「暁! 樹享くんにちゃんとお礼は言ったの?!」
「…言ってない」
玄関で寝癖を直してもらっているから、母さんには俺たちの行動は筒抜けなわけで。
今言おうとした、と唇を尖らせていると「こら」とくしゃくしゃと髪をかき混ぜられる。
「わわ!」
「そんな可愛い事をするんじゃない」
「何が?!」
手櫛でぼさぼさになった髪を治されながら、なぜか真面目な表情でそう告げる樹享の言葉の意味が分からず首を傾げれば髪を治していた手が頬に触れた。
「暁。さっきのは他の奴らの前ではやるなよ?」
「だから、何を?!」
だから、もっと俺に分かるように言え。
じろりと俺よりも上のある樹享の顔を見れば、はぁとなぜかため息を吐かれた。
「だから。それだよ」
「どれだよ!」
がう!と樹享に噛みつくと「こら! 暁!」と母さんに叱られる。
「樹享くんに迷惑をかけないの!」
「か、かけてない!」
「樹享くんも。暁が迷惑なことをしたならちゃんと言ってね」
「迷惑なんてかけられてませんよ。むしろ迷惑をかけられた方が嬉しいですから」
頬に触れていた手が、むに、と引っ張る。痛くはないがなんだか気にくわなかったから、樹享の頬も両方引っ張ってやることにした。
「この…!」
「ははは。やるなぁ! 暁!」
「暁!」
玄関で樹享とじゃれあって、母さんに怒られて。いつもとは違う朝だったけど、これはこれで楽しくて。
「行くか。遅刻…はしないけど、あいつらがうるさいからな」
「そ、だな」
「ほら、暁。お弁当。早弁しないでね」
「ん。キヲツケル」
「これはダメね」
はぁ、と大きなため息を吐く母さんに恥ずかしく思いながらも、お弁当を受け取るとカバンへとやや乱暴に突っ込む。
するとまた頭をわしわしと撫でられる。
「はは。腹が減ったら俺のとこ来いよ」
爽やかに歯を見せて笑う樹享に「ぷす」と笑えば「ほらほら、あんたたち早く行きなさいね」と告げる母さんにこくりと頷くと、ドアを開けた。
「あれ?」
「………ッ?!」
「どうしたの?」
ドアを開けたら太陽の光はあるのに、しとしとと雨が降っている。
傘が必要か悩むくらいの雨だけど、学校に着くまでには濡れている位には降っている。
「あら。雨? 樹享くんと一緒に行くなら傘、一本でいいわよね?」
「いや、二本にしてよー」
「あんた小さいんだから一本でいいでしょ?」
「うわ!ひでぇ! ちょっと樹享からも言ってやってよ! 俺にも傘が必要だって!」
小さいと気にしていることを母さんに言われて、横にいる樹享に声をかけたが反応がない。どうしたんだ?と顔を覗きこめば、真っ青な顔をしていて。
「樹享、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
「あら、ホント? 学校休む?」
「え…?」
俺と母さんの声にハッとした様子の樹享がさすがに心配になる。昨日、樹享にしてもらったように額に手を当てようと伸ばした手首を掴まれた。
「大丈夫だ」
「でも…」
「おばさんも。心配をかけてすみません」
「そう?どうしてもだめなら帰ってくるのよ? 裕美さんには私から伝えておくから」
「ありがとうございます」
にこりと笑いながらそう言う樹享はいつも通りで。
「ほらほら、行くぞ」
「あ、うん…」
肩を掴まれ押し出されるように玄関を出ようとしたけど、雨は降り続いている。
「傘!」
「…一緒に入ればいい」
「あ! 樹享まで俺のこと小さいって言ったな!」
「小さい方が守りやすい」
「んだと!」
むきーと怒りながらも玄関から押し出されると、ドアが閉まる。
すると、なぜか抱きしめられた。
「樹享?」
「大丈夫。おれが絶対に守ってやるから」
「はぁ?」
意味の分からないことを、と呆れるが、樹享の肩を抱く手が震えていてそれ以上何も聞けなくて。
ぽんぽんと腕を軽く叩いてやりながら落ち着くまで待てば、ぎゅうと力強く抱きしめられた。
「悪い」
「いーよ。樹享だし」
「そうか」
「おう」
どこか泣きそうな声に驚きながらも、こんな弱々しい樹享の姿に胸が痛む。
腕を伸ばし、頭を撫でてやれば大人しくしている。わんこか。
「…それにしてもめっちゃ降るな」
「…そうだな」
頭を撫でながら、降り続ける雨を見つめる。
天気雨、っつってもここまで降るものなのか?
「ん、大丈夫。ありがとな、暁」
「んあ? いーってことよ」
にひひと笑いながらそう言った時に、違和感に気付く。
樹享の手が、肩ではなく胸にあることに。
男だから別に気には…いや、気にはなるが、そこまで気にすることもない。
だけど。
「ひぅ?!」
「あ、悪い」
「おい!」
「悪い」
なぜかその手が制服の上からやんわりと揉み始めれば話は別だ。
しかもなぜか乳首を摘まむものだから変な声が漏れた。
「なんでち…首の位置がピンポイントで分かるんだよ!」
「んー…暁、だから?」
「はぁ?!」
何言ってんだお前!と表情で語れば、にんまりと笑っている樹享の顔が直ぐ近くにあって。
呼吸が触れ合う距離に、思わずどくりと心臓が脈打つ。
「しゅう…?」
「暁。お前は…おれが絶対に守ってやるからな」
「え…?」
さっきも聞いたセリフだけれども、今度は力強さを感じる。
そしてそのまま唇が軽く触れると、ふっと笑う。
まるで愛おしいものを見るような視線で。
「さて、本当に行かないとやばそうだな」
「あ、うん…」
なんでもなかったような樹享に首を捻る。今のは偶然だったってことか?
だとしたら意識した自分が恥ずかしい。
「おい?」
「あ、うん。なんでもない。傘持ってくれるよな?」
「おう。お前より大きいしな」
「ぐぬぅ…! 背のことは気にしてるんだってば!」
うがぁ!と樹享に噛みつけば「どうどう」と笑いながら頭を撫でられる。
それだけで、怒りのボルテージが下がってしまう。ちょろいとか思ってない。…思ってない。
「しかしよく降るなぁ…」
「…そうだな」
そう言いながらも手をしっかりと握られながら並んで歩きだす。
途中水たまりで遊んでいたから、学校に着いた時にはずぶぬれで。校門で俺たちを見た昨日一緒にいた二人がぎょっとしたのが楽しくて。
そして慌てて二人からタオルを借りて、髪を乾かしていると先ほどの雨が嘘のようにピタリとやんだ。
「あ、雨やんだ」
「…そうか」
「今外に出れば虹が見えるかもな!」
「それよりお前はじっとしてろ。乾かせない」
「ういー」
わしわしと髪を乾かされいる俺を、ちらちらと通り過ぎる生徒たちに見られるが虹が見えるかも、と上機嫌な俺は気付かなかった。
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