転生先はKOTY乙女ゲー部門大賞受賞作品でした

マンゴー山田

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chapter. 1

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「おい。大丈夫か?」
「…………へ?」

ふ、と意識が浮上した。
そしてきょろきょろと周りを見て見れば本がたくさんあり、目の前にいる二人からの心配そうな瞳が俺をじっと見つめている。
それにびくりと肩を跳ねさせれば「五月七日つゆり?」と横から声がかかった。

「え?」

聞き慣れない言葉に思わず横を向けば、そこには美男子が視界に入って。彼を見つめたまま、しばらくぽかんとしていると額に手が当てられた。

「大丈夫か?五月七日つゆり?」
「熱は?」
「ないな」
「ちょっと休憩するか」
「…そうだな」

俺を置いて話が進むと、額に触れていた手が離れていった。きっとアホ面をさらしてるんだろうな、なんておかしなことを思いながら瞬きを繰り返す。

なんだ? どういうことだ?
というか、こいつらは誰だ?

見覚えのない面々になぜか俺は世話をされて?いるようで、アホ面をさらしたまま隣のやつが立ち上がるのを皮切りに、3人が立ち上がった。
目の前に広げていたノートやら教科書やらを隣の奴が片付けはじめ、それを受け取ったやつがカバンへと放り込んでいく。その作業をぼんやりと見つめていると、俺の額に手を当てていたやつがいつの間にか左隣に来ていた。

「帰るぞ」
「あ、うん…」

未だ混乱している俺の手を取って立ち上がらせてくれる。
…俺、男なんだけど?
やっぱり意味不明な状況だけれど、こいつらは悪いやつではない…と思う。
勘だけど。

樹享しゅう
「ああ、分かってる」

何が分かってるんだ?と首を傾げると、なぜか頭を撫でられてしまう。
すると樹享しゅうと呼ばれた奴からカバンを受け取る。…それ、俺のじゃねぇの?と思っていると、俺の隣に座っていた奴が顔を覗きこんできた。

「暁。また、明日な」

その言葉にこくりと頷くと、なぜか樹享しゅうに横抱きにされる。

「ん?」
「寄り道すんなよ?」
「するかよ。暁が辛そうなんだからな。じゃあな」

俺を横抱きにしたまま、すたすたと歩きだした樹享の肩口から頭を出して、ふりふりと右手を振れば二人が手を振ってくれる。
それが嬉しくてにまにましていると「危ねぇぞ」と言われてしまう。そうだった。安定している、とは言え横抱きにされている状態。慌てて樹享の首に腕を回してしがみつくと、なぜかその歩みがピタリと止まった。

「どうした?」
「なんでも。しっかり捕まってろよ」
「うん」

樹享の言葉に頷くと、なぜか額にキスをされる。それを平然と受け入れる俺も俺だが、なぜかそれが嫌ではない。
うむ。実に不思議だ。
そしてそのまま家に向かったが、学校を出てからこれまた不思議なことにすれ違う人がおらず樹享と二人きりだった。
家についてベッドへと降ろされると、そのまま抱き締められる。

「おばさん帰ってくるまでいるからな。具合が悪くなったら言えよ?」
「…ん。ありがと」

そしてそのまま頬に、瞼に、額にキスを贈られると、抱きしめられたまま俺は意識を飛ばした。

◆◇◆

すっかりと寝入って、気付いた時には母さんが肩を竦めていて。

「明日、ちゃんと樹享くんにお礼を言いなさいよ?」
「うん。それは分かってる」

母さんの言葉に頷いてから「夕飯は?」と聞かれると、途端に腹が小さく鳴く。それにまた呆れた母が「着替えたら来なさい」と肩を竦めてから部屋を出て行った。
それから夕飯を食べ、風呂にも入り再び部屋に戻ってきた。

「さて。ここは一体どこなんだ?」

一人になって、ようやく考えることができる。
…寝たから頭がすっきりしている、ともいえるんだけども。
髪を乾かしながらベッドに座ると、ふと抱きついて眠っていた樹享のことを思い出す。
そこで一つ、思い出したことがある。

「あの顔、どっかで見たような気がするんだよなぁ…?」

腕を組んで首を傾げながら独り言。
そして「はて、どこだったか?」と首を反対側へと傾げた時…。

「うん?」

少し開いたカーテンの隙間に何かが映ったような気がして眉を寄せる。
立ち上がって勢いよくカーテンを左右に開くが、そこには自分の部屋を映しているだけで。

「…見間違い?」

ぽつりとつぶやいた瞬間、ぞわりとしたものが背中を駆け抜ける。
アレが見間違いなら、俺は何を見たのだろう。
幽霊なんかは信じてはいないが確かに視界の端に見えた。それが否定されたことにより、見たものが何かが分からなくなったのだ。
慌ててカーテンを閉めてベッドへと滑り込む。髪が乾いていないのはもういい。それよりもバクバクと早鐘を打つ心臓を治めることが最優先だ。
結局、俺はここがどこなのかとか、あの三人についてとか考える前に、またしても意識を飛ばした。


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